だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第123回【饗宴】世界を支配するエロス 後編

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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エロスは刺激を好まない

エロスのその他の優れた点としては、エロスは繊細である点で優れているようです。
ホメロスは、アーテという女神を称賛する際に、その女神の足が繊細で美しいと詩によって表現しているようですが、その際、表現方法として、アーテが硬いものの上を歩かずに柔らかい物の上だけを歩くことで表現しています。
ここで新たにホメロスという名前が出てきましたが、これは吟遊詩人の名前です。 前にも言いましたが、ギリシャ神話はソクラテスたちが生きていた時代よりもはるか昔に作られていますが、オリジナルが文章で残されていることはありません。

その為、吟遊詩人によって口伝で伝えられます。 文章で残さずに口伝や歌に乗せて伝える場合、伝え聞いた人それぞれが神話を独自解釈して、人が聞いて興味を持てるように物語を改変したり創作して付け加えたりして、人々に伝えていきます。
その様な感じでギリシャ神話はアメコミ世界の様にパラレルワールド的に広がっていき、神様の出自が変わったりしていくのですが、そんな物語を生み出して伝える吟遊詩人で有名な者の1人が、ホメロスです。
その他には、ヘシオドスという人物もおり、饗宴では、2人が作ったアフロディーテの設定が違うため、天のアフロディーテと俗のアフロディーテが2人存在することになっていたりします。

話を戻すと、ホメロスはアーテという女神は硬い物の上を歩かず、柔らかいものの上を歩くから繊細だと表現しましたが、アガトンは、この繊細さについての説明はエロスに対しても当てはまると言います。
というのも、エロスはそもそもどこかを歩くといったことはしないうえ、その神が宿るのは柔軟な柔らかい心を持った人間の心の中だけだからです。
エロスは足だけでなく全身が柔らかく繊細なので、好む住処も柔らかい心の持ち主の中だけと決めています。

つまり、エロスが心に宿っているということは、その人物の心は柔らかい。 柔軟な心を持つ人間は争いを好まないため、エロスの支配下では平和になるという先程の主張へとつながるのでしょう。

エロスによる支配

次にエロスの性質ですが、エロスは神に対しても人に対しても不正を行うことがなく、また、不正を行われることもないようです。
また、何らかの同意が必要な場合も、暴力で脅迫して同意を迫られるということもありません。 何故ならエロスは愛するものに対する慈しみの心の象徴で、それを神格化したものだからです。
愛する人からの願いに対して聞く耳を持たない人はおらず、愛する人に対して無理難題を押し付けようとする人間もいません。

エロスが介在する交渉では、相手を無理やり納得させる必要がなく、暴力も脅迫も必要なく、両者が納得する形で同意することになります。
この同意を拡大解釈し、すべての国民が同意したルールを法律と定めた場合、その法律は正義となります。
何故なら、全国民が納得し、強制しなくともその取り決めを守ろうとし、それによって秩序が生まれて争いがなくなるわけですから。

エロスの他の性質としては、最大級の節制を備えています 節制とは欲望抑え込むものですが、この世で最大の欲望はエロス自身であるため、すべての欲望はエロスよりも下ということになり、支配下にあると言えます。
繰り返しになりますが、節制とは欲望をコントロールなどして抑え込む、言い換えれば支配する能力ですが、エロスはこの世の全ての欲望を支配下に置いているため、最大級の節制とも言えます。

更に言えば、エロスは欲望だけでなく勇気すらも支配下に置いています。 これは神話に登場するエピソードになりますが、勇気の象徴であるアレスは、アフロディーテに恋をして虜になります。
この恋という感情こそがエロスであるため、勇気の象徴であるアレスはエロスに支配されいるともいえます。
エロスの性質をこの様に掘り下げていくと、エロスは正義であり、節度を持ち、勇気を従えていることになり、徳性の中で3つのものを支配していることになります。

愛する人のためには努力する

では、徳性の中でも重要だと思われる知恵はどうでしょうか。
知恵の象徴とも言える職業といえば、詩人が上げられます。 詩人は、神話を語り継いで広めていきますし、神話に新たな解釈を加えて作り変えもします。
今回の饗宴で行われた議論でも神話は度々取り上げられますし、概念的な物事を考える中心にあるのが神話とも考えれられるので、詩人は知性の象徴と考えることが出来ます。

では詩人というのは、知性が優れた人だけがなることが出来る特別な存在なのかというと、そんな事はありません。
好きな人ができて恋心が生まれれば、意中の人に気持ちを伝えるために、そのものは詩に興味を持ち、詩人となります。

例えば無知な者がいたとします。人は自分にないものを提供することは出来ませんし、知らないものを他人に教えることも、また、ポエムとして伝えることも出来ないので、当然、無知な者は詩人になることは出来ません。
しかし人は、恋をすることによって自分の気持ちを相手に伝えようとしますし、相手がコチラの気持ちに応えてくれるようにと伝え方を考えますし、良い表現が分からなければ調べたり勉強したりします。
そして、自分なりのベストな形で表現をし、相手に伝えます。

この一連の流れは、無知な者が知性を身に着けたということになるわけですが、ではその要因となったのは何かというと、エロスの存在です。
無知なものにエロスが宿った結果、そのものは知性を身に着けて、詩人となったわけです。

これは、ポエムという限られた分野だけに限ったことではありません。彫刻家の様な芸術家であれ、医者であれ、全ての知恵や技術はまず、最初に欲望というエロスが存在し、それに導かれる形で技術や知恵を発見したり発展させていきます
エロスはすべての物事の先導者であり教師であるため、エロスに出会うことが出来た人間は傑出した著名な人間になることが出来ますが、そうではないものは、世に知れ渡る前に終わってしまいます。
これは、自分がある行為を行う根本に、欲望が有るのか無いのかの違いで、欲望がある人のみが成功できるということになります。 つまり、あらゆる知識や技術は、エロスに支配されているということです。

世界を支配するエロス

そして、この『全ての上に立つエロス』は、当然の様に美しいものを好みます。
そのために、エロスが関わった知恵や技術は美しく、エロスが美しいものを求めるために、この世の中は美しいくなろうとします。

まとめると、エロスが介在する交渉事で争い事は起こらないため、エロスという概念がそこに存在してさえいれば、争いごとはなくなって平和が実現します。
このエロスは、最上級の欲望で有るために、すべての欲望の頂点に君臨しています。 徳性の中の節制は、欲望を支配する力のことですが、エロスは欲望の頂点であるため、全ての欲望を支配している。
つまり、エロスは最大級の節制を宿しているとも言えます。

この他にも、エロスは勇気や技術や知識も支配下に置き、その上、正義でも有るため、最高善であるアレテーとほぼ同じものと考えられる。
そのエロスは美しいものを好むため、エロスの支配下に有るこの世界は美しくなろうとする。 故に、エロスは偉大だ。ということになります。

これで、ソクラテス以外の者の話は終わり、次からは、ソクラテスの主張へと続きますが、その話はまた次回にしていきます。

参考文献