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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第74回【損益計算書】売上総利益(2)

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目次

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『カミバコラジオ』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

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損益計算書とは


前回から損益計算書についての説明に入り、その中でも売上総利益のについて話してきましたが、今回もその続きとなります。
簡単に前回の復習をしておくと、損益計算書では会社の利益を単純に収益からコストを差し引くという方法では行いません。
利益やコストをそれぞれの属性ごとにジャンル分けし、それを足したり引いたりすることで、複数の利益を出していきます。 前回紹介した売上総利益もその1種となります。

何故、こんなややこしいことをするのかというと、簡単に言えば事業の実態を分かりやすくするためと、収益性分析を行いやすくして今後の戦略に活かしやすくするためです。
もう少し具体的に説明すると、前回紹介した売上総利益を出すことによって、企業の粗利を計算することが可能になります。
粗利というのは、小売店でいえば商品の仕入れ値となります。 会社は販売するための商品を調達し、それに利益を上乗せすることで定価を設定して販売します。

この定価と仕入れ値の差額が粗利と考えてもらえれば分かりやすいと思います。
この粗利ですが、小売店のように完成品を仕入れて販売している業態は計算が簡単で理解もしやすいのですが、製造業のように自前で製品を製造しているところは、製品原価が把握しづらくなります。
その為、会社が支払ったコストの中から製品製造にかかわるコストのみを抜き出して製造原価を出すことで、粗利を計算できるようにします。

製品完成までの流れ


製造業の製造の流れを簡単に説明すると、製造というのは大抵の場合が作り始めから作り終わりまでに一定の期間が必要となります。つまり、作り始めてから『作りかけ』の状態を経て、商品の完成に至るわけです。
この作りかけは半分製品ということで半製品なんて言ったりもしますが、これは簿記的には仕掛品という勘定科目で表されます。
この仕掛品を使って、完成品のコストを計算していきます。

仕掛け品は作りかけであるため、当然、前期から今期にまたぐ形で製造されるものも存在します。
そういった前期からの残りの部分に、今期の仕入れや製造にかかわる燃料費や人件費といったコストを全て足し合わせ、最終的に今期中に完成に至らなかった仕掛品残を差し引くことで、完成品にかかったコストを算出します。
では、この完成品コストをそのまま売上から差し引けば粗利になるのかといえば、そうはなりません。 何故なら、作った商品が全て売れるわけではないからです。

以前に固定資産の説明をした際に、企業が在庫として持っている商品は流動資産となると言いました。 つまり、作ったけれども売れ残っている商品というのは会社の中に資産として眠っているということです。
正しい粗利を計算しようと思うと、この売れ残り商品を計算から省いて計算しなければ正しい粗利は計算できないため、その作業をする必要があります。
計算方法は先程の仕掛品から完成品製品を計算した流れと同じで、前期から持ち越した在庫の残りに今期の製造分を足し合わせて、そこから今期に売れ残った在庫を差し引きます。

今期の在庫の確認は、棚卸し作業などを通じて行います。 月末や期末に会社内の在庫状態を確認する棚卸しという作業があると思いますが、あれで集計して在庫の量を確認します。
その在庫を前期在庫と今期の製造分の合計から差し引くことで、今期に販売された売上原価を出し、それを売上から差し引くことで売上総利益を出します。
この売上総利益を出すことによって、単純に商品を販売することでどれぐらいの利益が得られているのかが把握できるようになります。

売上総利益とは


ではこうして出された売上総利益を、どの様に捉えればよいのでしょうか。
売上総利益は粗利率であるため、これが多いと利益率の高い商品を製造していることになり、逆に低いと、利幅の低い商品を製造していることになります。
前に製品のライフサイクルの話をしましたが、皆から求められているけれども市場での供給が少ないような製品を作っている場合は、需要と供給の場合からこの売上総利益は高くなる傾向にあると考えられます。

逆に低いということは、その市場に新規参入が相次ぐことでレッドオーシャンになっていたり需要が低下している可能性があります。
市場がレッドオーシャンになっていると、他社製品に勝つために製品クオリティーを上げなければなりませんが、高くなり過ぎると他社製品に顧客を取られてしまうため、大幅な値上げを行うことは難しくなります。
製品クオリティーを上げるためには品質の良い材料を使ったり手間暇を掛ける必要があるので当然コストは上昇します。 しかし値上げすることが出来ないということは、製造コストに対して売上が低くなってしまいます。

また市場がレッドオーシャンになっている状態では、品質度外視で製品を大量に製造し、それを大量販売することで生き残ろうとする企業も出てきます。
規模の経済といいますが、この戦略では大量生産によって生産が効率化され、大量買付によって調達コストが引き下げられるため、値段の割にはそこそこの品質のものが製造できたりします。
多くの客は、そこまで品質に差がなければ安い製品を選ぶため、この様な規模の経済を武器にする企業が現れると、販売価格は更に引き下げられてしまう可能性があります。

こういった状態になってしまうと当然ですが、粗利率が下がってしまいます。

粗利率


粗利率とは売上総利益率とも呼ばれ、売上に対して製造コストがどれぐらい締めていて、結果、利益がどの様になっているのかという指標です。
簡単にいえば、売上が100でコストが80とした場合、20%が売上総利益率となります。 計算方法は、売上総利益を売上で割っただけです。この数字が低ければ低いほど、割に合わない事業ということになります。
この数値が下がりすぎている場合、何らかの改善が必要となります。

理想的なのは販売価格を上昇させることです。 自社製品をブランド化させることで他社製品を差別化することができれば、高い販売価格を維持することが出来るため売上総利益率の下落は阻止できます。
しかしそんな簡単にブランド力を手に入れることは出来ませんので、次に考えることはコストの引き下げです。 
原材料の品質を落とすなり買付方法を変更するなりして原材料のコストを減らしたり、作業効率を上昇させることで人件費の抑制を目指したりして粗利率の上昇を狙っていきます。

ただ、コストの引き下げには限界があります。大量仕入れを行ったり川上産業を買収したりしたところで、『これ以上は下がらない』というレベルは確実に存在します。
そこまでコストカットをしても売上総利益率が低過ぎる場合は、その商品からの撤退を考える必要があります。
というのも、粗利率というのは企業の利益ではないからです。 コストはこの他にもあるため、売上総利益が少なすぎる場合は、その他のコストを差し引くと赤字になってしまう可能性が高いです。

その様な事業を行っている意味は無いので、儲からない事業で今後も粗利率の改善が見込めないと判断されれば、余裕のある間に他の事業に移行した方が良いことになります。

授業の寿命


事業というのは、一度立ち上げると未来永劫、需要が途絶えることがないなんてことはありません。 市場は絶えず変化し続けます。
新技術の登場や人々の考え方の変化などで、これまでは需要があった商品でも必要とされなくなってしまう時期はやってきます。

また、需要そのものは継続してあり続けるような商品だとしても、大手が参入してきて規模の経済で市場を独占してしまうケースも無いとは言い切れません。
この様になってから慌てて新規事業を起こしたところで、それが上手くいくとも限らないため、新規事業は早めから手掛けておく必要が出てきます。
そのためには現状把握が必要になるわけですが、それを手っ取り早く可能にしてくれるのが、売上総利益です。

もちろん、この数字だけ見ていれば大丈夫というわけではなく、これはそれを気づかせてくれる一つの指標でしかありませんが、この売上総利益が想定よりも低くなり始めた場合は、警戒する必要が出てきます。
想定よりもといったのは、売上総利益を意図的に低く引き下げるような戦略もあるからです。
製造コストに比べて低い価格をつけることで市場の独占を狙い、自分たちの市場にそもそも新規参入をさせないといった戦略もあります。

インターネットが出始めた頃は、ヤフーがモデムを無料で配って顧客を囲い込もうとしましたし、今はMETAと改名したfacebookも、VRゴーグルをかなりの低価格で販売して市場を独占しました。
この様な戦略を取った場合は当然、売上に対してコストが非常に高くなるため、売上総利益は下がってしまいます。
しかしこれらの事業は、初期に仮に赤字を出したとしても後から回収できる可能性があります。 長期で観て黒字が出る可能性があるのであれば、初期の赤字を受け入れるという選択肢もありえます。

撤退の判断


この様に、長期的な計画で意図的に売上総利益が低い状態を作っているのであれば問題はないのですが、意図しない形で下がり始めているのであれば問題となるので、自分たちが関わっている市場の現状などを把握していく必要が出てきます。
そして把握した結果、その事業に将来性がないのであれば、その事業から撤退する目的で、次の柱となる新規事業を探していく必要があります。
この新規事業の探し方については、過去に『アンゾフの成長ベクトル』を紹介した際に話していますので、そちらをお聞きください。

これは、沢山の従業員を抱えているところほど重要になってきます。 というのも、少ない従業員や家族経営の事業の場合は、最悪の場合はその事業から撤退して廃業してしまえば良いからです。
しかし沢山従業員がいる場合は、簡単に会社を解散することなんて出来ません。その為、会社が組織として長く続けていけるように、今の事業がこの先もやっていけるのかということに対して常に目を光らせていなければなりません。
その変化に気づきやすい1つの指標として、売上総利益があったりします。

損益計算書はまず、この売上総利益を計算するところから始まり、次に計算するのが営業利益となります。
その営業利益の計算については、次回に話していきます。