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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】 第24回【経済】ネットワーク外部性と参入障壁(2)

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
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目次

ネットワーク外部性と参入障壁

前回は、ネットワーク外部性と参入障壁は、一見すると正反対の概念のように思えるけれども、実際にはそうではなく、同じ市場内で共存している場合も、切り替わる場合もありますよという話をしていきました。
これは、市場の成長段階によっても変わりますし、市場をどの視点で見るのかによっても変わってきます。
最初は参入障壁を低くしてネットワーク外部性を利用していたのに、市場がある程度の段階になってきたら、高い参入障壁を築き上げるなんてこともあります。

例えば、ネットの動画市場でみれば、youtubeという限定された市場の中で見れば、ネットワーク外部性が働いているように見えます。
しかし、一歩引いて、動画プラットフォームという観点から見れば、プラットフォーム間では独占的市場シェアを狙って激しい争いが行われていますし、今からこの市場に入ろうと思うと、参入障壁も高いことでしょう。
では、この様な動画プラットフォーム市場というのは、最初から参入障壁を高くしていたのかと言うと、そういうわけではないでしょう。

マイナーな市場は人を引き入れたほうが良い

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ネットで動画を見るなんてことが、人々の習慣に組み込まれていない黎明期では、参入障壁を高くして市場を独占したところで、その市場の存在を皆が知らない状態です。
市場自体が認知されていないわけですから、その認知されていない市場を独占したところで、大した意味はないでしょう。
それなら、参入障壁を低くして、プラットフォームを増やすことで市場の認知を高める方を優先させた方が、利益が出る可能性が出てきます。

しかし、市場の認知を高めるという目標を達成してしまえば、知名度上昇の為の新規参入は必要がなくなりますし、何なら、既存のプラットフォームのシェアを奪って、市場内で独占的地位を占めたほうが儲けが出やすくなります。
そうなると、新規参入を抑えるために、参入障壁を築き上げるというのも一つの戦略となります。
つまり、市場が未成熟な段階では参入障壁を下げていたのに、市場が成熟してくると参入障壁を高くするというように、戦略を切り替えているとも観ることができます。

ここまでが前回に話したことなのですが、前回までの話もそうですし、今回の振り返りでもそうなのですが、結構、スケールが大きな話となっています。
このコンテンツは中小零細企業向けに作っているわけですが… 市場の独占やプラットフォーム間の競争なんて話をしても、ピンとこない方も多いと思います。
そこで、もう少し身近な感じの例を使って、この事に関する説明をしていこうと思います。

出店戦略

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ネットワーク外部性については、前回までは、電話やゲーム機や動画のプラットフォームといった物を例に出して説明してきましたが、これは、それらの大きな概念だけでなく、どこにでも当てはめて考えることが出来るものです。
例えば、飲食店が出店する場合などでも、これらの考え方を適応することが出来ます。
店を出店する場合、一番重要になるのは立地ですが、この立地をどの様に考えるのかで、大きく分けて2つの考え方があります。

例えば、他の店が出店していないような、飲食店的に空白の地域に出店するとしましょう。
周りが住宅街で、半径500m範囲内に飲食店がない場合、そこに出店をすれば、その店の周囲の顧客を独占出来る可能性があります。
この場合、この半径500mの市場を自分たちで独占しようと思うのであれば、参入障壁を築く必要があります。

参入障壁を築く

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参入障壁を築く方法としては、地域に密着したサービスに特化するという方法があります。
コミュニケーションを密にしたりするなどして近隣住民の方たちと仲良くなり、それぞれの住民の好みなども抑えた上でメニューを決めるなどすることで、その地域に特化した店にすることが出来ます。
自分の店を中心とした狭い商圏内の顧客との関係性を良好に保ち、顧客を囲い込めば、新規参入者は、既に見込み顧客を囲われているため、参入しづらくなるでしょう。

新規参入がないのであれば、自分の商圏を守り抜くことが出来るため、一定の売上を確保し続けることが出来るかも知れません。
では、これがベストの選択なのかと言うと、そういうわけでもありません。
敢えて参入障壁を引き下げて、同じ地域内で新規参入を促して、同業他社である飲食店を呼び込むという方法もあります。

同業他社を商圏内に呼び込む

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参入障壁を下げるとは、例えば、常連客や友達に飲食店経営の楽しさを伝えたり、もし開業するのなら相談に乗ると伝えるなどして、他の人間がその地域で開業しやすい様にしていくということです。
同じ地域にライバルである飲食店が出店すると、自分の店の客を食われるのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
確かに、その可能性は大いにありますが、同業他社を呼び込んだ場合、商圏が拡大するという別の可能性も生まれます。

例えば、私が住む京都の一乗寺には、狭い範囲にラーメン店が複数店舗あります。
正確に数えたわけではないですが、半径100mの狭い範囲に10軒程のラーメン店が乱立しています。
普通に考えれば、そんな狭い範囲にラーメン店が乱立していれば、客は分散してしまって、1店舗あたりの売上は下がってしまいそうです。

では実際にはどうなっているのかと言うと、一乗寺はラーメン街として有名になり、県外からも集客ができるほどに商圏が拡大しました。
つまり、その地域に1店舗しかない状態であれば、その店舗の近辺の人しか集客できなかったものが、地域として有名になったことで、近隣の地域からも人が集まってくるようになったということです。
地域が有名になったことで、商売をする範囲である商圏が、仮に30倍になったとすれば、狭い範囲に10店舗が集まったとしても、すべての店舗が増益を狙える可能性があります。

飲食店街は店舗単体より集客力が有る

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この流れがもっと拡大すると、更に商圏が拡大する可能性もあります。
同じ様な飲食街でいえば、京都には先斗町という通りがありますが、その通りは観光客にも有名で、日本全国から顧客を集めています。
中には、個人の店として有名な店もあるとは思いますが、それよりも先斗町という通りの知名度のほうが上であるため、集客の大半は先斗町という飲食店街が集めています。

これは飲食店だけでなく、他の業種にも当てはまります。
京都の話ばかりになりますが、京都には夷川通という通りがありますが、その通りには椅子やタンスといった家具を取り扱う店が乱立しています。
この様に、似たような店が集中して営業していると、客としては利便性が高まります。

何故なら、ポツンと1店舗だけ存在していた場合、そこに好みのものがなければ、その時間は無駄となってしまいますが、その近辺に同じジャンルの商品を取り扱っている店が20店舗ある場合、他の店を覗きに行くことが出来ます。
消費者の利便性が上がって人通りが多くなれば、店に入る客の数も多くなるわけですし、その内の何%かが購入をすれば、店側の売上も増加するでしょう。
また店側にとっては、何もしなくても露出も増えるわけですから、多額の広告費を使わなかったとしても、店を知って貰える機会は増えます。

今紹介したのは、『ラーメン屋だけ』であったり『家具屋だけ』といった出店について話してきましたが、もっと大きな括りで『飲食店』や『生活雑貨』の店が出すことで、シナジー効果を得られて更に効果が増したりもします。
例えば、先ほど紹介した先斗町には、主に晩御飯を食べるための店がひしめき合っていますが、その1本西にある木屋町通りには、ショットバーを始めとした飲み屋街が広がっており、ショットバーだけでなくクラブや女性が接待する店などもあります。
この様に複数の営業形態の店が1箇所に集まると、先斗町でご飯を食べて、二次会や三次会は木屋町で呑むなんてことも可能になるため、複数の店で客を融通することが可能になります。

繁華街は地域がプラットフォーム

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この状況は、地域そのものがプラットフォームとなっているとも考えられます。
この様な環境で、この繁華街に集まる人達を独占しようとして、戦略を練って1軒1軒潰していったとしたらどうでしょう。 この一帯の客を全て自分で独占できるのかと言うと、そういうわけには行かないでしょう。
何故なら、どんどん店が潰れて1店舗しかなくなった地域に魅力は無いため、そもそも客が来なくなってしまいます。

しかし、地域が変われば話は変わってきます。 京都には先斗町木屋町通りがある河原町から少し離れた場所に西院という地域がありますが、この地域が打倒河原町を狙って、地域を盛り上げるイベントを起こすことはあるでしょう。
これはプラットフォームが違っているため、プラットフォーム間の争いはあるけれども、プラットフォーム内の争いは少ないと言うことです。
少ないといったのは、飲食店がそれなりの規模になると、細かい部分ではバッティングしてしまう店同士も生まれるからです。

同じ様な価格帯で同じ様なメニュー構成の中華屋が近くに3軒あれば、その店同士では客の取り合いが起こることも十分に考えられます。
この争いを制すために、品質や食材で差別化をはかったりり、これ以上の新規参入を防ぐために、特定の価格帯の中華屋といった限定された範囲の参入障壁を築くことはあるということです。

ということで、長々とネットワーク外部性や参入障壁について話してきましたが、次回からは話題を変えて、企業の強みについて考えていきます。
それではまた次回。