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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第51回 ソクラテスが生きた時代(2) 前編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

まとまりが無い古代ギリシャ

前回は、ソクラテスの生きた時代背景を少し詳しく語ろうと思った結果、ギリシャを攻めていたペルシャ帝国の話になり、最終的には、文明の始まりの話にまで脱線してしまいました。
今回は話をギリシャに戻しまして、ソクラテスの生きた時代について簡単に説明していきます。

前回も話した通り、ギリシャはペルシャ帝国から責められるという事が4回ほど有り、その進行に対して複数のポリスが協力して撃退するという事があったわけですが…
ではギリシャが、ペルシャという外敵によって一つにまとまっていたのかというと、そういう事はなく、各ポリス同士の覇権争いが行われて、戦争が繰り返されていました。
何故、ギリシャ内でこの様に戦争が繰り返されていたのかというと、当時のギリシャ内にあったそれぞれのポリスは、同じギリシャという地域に有りながら、政治の運営方法が大きく違っていたりしたからです。

ポリスごとに変わる統治の仕方

例えばスパルタ教育の語源にもなったスパルタは、前にも言いましたが、王様が国を治めていました。
王様の独裁国家というわけではなく、神々の言葉を人々に伝えるエフォロイという神託官と権力を二分するという形式ではありましたが、王が権力を握るという方式で、国を治めていました。

他の国では、戦争がある時だけ市民を集めて軍隊にしていた為に、普段は家具職人や彫刻家だった人間が、戦争が起こると、徴兵されて戦場に送られていたのに対し…
スパルタでは、生活に必要な労働は全て奴隷に任せて、スパルタ市民は専業の兵士となって、戦争がない時には訓練をし、戦争が起これば戦地に向かうという暮らしをしていました。
市民はみんな軍人になるわけですから、軍人になれないような体で生まれてきた人間は、スパルタでは価値がない人間とされて、生きていく事は出来ません。
スパルタ人が出産した際には、生まれた子供は隅々まで調べられ、障害を持っていると分かると崖から突き落として殺してしまうという事まで行っていました。

その一方で、ギリシャ内でのもう一つの大国とされているアテナイでは、直接民主制が採用されて、政治は市民が行うものとされていました。
直接民主制なので、今の日本のように、民衆の代わりに意見を言って政治を動かす『代議士』を、選挙で選んで、代わりに会議をしてもらうのではなく、民衆が直接、政治を行います。
では、アテナイに住む市民全員が平等に議論をしたのかというと、そういうわけではなく、一定期間ごとに『くじ引き』が行われて、それによって、国での役割が与えられていたようです。

そのくじ引きで、国の要職を引き当てた人間は、その地位につき、裁判員に選ばれた人間は、裁判員になる。
どれぐらいの人口で、くじ引きが行われたのかは分かりませんが、専門家の方の意見によると、平均寿命まで普通に生きていれば、2~3回は国の要職をやらなければならない状態だったようです。
プラトンの書いた『ソクラテスの弁明』という作品で、ソクラテスが裁判をしている風景が描かれるのですが、その裁判の有罪無罪は500人の陪審員による多数決で決められたそうなので、国のポストというのが結構あったんでしょうね。

考え方の違いにより起こる戦争

この様な感じで、政治の体制そのものが全く違うので、お互いが理解されることもなく、また理解しようともしない為、お互いが自分の体制を押し付けて覇権を握ろうと、戦争が繰り返されたようですね。
つまりスパルタは、自らが行っている王様による統治というシステムを、他のポリスに押し付けようとしますし、民主政のアテナイは、それに反発をし、結果として戦争になるという事です。
スパルタ側からすれば、自分たちの統治は上手くいってるから、その上手くいっているシステムを他に押し付けようとしますし、仮に自分達が他のポリスを打倒して支配下に置いた場合も、統治がしやすいですよね。
何故なら、王様1人の頭を押さえつけておけば良いわけですから。 これが民主政だった場合、収取がつかなくなりますよね。

では、アテナイ側はどうなのかというと、アテナイも、元々は王様や貴族が領地を治めるというシステムだったのですが、このシステムが破綻した為に、民主政に移行したという過去があります。
具体的には、王族や貴族と一般市民との経済格差が広がり過ぎたんです。市民が国を統治する側の人間に搾取され、統治する側の人間が裕福になる一方で、市民側はお金を搾り取られるために、貧しくなっていく。
この様な状態が行き着くところまでいってしまうと、大多数の貧民層を先導して、支持を取り付けて、国を乗っ取ろうとする人間が出てきます。

二極化が行き着くところまでいってしまうと、王族を支持するのは、親戚やお友達などの、王族と仲良くなる事で自分が潤う人たちだけで、お金を搾り取られて貧しい生活を強いられている人間は、統治者を憎むようになります。
この様な状態の時に、『私が国の代表になったら、富裕層の資産を没収し、皆さんのために使います。 皆さんは今まで、必要以上に搾取され続けてきたので、皆さんの負担も軽減します。』と主張する人が出てきたとしたら、どうでしょう。
多くの市民は、王族の支持を止めて、新たに現れた代表を支持するのではないでしょうか。 その状態でクーデターや革命を起こせば、王を引きずり落とす事が出来ます。

不具合を起こして変わる統治システム

こうして、貧しい市民たちから支持を受けたものが国の代表となって、国を統治するのが僭主制という制度なのですが、このシステムも長くは続きません。
というのも、貧しい人達に向かって甘い言葉を投げかけるのは簡単ですが、それを実行するのは大変だからです。
この代表が、最初から国を手に入れる為に、民衆を騙して甘い言葉を囁いていたにせよ、本当に貧困層の生活をなんとかしようと思っていたにせよ、いざ実行してみると、理想通りに行かないのが政治だったりします。

自分が権力を手に入れてしまうと、権力の保つ力に自分自身が支配されてしまって、暴君になってしまう人もいるでしょうし、市民と約束した事を実行しようとして、バラ撒きを行った結果、財政が破綻してしまう事もあるでしょう。
国が財政破綻しないように気をつければ、市民との約束を破らなければならない事も出てくるでしょう。
いずれにしても、市民と約束を交わす事で支持を得て、革命を成功させて僭王と成ったものが、市民との約束を破ってしまった場合、市民は裏切られたと感じてしまいます。

ただ、その様な状態であっても、市民たちの暮らしが王族が統治していた時よりも改善していれば、不満がありつつも従うのでしょうけれども、逆に生活が悪化した場合は、市民の怒りは収まりません。
暴動などが起こる場合もあるでしょうし、新たな代表を選んで、現政権を打倒しようと考えるものも出てくるでしょう。ただ、次の代表を選んでも、その人物が優秀な人物で、国を立て直してくれるとは限りません。

組織が傾くと優秀な人から去っていく

これは、今の企業などのケースで考えてみれば、分かりやすいのかもしれません。
例えば、会社の経営者が従業員から搾取する事で、大金を得ていて、一般社員との格差が広がったケースを考えてみましょう。
2018年には、日産自動車の日本の幹部が、フランス本社から来ていたゴーンさんに対してクーデターを起こすという出来事も有りましたが、『社長が好き勝手をしている! 自分たちが経営権を握れば、こんな事はなくなる!』
…と、この様な感じで世間や従業員に訴えて、警察に通報して代表を追い出したとしても、その結果として業績が下がってしまって、従業員の給料が下がったりなんかしてしまうと、従業員はついてこないですし、株主からも不満が出る事でしょう。

まぁ、上場企業の会社の場合は、経営トップの任命権は株主にある為に、民衆の支持によってトップが変わる可能性がある国の場合とは、事情が異なるので、あくまでも例として捉えてくださいね。
で、この様に、ゴタゴタが起こった場合に、優秀な人間が知恵を出し合って、事態を収拾して立て直してくれるのかというと、そんな事もなかったりします。
というのも、優秀な技術者・エンジニアや、仕事の割り振りを管理できる様な人間というのは、その会社だけでなく、その業界で名前が通っていたりします。

ライバル企業にとっては、この様な優秀な人達は喉から手が出る程、欲しいわけですから、その様な人材から打診があれば、喜んで受け入れるでしょうし、何なら、スカウトしに行くかもしれません。
優秀な人物は、場合によっては、元いた会社よりも高待遇で迎え入れられますから、余程、元いた会社や仲間に対して愛情がなければ、敢えて残って頑張るということはしないですよね。

この様な感じで、優秀な人間というのは引く手あまたなので、自分の乗ってる船が不安定だと感じれば、直ぐに、別の安定した船、つまりライバル会社に転職することが出来ます。
結果として、沈みかけの船…つまり不安定な会社に残っている人材というのは、他の場所に移れない人間か、余程、その場所に執着がある人間かという事になります。
この流れは、会社の経営が不安定になればなる程に加速していく事になります。

優秀な人材は個人で生き残る

国の場合も同じで、王政から僭主制に切り替わったり、僭主制の中でも最高権力者が頻繁に変わるような事が起こると、国は不安定になり、優秀な人間は国を出ていきます。
優秀な人間というのは、知恵を持っていたり弁が立ったり、人脈を持っていたりといった人間のことですね。 この様な人間は、国を運営していくのに欠かせない人間なので、どこの国でも求めています。
そんな人材が亡命してくれば、その人の為に生活に必要なものを提供しますし、能力によっては、国の要職を任せることも有りました。

例えば、ソクラテスの弟子に、アルキビアデスという人物がいます。
当時のギリシャ、特にアテナイでは、成人男性が少年と性的な関係を持つ少年愛というのが普通の事としてあって、成人男性は少年に対して知恵を授けて、少年はその見返りに体を差し出すという習慣があったそうなのですが…
アルキビアデスは、自身では無知だと言いながら、賢人と言われている人達を論破していくソクラテスの知恵に惹かれて、ソクラテスの寝室に忍び込んで裸でベットの中に入って誘惑するという様な、狡猾な少年です。

成人してからも、ことあるごとに自分の美貌を活かして目的を遂行するという人物で、人間関係も相当に広い様でした。
アルキビアデスは、哲学者から習った知恵や、幅広い人間関係を活かして政治家になるのですが、基本的に駄目な人なので、酒に酔っては粗相をします。 また、人脈の広げ方も褒められたものではなかったので、敵を多く作ってしまいます。
この様に、何かと問題のある人物なのですが…
アテナイとスパルタの間で起こったペロポネソス戦争の期間中に、ヘルメス像が破壊されるという事件が起こり、日頃の行いの悪さから、アルキビアデスに疑惑の目が向けられて容疑者にされるのですが、敵であるスパルタへの亡命に成功します。

そこで、アテナイの情報をスパルタに流してスパルタに勝利をもたらし、スパルタで顧問のような地位を手に入れるのですが、スパルタの王妃と性的関係を持った事でスパルタから狙われるようになり、今度はペルシャに亡命します。
その後、アテナイの政権が変わると、昔に作り上げた人脈を利用したのか、アテナイに帰国して、軍隊の指揮官になるんですね。
まぁ、最終的には暗殺されるわけですが、この様に、どう観ても問題ありありな人物であっても、優秀でさえあれば亡命が可能で、それなりの地位が確保されていたりするんですね。

これに加えて、国の運営というのは、皆が同じ方向を向いて協力しあって行われているわけでもなく、派閥などもあります。
これは、現在の状態を観てもそうなので理解しやすいと思いますが、クーデターなどで特定の派閥が政権をとってしまった場合は、それと敵対するポジションの人は、どの様な扱いになるか分かりません。最悪、殺されることもあります。
その様な状態で、『国の安定化の為には、自分の知能が必要だから、敢えて残ろう。』と思える人間は、少ないですよね。

また、派閥同士が拮抗していたりすると、覇権争いで更に混乱することになるわけですから、僭主制というのは長く続かないんです。
(つづく)