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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第119回【饗宴】神話で考えるエロス 前編

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回のリンク

kimniy8.hatenablog.com

今回も前回と同じく、プラトンが書いた対話篇『饗宴』を元に、エロスについて考えていきます。
前回も言いましたが、この饗宴では、エロスについてギリシャ国内で『こういうものだ』と思われていた俗説を紹介したあとに、ソクラテスがそれらの主張を受けた形で主張を行うという方式で行われます。
ソクラテス以外の俗説は、それぞれ別々の登場人物の主張として語られるわけですが、前回は1人目のパイドロスの主張を途中まで紹介しました。

人は愛されたい

前回紹介した部分としては、パイドロスは神話を例に上げて、エロスの誕生がガイアに次いで早いので、エロスは重要だと主張しました。
ギリシャ神話は伝えられ方によって神々の出生が微妙に違っていたりするのですが、パイドロスがいうには、まず最初にカオスがあり、そこから派生する形でガイアが生まれ、その次にエロスが生まれた。
概念は、重要なものから順番に生まれるはずなので、全てを生み出す母なる大地の象徴であるガイアの次に生まれたエロスは、この世界を構成する概念の中でも相当重要な位置にあるというわけです。

またエロスは、人間の生きる目的になっているために重要だと主張します。
誤解を恐れずにいうのであれば、人は好きな人から興味を持ってもらうために格好をつけたり、身だしなみを整えたり、頑張って仕事をしたりするということです。
言い換えるなら、人が行動を起こす根本にはエロスがあるということになり、エロスがなくなれば人間の目的はなくなり、人はそもそも行動を起こさなくなる。故に、エロスは偉大だというわけです。

そして、自分の命を投げ捨てれるような行動を取れるのも愛のためだけで、命をかけて愛を貫き通す行動は神々ですら感動させる。
しかし一方で、エロスに対して対価を支払わない人間は神々から軽蔑されるとして、例として3つの神話が挙げられます。

アルケスティスの物語

まず最初に例に挙げられるのが、エウリピデスという詩人によって作られた『アルケスティス』という物語です。
この物語を簡単に説明すると、まず、アポロンという神が天界から下界に追放されてしまいます。

なぜ追放されたのかというと、彼の子供であるアスクレピオスが原因です。このアスクレピオスですが医者として有能で、彼が持つ蛇が絡まった杖は、今でも医療関係のシンボルになっていたりします。そんな彼は優秀すぎて、死すらも克服してしまいます。
あの世である冥界の支配者ハデスは、『こんな事をされてしまっては秩序が乱されて、冥界の支配者である私の面目が立たない』と、この事をゼウスに報告します。
それを受けてゼウスは、秩序を乱したアスクレピオスを神の雷によって殺してしまいます。

これに、父親であるアポロンが腹を立てて、八つ当たり気味にキュクロぺスという巨人族を殺してしまいます。
この罰としてアポロンは人間界に追放されるのですが、その彼をペライ市の王であるアドメトスという人物が助けます。
この行いに感激したアポロンは感謝の印として、病気で先が短いアドメトスに対し、身代わりとなって死んでくれるものを差し出せば、運命の女神モイラ達を説得して、寿命を伸ばしてあげると約束します。

しかし、老い先短いアドメトスの親をはじめとして誰もが、アドメトスの身代わりに死んでもいいと名乗り出てくれません。
そこでアドメトスの妻であるアルケスティスが名乗り出て、彼女は夫の身代わりとして死神タナトスにあの世へ連れ去られることになります。
アドメトスは、自分を見捨てた自身の親を恨み、最愛の妻をなくしてしまったことで嘆き悲しみ、1年の間、喪に服すと宣言します。

ヘラクレスの12の功業

そんな最中に、アドメトスの友人であるヘラクレスが訪ねてきます。 この時のヘラクレスは12の功業と呼ばれる試練の最中で、近くを通りかかったので訪ねてきたというわけです。
12の功業とは、ヘラクレスに課された試練のようなものです。ヘラクレスは、ゼウスが人間の女性と浮気をして生まれた神の血を引く人間なのですが、当然のように、ゼウスの妻であるヘラに憎まれます。
ヘラクレス自身には罪はないですし、浮気相手の女性もゼウスに言い寄ったわけではなく、ゼウスが一方的に相手を見初めて、相手の旦那に変装して関係を持った末に出来た子なので、悪いのはゼウスなんですが…憎しみはヘラクレスへと向いてしまいます。

彼は、さんざんヘラから嫌がらせを受け続けるのですが、それがきっかけとなって自分の子供を死なせてしまうこととなり、思い悩んだヘラクレスは神託に身を委ねるのですが、その時に出た神託が『12の試練を受けろ』というものだったんです。
これを完遂させれば神の仲間入りができるという神託で、ヘラクレスはそれに従い、12の功業をこなしていた最中に、友人の住む地域を通りかかったので、顔を出したというわけです。
この時のヘラクレスは、アドメトスの事情などは一切しりません、単に近くに寄ったから訪ねてきただけです。

ここでヘラクレスは、アドメトスの様子がおかしいことや、葬儀の際の礼服を着ていることから、奥さんが亡くなったのかと尋ねるのですが、アドメトスはそれを隠して、明るくヘラクレスに接してもてなします。
何故、わざわざ妻の死を隠したのかというと、わざわざ遠くから訪ねてきてくれた友人に対して本当のことをいうと、ヘラクレスは気を使って街から出ていくと思ったからです。
神々から難しい試練を課せられている中で友人が会いに来てくれたのだから、余計な気遣いはさせたくないと思い、妻の死を隠して、喪中にも関わらず盛大にもてなします。

このことは後にヘラクレスにバレるのですが、真実を知ったヘラクレスはアドメトスの友情にいたく感動し、その行為のお返しとして、冥界に行って死神タナトスと戦い、彼の妻を取り戻すという話です。

4種類の愛情

この物語の中では4つの愛情が出てきます。1つ目は、子供が親に抱く感情。2つ目は親が子供に抱く感情。3つ目が、知り合いや友達が抱く感情。 そして4つ目が、愛するパートナーに対する愛情です。
現実問題は置いておいて、物語の中では、アドメトスが死にかけている時に親は自らの命を差し出そうとは思っていませんし、そんな親に対して子供のアドメトスは、『子供のために命を差し出すことも出来ないのか』と憎しみを込めて言っています。

アドメトスの事情は広く知れ渡っていたため、彼の知り合いや親友も事態は把握していましたが、誰も、彼の身代わりに死んでも良いと立候補していません。
そんな中で彼の妻だけが、彼の身代わりとなって死神タナトスとともに冥界へ旅立ち、その事情を知ったヘラクレスが、彼の妻を助けに冥界に行き、連れ戻すことに成功します。
結果としてハッピーエンドになるため、あらゆる愛情の中で一番尊いのはエロスだと結論づけます。

オルフェウスの物語

次に例として挙げられるのが、オルフェウスの物語です。
このオルフェウスという人物ですが、この人もアポロンの息子です。 オルフェウスは美しい外見をしていて、アポロンから竪琴をもらって吟遊詩人となります。
そして、人間だけでなく知恵のない動物までも虜にするほどの名手となります。

そして美しいエウリュディケという女性を射止め、彼女と結婚をするのですが、そのエウリュディケが蛇に噛まれて死んでしまいます。
妻の死を受け入れられないオルフェウスは、あの世である冥界を支配するハデスに頼み込みます。
ハデスはその要望を受け入れて、エウリュディケを冥界から連れ出すことを許可するのですが、一つ条件を出します。

冥界からは、オルフェウスが先導する形で妻を自分の後ろ側について来させるようにして脱出するのですが…出された条件とは、妻を連れ出す際、絶対に後ろを振り返ってはいけないというものです。
この手の話は、よくありますよね。 キリスト教旧約聖書で言えば、ソドムとゴモラの話がそれに当たります。
ソドムとゴモラは、悪人ばかりが住む街であるため、神がその街を滅ぼそうとする話です。


参考文献