だぶるばいせっぷす 新館

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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第119回【饗宴】神話で考えるエロス 後編

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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願いを聞けない人達

話の流れとしては、神が街を滅ぼそうとした際、アブラハムという人物が『あの街に正しい心を持つものが10人いたとしても滅ぼすのですか?』と神の行動を一旦止めて、2つの街に善人を探しに行きます。
結果として、この街で善人と呼べるのはロトの一家だけで、この一家だけが町の外に出されて、その後、街は滅ぼされます。
このロトの一族が街を脱出する際に、神は『今から街を滅ぼすが、絶対に後ろを振り返っては駄目ですよ。』といったところ、ロトの妻だけが振り返ってしまい、塩の柱となって死んでしまうという話です。

ちなみにソドムとゴモラの街も塩の塊となり、後にこの場所に水が溜まって死海と呼ばれる塩分濃度が異常に高い海になったと言われています。
この他には、日本人の私達に身近な話として、イザナギイザナミの話もありますよね。
日本を作ったとされるイザナギイザナミという夫婦は、日本に数多くの神々を生み出すのですが、火の神であるカグツチを生み出した際に全身やけどを負い、妻のイザナミだけが死んでしまいます。

この別れに耐えられなかった夫のイザナギは、当時は地続きだった、黄泉平坂の先にある『あの世』である黄泉の国に妻を迎えに行きます。
夫が遠いところまで迎えに来てくれたことでイザナミは感動し、帰り支度をするからこちらを観ないで欲しいと伝えますが、愛しい妻の顔を一刻も早く観たかったイザナギは、その願いを聞き入れずイザナミを見てしまいます。
するとそこには、焼きただれて蛆が湧いた醜い姿のイザナミがおり、その姿を見たイザナギは妻を化け物扱いして、この世とあの世をつなぐ黄泉平坂を大きな岩で塞いでしまい、あの世とこの世を断絶してしまいます。

自分の姿形が変わっただけで掌返しをした旦那を許せないイザナミは死者の王となり、黄泉の国の住人に生きている者を恨めと指示し、生きている者を毎日1000人呪い殺すと言い放ちます。
それを受けて旦那のイザナギは、なら、生きているものはそれに対抗し、毎日1500人の新たな子供を生んでやると言い返し、死者は生者を恨み生者は死者に恐怖するという構図が生まれてしまったという話です。

愛する者のために1つの約束も守れない者

オルフェウスの話に戻ると、彼もこれらの話と同じ様に、振り返ってはいけないという簡単な条件を守ることが出来ずに、妻が本当に自分の後ろをついてきているかどうかを心配して振り返ってしまい、妻は2度めの死を迎えます。

この出来事でオルフェウスは立ち直れないほどのダメージを受け、女性と関わり合うのが怖くなってしまうのですが、彼自身はイケメンなので、他の女性が放っておきません。
しかし彼は女性と距離をとっていたため、彼女たちの誘惑になびくことはありません。 これに腹を立てた女性たちが『私達を馬鹿にする男がいるんです!』と騒ぎ出し、それを聞きつけた者たちによって八つ裂きにされてしまいます。
これを哀れに思ったゼウスは、彼がアポロンから受け継いだ竪琴を星座の1つとし、琴座が生まれたという話です。

オルフェウスは、愛するものを取り戻したいと思った際に、何一つ差し出すことなくそれを手に入れようとし、その際に出された簡単な条件すら守れませんでした。
このような者に神の祝福はないので、バッドエンドを迎えているということです。

アキレウスの物語

次に例に出される話は、トロイア戦争におけるアキレウスの最後です。
トロイヤ戦争や、その際のアキレウスの最後については、一度、『ソクラテスの弁明』を取り扱った回で取り上げていると思うので、詳しい話はそちらを聞いてもらいたいのですが…
それを聞いていない方のために簡単に説明すると、トロイア戦争は、トロイアという国の王子パリスがアフロディーテの加護を受けて、スパルタの王妃を寝取ることで始まります。

妻を寝取られたスパルタ王は激怒し、兄のアガメムノンや英雄オデュッセウス、アキレスとともに軍隊を率いて、トロイアに攻め込みます。
トロイアに対して圧倒的な軍事力があるスパルタは、次々と拠点を制圧していき、戦利品として物資や奴隷を獲得していきます。
アキレスも同様に戦利品を手に入れるのですが、戦利品である奴隷をアガメムノンに取られてしまいます。

これでやる気を無くしたアキレウスは駐屯地に引きこもって戦場に出なくなり、これによってスパルタ軍の兵士の士気が下がり、形成が逆転してしまいます。
親友のパトロクロスは、アキレスに戦場に戻るように説得するのですが、彼は聞く耳を持ちません。そこでパトロクロスは、アキレスの鎧を自分の身につけ、アキレスのフリをすることでスパルタ兵の士気を上げる作戦を思いつき実行します。
この作戦は成功し、スパルタは戦線を押し返すのですが、パリスの兄であるヘクトールによって、アキレスに扮したパトロクロスは討ち死にしてしまいます。

死を恐れずに愛する者のために戦う者

アキレスの母親であるティティスは、予めこの事を予測していたため『パトロクロスという友人が殺されたとしても、仇討はしてはいけない。仇討ちをすれば、お前が死んでしまう。』と予言を託していたのですが、アキレスはこれを無視して仇討ちに行きます。
結果としてアキレスはヘクトールを打ち負かしますが、この時に神々は、死をも恐れないアキレスの行動に対して感動し、神がかり的な力を授けています。
その後アキレスは、ヘクトールの弟のパリスによって弓矢でアキレス腱を撃ち抜かれて死ぬことにはなるんですけれどもね。

以上、3つの神話を観てきたわけですが、共通している点は、人が自分の命をかけて愛情を貫こうとするとき、神々はその者に祝福を与えているという点です。
その愛情の根源となる概念がエロスで、エロスを目的とした行動を行う者は神々の心すら揺るがす。故に、エロスは偉大だと主張します。

前回からの話も含めてまとまると、エロスは神々の中でガイアについで古く、人の精神を擬人化した神の中では最も古い。
そして、人に目的を与えてくれるもので、エロスによって人は進むべき方向を見出して進んでいける。
エロスがなければ人は行動せず、繁殖もできなくなるため、最も重要なものと言える。

また、エロスを動機として起こす行動で、代償を払ってでも目的を達成しようと頑張る行為は、神の心すら動かす偉大な行動とされます。
この様な行動は神々ですら祝福する行動であるため、当然、人々からも祝福される偉大な行動となります。結果として、これらの行動の動機となるエロスは偉大だということです。

以上でパイドロスの主張は終わり、次にパウサニアスへと続いていくのですが、その話はまた次回にしていきます。

参考文献