だぶるばいせっぷす 新館

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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第19回【経営】ネットワーク外部性

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

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目次

参入障壁とは

前回は、参入障壁について話していきました。
参入障壁とは、その業界・市場に入る為のハードルの高さのことです。 これが高ければ高いほど、その業界には進出しづらくななります。
企業は自分たちを取り囲む外部環境の一つである新規参入を牽制して自分たちの利益を守るために、この参入障壁を築き、市場を荒らされるのを防ごうとします。

参入障壁を築くためには、前提条件が必要になります。
その条件は、『規模の経済性が働くか』『商品の差別化が出来るか』『投資金額の大きさ』『取引先を変更する際のコストの大きさ』『流通チャネルの確保の難易度』『政府や自治体による参入の制限や規制は有るのか』と言ったものになります。
規模の経済が働くということは、多額の設備投資によって生産コストを引き下げることが出来るわけですから、利益を生みやすい構造を作り出すことが出来ます。

様々な参入障壁

安いコストで生産できる場合、ある程度の販売価格の低下も受け入れることが出来るわけですし、リベートや一定販売ごとの割引といった他の価格戦略も取ることができるようになります。
これが多額の設備投資によって実現する場合、新規参入者がこれに対抗しようとする場合、同額以上の設備投資額が必要になるわけですから、この設備投資額の大きさは参入障壁になりえます。
また、安いコストで製造できるにもかかわらず、値引きせずに売れる場合は、利益率が上昇することになります。その利益の一部を商品を改良するための研究開発に使えば、商品を差別化させることも可能となります。

『取引先を変更する際のコストの大きさ』というのは、前回は説明することが出来ませんでしたが、スイッチングコストのことです。
例えば、iPhoneユーザーがアンドロイドに変更しようと思うと、いろんなアプリやデータの引き継ぎが面倒くさくなります。PCも同じで、windowsmac間の以降は、面倒くさかったりします。
この面倒臭さ具合のことをスイッチングコストといい、切り替えが面倒くさい商品やサービスの場合は、最初にシェアを取ってしまえば、それは参入障壁になりえます。

トップのシェアを取る場合、実物を伴う商品の場合は販売網などが重要になってきますが、この販売網を握って排他的にしてしまうというのも、戦略の一つです。
流通網の主導権を自社で握って排他的なものにしてしまえば、新規参入者は流通チャネルの確保が難しくなるため、これも参入障壁となります。
この様に、企業は自分の縄張りを守るために、様々な戦略で持って参入障壁を築き上げようとします。

ですが、全ての市場がこの様な排他的な市場ではなく、中には、その市場に他社に参入して貰うために、できるだけ参入障壁を設けずに、宣伝をしたり勧誘をしたりする市場もあります。

基本的に市場は排他的

前回の放送では、この様な行動を取るほとんどの企業や人物は詐欺師だといった発言をしました。何故、その様な発言をしたのかといいますと…
多くの市場では、新たに業者を引き入れたとしても、損しか無いからです。 製品価格は、市場の需要と供給で決まるのに、供給業者を呼び込んでライバルが増えてしまえば、競争は激化してしまいます。

競争が激化した場合、大抵は価格競争に突入することになります。 価格競争になって商品単価が下がれば、売上は減少します。何故なら、売上は商品単価に販売数をかけ合わせたものだからです。
市場規模が決まっている場合、販売数を増やすためには他社から顧客を奪い必要があるわけですが、そのためには更に競争が激化するため、市場は血で血を洗うレッドオーシャンになってしまいます
その様な状態を歓迎する人はいないので、わざわざ新規参入を引き入れようとする人たちは詐欺師として警戒したほうが良いといったわけですが…

ネットワーク外部性

まれに、他人を引き入れることで儲けが出てしまうような環境が生まれます。 その様な環境では、新規参入を引き入れることが自社の利益になります。この様な状態のことを、『ネットワーク外部性』が働くなんて言ったりします。
このネットワーク外部性を学ぶ上でのわかり易い例としては、VHSとベータのビデオ戦争があります。
最近の若い方は知らないかもしれませんが、今でこそ動画用のメディアはDVD・ブルーレイ、またはストリーミング再生といったものが主流になってきましたが、それより前はビデオカセットというものを使っていました。

VHSという規格がメインだったのですが、そのビデオカセットが出始めの頃は、VHSとベータという2つの方式でのシェア争いが起こっていました。その争いを制したのがVHSだったので、ビデオカセットといえばVHSになったわけです。
では何故、VHSが派遣を握れたのでしょうか。 価格が安かったからなのか。それとも、VHSの方が高品質だったからなのでしょうか。
結果から言うと、これらの要因は全く関係がありません。 何故なら、品質の面でいえば、ソニーが開発したベータ方式のほうが良かったという評価のほうが多かったからです。

では何故、VHSの方が派遣を握れたのかというと、ネットワーク外部性が関係してきます。ネットワーク外部性とは、新規参入が多くなれば多くなるほど、プラスの経済性が生まれるというものです。

VHSで言うなら、VHSというハードだけがあったとしても、それだけでは何の魅力もありませんし、市場も生まれません。VHSの規格で商品を販売するソフトメーカーが参入して初めて、市場が誕生します。
そのソフトメーカーが多ければ多いほど、そして、発売されるソフトが多様であれば有るほど、そのハードは魅力的になり、結果として市場シェアを握ることが出来ます

市場参加者が多いほど市場は盛り上がる

市場シェアの大部分を抑えて、市場を支配してしまえば、そのハードでソフトを出していたソフトメーカーも潤うことになります。
何故なら、分母が大きくなるからです。 自分たちが発表したソフトが、全体の1%ぐらいしか買ってくれない場合、ハードが1万台しか売れていないのか、1億台売れているのかで、売上は1万倍変わってきます。
こうなってくると、正の循環が回り始めます。 最初の頃に参入したソフトメーカーが頑張ってハードの市場シェアを伸ばせば、新規参入を考えているソフトメーカーは、最大のシェアを握っているハードでソフトを出そうとします。

そうすると、ソフトメーカーが増えたことでソフトの多様化が起こり、様々なニーズに答えられるようになっていくため、そのハードの利便性が上昇します。
ハードの利便性が上昇すると、そのハードの魅力が更に高まるわけですから、多くの消費者がそのハードを買い求めることになり、ハードの所有者が更に増えて、ソフトメーカーにとっての市場規模が大きくなります。
こうなるとハードの魅力が更に上昇し、更に多くの新規参入が起こり、さらに大量のソフトがそのハードで発売され、ソフトの多様化が加速することになります。

この様な正の循環を起こすために、ハードメーカーはソフトメーカーの参入を促し、ソフトメーカーも、その市場に新規参入を呼び込もうとします。

キラーコンテンツ

この一連の流れは、ネットフリックスがオリジナルで作ったドラマである『全裸監督』でも、触れられていたりします。
何故なら、ビデオ市場にとってアダルトビデオというのはキラーコンテンツだからです。キラーコンテンツとは、そのコンテンツが発売されることによって、ハードの売上が劇的に上がるコンテンツのことです。

その様なコンテンツ、またはコンテンツを作れるソフトメーカーを呼び込むためにも、ハードメーカーはソフトを制作して参入するための障壁はできるだけ下げようとしますし、同じくソフトメーカーも、新規参入を潰そうとはしません。
何故なら、他のソフトメーカーを潰してソフト市場を独占した場合、そのハードはソフトの多様性を失ってしまい、ハードの魅力を下げることに繋がるからです。
ハードの魅力が下がってしまえばハードの売上は下がりますし、市場規模そのものが縮小してしまうため、結果として、市場独占の意味がなくなります。

ゲーム機市場

この様なネットワーク外部性を伴う産業は、ビデオ産業だけに限りません。
例えば、身近なところでいうとゲーム産業などがあります。 今の家庭用ゲームといえば、任天堂ソニーマイクロソフトが争っていますが、これも単に、3社だけの争いではありません。
また、ゲーム機の性能や値段の優劣やコスパで決まるわけでもありません。

もし、ゲーム機のシェアがハードの性能だけで決まるのであれば、任天堂の戦略では他の2社には絶対に勝てません。
何故なら、任天堂の出すハードの性能は低く、コスパ的にも良くはないからです。 性能面だけで言うのなら、PlayStation5や最新のXboxの方が遥かに良いですし、コスパも良いでしょう。
ですが、実際問題として市場を支配したのは、次世代機と言われている中では一番性能の低い任天堂のSwitchです。

重要なのはソフトの多様性

重要なのは、そのハードがだすソフトであるコンテンツです。 キラーコンテンツと呼ばれて話題になるものをモノを、どれだけ独占して発売できるのかが重要になってきます。
任天堂の場合は、自社コンテンツがキラーコンテンツとなっているため、自家発電的なイメージもありますが… 大抵の市場では、どんな物が売れるかなんて事前には分かりません。
その為、出来るだけ多くのソフトメーカーを引き入れて、自社のハードでの多様性を広げようとします。

これは、ネットサービスでいえばプラットフォームサービスと言われているものも同じです。
有名なところでいえば、ネットフリックスやアップルミュージック、Amazonのプライムビデオなどの月定額のサービスの事をプラットフォーム事業なんて言ったりしますが、これもソフトの多様性によって集客力が変わってきたりします。
プラットフォームサービスでいえば、ソフトだけでなく、ユーザー間のネットワークなども絡んできたりするのですが… そのあたりのことも含めて、もう少し詳しいことは次回に話して行こうと思います。