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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第118回【饗宴】これからの『エロス』の話をしよう 後編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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パイドロスの主張

ということで、前置きはこれぐらいにして、まず、1つ目の説から紹介していきます。
1つ目の主張はパイドロスという人物の口を通して、主に神話や人が取る行動をベースにして語られます。

1つ目の主張で、いきなり、最初に注意としていった事に反することになりますが、パイドロスが語るエロスには、男女間のエロスも含まれます。
『饗宴』という作品の全体的なテーマとしては男性愛のほうが純粋だということになっていますが、男女間のエロスについても完全否定はされてないということです。

彼がいうには、美の女神であるエロス、これは別名、アフロディーテや英語ではヴィーナスと呼ばれる存在ですが、そのエロスが誕生した早さについて言及します。
誕生した早さというのは生まれた順ということです。世界はにはまずカオスがあり、その次にカオスから分かれる形で母なる大地であるガイアが生まれ、エロスはその次に生まれたから、最も尊い存在だと主張します。
何故、生まれた順番が早いだけで尊いのかというと、物事は重要なものから順番に生まれるという考え方が根底にあるからでしょう。

神話というのは、単なる夢物語のようなものではなく、今で言うところの一種の科学理論のようなものと同じものと考えられます。 つまり神話の物語には、それが作られるなりの論理的な理由があるということです。
また、ギリシャ神話で神々とされているのは、『美しさ』の様に単独では説明しにくい概念を擬人化した存在です。その擬人化した神々がどの様に振る舞うのかで、概念同士の関係性を説明しているのがギリシャ神話です。

エロスという神

この事を念頭に置いて先程のことを考えていくと、まず、全ての概念を包含する概念であるカオスが存在して、そこから母なる大地であるガイアが分離して生まれます。
大地が何故重要なのかといえば、人が生活する上で必要なあらゆるものを生み出す能力があるからです。
地面から砂や粘土をとったり岩山から石を切り出せば、家を作る材料になりますし、大地からは食料である作物が生えますし、種をまけば翌年も収穫できるようになります。

人間が食べることが出来ない植物も家畜の餌になりますし、生物が死ねば大地に帰り、次の命を生み出す糧になります。
また、大地が生み出す地形そのものも人間の生活に大きな影響を与えるので、大地は人にとってはかなり重要度が高いと思われます、そのため、カオスからまず最初に生み出されたと考えられます。
その次に生み出されるのがエロスです。

エロスが2番めに誕生したというのは、もちろん、人類存続にとって重要となる子供を作るためにも必要だというのもあるんでしょうけれども、パイドロスが今回の主張で重要視しているのは、人生の目的を与えてくれるという点です。
人というのはこの世に生まれ落ちても、目標がなかったとすれば、生きている意味がありません。 人は、生まれ落ちたからという理由だけで生き続けることができるわけではなく、人生を歩むためには理由が必要です。
エロスは、人が生きていくために精神的に最も重要だとされる目的、生きている理由を授けてくれるために重要だということです。

人間個人に焦点を当てると、人間にとっての外部環境である『人間の認識の外側の世界』をガイアとするのなら、人間の内側でいちばん重要なのがエロスだということです。
人間が生きていくためには目標が必要で、目標を定めることによって進むべき方向性がわかります。
エロスは、その方向性を指し示してくれる存在であるため、人間にとって重要度が高く、絶対に必要だということです。

好きな者の前で人は強くなる

例えば、自分の臆病が原因でミスをして恥をかくという経験したとして、その現場を誰かに見られるとした場合、観られて一番恥ずかしいと思うのは、父親でも上司でもなく、恋人です。
世の中には、好きな人の前では格好をつけ、恥をかかされると烈火のごとく怒り出す人が結構な割合でいますが、その人達を思い出してもらえれば分かりやすいと思います。
逆に考えれば、男同士の恋人たちを集めて軍隊を作れば、互いに『恥ずかしいところを見せたくない』『臆病者と思われたくない』という意識が働き、最強の軍隊が作れます。

この軍隊は実際にあると言われていて、古代ギリシャのテーバイというところで生まれて結成された神聖隊『ヒロエス・ロコス』としても知られています。
神聖隊は実際に強かったとされていて、一時期はテーバイをギリシャの覇権国にまで持ち上げたそうですが、その後、マケドニアアレクサンドロス大王の騎兵隊と交戦した際に破れてしまい、廃れていったという歴史があるようです。
漫画でいうと、ドリフターズという作品でサンジェルマン伯爵が作っていた部隊として登場していたりします。

また、自分の命を投げ捨ててでも救いたいと思えるのは愛する人のためだけで、命をかけて愛する人のために行動を起こすのは、神々ですら感動する。
一方で、エロスに対して対価を支払わない人間は、神々から軽蔑されて悲惨な最後を送るとして、3つの神話の出来事を例にあげます。

まず1つ目は、愛する夫の生命を救うために、自ら自分の命を投げ出したアルケティスの物語。
2つ目は、何の対価も支払うことなく最愛の妻を助け出そうとしたオルフェウスの物語。
3つ目は、前にも一度取り上げたことがある、トロイア戦争におけるアキレスの最後です。

この3つの神話は、ハッピーエンドで終わるもの、バッドエンドで終わるもの、客観的な視点と主観的な視点で捉え方が変わるものと、種類は様々です。
当然ですが、例として出されているため、3つに共通するテーマは、エロス(愛情)です。
この3つの物語では、様々な愛の形が表現されているのですが、愛情を抱くことで起こす行動によって、どの様な人間が尊いのかを説明しようとします。

その神話については、次回に話していこうと思います。


参考文献