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【ネタバレ映画感想】 帰ってきたヒトラー

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先日のことですが、amazonプライムビデオで、『帰ってきたヒトラー』が観られるようになったという話を聴いたので、以前から気になっていたということもあって、早速観てみました。


これ以降、ネタバレ全開で感想を書いていきますので、まだ観ていない方は、観てから読むことをお薦めします。

簡単なあらすじ

戦争を指揮していたヒトラーが、何故か、現代にタイムスリップしてしまったところから、物語は始まります。
先程まで、戦争の真っ只中にいたのにも関わらず、いきなり現代のドイツに飛ばされてしまった総統は、状況が飲み込めないままに街をさまよいます。
その最中に、なんとか小さな売店を見つけ、そこで新聞を立ち読みしようとして売店の店主とトラブルを起こし、総統は見事にノックアウト。

少し罪悪感を感じた店主は、総統が行く場所がないことをしり、少しの間、売店で面倒を見ることにする。

総統は、売店においてある新聞などの情報媒体を読み漁り、今が戦時中でないことを悟る。
それと同時に、現代の社会問題などを積極的に調べて、現代で生き抜くための情報を蓄えます。

そうこうしている間に、売れない映像作家が総統と出会う。
この映像作家は、総統がタイムスリップした瞬間を偶然にも撮影していたようだが、総統がタイムスリップしてきたとは夢にも思わず、ヒトラーのそっくりさん芸人だと思い込んで、この芸人を使って映像作家として成功しようと目論む。
容姿が似ているだけでは使いものにならないので、呼び水として映像作家が総統の演説を真似してみると、それを聴いたヒトラーは格好良すぎる演説を決めてみせる。

その演説に手応えを得た映像作家は、ドイツ全土を渡り歩いて、市民たちの声を聴いていき、その声に対して総統が答えるというネット動画を作成する。
ヨーロッパではタブー視されているヒトラーの完コピ芸はインパクトが有ったのか、動画はあっという間に100万再生となり、その動画を引っさげて、映像作家は自分と契約を切ったテレビ局に売り込みに行く。

映像作家をクビにした上司は無能だったので、この動画の凄さが理解できなかったが、有能な女性社長が乗り気になり、ヒトラーをバラエティ番組に出すことを決断する。

女性社長の睨んだ通り、ヒトラーのインパクトは抜群で、それだけでなく、ヒトラーの演説は人々の心をつかんで話さずに、ヒトラーは一躍トップスターとなる。
しかし、それが面白くない、無能な映像作家の上司。 ヒトラーが犬に噛まれた際に、仕返しとして撃ち殺した動画をテレビで独断で流し、世間を煽ってヒトラーと女性社長を会社から追い出してしまう。

だが、それでも挫けない総統は、自身の体験を小説として発表


同時に小説を追い出された女性社長に渡して映画化をさせる。

小説は大ヒットし、映画化も順調に進むが、常に一緒に行動していた映像作家は、総統がユダヤ人を前にした態度に疑問を持ち、一番最初に総統を捉えた映像を見直すことで、総統がそっくりさん芸人ではなく、本物のヒトラーだと気がついてしまう。
総統に詰め寄るが、総統は最初から一切嘘はついておらず、自分はヒトラーだと常に名乗り続けていた。 信じていなかったのは、それを取り巻く自分たちだけで、総統は常に真剣だったことに気がついてしまう。

このままでは、再びヒトラーが政治家になって戦争が起こってしまうと感じた映像作家は、周りに事態を説明して、ヒトラーを捕まえようと思うが…

真面目なコメディ?

この作品は全体として、コメディ色の強いものとなっています。 戦争やヒトラーや政治といった重いテーマを扱っているにも関わらず、所々に笑いの要素が入り、観客を笑わそうとしてきます。
笑いどころの大半は、ヒトラーが真面目に行う行う演説なのですが、単にくだらない事を言ったり顔芸で笑わそうというものではなく、今の社会情勢を踏まえた上での演説を真面目に行う事が笑いにつながるという感じ。

総統自身は常に真面目に、一切嘘をつかずに、今の社会情勢を踏まえた上で自分の主張を演説するわけですが、真面目な話ばかりではなくユーモアを交えて演説を行う。
それを傍から見ている人間は、ヒトラーのコピーとして面白半分で観ているので、そのユーモアをギャグだと思って楽しんでしまう。

ただ、演説の内容は、ただ単に笑い飛ばせるものではなく、社会情勢を足を使って取材した結果を元にして制作しているので、観客の興味をそそるし、考えさせられる内容にもなっている。
単に興味を持って面白く聞けるだけでなく、演説内容にかなりの説得力がある為、映画の中では当然の様に、ヒトラー人気は高まるわけですが、それを傍から見ている私自身も『この人が、日本の政治家になってくれたらなぁ…』とか『ヒトラーって、実は良い人なんじゃないの?』なんて思ってしまうところに、ちょっとした恐怖を感じる作りにもなっている。

ヒトラーといえば、格好良いものに惹かれるという人間心理を理解し、親衛隊の制服を格好良いものにしたことでも有名なようですが、それだけではなく、演説など、自分やその周りを格好良く見せる空気感を作るのが非常に上手かったようですが、それを見事に再現できているところが凄いと感じました。

ヒトラーを支持する民衆

映画の中の民衆はもちろん、この映画を見た私自身も、一時はヒトラーを支持してしまうという様な心理状態になってしまったわけですが、何故、そんな状態になってしまったのかというと、ヒトラーの言っている事がもっともらしく聞こえるからです。
私達は、ヒトラーは悪い人だと教えられてきましたし、それを支持した当時の民衆は『どうかしていた』と思い込むように教育されてきましたが、実際にどの様な状態で、どんな主張が行われていたのかという事は、余り教えられてこなかったように思います。

この映画では、現代の社会情勢と当時のヒトラーの主張をリンクさせる形で、ヒトラーの主張を丁寧に説明しているのですが、ヒトラーを悪だと決めつけ、彼を中心としたナチスにすべての責任を押し付けたヨーロッパの人達が、ヒトラーと同じ様な主張をしている事に気付かされます。
これは、ヨーロッパの人たちだけに限らず、現代の日本の人たちも同じです。

具体的な例を挙げると、移民問題などです。

IT革命後にグローバル化に拍車がかかってから、世界経済は『安い労働力の獲得競争』に突入しました。
資本家は、より多くの金を自分の懐に入れる為に、高い人件費がかかる自国民の採用をやめ、後進国の安い労働力を迎え入れるように働きかけてきました。
日本の場合はまだマシな状況ですが、ヨーロッパでは若者の失業率が40~50%にまで高まっている状況で、この様な状況では当然の様に、自分たちから職を奪った移民労働者に不満の矛先が向かいます。

『彼らが文化を破壊する。』『人種というものが無くなってしまう。』様々な理由を挙げて、庶民は移民労働者を国から追い出すように、そして、新たに迎え入れないように行動します。
しかし、その行動そのものが人種差別につながる行動ですし、純血主義の様な、ナショナリズムを煽る行動だったりします。
ナショナリズムを煽るという点では、日本のネトウヨなども同じですよね。 今の日本の経済や生活は、中韓がなくては立ち行かない状態にまで追い込まれているのに、彼らを貶めることを積極的に発言しますし、行動も起こしています。

彼らが、本当に怒りの矛先を向けなければならないのは、利益を全て自分たちの懐にしまい、再分配のシステムを壊してしまった資本家のはずなのに、労働移民を『自分たちよりも劣っている』と思い込んで差別することで、ガス抜きをする。
支配者層から見れば、経費削減の為に受け入れた移民が、リストラされた貧困層のガス抜きまで引き受けてくれるわけですから、願ったり叶ったりな状況なのですが、民衆たちはそれに気が付かない。
ヒトラーが放つ、『世の中を悪くしているのは移民たちだ』『自分たちの文化を守ろう!』といった言葉に惑わされ、彼を熱烈に支持してしまう…

この他の例を上げれば、ココ最近の日本で叫ばれている自己責任論も、ヒトラー的な考えそのものですよね。
ヒトラーは、難病の病人や障害者は生産性が低いとして、自国民であっても積極的に殺していましたが、自己責任論を展開する人たちの思考も、突き詰めれば同じようなものですよね。
そもそも国とは、人々が弱者に追い込まれてしまった際に、それでも最低限の生活をおくる為に作る共同体のことですが、全てが自己責任なのであれば、国なんてものは必要が無くなってしまいます。

しかし、自己責任論を主張する人たちは、国が行わなければならない役割を個人の責任に転嫁する。
割合的にみて、金額ベースで0.5%にも満たない生活保護の不正受給を大きく取り上げて、生活保護は甘えだという。 『貧困対策を…』という願いも、何故か政府目線で語る人たちに、『財源はどうするの?』と一蹴されてしまう。
結局の所、政治や経済の中心に位置する人達の取り巻きだけが良い目を見て、一般市民が犠牲になる。

しかし一般市民は、政府の無能や資本家の強欲くを攻めることなく、むしろ褒め称える事で、ご相伴に与ろうとする。

こんな時代に、もし、ヒトラーがタイムスリップしてきたら、あっという間に民衆の指示を集めて、ナチス政権が復活することでしょう。

私達は、ヒトラーという人物やナチスという組織をアイコン化してしまい、アイコンを叩くことに満足し、その内容そのものからは目を反らせてしまった。
その為に、ヒトラーを批判しつつも、行動そのものは支持するような状態になってしまっているということなのでしょう。
この映画は、それをコメディという形でわかりやすく説明できている点が、大変面白かったです。