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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第134回【アルキビアデス】本当の助言 前編

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回のリンク

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アルキビアデスという人物

前回は、アルキビアデスについての簡単な説明と、彼が政治家になるためにアテナイにやってきたという話をしました。
アテナイは民主主義の父と言われているペリクレスによって民主化されていたため、国民に自分の力を示すことが出来さえすれば、国を動かせる立場である将軍にまで登りつめることが出来ました。

そういう事もあってか、アルキビアデスは政治家になるためにアテナイを訪れて市民権を得ようとします。
彼がなぜ政治家になりたかったのかというと、自らの欲望を満たすためでしょう。
彼は、資産や人脈を持つ良い家柄出身の両親を親に持ち、美しい姿で生まれました。 ソーシャルゲームのガチャで例えるなら、生まれガチャで最高ランクの星5やLRを引いたようなもので、流れに身を任せるだけで将来は約束されていたはずです。

しかし彼はそんな現状に満足せず、努力をして学問や芸術や運動などに打ち込んで、自らの能力をさらに高めています。 その上で更に求めたのが、国を動かせる立場になるということでした。
政治家になって権力者に登りつめることができれば、単なる資産家では得られない権力を持つことが出来ます。外交や戦争、防衛や内政といったものは、金を積んだからと言って出来るものではありません。
そんな一般市民が手に入れることが出来ないような権力を手に入れるために、アルキビアデスは政治家を目指したのだと思われます。

幸せとは欲望を満たし続けること

この様な考えのアルキビアデスをソクラテスは、『彼は今ある状態では満足する事はできない。常に更に多くのものを手に入れようとする人間で、それが出来ないのであれば死んだほうがマシだ』と思う様な人物だと評価しています。
前にゴルギアスという対話編を紹介したことがありましたが、そこに登場したカリクレスは、人は欲望を満たすために生きているのだから欲望を満たすために行動し続けることこそが幸福へと向かう道だと主張していましたが…
アルキビアデスは、カリクレスと同じ様なタイプの人間と言えるのかもしれません。

対話篇ゴルギアスでは、このカリクレスの主張に対してソクラテスが『目の前に大きな樽が2つあり、双方が幸福という液体で満たされているとする。 しかし一方の樽には穴が空いていて、時間と共に幸福は流れ出てしまうとする。
この時、どちらの樽の番をする方が幸福だろうか?』と言ったような質問を投げかけています。
カリクレスの主張は、幸せになるために行動し続けることこそが幸福だとというものなので、この例え話の場合は、穴の空いた樽の番をする方が幸福だと主張しているのと同じことになります。

何故なのか。 穴の空いた樽の番をする場合、幸福度を一定水準に保ち続けるためには、流れ出た分の幸福をどこかから探してきて樽に注ぎ続けるという行動を休まず行う必要があります。
繰り返しになりますが、カリクレスの主張は幸福のために行動を起こし続ける事こそが幸福へとたどり着く道だというものなので、彼の主張では、穴の空いていない樽の前でじっと座って見守り続けるという選択肢は無いことになります。

欲深いアルキビアデス

対話篇アルキビアデスに登場するソクラテスのアルキビアデスに対する評価というのも同じようなもので、運良く恵まれた状態で生まれてきたのだから、それで満足していれば良いのに、彼はそうすることはしない。

もし仮に神から『アルキビアデスはヨーロッパ地方を統治すると良い』というお告げを受けたとしても、彼はそれで満足はしない。お告げ通りにヨーロッパ全土を支配したら、その次はペルシャだ、アジアだと領土を拡大することを考える。
自分が想像しうる全ての人間にアルキビアデスという人間を認めさせ、彼らの頭を自分で一杯にさせないと満足できない。』
ソクラテスは、もし仮にアルキビアデスと肩を並べるような人物がいるとすれば、それはキュロスかクルセクルスぐらいだろうと主張します。

キュロスとクルセクルスというのは両方とも、ペルシャの王様です。
ペルシャというのは今で言うところのイランになるのですが、当時のペルシャというのは国土が今と比べ物にならないほど広く、その国土はインドのすぐ東側から始まって、西はギリシャのすぐ隣まで制圧していました。
ギリシャの対岸にあるエジプトも、アレキサンダー大王が遠征するまでペルシャの傘下に入っていたので、相当巨大な帝国でした。 それほどの大国であったペルシャは、更に領土を拡大しようとしてギリシャに複数回攻め込んできています。

この時の様子は映画化もされていて、300などがそれに当たります。 映画300は前にも一度紹介したことがありますが、内容としてはペルシャの兵士10万以上に対してスパルタの兵300人で立ち向かうという話です。
テルモピュライの戦いと言われている戦争が舞台で、この戦争は、オリンピック開催中で戦争ができない状態のギリシャに対して、その時期を見計らってペルシャが攻め込んでくるというものです。
この時に攻め込んできたペルシャの代表が、クルセクルスです。 それに対して迎え撃ったのがレオニダスというスパルタの王様です。

夢は世界征服?

前にも話したと思いますが、スパルタという国は王様だけが統治しているわけではなく、宗教家と権力を分けていました。 その為、軍の派兵は宗教サイドの許可が必要だったようですが…
オリンピックという神様に捧げる祭の最中で、尚且、その祭の最中は争いごとをしてはいけないという決まりがあったため、宗教サイドは派兵を許可しません。その為、スパルタ側は兵を大々的に兵を出すことが出来ませんでした。
そこで、レオニダスは側近300人だけを連れて、ペルシャを足止めするというのがテルモピュライの戦いです。

話が少しそれましたが、この様に、ペルシャは広大な領地を持ちつつも、常に新たな領地を求めて戦争を仕掛ける国家でした。
アルキビアデスも同じで、仮にアテナイで大成功をして最高権力者になったとしてもそれでは満足せず、その夢が実現すれば直ぐに次を考えます。
ギリシャの他のポリスをどんどんと制圧してギリシャ全土を支配下に置いたとしても、彼はそれでは満足出来ません。 ペルシャのクルセクルスと同じ様に、更に支配地域を拡大させていくような人間だということです。

アルキビアデスに手助けをするソクラテス

ソクラテスが言うには、この様な野望を持つアルキビアデスを手助けするために、神はソクラテスがアルキビアデスと話すことを許したのだろうと言います。
ここでいう神とは、ソクラテスにだけ聞こえる声のことです。 ソクラテスとアルキビアデスは随分前から知り合いでしたが、ソクラテスはアルキビアデスと一定の距離を保ちつつ接していたようです。
その理由というのが、彼にだけ聞こえる声が反対していたからなのですが、ここに来て彼と親密になれる許可が出たため、アルキビアデスの手助けをしようとして、彼に話しかけました。

ただ手助けといっても、彼が様々なポリスや国を制圧していくための助言をしようとしているわけでないようです。
これまでの対話篇と同じ様に、彼が持つ願望が本当に正しいものなのかどうか、また、彼に国の代表を務めるだけの知恵があるのかどうかを、対話を通して解明していこうとします。
何故これが手助けになるのかというと、仮に彼に国を導くだけの力量がない場合、彼に統治された国の国民も困りますし、何よりも彼自身が困ることになるからです。

参考文献