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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第11回【経営】階層分け

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

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目次

前回のふりかえり

前回と前々回は、マーケティング自体を階層に分けて、それぞれの階層では何が求められているのかについて話していきました。
簡単に振り返ると、マーケティング1.0は製品中心の市場で、マーケットでは商品の需要が供給を上回っている状態になっているため、企業に求められるのは、製品を効率的に作ることです。
機械を導入したり、職人の作業を分解して標準化してマニュアル化するなどして、既製品を一定の品質を保ちながら安価に大量生産することが求められます。

マーケティング2.0では、マーケットでは需要と供給が拮抗、もしくは供給が上回っている状態で、尚且、消費者は企業が提供する商品についての知識を持っている状態となります。
商品についての知識というのは、別の表現をすると相場観です。 例えば電化製品であれば、これぐらいの性能だから、値段はこれぐらいだろうと顧客側が見積もれる状態になっているということです。
この環境では、企業は顧客に自社製品を選んでもらわなければならないため、ターゲットを絞って特定の層に向けて個性的な商品を出そうとします

マーケティング3.0では、マーケットでは個性溢れる商品が出尽くしている状態であるため、差別化も難しく、何もしなければ販売価格を下げないと競争力を生み出せない状態になります。
こういった状態を、コモディティ化なんて言ったりしますが、この環境で自社製品を選んでもらえる状況を作るためには、製品以外で差別化をして、付加価値を生み出していかないといけません。
そのためのキーワードが、環境問題であったり社会貢献です。

製品を購入すると、売上の一部を慈善団体に寄付するとか、商品に使用している原材料に、自然環境に良いものを使っているとか。海外の労働者に対しても先進国と同じ給料を支払うフェアトレードをしているといって、他社と差別化を図ります。
仮に、同じ値段で同じ様な商品が売られていたとしても、一方が環境や人権に配慮した商品と宣伝されていて、もう一方の商品が、単に普通に売られている場合、環境や人権に配慮した商品の方が売れそうですよね?
何故売れるのかというと、消費者は、同じ『商品を買う』という機会に、商品を選別するという手間を加えるだけで、社会貢献している気になれるからです。

環境問題の利用

ちょっと嫌味な言い回しになっていると思いますが、何故かというと、本当に地球環境のことを考えるのであれば、そもそも商品を買わなければ良いだけなのに、消費する言い訳として、社会貢献がダシに使われているからです。
例えば、何かしらの飲み物を販売する場合、プラスチック製の容器ではなく紙コップに入れて、紙のストローを刺して、『地球環境に優しい商品です!』と宣伝して商品を販売すれば、付加価値が増やせるというのがこの理論ですが…
本当に環境のことを考えるのであれば、消費者が水筒に水道水を入れて持ち歩けば良いだけです。わざわざ木を切り倒してパルプを作って紙製品にして、それを使用して作られた商品を外で買う必要はありません。

つまり、このマーケティング3.0で語られていることは、社会貢献をすれば、回り回って自社にも恩恵を受けれるという話ではなくて、環境問題や社会問題を営業に活用しましょうということです。
マーケティング3.0の段階では、『自社が儲けるために』というのを全面に出しすぎると、消費者から反感を買ってしまい、企業イメージが悪化して、逆に売上が減ってしまう可能性も有ります。
その為、『社会にこれだけ貢献しているんですよ』というのを積極的に打ち出すことで、商品単価を下げずに販売数を増やすことを目指します。

マーケティング4.0

最後のマーケティング4.0は、近年発達してきたSNSや、それによって生まれたソーシャルコミュニティの影響力を考えた上で、プロモーション活動をしましょうということです。
昔は、テレビ・新聞・雑誌といったメディアを使って、企業が一方的な情報を流すのがプロモーション戦略でした。
しかし、ネットの発達によって誰でもメディアを持つことができて、口コミがシェアされることで企業イメージに影響を与えるほどになった現代では、プロモーション戦略を変える必要が有ります。

ネット利用者と積極的にコミュニケーション取ることで関係性を築き上げ、それをリアルなイベントなどを通して更に関係性を深めることで企業のファンを作れば、彼らが勝手にブログなどで宣伝してくれる様になります。
宣伝は、企業が自分で『私の会社はこんなに素晴らしいんですよ!』と訴えても信用されませんが、企業とは全く関係がなく、尚且、自分の知り合いから『あの企業は良いらしいよ。』と聞かされれば、人はその情報を簡単に信じます。
これを利用して、ネットの活動によって多くのファンを獲得し、仲間に引き入れてしまいましょうというのが、マーケティング4.0です。

このマーケティング4.0は、中小零細企業でも比較的安価に導入することが出来る考えですし、マーケットがどの段階であろうとも意識すべきことなので、少し毛色が違ったりします。

階層分けが必要な理由

前置きが長くなりましたが、では何故、この様な階層分けをしなければならないのか。
それは、市場の段階ごとに取るべき戦略や、やらなければならないことが変わるからです。

市場環境という意味合いでいえば、マーケティング1.0~3.0がこれに当たりますが、この変化というのは、時代が進むにつれて加速度的に早くなっていってます。
しかし、人間の感覚というのは、そんなに簡単に変わることはありません。 何故かというと、昔の成功体験がバイアスとなって、自分の認識を変えてしまうからです。
その為、市場は絶えず変化していって、行わなければならないことが変わっているにも関わらず、経営者の意識だけは変わらず、結果、見当違いのことを一生懸命することになります。

もう少し具体的に例を出して説明すると、例えば、戦後まもない時期に、製造業で起業した創業者の会社の例で考えてみましょう。
この創業者の会社が今でも生き残っている場合、その事業は成功していると考えて良いでしょう。 もし失敗していれば、とっくの昔に市場から退場しているはずです。
この創業者が成功した環境としては、マーケティング1.0の時代に成功しています。

つまり、真面目にコツコツと品質の良いものを作り続ければ、何の営業活動もしなくても、黙っていても注文が入ってきた時代の人だということです。
このスタイルで事業を続けていくと、マーケティング2.0、3.0と時代が変化していくごとに、当然の様にこの企業の受注は減っていくことになります。
何故なら、マーケティング2.0や3.0の時に新規参入してきた企業は、製品を作る際に品質だけでなく、ターゲティングを行ったり、社会貢献をしているといったことをアピールして営業活動を行うからです。

自分の立ち位置を認識する

そんな中で、真面目にコツコツと製品を作り続けるだけの人は、時代に取り残されて生き残れません。勘違いしないでほしいのですが、この様な人が駄目だと人格否定しているわけではありません。
私自身は、真面目にコツコツと一つの事に打ち込む人に対しては好感を持ちますし、そういう人が成功する世の中になって欲しいとは思っていますが、現実問題として、世の中はその様にはなっていません。
実際の世の中は、商品や企業の演出方法など、ブランディングの仕方が上手い人が成功したりしています。

しかし、マーケティング1.0時代に成功した創業者は、自分自身がコツコツ頑張ってきたことで成功してきたわけですから、その成功体験にとらわれて、行動を変えることができません。
その為、自分の子供に後を継がせようとして教育する際も、自分が成功してきたノウハウを伝えるため、その後継者も、マーケティング1.0時代の経営しかわからないことになります。
結果として、結構な確率で事業は上手く行かなくなります。

ただ、この様な状況を招くのは、その経営者が無能だからではありません。 人間は、そもそもその様な行動を取るように出来ているんです。
人間は、成功体験が一つあると、それに縋り付きたくなります。 その成功体験を捨てて、やったことのない事に挑戦する人は、むしろ珍しい人だと思います。
また、人は現状維持を好む生き物だったりします。


人は保守的な行動を取る

例えば、何もしなくても40万円貰える状態と、行動を起こして2分の1の確率で100万円かゼロかのどちらかしか貰えないという状況があったとして、40万円貰う方を選択するという人は、結構多いはずです。

何かしらの行動を起こして2分の1で100万円貰える場合は、期待値が50万円なので、数値を重視して論理的に考えれば、行動を起こさずに確実に40万円を貰うよりも2分の1で100万円貰える方を選ぶ方が得をするはずです。
しかし人間の直感では、正しい方を選べません。 これが経営になると尚更です。
現状の営業活動を行っていれば、少ないながらも安定的な売上が上がるのに、その方法をあえて変えるという判断は、かなり難しいです。

経営方針を変えた結果、売上が上がれば良いですが、大抵は売上が下がる恐怖に耐えられません。 その結果、現状維持を選び続けることになりますが…それではジリ貧になってしまいます。
この呪縛のようなものから逃れるためには、そもそもマーケットがどのようなものか、マーケットはどの様に変化していくのかを知る必要が有ります。
マーケットがどの様に変化していくのかを予め知っていれば、自分が成功した方法は単に『第1段階を突破する方法』であって、最終的に目指すべきゴールではないことが理解できるようになります。

現状認識を行う

最終的なゴールが設定できれば、そこに到達するために現状の行動を見直せるようにもなりますから、時代に取り残されるということはなくなります。
つまり、全体像を把握して現状分析を行えるようになるため、経営のリスクを下げることが出来るようになります。
しかし、これが分かっていなければ、自分はマーケティング3.0にある市場に携わっているのに、マーケティング1.0時代に成功した人の自叙伝やビジネス書をありがたがって読むという、役に立たない知識の収集に時間を奪われたりします。

そういうムダを省くためにも、階層化を行って、自分が今どの位置にいるのかを確認するという作業が必要になってきます。
自分が今、どの地点にいるのか、目指すべき方向はどこなのかを把握することで、必要な情報を見極め、今やらなければならないことを明確にしていきます。
以上が、何故、階層化が必要になるのかの理由です。 この様に1つのものを分けていくという考え方は、マーケティングに限ったことではなく、企業の規模や製品ライフサイクルなどでも行われていたりしますので、覚えておいたほうが良いと思います。

これまで、マーケティングが中心の話が続きましたが、次回からは、経営学の話にもう一度戻って話していきます。