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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第76回【財務・会計】セグメント利益

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『カミバコラジオ』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

kimniy8.hatenablog.com

セグメント利益


今回も、損益計算書に関する話をしていきます。 個のコンテンツではこれまでに第73回と74回で売上総利益、そして前回の75回で営業利益について説明してきました。
その説明の中で『セグメント利益』というものが出てきたので、今回はそのセグメント利益について話していきます。

前回にも言いましたが、会計というのは項目を分ければ分けるほど企業の状態を詳しく見ることが出来ます。
企業の出費である経費を、売上原価と販売管理費に分けるのもその一環で、販売している製品の原価と、販売や管理にかかわるコストに分けることで、経営分析を行いやすくします。
今回紹介するセグメント利益も基本的な考え方はこれと同じで、売上やコストを更に細分化させることで、社内の状態をより分かりやすくしていきます。

どのように分けていくのかというと、製品や事業レベルで分割して分けていきます。
企業というのは、1つの会社が1つの事業だけを行っているとは限りません。 複数の事業を持っている会社も多くあります。
例えば飲食店の場合で言えば、店内に客を入れて食事をしてもらうという事業の他に、ウーバーイーツを使ったテイクアウトなどもあるでしょうし、作ったものを冷凍やパウチに入れるなどして小売店で販売するといった感じで事業展開が出来たりします。

この様に複数の業務をしている場合、これらの売上やコストを全て一括で損益計算書に記載しても法律上は問題はないですし税金も変わらないのですが、それでは後から経営状態を分析する際に困ってしまいます。
どの事業が一番売上に貢献しているのか。どの事業の原価率が低いのか。どの事業がどれぐらい会社の利益に貢献しているのかというのがわからないからです。
それを分かりやすくしようというのが、セグメント利益です。

コストの分類


先程の例でいえば、店内での飲食業務とテイクアウト業務、小売店での販売業務の売上を全て分けて計算し、それにかかわる経費もそれぞれで別に計算します。
この計算ですが、売上の計算については簡単です。それぞれの売上を計上する時に分ければそれで良いだけです。
問題となってくるのがコストの方です。 これが簡単には分けられなかったりします。

『コストの方も、仕入れを別々で計上すればよいだけなんだから、簡単では?』 と思われるかもしれませんが、実はそうもいかないんです。
なぜ簡単にできないのかというと、コストには変動費と固定費が存在するからです。 この内、仕入れを別々に計上して分類出来るのは変動費だけで、固定費はそんなに単純には分離できません。
それは何故なのかを考えていきます。 先程の飲食店の例でいえば、イートイン業務もテイクアウト業務も小売業務も、全ての業務が同じ店舗内で行われます。

もし店舗を賃貸で借りている場合、3つの業務をしているからと言って、その事業ごとにそれぞれ適切な家賃が計算されて大家から請求されるのかといえば、請求されません。
家賃の請求は、その物件に対して1月当たりで行われるため、複数の事業を行っていたとしても家賃は一括で請求されます。
人の人件費も同じです。 人件費は、バイトであれば1時間当たりですし正社員であればひと月当たりで計算されるため、1人の人間が複数の事業に関わったからと言って、その人件費が自然と分割されるわけではありません。

商品を作るのに何らかの機械設備を導入する場合、その機械を複数の業務で使っていれば、そのコストである減価償却費は複数の事業で分ける必要が出てきます。
この様に、仕入れである変動費仕入れを計上する際にそれぞれの事業ごとに分ければよいだけなのですが、固定費というのは毎月決まった金額が出ていく為、意図的に分割しないといけません。
ここで、『固定費は抜いて変動費だけで計算すれば良いじゃないか』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうすると分析が出来ないだけでなく、間違った経営判断をしてしまう可能性が大きくなります。

コスト管理で手を抜くと…


例えば、私が取引先として関わった会社の例で言いますと、その会社は経理担当が代替わりしたタイミングで、人件費をはじめとした固定費を原価に含めるのをやめてしまいました。
この結果、個別の商品の原価は変動費のみで計算されるようになり、そして業績が悪化し始めたタイミングで、仕入れる資材を1円でも安い業者に変えるようになりました。
こうした節約の結果として何が起こったのかというと、大幅なコスト増が起こってしまいました。

何故、仕入れ値を引き下げているにも関わらずコストが大幅に上昇してしまったのかというと、人件費を計算に入れていなかったからです。
企業というのは、その製品に値段を付ける際にそれなりの根拠を持って値段をつけています。 よそに同じ商品なのに販売価格を安くしている業者があったからと言って、既存の取引先がボッタクリ行為をしているとは限りません。

例えば、普段仕入れている商品は製造するためには3ヶ月かかり、1回の製造で大量にできてしまうといった性質のものだとします。
こういった商品を、注文の際に少量ずつ配達してくれる業者というのは、この製品に関する在庫管理業務を引き受けているとも言えるわけです。
在庫管理業務を引き受けているわけですから、当然ですが、この分の料金は商品価格に上乗せされている場合があります。

その手間賃を無視して、単純に『商品価格がわずかに高いから』といった理由で別の業者に乗り換えて、乗り換えた業者がこの在庫管理業務をしてくれなかった場合、その業務は自社で行う必要が出てきます。
この商品の発注から完成・納品までにかかる期間、これをリードタイムと言いますが、この例での仕入れ商品はリードタイムが3ヶ月でしたから、3ヶ月先を見据えた発注が必要になってきます。
当然ですが、その商品を貯めておく倉庫スペースも必要になってきますし、この原料の在庫が増えるということは棚卸し在庫も増えるわけですから、資産効率も悪くなります。

この全てのコスト増加要因が僅かな製品価格の値引きでカバーできるのであれば問題はありませんが、カバーできなければコスト増となってしまいます。
しかしこのコスト増は固定費にかかわる部分ですので、変動費だけを見て節約しようとしている人は気づくことが出来ません。
この例の取引先の場合、実際の仕入れ値だけを見比べて次々に昔ながらの得意先を切ってネットで調べた取引先に変えた結果、社員の負担が増加して連日の残業続きとなり、結果として人件費が増加して出費は増えてしまいました。

冷静に考えれば分かるのですが、年間で20万個出る商品の価格が1個あたり1円安かったとしても、節約分は20万円にしかなりません。 それを節約した結果、10人の社員が毎日1時間残業する必要が出てくれば、節約分は1ヶ月で消し飛びます。
この様に、計算が面倒だからといって固定費を計算に入れなければ、原価が正しくでないだけでなく間違った判断をしてしまう可能性が出てくるため、原価計算で固定費を計算に入れるのは必須となります。

固定費の明確化の必要性


この他には、そもそも固定費を計算しなければ損益分岐点売上高が計算できないというのもあります。
随分前にも説明しましたが、損益分岐点売上高というのは固定費を限界利益率で割ったもので計算されます。 限界利益率というのは、1から変動費率を引いたものです。
商品価格が1000円で、その商品に関する変動費が300円の場合は、変動費率が30%で限界利益率が70%となります。 固定費をこの限界利益で割ることで、目標売上の最低ラインである損益分岐点売上高が計算できます。

計算式に固定費が入っているため、固定費が出なければ損益分岐点売上高が出ず、これが出なければ最低限クリアーしなければならない売上も出ません。
これが出なければ、社内で目標を共有できないわけですから、戦略どころの話ではないということになります。
では、それぞれの事業や製品の固定費をどの様に分割していくのかというと、正確に時間を測って使用割合を出せるのであればそれに越したことはないのですが、それが出来ないようなものの場合は大体の使用割合によって按分します。
この部分については、正確に計算すればするほど正しい原価を出すことが可能になるのですが、正確性を求めれば求めるほど手間がかかることになり、その分、その作業に関するコストが増加してしまうことにも繋がります。
その為、手間と精度のバランスが取れるところで落ち着けるのが良いと思います。

話が固定費の話ばかりになってしまいましたが、この様にして製品や事業ごとに売上原価や販売管理費を出し、それぞれのセグメントごとの営業利益を出していきます。
この個別の営業利益のことを会計用語では貢献利益と呼び、経済用語では限界利益と呼んだりもします。 個別の貢献利益を全体の営業利益で割れば、その事業が会社にどれぐらいの割合で貢献しているのかもわかります。

営業利益と貢献利益


全事業の貢献利益を足し合わせ、そこから共通でかかるような固定費を差し引いたものが、会社全体としての営業利益となります。

このようにして会社への貢献度を分かりやすく提示できれば、どの事業に注力すべきかや、どの事業から撤退すべきかの目安になったりもします。
ただ1つ注意ですが、単純に貢献度が低いからと言って、即、事業を切ってしまうのは駄目だと思います。 これは一つの目安に過ぎず、考える切っ掛けとして使うのは良いですが、この貢献度だけに頼るのは危険です。
何故かというのを先程の飲食店の例でいえば、仮に、イートイン事業がコストが高く利益に貢献していなかったとしても、そのイートイン事業がアンテナショップのような役割を果たし、他の事業の売上増に貢献している可能性があるからです。

事業は単なる足し算で結果が出るわけではなく、時には効果が掛け算で出るシナジー効果というのがあります。
事業間のシナジーが強い状態で一方の事業をやめてしまえば、その影響が他の事業にも波及して思わぬ損失を招くこともありえます。
このシナジー効果については以前にそれをテーマに話したことがあるので、詳しく聞きたい方はそちらをお聞きください。

以上が簡単なセグメント利益の説明となります。 次回は、損益計算書の営業利益以降の利益について話していきます。