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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第18回【経営】参入障壁

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

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目次

5フォース分析

前回は、5フォース分析について話していきました。
5フォース分析を簡単に振り返ると、自社を取り囲む外部環境について整理するフレームワークのことです。
イメージとしては、まず中心に自分の『同業他社』を置き、その周りに、『買い手』と『売り手』と『代替品』と『新規参入』といった外部勢力が有ると考えてもらえば良いです。

この様な外部の環境を整理し、それに自社の強みや弱みを付け加えながら分析することで、SWOT分析でいうところの『驚異』となる部分や『機会』となる部分が洗い出せたりします。
SWOT分析について気になる方で、まだ第14回~16回を聞かれていない方は、そちらで少し詳しく話しているので、そちらも聞いてみてください。
話を戻すと、5フォース分析の中には『新規参入』という外部勢力が有ります。 この新規参入に対抗するために必要となるのが参入障壁なのですが、今回は、この参入障壁について話していきます。

参入障壁

これを聞かれている方の中には、参入障壁という言葉を初めて聞いたという方もいらっしゃるかもしれませんので、まず、この言葉の説明からすると…
参入障壁とは、ある業界や市場で新たに事業を始めようとする場合に、それを妨げるような障害のことです。
この障害というのは、国や地域などの公的な機関によって設定されている場合もありますが、既に参入している企業によって設定されている場合も有ります。

言葉の使い方としては、参入障壁が高い、低いといった感じで使われます。
具体例を出して、参入障壁の高さについて観てみると、俗に参入障壁が低い業界として言われているのが、小売業界です。この小売には、飲食店も含みます。
何故、これらの業界が参入障壁が低いのかというと、特別なノウハウや知識がなかったとしても、店を開くことが出来るからです。

開業の難易度と経営の難易度は違う

ここで誤解しないで欲しいのは、参入障壁が低くて開業しやすいことと、事業運営を安定して行えることは、全く別のことです。
気軽に開店できるからといっても、安定的に事業運営が出来る保証はありませんし、実際問題として廃業率も高い業界です。
では、参入障壁が高い業界とはどの様な業界かというと、特別な資格が必要な職業であったり、創業するのに多額の設備投資が必要であったりする業界です。

この参入障壁をものすごく簡単に説明するなら、その市場や業界に簡単に参入することが出来るのであれば、その業界には参入障壁はなく、入っていくのば難しい業界であれば、参入障壁は高いということになります。
この参入障壁ですが、ではどの様に経営に活かしていくのかというと、先程も少し触れましたが、新規参入への対抗手段として使います。
つまり、自分が携わっている業界や市場の参入障壁を上げることで、ライバルになる可能性のある企業を、そもそも参入させないということです。

『おいしい市場』は独占したい

例えば、経済規模で100億円の市場があるとします。 その市場を自分たちが見つけ出し、実際にその市場で商売をはじめて儲けが出たとすれば、多くの人は、他の人が参入してくることを嫌がります。
何故なら、自分と同じ規模の会社がもう1社増えるだけで、売上が半分になってしまう可能性もありますし、相手の方が高品質で低価格なものの開発に成功して市場シェアを奪われれば、自分たちが市場から追い出されてしまう可能性もあります。
その様な事を無くすためにも、追随してくるものを排除するために入口部分に壁を設けて、その市場に他人が入ってこないようしたいと思うのは、当然の考えだと思います。

誰も手を付けていない魅力的な市場のことをブルーオーシャンといい、多くの新規参入によって血で血を洗う争いに発展している市場のことをレッドオーシャンなんて言います。
事業の基本としては、ブルーオーシャンを見つけ出してそこで儲けを出すことが鉄則であって、そのブルーオーシャンをわざわざ他人に紹介して、レッドオーシャンにしようなんて人間はいません。
もし仮に、『この市場は儲かるから、ぜひ、入ってきてください!入り方もノウハウも商売の仕方も全部教えますよ!』なんて言う人がいたとすれば、詐欺を疑ったほうが良いです。

自分が見つけた宝の山の場所を、わざわざ他人に教える様な人はおらず、人が他人に儲け話をする場合は、その情報を他人に教えた方が自分の儲けが大きくなるときだけです。

『参入障壁』構築の条件

この様に、事業を安定的に運営するためには、強力なライバルの参入を阻止する必要があり、そのためにも参入障壁を築いていく必要があるわけですが…
では、参入障壁はどの様にして築いていくのでしょうか。

この参入障壁ですが、全ての市場で構築できるわけではありません。構築するためには、その市場が特定の条件を満たしている必要が有ります。
その条件とは、『規模の経済性が働くか』『商品の差別化が出来るか』『投資金額の大きさ』『取引先を変更する際のコストの大きさ』『取引先を変更する際のコストの大きさ』『政府や自治体による参入の制限や規制は有るのか』と言ったものです。
条件の中には、初めて聞くような難しい言葉も出てきたかもしれませんので、それぞれ簡単に観ていきましょう。

『規模の経済』が働くか

まず、『規模の経済性が働くか』ですが、規模の経済性について簡単に説明をすると、要は大量生産によってコストが下げられるかどうかという話です。
例えば材料を買うにしても、製品10個分の材料を買う場合と10万個分の材料を一度の納品で買う場合とでは、材料の単価が変わってきたりします。
大量生産する場合、多くの業界では、安定的に大量に買う方が仕入れ値は安くなりますので、大量生産の体制を整えることで、材料費を引き下げることが出来ます。

次に生産に関わる職人の能力ですが、1日10個しか作らない人間と、1日に1000個の商品を作る人間とでは、後者の方が、同じ商品を作るにしても、短時間で商品を作れたりします。
この様に生産数に差がつく原因として、経験曲線効果というものがあります。。これを少し難しく説明をすると、商品の累積生産数の増加に伴って、製品1つ当たりの生産効率が上がることです。しかしこの効率の上昇幅は、逓減して行きます。
噛み砕いた言い方で説明し直すと、毎日のように大量に仕事をこなすことで、作業に慣れて、効率が上がっていくということです。しかし、作業効率は製品の製造数に比例して上がっていくわけではなく、上昇幅は徐々に縮小していきます。

経験曲線効果

これは、職人の方なら理解しやすいと思いますが、初めてモノを製造する場合は、経験がないために、どうしても時間がかかってしまいます。
しかし2個めになると、先程1回作っているので、1回目よりかは早く、上手に作ることが出来ます。3回目になると、あやふやだった手順もそれなりに身につき、更に早く、上手に作ることが出来るでしょう。
ですが、3つ目の商品の製造効率の上昇幅は、1つ目を製造してから2つ目を作った際の伸び率よりは、小さくなるはずです。

何故、伸び率が小さくなるのかを、極端な例を使って説明しましょう。 この職人が毎日のように作業を進め、1万個の製品を作ったとします。
その職人が更にもう1つ製品を作り、1万個目の商品と1万1個目の商品とを比べたとして、効率や製品品質は、初めて製品を作ったときと2個めの製造をした際の伸び率と同じ上昇幅で伸びてるとは思えないですよね。
つまり、効率は製品の製造を重ねれば重ねるほどに上昇してはいきますが、その伸び率は徐々に減少していって、最終的にはそれ以上の伸びなくなってしまうということです。これを、逓減するといいます。

話を戻すと、大量生産をする場合、材料の大量仕入れと労働者の経験曲線効果によって、生産コストが引き下がります。

投資金額の大きさ

また、この他にも、多額の設備投資をすることで、生産が自動化出来て、少ない人数で大量生産することが出来るという場合もあるでしょう。
企業に一定規模の販売力がある場合、この様な機械を購入して大量生産に乗り出すことも出来るわけですから、これも規模の経済といえるでしょう。

規模の経済については、実際には他の要素も絡んでくるのですが、今回の話ではこの理解で良いと思います。

次に、『投資金額の大きさ』ですが、先程例に出した大量生産できる機械が非常に高額である場合、この設備投資金額の高さというのは参入障壁になります。
投資金額が10万円で参入できるのか、参入するのに10億かかるのかでは、新規参入のしやすさは変わって当然ですよね。

『商品の差別化』はできるのか

次に、『商品の差別化が出来るのか』ということです。 商品には、企業が頑張って研究開発をすれば、差別化が出来るものと、差別化が出来ないものとが有ります。
例えば本屋は、取り扱っている商品の差別化が出来るのかといえば、出来ませんよね。何故なら、本屋は出版社が作った商品を取次を通して購入して消費者に販売しているだけだからです。
『本』自体はものすごい数が有るので、取り扱うジャンルによって差別化をすることは出来ますが、商品の『本』自体の差別化を本屋が行うことは出来ません。

商品の差別化が出来ないということは、その商品は誰でも仕入れることが出来るということで、参入障壁にはなりえません。
しかし、特定の人脈を持つものしか商品を仕入れることが出来ないとなると、これは参入障壁になりえます。 何故なら、同じ商品を新規参入事業者は仕入れることが出来ないからです。

流通チャネルの確保の難易度

次に『流通チャネルの確保の難易度』ですが、例えば店舗を構えて、直接消費者に向けて販売する形態であれば、流通チャネルの確保の難易度は低いかもしれません。
しかし、特定の産業やメーカーに向けた商品を企業に向けて販売する場合や、卸売を通して販売する場合、販売先が確保できていなければ、いくら商品を製造したとしても、その商品を売ることは出来ません。
売ることが出来なければ売上は立たずに、設備投資やコストの支払いができなくなるわけですから、事業としては成り立ちません。 その為、流通チャネルの確保の難易度を上げてしまえば、新規参入は抑えられます。

最期の『政府や自治体による参入の制限や規制は有るのか』ですが、これは、参入障壁そのものを公的な機関が作っているかどうかというものです。
ここに関しては、事業者の努力でどうにかなるものでもないので、割愛します。

『参入障壁』の捉え方

この参入障壁ですが、新規参入を防ぐための防壁として機能するため、可能であるのなら、構築したほうが自社を有利な立場に置くことが出来ます。
一方で、こちらが新規参入しようと思っている業界に参入障壁がある場合は、その業界に参入しづらくなりますが、もし、自社にその障壁を乗り越える力がある場合は、乗り越えることで、自社も参入障壁を利用することが出来るようになります。

ということで、今回は参入障壁について話していきましたが、業界によっては、あえて参入障壁を低くしているところもあったりします。
何故、低くしているのかというと、ネットワーク外部性を利用するためなんですが、その話は次回に話していこうと思います。