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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第53回 民衆にアテレーを渇望させた古代ギリシャの民主制 後編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

目次


モノが生み出されるには目的がある

人間が生み出すものに、なんの意味もなく、ただ存在しているだけのものというのは存在しません。一見、無意味のように見えたとしても、それを生み出した人間は、何らかの意図をもって生み出しているからです。
人間は、何か実現したい目的がある時に、それを叶える為の道具を生み出そうとします。 その様にして生まれたものは、生み出された目的というものが存在し、目的を達成する為の能力を持っています。
車の例で言うなら、疲れずに、早く遠くに行きたいという目的で生み出されているので、車には、その様な能力が備わっていますし、そういうものを車と呼びます。

この様に、対象が人が作り出した道具などの場合は、アテレーというものは分かりやすいのですが、では、生き物の場合はどうなのでしょうか。
生き物というのは、人間が生み出したものではありませんし、一見して分かりにくいですよね。
では、古代ギリシャでは、生き物のアテレーはどの様に考えられていたのかを、プロメテウスの神話を使って話していきたいと思います。

プロメテウスとエピメテウス

ちなみにこの時代の神話ですが、古代ギリシャでは文字で書き残すだけでなく、語り継いだり、詩人が作品の中で取り上げたりと、様々な方法で伝わるのですが、伝える人によっては独自の解釈を付け加える人もいたようで…
同じ神話でも、何パターンか有るようです。 今回話すのは、プラトンが書いたプロタゴラスという対話篇に出てくる物語をベースにして、話していきます。

プロメテウスには、エピメテウスという弟がいて、この二人は、ティーターンという巨人族です。他の資料によると、プロメテウスという名前には、考えてから行動をするという意味が有り、エピメテウスという名前には、考えるより先に行動するという意味があるようです。
大昔の地球には、神様しか存在していなかった為、死ぬという概念も無かったようですが、この兄弟は、神々に『死すべき物を作れ』つまり、命を持って生まれて死んで終わるモノ。生物を作れという命令を受けて、材料を渡されます。
この材料は二種類あって、体をつくる為の粘土のような素材と、動物に特別な力を与える部品の二種類有ると思ってください。

二人は、兄のプロメテウスの方が指示を出して、エピメテウスの方が実際に作業をするという方法で、作業を進めていったそうなのですが、弟のエピメテウスが、自分の力だけで作りたいと申し出て、弟が一人で作る事になります。
この時の生物の制作方法ですが、粘土のような素材で生物の体を作り、その体に対して、特別な力を与える部品を取り付けるという様に理解してもらうと良いと思います。 
例えば、体を形作った後に、鋭い牙という部品んを与えることで、それが特徴や武器になって、狼という生物が出来たり… 体を作った後に、翼という部品を取り付けて鳥という生物を作るといった具合です。
聖闘士星矢のフィギアでいうと、人間パーツにクロスを付けてくような感じですかね。

まず、体というベースを作り、それに対して特徴を与える事で、個性を持った生物を作り出す。 生物にとってのアテレーとは、この特徴を与えるパーツだと考えてもらって良いと思います。
この様にして、ある動物には武器を与え、別の動物には逃げる為の早い足や翼を与え、生物が絶滅することなく、地球全体で食物連鎖によるバランスが取れるように、生物を作っていきます。
この他にも、コロコロ変わる自然環境位対応できるようにも対処し、生物が全滅しないように気をつけながら製作を行っていきました。

神から何の特徴も与えられなかった人間

最初のうちは、兄の指示を仰いで制作していたエピメテウスですが、途中から一人で作ったことで、材料の配分を間違えてしまって、体を作る素材が余っている状態で、特徴を与えるための部品を使い切ってしまいます。
考えた上で行動する兄の助けを断って、考える前に行動してしまうエピメテウスが一人で作った事で、材料の配分がメチャクチャになってしまったんですね。
こうして生まれたのが、生物として何の特徴も持たない、『人間』という生き物なのですが、何の特徴も武器もない状態で大地に放り出してしまうと、おそらく、生き残ることが出来ません。

1から作り直すにも、納期が迫っている状況ではそれも出来ない。 エピメテウスは兄のプロメテウスに相談し、考えてから行動をするプロメテウスは、解決方法を思いつきます。
それが、鍛冶職人の神であるヘパへイトスから炎を、そして、ゼウスの頭から生まれたといわれている知識の象徴のアテナから、炎を使いこなす知恵を盗み出し、人間に与えます。
動物は炎を恐れますが、それを使いこなす知識を持つ人間は、炎によって安全圏を作り出すことが出来る様になり、人間は生存できる可能性を得たわけですが、神々から道具や知恵を盗み出したことがバレてしまい、プロメテウスは窃盗の罪で捕まってしまいます。

プロタゴラスに書かれている神話はここまでなのですが、この続きとしては、プロメテウスは生きながらにして肝臓を鷲に食べられ続けるという刑を受け、それは、ゼウスと人間との間の子であるヘラクレスが助けに来るまで続きました。
エピメテウスの方はというと、ゼウスがヘパへイトスに命じて作らせた、人類最初の女性であるパンドラが、ゼウスによって花嫁として送られます。
これでは、何の刑罰にもなってないじゃないかと思われるかもしれませんが… パンドラには、絶対に開けてはいけないと言われている箱が託されていて、その状態で嫁に出されるんです。

『絶対に開けてはならない』と言われた箱を開けない人間はいないので、好奇心に負けてパンドラは神々から託された箱を開けてしまうのですが、それによって、箱から災いなど悪いとされているものが飛び出してしまい、この世は住みにくくなります。
それを観て驚いたパンドラは、慌てて箱を閉めるのですが、締めた箱の中から声が聞こえてきて、希望だけは箱の中に残ったままになった。
この事件を境に、地上は災害などが頻繁に起こる住みにくい土地となり、エピメテウスは土地をその様に変えた張本人と、暮らしにくい土地で暮らしていく事になるんです。

楽園を追放される人類

余談になりますが、この様に、女性が災難を運んでくるケースを考えてみると、旧約聖書も同じだったりしますよね。
旧約聖書でも、人類は最初は何も働かなくても良いエデンに暮らしていたのに、蛇にそそのかされたイブによって知恵の実を食べてしまい、結果として楽園から追放されて、苦しい生活を余儀なくされます。
何故、この様になっているのかはよくわからないのですが、古代や中世の世界では、女性の存在が軽視されて下に見られていたというのも、原因の一つとして有るのかもしれませんし…

実際に女性が災いを運んでくると行ったケースも多々あったからかもしれません。
例えばですが、男性だけで趣味のサークルなどを作って、平和的に活動していたところに、女性が一人加入すると、それによってサークルの和が乱れて、解散に追い込まれてしまったりするケースってありますよね。
サークルクラッシュと呼ぶようですが、この現象は、老人ホームなどでも起こるようです。 原因を詳しく観ていくと、女性だけに原因が有るわけでも無く、男女双方の欲望の結果なのですが、一見すると、女性が災いを運んできたようにも思えますよね。

プロメテウスの話に戻すと、プロメテウスの行動によって、生きる可能性を手にした人類ですが、その炎と技術を持ってしても、神から卓越した特徴を与えられている動物たちには敵いません。
そこで人類は、単独ではなく、集団で社会を作る事で生き延びる方法を模索しますが、人が集まると軋轢も生まれる為、今度は人類同士で争ってしまい、上手く政治を行ってまとまることが出来ません。
そこでゼウスは、『つつしみ』と『いましめ』を与え、人類に集団を作る力を与えたという神話です。

人間が他生物よりも卓越している部分は何なのか

この神話から分かる事は、人間以外の生物については、神々が『特徴』を与えているので、他の生物よりも卓越している能力のような『アテレー』が比較的理解しやすいのですが、人類には、その特徴が与えられていません。
人類に与えられているのは、ヘパへイトスの炎、これは、人類特有の能力というよりも道具や自然現象ですので…
これを除くと、アテナが持つ、炎などを使いこなす知恵。そして、ゼウスから与えられた『つつしみ』と『いましめ』という、目に見えない、分かりにくい概念が神によって与えられています。

では、知恵や慎み、戒めをもって、人間のアテレーと呼ぶのかというと、これも、少し違うような気がします。
この、よくわからない人間のアテレー・徳なのですが、それを、教えることが出来ると主張した人達が、ソフィストなんです。
ソクラテスの弟子のプラトンは、ソクラテスが誰かと対話をする事で、テーマを掘り下げていくという対話編を多く書いていますが、その相手の多くが、ソフィスト達です。

ということで次回からは、徳・アテレーと呼ばれるものと、ソフィストについて勉強していこうと思います。