だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

大ヒットした作品は良作なのだろうか

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少し前に公開されたアニメ映画『君の名は』ですが、ここ最近ではかなりのヒット。
邦画の歴代ランキング上位に食い込む状態になりましたが、その一方で、この作品に対して有名な方々が批判的な意見をいう、なんて事も結構出てきていますね。
私もこの映画を劇場に観に行ったのですが、正直にいうと、周りの雰囲気についていけない側だったりするので、批判的な方の意見もよく理解できたりします。
この事をキッカケに、世間で持ち上げられているものは本当に優れているのかについて考えたので、今回はこの事について書いていきます。

結論から書くと、必ずしもそうとはいえない。

なぜ?多くの人が認めたからヒットしたんだから、優れているんじゃないの?と思われる方も多いと思います。
その理由を簡単に書くと、大ヒットする為に最も必要な事は、優れていることではなく『誰にでも理解できたと思えること』だからです。

芸術にしても娯楽にしても、あらゆるものは理解する為に前提知識が必要とされます。
例えば美術館に飾ってある絵画等も、これまでの美術の歴史や、書かれた時代そのものの歴史。生活習慣・信仰といったものを理解していなければ、そもそも正しく理解することが出来ません。
この前提知識がない場合、絵画の単純なビジュアルのみでしか評価できません。
また美術館の場合は、美術的に優れているものだけを飾っているわけではなく、美術としては優れていないが歴史的な価値が有るものも、同時に飾られています。
館内では至る所に説明文が書かれていて、企画展等では入口部分で音声説明の為の機器が配られていたりもしますが、これもそれなりの前提知識がないと理解できないレベルのものだったりします。

では、これらの前提知識を皆が持っているのかといえば、そうではありませんよね。
美術関連の書籍なんて、学校に通っていた時に教科書で読んだだけって人も、かなりの割合でいらっしゃるでしょう。
興味があって、本を2~3冊ぐらい読んで、たまにネットで検索するといった、私レベルの人も多いと思います。
その一方で、美術のことが大好きで、美術関連の事を調べる事がライフワークになっている人もいるでしょう。

人数の割合としては、美術に興味がない、もしくは、ほぼ知らないといった人が一番多く、次に、興味があってたまに調べるけど、詳しくはない人。
そして一番少ない割合が、美術に対して非常に詳しい人になるのではないでしょうか。

これを踏まえて、もう一度、多くの人に受けいられれる為に必要な前提条件を見直してみましょう。
『誰にでも理解できること』
つまり人から受け入れられる為には、その分野の知識が殆ど無い人にも認められる必要があるわけで、そういったものの多くは、見栄えは良いが底が浅いものが多く、優れてはいない事が多い。

もっと身近な例として、音楽で考えてみましょう。
音楽は発売される時期にもよりますが、オリコン上位を維持しているのは、EXILE・ジャニーズ・AKB48関連のグループなどが常連だったりします。
これらに関連する人達は確かにテレビでも良く見ますし、影響力も大きいと思います。ファンも実際に多いのでしょう。
しかし、日本の音楽の代表がこの方達で、音楽的に一番優れているかと問われれば、少し違う気がしないでしょうか。

ゲームでもそう。コンシューマーのハイエンド機であるPS4やxbox、これらを上回るスペックのPCなどでは、今でも数多くのゲームがリリースされています。
大型タイトルともなれば、制作費に百億を超える予算が注ぎ込まれ、数年かけて開発されることも珍しくはありません。
映画並の規模の開発費が投じられている為、クオリティーもかなり高く、内容的にも単純に楽しいだけでなく、考えさせられるものが多く有ります。
操作感やバランス調整などもかなり考えられており、リリース後もユーザーの反応を見つつアップデートを重ねると行った対策までされています。

しかし、実際に日本で売れているゲームはなにかといえば、パズドラやモンスト、ポケモンGO等のソーシャルゲームアプリだったりします。
先程挙げた3つのタイトルがどれ程の予算と人員で作られたのかは分かりませんが、一般的なソーシャルゲームの開発環境を調べた所、大まかな経費が書かれているページを発見しました。
anond.hatelabo.jp
それによると、開発費は小規模で100~400万円。中規模で300~1000万円。大規模で1000~8000万円と、1億にも満たない金額。
開発人員は多くて10人で、少ないと2人。開発期間に至っては、最大でも4ヶ月程度。

人員や予算額が大きければ自動的に面白い作品が作れるかといえば、そんな事はないでしょう。ですが、余りに差が大きすぎる。
私が実際にプレイした感想も、大きく差を開けてハイエンド機の大型タイトルの方が優れていると言わざるを得ません。
というか、同じゲームという枠組みとして語って欲しくないとすら思う程です。
しかし、実際のプレイ人数という点で見ればスマホゲーの方が圧倒的に多く、大ヒットしているのはスマホゲーという事になります。

冒頭部分で話題に出した映画も同じでしょう。私は年間に10回ぐらいしか映画館に行かないような人間ですが、実はこれでも多い方で少数派のようです。
togetter.com
映画館への平均訪問回数は1.3回。これは月に何度も見に行く人も含めた数字で、実際には7割近くの人が年に1度も映画館に行っていない状態。
1回1800円の映画代が高いから映画館に行かず、レンタルで済ませているのかといえば、そうでもないでしょう。
多くの人はレンタルでも観ない。何もすることがなくて家にいる状態で、テレビを観ていると映画が始まったので観るという人が一番多いのでしょう。
この様な状態の中で大ヒットを実現しようと思うと、普段映画を観に行っていない人をターゲットにする必要があります。

もっといえば、大ヒットを狙うのであれば、絶対的な人数が少ないコアな映画ファン層ではなく、人口比率が一番多い映画館に行かない人に向けて作る必要があるということ。

これまで挙げてきた例と同じく、映画というのも多くのタイトルを見ていないと解らない様なネタが多く存在します。
また映画に限った事ではないですが、優れた作品を作る監督は優れた多くの作品を自身で観たり体験したりしていて、自身の映画内でそれらの展開を自分なりに解釈すると行ったことも行われています。
つまり本当に理解する為には、映画だけでなく最新のゲームもプレイしていなければならないし、漫画や音楽、小説などについても知らなければならないのですが、コンテンツを理解する為にこんな事をしている人が少ない。
正直、映画なんてお金を払って2時間座っていれば消費できるわけで、コンテンツを消費するという点に置いては、かなりハードルが低いもの。その消費すら行っていない人が日本で8500万人。
こんな状態で、更に映画よりも消費するのに労力がいる小説やゲーム、漫画・アニメなんてものを追いかけている人なんて、極少数派です。

そんな少数派に向けて作るより、前提となる知識が無くとも何となく楽しめる様な、ビジュアルや出演者に極振りした様な映画の方が食いつきも良くて客も呼びやすい。

ネットニュースで、電通社員の『TVCMは偏差値40の人にも理解できないとダメ。世間にはおそるべき量のバカがいて、それが日本の「普通の人」』という書き込みが炎上したようですが、実際には、こういう事なんでしょう。

【悲報】電通女子社員「CMは偏差値40の人にも理解できるように作ってます。世の中には恐るべきバカが沢山いる」 | やらおん!

試しに、自分の周りの人に『最近映画見た?本読んだ?おすすめ漫画は?ゲームした?』なんて事を聴いてみてください。意外に多くの人が、何もしてなかったりします。
こんな個人ブログの個人的な主張にまで目を通して情報を集めている読者さん達は、正直少数派。
テレビの経済ニュースなんかでも、テレ東や日経CNBCなどで放送している番組を見ているのは少数派で、実際に多く見られているのは、池上彰さんが解説する温めたミルクの上に張る膜の様に薄い表層的な話題を取り扱った番組だったりします。

こうして考えると、多くの人に認められる事と良作であるという事は別の話だということがわかります。
両者は完全に相反するものでもないので、勿論、良作でありながら大ヒットする作品も中には有るでしょう。
しかし、大ヒットする作品の多くは、見栄えが良くて何となく気持ち良くさせてくれる雰囲気の作品ってだけ。こんな作品が毎年大量に作られて、その内の幾つかがバズって大ヒットというのが流れ。

もう一度結論を書くと、大ヒットしたからといって、良作とは限らないという事でしょう。