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【映画 ネタバレ感想】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』 今だからこそ知りたい中国の歴史

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この間、映画系のネットラジオにゲスト出演する事になりました。
wataradi.seesaa.net

今回は、その際に取り扱った1992年に公開された映画、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』のネタバレ感想を書いていきます。

当時の時代背景

この映画ですが、清朝末期が舞台になっていて、その当時の時代背景を知っているかどうかによって、面白さが随分と変わってしまうので、まずは、時代背景の説明を簡単にしていこうと思います。
先程も書きましたが、清朝末期で、ラストエンペラーとして有名な最後の皇帝が即位する数年前の話となります。


今当時の中国は、アヘン戦争を始めとして、何も悪いことをしていないにも関わらず、欧米や日本から、一方的に攻め込まれて領土や資源を奪われるという状態に置かれてしました。
例えばアヘン戦争では、イギリスが中国が輸出するお茶の金額が凄い事になり、その赤字を補填するために、中国に向けてアヘンを密輸するという方法で、帳尻を合わし、中国政府がそれに対して没収などのアクションを起こすと、逆ギレして攻め込んで、香港を奪い取るとかですね。

これを筆頭に、フランスや日本も攻め込んでいって、中国は最終的に8カ国からいい様に弄ばれることになります。
欧米が持ち込んだ、工場の自動化技術や鉄道によって、中国の失業者は増えて暮らしは悪くなる一方。 しかし、政府が補填してくれるわけでもない。
こういった状況に長く置かれると、中国国民は外国に対して悪い印象を持つことになり、また、救いの手を差し伸べてくれる宗教団体を頼るようになります。

支持を集めた宗教団体は、民衆からの支持を、より確固たるものにする為に、外国の施設に攻め込むなどのテロ行為をするようになります。
この映画は、そんな時代が舞台になっています。

ウォン・フェイフォン

主演のリー・リンチェイが演じる主人公のウォン・フェイフォンは、中国に実在した有名な人物です。
武術の達人で、あまりの蹴り技の鋭さから、付いたアダ名が『無影脚』。 本業は医者で、活かすことも殺すことも出来る完璧超人だったりします。

ちなみにですが、酔拳2でジャッキー・チェンが演じているのも、このウォン・フェイフォンです。
シリーズ6作品。 外伝として8作品。 中国ではTVシリーズも存在していたようで、今でいう、アメコミ映画のような立ち位置として扱われていたのかもしれませんね。
中国の方にとっては、ウォン・フェイフォンという方は、それ程までに影響力があるということなんでしょうかね。

白蓮教

この映画の冒頭部分は、白蓮教の儀式から始まります。
火の上を歩くとか、剣で切りつけても銃撃でも傷つかかない、最強の戦士が、白蓮教を信仰することで生み出されるというパフォーマンスが行われ、信者たちは、それを夢中になって見届けます。
ここに参加している信者の多くが、欧米や日本の中国進出によって職を奪われた貧困層という事を考えると、このパフォーマンスに騙されるのも、頷けるような気がします。

白蓮教は、支持を確固たるものにする為に、貧困層を苦しめている海外を象徴するような商品などを焼いて、信者たちを高揚させます。
映像を通して観ていると、誰にでも見破れるようなインチキ儀式ですが、貧困層の彼らにとっては、白蓮教ぐらいしか手を差し伸べてくれる組織がないという、悲しい環境が、伝わってくるようでした。

中華に雪崩込んでくる欧米文化

シーンが変わり、ウォン・フェイフォンが登場。医学学会で公演する為に、初めての電車に乗って遠征です。
電車の中には、ブルジョア階級と思われる外国人が多数で、ウォン・フェイフォンと弟子のフーは、完全にアウェイの状態。
初めての経験で、分からないことだらけだけれども、師匠が弟子の前で恥ずかしい振る舞いは出来ないという事で、ウォン・フェイフォンは余裕のあるフリをするわけですが、この辺りの演出がかなり可愛い。

はじめての欧米式のコース料理で、食べ方がわからないけれども、格好をつけなきゃ駄目だと一生懸命頑張るけれども、色々粗相をしてしまう師匠。
その行動が、間違ってるのかどうかも分からず、師匠の真似をする弟子のフー。それを、温かい目で見守る、ヨーロッパ帰りの叔母さんイー。
ほのぼのとした雰囲気の映像ですが、当時の中国人が、どの程度、欧米文化の事を知っていたのかというのが分かるシーンで、興味深いですね。

白蓮教との初接触

最寄り駅に着き、宿に向かう途中で、ウォン一行は電信所の破壊活動に向かう白蓮教に接触します。
白蓮教徒の目的は、外国由来のものや外国人そのものの排除なので、中国人のウォン達には関係がないのですが…
能天気な帰国子女の叔母さんが、洋服を着た状態で、白蓮教徒たちを写真で撮ろうとフラッシュを焚きます。

当時のフラッシュは、マグネシウムを燃やしていたんでしょう。その猛烈な光で叔母さんに気がついた白蓮教徒は、矛先を叔母さんの方に向け、それをウォン達が守ろうとして、戦闘が始まります。
周りの観客達は、外国組織と戦う白蓮教徒を好意的に観ているのですが、助けに入った人物が英雄のウォン・フェイフォンだと知り、ウォン達を応援。
英雄のウォンが無双して勝つわけですが、最後っ屁のように放った眠り薬が叔母さんに命中し、叔母さんが一時的に寝たきりになります。

孫文との出会い

本来、通訳してくれるはずの叔母さんが眠り薬で眠ってしまったので、仕方なく、フーと2人で学会に行くウォン。西洋医学の学会なので全て英語で進行し、全く意味がわかな無い2人がかなり可愛い。
自分の名前を呼ばれても気が付かず、3回程呼ばれて初めて気が付き、壇上に上がって経絡秘孔の図的なものを出して説明するが、誰も中国語がわからずにザワザワしだす会場。 そこへ、地震もい者として出席していた孫文が、通訳を申しです。
この孫文は、興中会という革命組織を作り、後に、民主革命を起こして中華民国の初の臨時大統領になる男だったりする。 そして、その革命でウォンの弟子たちが活躍したことで、師匠のウォンが更に有名になったという話もあるらしい。 ある意味、歴史的な出会いともいえますね。

孫文の助けによって、公演は大成功し、東洋医学が欧米に認められたのだけれど、その直後に、白蓮教に襲撃されて医師の多くは死んでしまう。
先程の仕返しかと思い、叔母のイーさんを心配して、急いで宿に戻ると、叔母さんは無事で着替えの最中。 この辺りの、シリアスとコメディーのバランスが、丁度良い感じで好きです。

提督

シーンが変わり、本作品のラスボスである提督にカメラが向けられます。
あちこちでテロ活動を行う白蓮教の対処に迫られている提督ですが、その最中に、革命の動きがある事が、香港からの通信によって分かります。首謀者は孫文で、支援者はトンという人物。
早速、上司である総督に知らせに行くが、総督は、あちこちで起こる問題の対処で人手が足りないとして、放置を決め込む。『いざとなったら、イギリスが助けてくれるよ。』とかいう、頭がお花畑の状態。
埒が明かないので、提督が自体を鎮圧させようと、自らの支持で部下を動かす。この辺りでは、提督に少し同情。 上司が無能だと、部下は大変だなという印象でした。

その後、学会から帰ったウォン一行が、白蓮教に外国語学校が襲われていることを耳にし、生徒の子供達を保護しに行く。
無事に助け出し、安全な場所で子供達の保護を頼もうとウォンが単独で、提督の元を訪れるが… 提督は丁度、武術の特訓中。ウォン・フェイフォンという高名な武術家の名前を聴いて、いきなり襲いかかる。
ドニー・イェン vs リー・リンチェイ の一戦目。 エグい体術を持つ者同士で、かなり凄いアクションを魅せてくれます。 特に、ドニー・イェンの布を棒のように変化させる技は、これだけのためにお金払っても良いんじゃないかと思えるほど凄い。

クライマックス

人手不足を理由に子供の保護を拒否されたウォンは、子供達を隠していた場所に戻るが、子どもたちが居ない。 必死に探すと弟子のフーが現れて、『子供を領事館に保護してもらっている』と伝えて、一緒に領事館へ。
だが、フーとウォンは領事館の入口で門前払いされる。 英語がしゃべれない2人が為す術ない状態で門番と揉めていると、そこに、孫文の支援者のトンが現れて、通訳してくれて領事館の中へ。
そこへ、タイミングよく攻めてくる白蓮教。 火矢を放ってくるのに対し、バリケードで対抗して時間を稼いでいると、提督が現れて、白蓮教を追っ払ってくれて、『自体把握の為に中に入れろ!』という。
目的は、革命を企てている孫文一味の確保。 孫文は、白蓮教の襲撃の混乱で一足先に領事館を出ていたが、トンは居残っていた為に、提督に発見される。

英国領事館にトンがいた事で、提督はイギリスと興中会のつながりを疑い、法も無視してなりふり構わずに孫文たちを捕まえようとする。
そして、クライマックス。 リー・リンチェイ扮するウォン・フェイフォンと、ドニー・イェン扮する提督との2戦目。今度は、本当の殺し合い。
先程の戦いでは封印していた、『布』を凶器に変える技を駆使して、ウォン・フェイフォンを追い詰める提督、だが、最後の最後で、ウォンの渾身の反撃に倒れる。

観終えた感想

この映画は、なんの予備知識もない状態で観たとしても、コミカルな部分と本気のアクションが楽しめる良い作品だとは思うのですが…
本当の意味で楽しもうと思うと、当時の中国の歴史を、大まかな流れだけでも知っていた方が、良いと思う作品でした。
何も知らない状態で見ると、何故、テロを起こす白蓮教に信者が集まるのかというのも理解できないですし、提督の動きも理解できない。

しかし、アヘン戦争から始まった中国の状態を知っていると、提督は提督で、ホンキで中国のことを考えた上で動いていたんだなという事がわかり、色々と考えさせられるんですよね。
この作品を見ても分かりますが、欧米人は全て、ブルジョア階級の金持ちで、高価な衣装を身につける一方で、登場する有国人は皆、みすぼらしい格好しか出来ない。
これは単純に、欧米人が中国人から搾取したことによって、貧富の差が広がった結果なんですよね。

では、政府が対策を打てるのかといえば、そんな事も出来ない。 映画の中では、下関条約によって、日本に台湾が取られたことに対するデモ行進などが行われていましたが、当時の政府は、難癖つけられて一方的に攻め込んできた相手に対して、領土を割譲することしか出来なかった。
難癖をつけられれば付けられる程、領土はどんどん縮小していき、植民地となった土地の同士は、貧困層へと追いやられていく…
この様な現状では、提督が市民に向かって『外交は私達に任せて欲しい!』と訴えたところで、『外交とは、領土を割譲することか?』と言われて終わり。
提督は、自分たちの国を守るためには、法を無視するしか無かったのかもしれません。

広大な領土と資源を持っているために、他国から難癖をつけられては領土をかすめ取られていく中国。
領土が減っていく一方で、町にはどんどんと外国人が流入し、自分たちの居場所が更に奪われていくわけですが、その変わりにといってはなんですが、西洋由来の最新技術が流入してきて、劇的に生活が変わってゆく。
最新技術のおかげで、暮らしが便利になる一方で、その最新技術によって、職人の技術が機械に置き換わり、失業者が増えてゆく…
一概に、何が良くて悪いのかということは言えませんが、良くも悪くも劇的に環境が変わってゆく中国。

結構、暗くて重いテーマなんですが、先程からも書いている通り、コメディー要素を加えて、かなり見やすい状態にして作られています。
当時の風景や雰囲気が再現されていますので、歴史的な資料としても見れるんじゃないかなと思わせてくれる作品なので、興味があれば、是非、観てみては如何でしょうか。