【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第131回【饗宴】まとめ回(2) 後編
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- 平和の女神
- エロスはアレテー
- 愛が世界を美しくする
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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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kimniy8.hatenablog.com平和の女神
次にアガトンは、神々の争いについて話し始めます。ギリシャ神話の神々というのは、考え方の違いや権力争いによって、よく争いを起こします。
この争いでは、肉親である父と子が争うことも珍しくなく、神話で語られている神々による大きな戦争は、大抵が親子間で世代交代が行われる際に、子が親に立ち向かっていくことで引き起こされています。
この争いというものは、誰かが傷つき、誰かが亡くなり、それによって誰かが悲しむものであるため、基本的には美しいものとはいえません。
特に、権力争いによる親子間の戦争などは、醜い行動と言っても良いでしょう。この戦争に、多くの神々は参加していますが、エロスと同一視されているアフロディーテは参加していませんでした。
理由としては、おそらくですが、アフロディーテは天空の神であるウラヌスの一物が切り落とされて、海に落ちて泡となって誕生するのですが、その誕生したアフロディーテは、ギリシャには帰らずにキプロス島に行きます。
神々の起こした戦争は、アフロディーテがキプロスに滞在中に起こっているものであって、その後、アフロディーテがギリシャ神話に登場するようになってからは、神々による大きな戦争は起こっていません。
つまりアガトンは、美しさや愛や平和、相手への慈しみという概念であるアフロディーテと同一視されるエロスが不在だったので、神々による戦争が起こったが、エロスが戻ってきた事によって平和が訪れたということを言いたいのでしょう。
アガトンは、神々が戦争を起こしたのはアナンケという必然の神の仕業だといいますが、これは言い換えれば、価値観の違う者同士が同じ空間にいれば、争いが起こるのは当然だということです。
人であれ神であれ価値観が違えば、自分の価値観を押し通そうとし、それが対立構造を生んで、争いに発展するというのは必然で、避けられないことだけれども…
そこに、相手に対する思いやりであったり、慈愛の心、愛する心が宿れば、争いは回避できるということでしょう。
エロスはアレテー
この他のエロスの性質ですが、エロスは神に対しても人に対しても不正を行うことがなく、また、不正を行われることもないようです。なぜならエロスは慈愛の象徴であるからです。愛する人を騙そうとする人間はおらず、愛する人の言う事に耳を貸さない人間もいないため、エロスが関わる取り決めは、全ての人が納得する形になります。
もし、このエロスを全国民が心に宿し、その状態で国の法律を決めようとすれば、その法律は全国民が納得できるものとなる為、正義となります。
なぜなら、法律とは平和を脅かす行動を規制する為のルールなので、全国民が納得して同意したルールということは、そのルールは全国民が守らなければならないと思っている象徴とも言えるため、それは正義となります。
この他にもエロスは、他の徳性を宿しているため偉大な存在だといいます。例えば神話の中でエロスは、勇気の象徴であるアレスから好意を寄せられ、彼を虜にしています。
この神話では、勇気は愛する者の前で振り絞られるものだというのを表しているのでしょう。慈愛に満ちた心を持つものは、何らかの脅威が現れた際に勇気を振り絞って行動を取るため、エロスは勇気を支配しています。
この他にも、エロスは知性を宿しています。人が恋に落ちた際には、気になる人に自分の思いを伝えるために、必死になって言葉を考えます。
自分の思いだけを伝えると重くなりすぎないだろうか、適切な距離感はどのようなものだろうか、自分の思いを伝え、尚且、相手からの興味を引くためにはどの様な言葉を紡げば良いのか。
この様に、人は愛情に支配されると必死に相手に伝える言葉を考え、詩人のように言葉を発します。
詩人といえば、古代ギリシャでは美しい言葉を美しい音色に乗せて、古代から伝わる知識を人々に伝える職業であった為、知性の象徴とされていました。
恋に落ちた人間は、学のあるなしに関わらず、必死に頭を働かせて詩人のように言葉を紡ごうとするため、エロスは知性をも支配していることになります。
この様にエロスは、自身の性質によって正義や勇気や知識を従わせ、更に、自身の性質として美しいものを好み、追い求めます。
これにより、この世界は、美しくなろうとします。
愛が世界を美しくする
正義は人間社会やそれを取り囲む環境が美しくなるために、その力をふるいます。正義の範疇としては、人間同士が決めたルールの範囲に限られますが、それ以外の脅威が迫ってきたとしても、勇気ある行動によって、その脅威にも立ち向かえるでしょう。エロスが宿った知性によって生み出されたものは、それが知識であれ発明品であれ、この世を美しく変えるものとなるでしょう。
何故なら、正義であれ、勇気であれ、知性であれ、そのベースにあるのは愛情であり、慈しむ心です。
エロスは、その性質上、自分以外の他人がいないと成立しないものなので、それに支配されている正義や勇気や知性は、自分のことだけを考える利己的な状態では存在しません。
何故ならエロスは、自身が最大級の欲望でありますが、自身の行動を抑制できているため、最大級の節制を持っているからです。その為、常に自分以外の他人の事を考えた状態で正義は執行され、勇気は発揮され、新たな知識は生み出されます。
また、これらを支配するエロスは美の化身であるため、正義は美しい社会を実現するために存在し、勇気は美しいものを守るための美しい行動となり、知性は世界をより美しくするために発揮されるということです。
人が幸せになるために生まれてきたとするのであれば、美しい世界に住むのと醜い世界に住むのとでは、美しい世界に住む方が幸せでしょう。
エロスは、人が住む世界をその様な環境に変えてくれる為、偉大だとアガトンは主張します。
これで、ソクラテス以外の登場人物の主張が終わり、続いて、ソクラテスの主張に移りますが、それはまた次回に話していきます。