【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第99回【メノン】ダイダロスの彫像 前編
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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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目次
今回も前回と同じ様に、プラトンが書いたメノンの読み解きを行っていきます。
著作権の関係から、本を朗読するわけではなく、私が読んで重要だと思った部分を取り上げて考察する形式になっていますので、興味のある方は、ご自身で本を読まれることをお勧めします。
『良さ』と『知識』
前回の話を簡単に振り返ると、メノンとソクラテスとの間で行われた対話によると、アレテーとは知識のようなものと言うことが分かりました。『アレテーが知識のようなもの』であるのなら、学校で学問を教える事が出来るように、アレテーも教える事が出来るはずだから、『アレテーの教師』といった職業が有るはずだという考えに至ったのですが…
ソクラテスは、その様な人には出会ったことがないと言い、二人の会話が行き詰まってしまいます。
そこでソクラテスは、ちょうど近くにいたアニュトスに質問をぶつけるも、結局、そんな人はいない事が分かってしまいました。
ソクラテスは、対話によってメノンと共に導き出した答えが間違っていたのではないかと思い、前提条件から見直すことにします。
その前提条件とは、『アレテーとは知識を伴って現れる』というものです。
そもそも、この前提に至ったのは、アレテーから、『知識』を差し引いた場合、アレテーには『善い』といった要素が残るのかという思考実験の結果を受けてでした。
アレテーそのものは、ボンヤリとしていて捉えきれないものなので、それを構成していると考えられる『勇気』などから知識を差し引いたところ、勇気からは『善い』とされている部分まで消えてしまいました。
アレテーを構成している物から知識などを差し引いたことによって、優秀な部分までもが差し引かれて無くなってしまった為、『優れている』とか『卓越している』という概念は『知識を伴って現れるのではないか』としたんでしたよね。
『知識』の代替品
この結果を前提条件として置いた結果、『アレテーとは知識のようなもの』という結論に至ったのですが、この前提が間違えている可能性が有るために、ソクラテスは、アテレーと知識を切り離して考えようと提案しました。では、どのようにしてアテレーと知識を切り離すのかというと、アレテーから知識を差し引いて、そこに知識以外のものを足した場合に、再びアレテーに『善い』という概念が宿れば、アレテーと知識の関係を断てる事になります。
アレテーそのものを複雑な構造を持つ機械に置き換えて考えると、複雑であるが故に、様々なパーツが複雑に絡み合っている為、知識という重要なパーツが欠けてしまうと、アレテーそのものも機能を停止してしまう。
この様子は、知識というパーツが必須のようにも思える状態にも見えますが、そこに代替品となる別のパーツを組み込む事で機能が回復した場合、知識は必須ではなく、他のもので代用できるということになります。
では、その代用品となるパーツは何になるのかというと、推測です。 正しい周辺情報を用いての推測は、『既に知っている』という知識では無いですが、それと同じ様な効果を持つものです。
この意見にはメノンも納得し、『知識』の代わりに、正しいと思われる想像である『推測』を当て嵌めてもアレテーが機能するのであれば、アレテーを宿しているとされている偉人たちが、たまに失敗をしているのも納得ができると言います。
例えば、偉人とされているペリクレスやテミストクレスは、その人生の中で幾度となく失敗をしていますが、彼らの行動が推測によるものであるのなら、推測が外れていた為に失敗する事はあり得るだろうという事です。
ソクラテスは、彼らが犯した失敗を挙げて『彼らはアレテーを宿していたのだろうか。』と指摘することが多々ありますが、推測が外れた事によって向かうべき方向が間違ったと考えれば、彼らが偉人でありながら失敗をして来た事に対する言い訳にもなります。
しかしソクラテスは、正しく行われた考えは絶対に外れることはないので、正しい考えに基づいた行動をとっても、失敗するはずがないと断言します。
ただこれでは、『知識』と『正しく行われた考え』との間に、何の違いもないことになってしまいます。
この部分について納得ができないメノンに対し、ソクラテスは『ダイダロスの彫像』を例に出して説明しだします。
ダイダロス
この例え話をする前に、少し本題からは反れますが、『ダイダロスの彫像』についての説明からしていきます。『ダイダロスの彫像』のダイダロスとは、ギリシャ神話に出てくる登場人物で、あの有名なイカロスの父親です。
イカロスといえば、蝋で作った鳥の羽で空を飛び、あまりの気持ちよさに天高く飛びすぎて、太陽に近づき過ぎてしまった為に、蝋の羽が溶けて地面に落ちてしまったという話が有名ですよね。
そのイカロスの父親がダイダロスです。
ダイダロスは、幅広い知識を持っていて、その知識を元に様々なものを産み出してきた発明家であり、自分の手を動かして、それらを作り上げる職人でもある人です。 レオナルド・ダ・ヴィンチのような人といえば良いのでしょうかね。
他の人が考えもつかないようなものを思いついて、実際に手を動かして作ってしまえるということで、様々なところからの発注を受けていたようです。
このダイダロスですが、元々はアテナイで暮らしていて、その才能から人気を集めていたようですが…
嫉妬深い人間で、他の人間が自分よりも優れたものを作るのが許せない様な性格をしていて、それが災いして殺人を犯してしまい、アテナイを追放されたとされる人物です。
追放された後は、ミノスという名の王様が治めるクレタ島に移り住みました。
ミノタウロスのラビリンス
このミノス王ですが、海の神様であるオーディーンから、『後で神々に生贄として捧げるから』という名目で、美しい牛を授かるのですが…その牛のあまりの美しさに約束を破ってしまい、別の牛を生贄に捧げてしまったことで神の怒りを買い、ミノス王の妻であるパーシパエーは、神によって呪いをかけられてしまいます。
どの様な呪いをかけられたのかというと、ミノス王が神々から結果として騙し取った牛に対して、性的に魅力を感じてしまうという呪いです。
パーシパエーは、その牛と関係を持ちたい一心で、ダイダロスに牛の模型を作らせて、パーシパエーがその中に入る事で、牛と性的な関係をを持ち、妊娠してしまうことになります。
このエピソードから、ダイダロスの技術は、雄牛を発情させることが出来るほどの、生き生きとした魅力的な雌牛の模型を作れたということが分かりますよね。
そうして生まれたのが、牛の頭と人間の胴体を持つ、牛と人間が混ざりあったような生物です。
その生物は、アステリオスと名付けられますが、周りからは、『ミノス王の牛』という意味で、ミノタウロスと呼ばれます。
ミノタウロスは、成長が進むにつれて凶暴になっていき、手に負えなくなった王族たちは、再びダイダロスに命令を出して、彼を閉じ込めるための仕掛けを作らせます。
それが、ラビリンスという迷宮です。
このラビリンスの構造は、怪物となったミノタウロスから民衆を守る為なのか、それとも、民衆からミノタウロスを守る為なのか、その両方なのかはわかりませんが、秘密とされました。
ミノタウロス討伐
この話があった後、ミノス王は、ミノタウロスとは別の息子を、戦争で亡くしてしまいます。 そして、その原因がアテナイにあるということで、ミノス王は腹いせに、アテナイに定期的に生贄を要求し、それをラビリンスのミノタウロスに与えます。これに不満を持ったテセウスが、ミノタウロスを退治する為に、生贄に紛れてクレタ島に上陸します。
テセウスは、無事に島に到着したまでは良いのですが、ラビリンスを突破してミノタウロスを倒し、その後再び出口に戻ってくる方法が分かりません。
困り果てている所を、ミノス王の娘であるアリアドネに発見されるのですが、このアリアドネがテセウスに惚れてしまって、協力することになります。
アリアドネは、ダイダロスの元へ行き、ラビリンスを抜けてミノタウロスの元へ行き、再び出口に戻ってくる方法を聞き出し、事が済んだ後には自分を妻とすることを条件に、それをテセウスに伝えます。
結果、見事にミノタウロスを討伐してクレタ島から逃げ出すことに成功したのですが…
ダイダロスの方はというと、ラビリンスの秘密を漏らしたという罪で、高い塔の上に幽閉されることになります。
ここから脱出するために、冒頭でも話したように、蝋燭の蝋で羽を作って、息子のイカロスとともに脱出するという話です。