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【映画ネタバレ感想】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地黎明 』現在を理解する為の問題盛りだくさん

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少し前に、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』のネタバレ感想を投稿しました。
実はあの作品は、ワンチャイシリーズの2作目という事で、前回の投稿を書いた際に天地大乱を見直したついでに、天地黎明の方も見直していました。
せっかくなので今回は、天地黎明の方のネタバレ感想を書いていこうと思います。



舞台となっている時代背景

時代背景や、主人公である英雄・ウォン・フェイフォンの事は、前回の天地大乱の投稿で書きましたので、基本的な部分を知りたい方は、そちらからお読みください。
kimniy8.hatenablog.com

この作品は、ワンチャイシリーズの1作目という事で、天地大乱よりも前の時代の話となり、まだ、中国に鉄道なども通っていない時代の話です。
当時の中国は、様々な国が中国に対してイチャモンを付けてきて、それをキッカケに戦争を仕掛けられ、領土を奪われていくという状態が続いています。
一つ例を挙げると、アヘン戦争などが有名ですよね。 アヘン戦争を簡単に説明すると、イギリスは中国からお茶を仕入れていたのですが、イギリスが輸入するように対して中国の輸入量が少なく、イギリスは慢性的な貿易赤字になっていました。
その赤字を埋める為に、中国に対して禁止されているアヘンを密輸し、その売上で赤字を埋めていました。

ちなみにですが、当時の輸送は船ですので、イギリスまではかなりの時間がかかってしまいます。 当然のように、中国から仕入れた『緑茶』は腐… もとい、発酵してしまい、イギリスに付く頃には真っ茶色の『紅茶』になってしまっていました。
イギリスの紅茶文化は、当時の輸送技術が未熟だったために生まれた文化だったんですね。

話がそれましたので、元に戻しましょう。イギリス側の禁止薬物の密輸に対して中国は怒り、当然のように密輸されたアヘンを没収したのですが、イギリスは『中国が我が国のものを盗んだ』といった感じの文句を言い出し、いきなり攻め込んで行きました。
これがアヘン戦争です。 もう、メチャクチャですよね。 兵器の格差というのもあり、中国はイギリスに負けてしまい、香港などを取られた上に多額の金まで要求されます。
この自体を外から見ていた他の国々は、イギリスを避難することなく、自分たちも中国の領土をかすめ取ろうと、イチャモンを付けては攻め込むという行為を行い始めます。
その他にも、中国の領海を荒らし回っていた外国の海賊を捕まえたら、その国から『拉致された!』とイチャモンを付けられて攻め込まれたりもしています。

これら行為は、普通に道を歩いているだけなのに、ヤクザの方から目を合わせてきて『何観てんねん!』といって殴りかかって金品を強奪する行為と同じですよね。
ちなみに我が国日本も、少し遅れて、この動きに参加します。 ヤクザ側としてですが。 遅れての参加の為、中国に攻め込んで領土を奪い取りまくった欧米側が『もう、中国に対してはこれぐらいで止めておこう』と主張したのにも関わらず、日本は『完全征服してやる!』って感じで、当時加入していた国際連盟から脱退してまで、中国に攻め込んでいます。
前回紹介した『天地大乱』の舞台となっている1895年は、日清戦争で日本が中国に勝ったことにより、下関条約で中国の領土である台湾を奪い取った年だったりもします。

こんな感じで、中国は『何もしていない』にも関わらず、欧米や日本から攻め込まれまくり、領土をどんどん奪い取られていく状態に追いやられました。
この様な状態の為、当然ですが、当時の中国政府の信頼もガタ落ち状態。 そんな時代の中国を舞台にしているのが、この作品です。

簡単なネタバレあらすじ

船の上で、獅子舞の演舞を観ながら総督と国の未来を話し合っている主人公、ウォン・フェイフォン。
演舞の演出として、爆竹を鳴らした所、他国の軍艦が『自分たちが発泡されている』と勘違いし、ウォン・フェイフォン達が乗っている船に向かって一斉射撃をしだす。
混乱の中で獅子舞の演舞もめちゃくちゃになると思いきや、ウォン・フェイフォンの機転によってなんとかその場を取り繕う。

爆竹を射撃と勘違いしての一斉射撃なので、謝罪が有ってもよいはずなのに、そんな事は一切せずに、なんなら『紛らわしいことした、彼奴等が悪い』といった感じの態度から、欧米人が中国人を見下している態度が見て取れる。
ウォン・フェイフォン側も、文句を言いにいっても無駄だと思っているのか、その場で抗議に行く様子もなく、総督と二人で中国の未来を憂いている。
そんな人格者の総督ですが、派閥争いの煽りを受けて、フランス軍と戦う為にベトナムに行かなければならない状態に追いやられています。
その状況の中でも、『ベトナム人は、私達中国人を観てどう思うんだろう…』とベトナムに同情。 中国は欧米に良いようにされていますが、一方で、中国とフランスはベトナムの領土権を主張して、互いの主張をぶつける為の戦争をベトナムで行っている。
国の高官同士が始めた戦争によって、実働部隊や一般市民が犠牲になる。 この、なんともやるせない思いが、先程のようなセリフにつながったのでしょう。 その後、自分がいないくなった後の部下の心配をし、ウォン・フェイフォンに民兵という形で面倒を見てもらうように頼む総督。
自国を心配し、自分のことよりも部下の心配をするような人格者だが、こういう人は出世が出来ないというのは、何処の世界でも同じなのかもしれない。

この総督との会談の後も、外国勢力との問題は続く。 当時は、欧米人によって中国人が奴隷のように働かされていたわけですが、その1人の中国人労働者が、乗り込む船を勘違いから間違えたというだけで、銃で打たれることになります。
先程の爆竹の勘違いの件の直後ということで、流石に腹に据えかねたウォン・フェイフォンは、政府に訴えて、提督と一緒にイギリス領事館に赴いて、イギリスの領事とアメリカの承認に対して文句をいうが、全く悪びれない欧米勢に少しずつテンションが高まっていくウォン・フェイフォン。

シーンは変わり、今回の物語の中心的な人物で、後にウォン・フェイフォンの一番弟子になるフーが登場。
当時は、ウォン・フェイフォンとも出会っておらず、武術家になりたいという思いがありつつも、劇場の雑用係として働いていたが、その劇場に、ヤクザが『みかじめ料』を求めてやってくる。
劇場の代表は、『なんとかしてくれ』とフーに押し付けて退散。 多勢に無勢という事で取り敢えずフーが逃げるが、逃すまいと追いかけるヤクザ。
その騒動で偶然にもウォン・フェイフォンの弟子と出会い、弟子と民兵ががフー側に加勢する形で、大騒動になっていく。

その戦いは場所を移しながら長時間続き、最終的には、ウォン・フェイフォンが直談判にいった領事館になだれ込む形となり、領事館で大立ち回りが始まってしまう。
これに対して大激怒する領事館とアメリカ商人。 全ての責任は、ウォン・フェイフォンにあると中国政府に抗議。ウォンと弟子たちは犯罪者となり、道場は監視対象となってしまう。

その一方で、フーと揉めて領事館まで雪崩込んだヤクザの方はお咎め無しで、一般の食堂などに押しかけて恐喝をして金を奪うなどして、普通に面白おかしく暮らしているが、偶然にも、現在進行系で恐喝をやっていたところにウォン・フェイフォンが登場し、ヤクザを1人で懲らしめる。
ウォンは警察に付き出そうと周りにいた人達に証人を頼むが、みんな、『仕返しが怖いから…』と言った感じで、誰も証人になってくれない。
善人が悪人に食い物にされている状態になっているのに、自分には自体を根本的に解決する力がない事に苛立ちを覚えていると、一人の宣教師がキリスト教の勧誘に来るが、ウォンはその宣教師に対し『神は、事件の証人になってくれるのか?』と問い、何も答えられない宣教師をおいて現場を後にする。

その後、ウォン・フェイフォンの行動に逆恨みしたヤクザは、警察の監視対象になっているウォンの家を襲撃。 監視している警官を殺して火矢で道場を焼き払う。
ウォンは完全に被害者だが、警察から目をつけられているウォンは、監視から逃れる為に騒ぎを起こしたのではないかと疑われる事になる。 しかし、先程の宣教師が事件の一部始終を目撃しており、それを警察に証言する証人になリ、ウォンは投獄を免れることになる。

しかし、まだまだ仕返しが足りないヤクザは、ウォン・フェイフォンと揉めたアメリカ証人のところに行き、協力を取り付ける。
取引内容は、自分たちが奴隷ように中国人の女を捕まえてきてやるから、そのかわり、ウォン・フェイフォンが邪魔してきたら殺してくれというもの。
ヤクザは、アメリカという強力な後ろ盾を得て、女の拉致に精を出し、ウォン・フェイフォンが好きな女性も拉致られることになる。

事態を知ったウォン・フェイフォンは、ヤクザの元へ殴り込みに行き、最終決戦。

現代へつながる問題が てんこ盛り

この作品ですが、中国の一時代を切り取った作品になっているのですが、現代につながる問題がかなり含まれていて、観終わった後に色々と考えさせられる作品です。
例えば政治問題でいえば、右寄りの思想の方がよく、『中国が攻めてくるから、その為の準備として武装しとかないと!』なんていってます。
確かに、中国はかなりの軍事費用をかけて武装しているようですが、その背景に有るのは、『何もしていないのに欧米・日本から蹂躙されて、領土を含めた様々なものを奪われたから』という過去があったからという事が分かります。

考えてもみてください。 外国から禁止薬物を持ち込んで、国中を麻薬付にしている商人がいたから、法律に則って取り締まったら、それを理由に宣戦布告されて攻め込まれるといった感じの経験を、1度ではなく何度も経験したら、自国民を守るために用心深くなるのもうなずけます。
中国は、Twitterfacebookgoogleなどを信用せずに、独自で似たようなサービスを作っているというのも、欧米・日本のサービスに頼りっきりになると、いつ裏切られてサービスを打ち切られるかも分かりませんし、その混乱に乗じて攻め込まれるかも分からない。それなら、出来るだけ独自の技術で行おうとした結果なのでしょう。
その中国の動きを見て、欧米・日本はどの様な態度をとっているのかというと『中国は信用できない。』といった態度を取っていますし、何なら、『攻め込まれる前に先制攻撃しよう!』なんて意見が囁かれる状況になってたりする。 中国側から見れば、『また、無理やり理由を探して攻め込んでくるんだろ?』って感じなのかもしれません。

歴史を振り返ると、モンゴルが覇権を握っていた時期を除けば、欧米・日本は、中国に攻め込んだことは有っても、攻め込まれた事は無いわけです。
にも関わらず、日本国内から防衛手段を構築しているだけで『あいつら武装してるから先制攻撃しても良いよね』なんて意見がわずかでも出てきている状況では、中国は頑なにならざるをえないでしょう。

その他には、従軍慰安婦問題などもありますね。 日本の従軍慰安婦問題は韓国との間の問題ですが、この映画に登場する女性の性奴隷も同じ様な構図となっています。
最初は、中国のヤクザが『女の奴隷を用意するから、それを売れば良い』と持ちかけますが、アメリカ側は、これを拒否します。拒否する理由は道徳的な問題ではなく、単純に、『子供が出来て居座られると困るから。 奴隷は、用がなくなったらさっさと国外から追放したい』という身勝手なものです。
しかしヤクザ側が、『女房を世話するわけじゃない。 性奴隷として扱って、要らなくなったらどうとでもすれば良い。』という話を聞き、ヤクザ側の提案を受け入れます。

実際問題として女性を拉致監禁して外国に売っているのはヤクザですが、何故、ヤクザの商売が成り立っているのかというと、買ってる人間がいるからです。
買う人間がいるから需要が生まれて供給体制が整ってしまう。ヤクザは人を攫って売るという商売が成り立つわけで、アメリカ側が徹底して性奴隷の購入を受け付けなければ、この様な悲劇は怒らなかったんですよね。
日本の従軍慰安婦問題も同じで、実際に女性を集めた人間が日本軍か地元の人間かはどうでもよく、最大の問題は、騙されたり拉致された女性を商品として購入したという事実なんですよね。

話を戻すと、アメリカ側は非合法な手段で集められた人間を悪びれずに購入していたわけですが、それをすんなり受け入れていたのは、自身も、中国人奴隷を非合法な手段で集めていたからです。
この映画の中では、中国人奴隷の集め方が簡単に紹介されているのですが、その方法は、『アメリカはゴールドラッシュで、歩けば金塊につまづいて転んでしまう程に金が有る。 渡航費用さえ渡せば、アメリカで金を掘り放題だぞ!』といって、人を集めます。
当然ですが、アメリカに金がゴロゴロしているはずもなく、渡航費用を持参で契約に来た労働者は、その後、アメリカに奴隷として売られます。 アメリカ側は、奴隷として売る予定の人間から渡航費用を取って、更に、奴隷を販売して売上を得るということを行っていたわけです。
アメリカ側が最初、『中国人女性の奴隷はいらない』といったのは奴隷を使い捨てる為で、女性が来て現地で子供を作られて繁殖されたら困るからという理由だったわけです。

この話は、『昔は酷かったね。』で済まされる問題ではありません。 今現在の日本は、外国人実習生という名で低賃金で肉体労働をさせる奴隷のような制度を取ってますし、『いつかれたら困るから』という理由で家族の同伴を認めていませんし、期限も限定していたりします。
『労働力は欲しいけど、社会保障はしたくないので、使い捨てにしたい。』という考えが透けて見える様ですが、この考え方というのは、この映画に出てきた奴隷売買を行っているアメリカ人商人と同じなんですよね。

主人公のウォン・フェイフォンは、一連の騒動が収まった後に中国の現状を客観的に見て、この様なセリフをつぶやきます。
『彼らは、アメリカは黄金で溢れているというが、では何故、彼らは中国に押し寄せてくるのだろう?  この国そのものが、彼らにとっての黄金なのかもしれない。』

このセリフは、現代の様々な出来事の問題点を完結に表しています。
国同士の問題も当然そうですが、個人レベルまで落とし込んだとしても同じでしょう。

例えば、情報商材詐欺や高額なセミナー、サロンを開いて金を集めている人たちがいますが、彼らは何故、何の思い入れもない他人に対して金儲けの方法を伝授しようと思ったのでしょうか。
多くの人を幸せにしたいと思うのであれば、情報を無料で共有すればよいわけですが、そのような事はせずに、金を貢いだ人間にだけ、その方法を教える。
金を稼ぐために金を貢がなければならないというのは、普通に考えればおかしな話ですが、それでも貢ぐ人がいるのは、貢いだ以上のリターンが有ると思うから貢ぐのでしょう。

しかし実際には、その情報をフル活用したとしても、貢いだ金を回収することは不可能です。 当然といえば当然で、情報商材を販売して儲けている人の収入というのは、有りもしない金の稼ぎ方を知る為に群がってくる信者からの貢物が全て。
本当に、情報商材にのっている方法で荒稼ぎできるのであれば、わざわざ、その情報を他人に教えてお金を稼ぐ必要もなく、その方法を独占すれば良いだけです。

アメリカのゴールドラッシュも同じで、本当に儲かると思うのであれば、自分たちで土地を買って採掘すれば良いわけですが、実際にはそれほど割の良いものではない。
ゴールドラッシュで一番稼いだのは、金を採掘したものではなく『つるはし』を販売した者だ…なんていわれていたりもしますが、それに付け加えて肉体労働をする奴隷もつければ、更に大儲けできそうですよね。
アメリカ人が、わざわざ中国にまで来て人をかき集めていたというのは、中国人である彼らこそが大金を生む金塊であって、アメリカに眠る、掘り当てられるかどうかもわからない金なんてどうでも良かったんでしょう。


この様な感じで、この作品は様々なことを教えてくれる作品だったりします。 20年以上前の作品ですが、中国が経済大国として台頭してきた今だからこそ、観ておきたい作品だと思います。