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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第130回【饗宴】まとめ回(1) 前編

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目次

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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饗宴について

今回から、饗宴のまとめ回を行っていきます。 この饗宴という作品でテーマとなっているのはエロスです。
饗宴というのは、みんなで集まって楽しく騒ぐ宴会と同じ様な意味ですが、この対話編では、宴に集まった複数人の人たちとエロスを称えるゲームを行います。
ゲームでは、参加者一人一人がエロスの素晴らしさを称えていき、誰が一番うまくエロスを称えることが出来たのかで勝敗を決めます。

参加者の登場人物は、それぞれ違った説で持ってエロスを称えるため、このゲームにより、エロスという1つのものを多面的に分析することができるというわけです。
本題に入る前に、一つ注意をしておきますと、エロスという言葉は、日本では性的な意味で使われることが多いですが、ここで議論されているエロスは、恋愛や欲望に絡むすべての要素を含んだ概念です。
人が心を奪われる場合には美しいと感じるわけですが、では、その美しさとは何か、何が人の心を動かすのかといった事全般が、エロスという概念です。

パイドロスの主張

では早速、1人目のパイドロスの主張を観ていきますと、彼は、エロスの化身とされる神様の誕生が早いから、エロスは偉大だと主張します。
ギリシャ神話では、まず最初に全ての要素を含む概念である混沌があり、そこから様々な神が分離する形で誕生したと考えられています。
まず、全ての命を育む地母神としてのガイアが生まれ、ガイアが生まれたことによって空の神であるウラヌスが生まれます。

つまり、何もない空間に大地とそれ以外を分ける概念である地平線が生まれたことによって、大地と空が生まれたということです。
この神々は、子供を生むことで次の世代を残していきますが、エロスの誕生は特殊で、ウラヌスの一物が切り落とされて、それが海に落ちるて泡になった後に、その泡が美の女神アフロディーテになりました。
つまり、ウラヌスの性的な部分が分離して生まれたのがアフロディーテとなり、アフロディーテはウラヌスの子供ではなく分身であるため、ガイアとウラヌスの子どもたちよりも序列としては上ということになります。

パイドロスは、エロスとアフロディーテを同一視しているため、エロスは生命の象徴である大地の次に生まれた概念であるため、偉大で尊いと主張します。
またエロスは、人間の魂に関わる概念としては、一番最初に生まれています。魂というのは、わかりにくければ精神と言い換えても良いと思います。
人間が、自分の外側の世界の情報を受け止めて、何かを感じる、何かを考える、そして、行動する為の意思を生み出すものが、魂であったり精神で、この精神に関わる神は沢山いますが、一番最初に生まれたのがエロスというわけです。

様々なエロス

ここでまた、注意点としていっておきますが、エロスというのは愛情や慈愛や美しさの神とされていますが、この神は様々な神と同一視されています。
例えば、パイドロスの主張では、美の女神であるアフロディーテと同一視されていますし、後にローマ神話でクピドと呼ばれる恋愛の神様とも同一視されています。このクピドは、その後、言葉がなまってキューピッドとなります。
アフロディーテは、その後ヴィーナスと名前を変えて、ルネッサンス期に様々な絵画で表現されたりします。

これらの別々の名前で表現される神々ですが、なんとなく共通したイメージが有ると思いますが、その共通はしているけれどもフワッとしている概念を言語化しようというのが、今回の対話篇の試みです。
エロスの定義であったり、その定義されたエロスが人々や、人が作る社会にどの様な影響を与えているのかを考える行動を、エロスを称えると表現しています。

人は好きな人の前では強くあろうとする

話を戻しますと、パイドロスはエロスが人の精神に一番大きな影響を与えている理由として、恥をかかされた時に一番感情が揺れ動くのは、恋愛が絡んだときだけだと主張しています。
例えば、会社で同僚の前で恥をかかされた場合。親が子供の前で恥をかかされた場合と、逆に子供が親の前で恥をかかされた場合。そして、好きな人の前で恥をかかされた場合とをくらべると、一番、感情が揺れ動くのはどれかというと、好きな人の前です。
そして、愛の為に命をかけて行動を起こせば、神々の心すら動かすことができるといいます。

この主張に則れば、男性同士のカップルで軍隊を作れば、兵士はパートナーに格好悪いところを見せたくないと思い、また、パートナーが窮地に落ちれば、命がけで助けるわけですから、神々の祝福を受けて最強の軍隊が作れることになります。

エロスに命を捧げれば神から祝福される

何故、愛のために命をかければ、神々の祝福を得られるのかというと、そういう神話が数多く残っているからです。逆に、対価を出し惜しんで愛するものを手に入れようとする行為は、神々から軽蔑されます。
例えば、愛する夫の寿命を伸ばすために、自ら身代わりとなって死神のもとへ行った妻のアルケティスは、ヘラクレスによって助けられ、再びこの世に戻ってきています。

別の神話の話をすると、トロイア戦争で活躍したアキレスは、事前に母親から、『親友のパトロクロスが命を落としても、仇討に行ってはいけない、もし行けば、あなたが命を落とす。』と事前に予告をされていました。
しかし、パトロクロスヘクトールに殺されたのを知って、感情を抑えられなくなり、死ぬと分かっている状態でヘクトールに対して向かっていきます。
その行動に感動した神々は、アキレスに神がかり的な力を与え、アキレスはヘクトールを倒すことに成功します。しかしその後、予言通りに、ヘクトールの弟のパリスに弱点であるアキレス腱を弓矢で射抜かれて、それが元で命を落としてしまいます。

結果としては死んでしまいましたが、その直前までは神の祝福を受けて、敵討ちをするという願いを成就させています。
一方で、死んでしまった自分の愛する妻を生き返らすために、何の犠牲も代償も支払わないオルフェウスは、神々から軽蔑され、願いがもうすぐ叶うかもしれないという状況でそれをぶち壊され、その後、悲惨な最後を迎えています。
つまり、愛情に対して価値を起き、それを手に入れるためにあらゆる犠牲を払う覚悟で行動する人間は、神も認める偉大な人間だといっているわけです。

パイドロスの主張 まとめ

パイドロスの主張をまとめると、まず、概念として最初期に誕生し、人の精神というカテゴリーでは一番最初に生まれたから、エロスは尊いと主張します。
神々が誕生する順番が重要なのは、神話に置いて神々が生まれた順番は、世界にとって重要度が高い順だと思われていたからでしょう。
そのようにして世界は生まれ、その世界に生まれた人間や神々は、当然のようにエロスに支配されているため、その支配は人や神々の行動に表れることになるということです。

参考文献