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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第51回 ソクラテスが生きた時代(1) 後編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
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人類の文明発祥の地

この場所には、チグリス・ユーフラテス川や、エジプトのナイル川などが有り、定期的に川が反乱する事を活かして、かなり早い段階で農作物を育てるという文化が生まれるんです。
動物を追いかけて狩りをするとか、その辺に成っている木の実や果物をとって食べる狩猟採集生活の場合は、一箇所に定住しないので、人口も増えませんし、文化も生まれにくいんです。
何故、人口も増えないし文化も生まれないのかというと、わかりやすく極端な例で考えてみますと…

10人の部族と1000人からなる部族があった場合、10人分の食事を狩猟と採集で賄うのは、それほど難しいことではないでしょうが、1000人分の食料を確保するのは難しいですよね。
1000人の胃袋を満たす為に動物を狩り続けると、その一体の動物が絶滅してしまう可能性もありますし、移動しながら生活をする場合でも、取り尽くした獣が再び繁殖して狩りが可能になるまでには数年かかるでしょうから…
それを考慮すると、とてつもなく広大な範囲を移動し続けなければならない事になってしまいます。

どちらの方が有利で生き残りやすいのかというと、少数の方が有利ですし、常に動き続けるというハードな生活では、長生きする事も難しいですよね。
結果として、狩猟採集生活では少数で生活するということになるのですが、少数で生活すると、発明品というのも生まれにくいんです。
何故かというと、これは今現在の私達の生活を観ても同じなのですが、例えば、何か問題があった際に、それを解決できるようなものを発明しようとした場合、ピンポイントで狙いすましたように目的のものを作れることってのは、少ないんです。

大抵の場合は、研究が行き詰まったり、よくわからない失敗作が生まれたりするわけですが…
多くの場合は、その失敗経験や、それによって生まれた失敗作を他の人間が観た時に、その失敗を別のアイデアとして活かすことで、思ってもいなかったものが生み出されるんです。

例えば、この例は失敗作から新たなものが生まれたというのには当てはまらなんですけれども…
私は緑内障にかかっているのですが、その進行を止める薬には、毛が伸びるという副作用があります。 その為、目薬をさした後は顔を洗わなければ、まつ毛がどんどん伸びてしまうのですが、この副作用に注目すれば、毛生え薬が出来たりします。
この様な感じで、特定の問題を解消する為にアクションを起こした結果、思ってもみないモノが生み出されるわけですが、その活用方法は、生み出した本人には分からなかったりするのですが…
それを他の人が観た場合に、活用方法が分かったり、その失敗がヒントに成って、、全く別のものが生まれるというケースは、かなり多いんです。

この様に、アクションを起こして生み出したものが、他の人間のアイデアを刺激して、別のものを生み出すわけですから、発明を周りで見ている人が多ければ多い程、多くのものが生み出される可能性が高くなりますし、シナジー効果も高まります。
つまり、互いに刺激し合いやすくなるということですね。
文化というのは発明の連続なわけですから、文化を生み出して発展させる為には、限られた範囲内にできるだけ多くの人間が存在していることが重要になってきます。
先程も言いましたが、狩猟採集生活では、人口を増やすことが困難なので、文化も生まれにくいわけですが、農耕の発明によって、人間が一箇所に定住することが可能になるんです。

肥沃な三日月地帯

その、農耕が始まった一番最初の場所というのが、メソポタミアの『肥沃な三日月地帯』と呼ばれる場所だったんです。
今の地図での場所をもう一度いいますと、イラン・イラク・シリア・エジプトにまたがる地域で、アラビア半島を、上側が膨らんでいる三日月状の形をしたもので蓋をするようなイメージを思い浮かべてもらえれば良いです。
この地域は、先程も少し言いましたが、ナイル川チグリス・ユーフラテス川が定期的に反乱して、農作物の養分になるものを運んできてくれる為、農耕をするのに適した土地でした。

また、それだけではなく、人間の食べ物となる植物や利用しやすい動物が多かった事も、関係しているようです。
植物というのは、かなりの種類があるわけですが、人間は、それらを全て食料にする事は出来ませんよね。 例えば、牛が食べるような草を、人間が同じ様に食べられるのかというと、食べられません。
多くの植物が生えているような土地だったとしても、人間が食べられるような植物が多く生息していなければ、人はその土地に定着しようとは思わないのですが、この『肥沃な三日月地帯』には、かなりの種類の人間が食べられる植物が生息していたようです。

また、この地域は、地形も農耕をするのに有利に働いたようです。
南の方は砂漠地帯なのですが、北の方には山岳地帯が有り、標高が高くなっていく地形になっているようです。 標高が100メートル高くなると気温が1度下がるなんて言われていますが…
標高が徐々に高くなる事で、同じ様に種を撒いたとしても、標高の高いところほど収穫が遅く、刈り取り時期がズレていくらしいので、収穫できる期間が長くなる様なんですね。
収穫時期が短いと、その短い期間にピンポイントで台風などの災害が来たりして被害が出ると、食料が獲得できませんが、収穫時期が長くなると、それだけ、安定して食料が得られる様になる為、生活の安定性が増します。

その他には、生息している動物も関係していたようです。 例えば、馬や牛といった、今でも家畜として利用されている動物がいますけれども、あの動物は、他の動物で代用できるのかというと、そうでもないそうなんです。
例えば、乗り物として使える馬ですが、他の動物で代用できるのかというと、そうでもないようなんです。
馬に似た形をしている動物にシマウマがいますが、シマウマは馬の代わりにはならないようです。 というのもシマウマは、種としての特徴として、気性が荒いそうなんです。

馬の中にも気性の荒い個体はいますが、馬の中で気性が荒いものと、シマウマの中で比較的温和な性格のものを比べた場合、シマウマの方が気性が荒かったりするそうなんです。
その為、騎乗動物として扱えないようなんです。 牛も同じで、あの様な体格の動物なら、どんな動物でも、農作業の手伝いなどが出来るのか。
例えば、水牛やサイやカバのような動物でも、同じ様に農作業の手伝いをさせられるのかというと、そんな事は無いようです。
人間が利用しやすく、扱いやすい性格などの特性を備えている動物が沢山いるというのも、人間がその地域に定着しやすくする要因の一つのようです。

ここら辺の詳しい考察については、ジャレッド・ダイアモンドという方が書かれている『銃・病原菌・鉄』という本に書かれていますので、興味のある方は読んでみてください。
今回は、人間の文明に地形や生態系がどの様に関係していたのかだけを取り出して話しましたが、この他にも、病原菌や鉄の発明がどの様な影響を与えたのかを考察されているので、勉強になりますし、面白いです。

話を戻すと、この様な感じで、人間が定着しやすい環境が整い過ぎていたのが『肥沃な三日月地帯』で、この土地ではシューメール文明や楔形文字などの多くの文化が生み出されましたし、また、この土地の覇権を狙った勢力同士の戦争が数多く繰り広げられました。
その最終的な覇者となったのが、当時のペルシャ帝国だったわけです。 
ギリシャの文化も、大本は、エジプトで生まれた面積の計算法や、イオニア地方で生まれた哲学が発展したものに過ぎないので、ペルシャ川から見れば、属国という扱いだたのかもしれません。
ペルシャは、力関係を再認識させる為に、ギリシャに対して何度も戦争を仕掛け、ギリシャはその侵攻に対して迎え撃つ事になります。

ギリシャも一枚岩ではない

これだけを聴くと、ギリシャは外敵、主にペルシャから頻繁に攻め込まれていて、ギリシャはその度に団結していたという印象を持たれる方も多いかもしれませんが… 実際には、そんな事もなかったようです。
というのも、ギリシャという地域は、それぞれの都市国家であるポリスが独自で自治をするという形式だったのですが、統治の仕方が、それぞれのポリスでかなり違ったんです。

その為、ギリシャ内で、ポリス同士の覇権争いからの戦争も起こっていたりもしたので、短い間隔で戦争が繰り広げられていたようです。
これからメインで話すことになるソクラテスも、議論好きの学者というイメージを持たれている方も多いかもしれませんが、3回程、戦争に行ってますし、皆が怯えて縮こまっている中で、堂々とした態度でシンガリを努めて無事に生還してきたという武勇伝を持っていたりもするんですが…
このあたりの事は、次回に話したいと思います。
(つづく)