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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

トランプ氏の指摘通り 日本は為替操作国なのだろうか

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先日トランプ氏が、『日本と中国は為替操作国だ!』って感じのことを発言したようですね。
トランプ氏の様々な言動には同意できない部分も多いですが、今回の『日本は為替操作国』という点については、個人的には『そう思われても仕方がないよね。』と思ってしまいます。
という事で今回は、日本は為替操作国なのかについて考えていきます。

この話を理解するために、先ず知っておくことは、貿易と通貨の関係です。
貿易や通貨は、本当に正しく理解をしようと思うともの凄い細かいところまで勉強する必要が有るので、今回は全体的なイメージを掴むため、簡単に表層的な部分についてだけ書いていきます。

貿易というのは、通貨とモノ・サービスの交換のことです。
例えばA国とB国が、それぞれ100の通貨を発行していると仮定します。A国・B国が発行する通貨は、それぞれ別の通貨とします。
1年間でA国は、B国に対して70通貨分のものを輸出して、50通過分のものを輸入した場合、A国は差し引き20通貨分の輸出超過となり、この20通貨分が貿易黒字になります。
逆にB国は、20通貨分の貿易赤字となります。

1年経過後のお互いの通貨の状態は、A国が120通貨を所有しているのに対し、B国は80の通貨しか保有できていない状態になる。
翌年も、そのまた翌年も同じような取引をした場合、B国の通貨は毎年20通貨分減少していき、単純計算で5年で底が尽きてしまいます。
では実際の経済の場合も5年でB国の通貨はゼロになるのかというと、実はそうでも無い。
というのも、A国の通貨とB国の通貨が違う場合、両者はそれぞれの価値が変化します。

A国の輸出業者からすれば、輸出品と交換でB国の通貨を貰ったとしても、B国が破綻してしまえば、B国の通貨は使えなくなってしまうかもしれない。
また輸出品を作るためにA国の従業員を雇ったりA国の業者から仕入れを行っているのであれば、人件費等の支払いはA国の通貨で支払わなければならない為、B国通貨をA国通貨に交換しなければならない。
どちらの場合も結果として起こるのは、B国通貨を売ってA国通貨を買うという為替取引が起こります。

通貨に限らず、不動産・株式・債権等どんな市場でも、価格は需要と供給で決まります。
A国通貨が欲しいという人(需要)が増えるが、A国通貨を売りたい人(供給)が増え無い状態だと、A国通貨の価値は上昇しやすくなる。
逆に、B国通貨を売りたい人(供給)が増えて、B国通貨を欲しいという人(需要)が現れない状態では、B国通貨は下落しやすくなる。
結果として起こるのは、B国通貨が下落するのに対してA国通貨が高騰する現象です。

しかしここで面白いのが、『市場』というシステム。
A国通貨が上昇してB国通貨が下落すると、B国の人からするとA国製品は値上げされているのと同じになる為、買い辛くなる。
例えば、元々は1:1の交換比率だったものが、A国通貨が値上がりし、『これからは1A国通貨に対して2B国通貨払ってもらわないと交換できないよ。』という1:2の交換比率になったとする。
そうすると、B国通貨の人に取ってみるとA国の商品は2倍に値上がりすることになるので、コスパが悪くなる。
逆に、A国通貨の人から見るとB国の商品は半額に値下げされたのと同じなので、少々品質が悪くても買おうというインセンティブが働く。
また企業からすると、A国で人を雇うよりもB国で人を雇ったほうが人件費を半分に節約できる為、設備投資をB国で行いやすくなる。

結果、B国の輸出は伸びるので、貿易赤字の関係が逆転する。
このような流れを『神の見えざる手』なんて呼んだりして、これを盲信している人が『人が手を加えずに市場に全てを任せよう!』なんて主張したりします。
『神の見えざる手』が万能かどうかは今回は置いていて、本題に戻りましょう。

先程の例の場合は、A・B国共に、通貨は最初に発行した100通貨ずつしか持っていないという設定でした。
しかし、最初に貿易黒字を出していたA国が、通貨を新たに発行し続けたらどうでしょう。
先ほど説明した通り、貿易黒字を出すと、回り回って黒字国の通貨の需要が高まり、市場で供給量を上回る状態が続く為、結果として黒自国は通貨高になりやすいわけですが、A国が印刷機を回して紙とインクが原材料のお札を供給しまくったとしたら?
当然、通貨高は需要と供給で決まるため、供給が増えて需要と釣り合いがとれてしまえば、価格変動はなくなる。
供給量が更に増えれば、価格が下がるという現象が起こります。

この、『紙とインクでお札を供給している』のが、今の日本です。
日本の中央銀行である日銀は、年間80兆円レベルで日本国債を購入しています。
日本国債というのは、簡単に表現すると政府の借金。国が、手持ちのお金が無いけど金を使いたい場合、国債という名の借用書を印刷して販売することで、使いたいお金を手に入れ事が出来る代物。

日銀は、その借用書である国債保有高を年間80兆円ペースで増やしていく政策をとっている。
では、国債を買う財源はどこからくるのかというと、紙とインクでお金を刷っている。
つまり今の日本が行っていることは、政府が紙とインクで借用書を刷って、その子会社の日銀がが紙とインクで刷ったお金で購入している。
それで金を得た政府が、日本円をバラ撒いている状態。

物凄く簡単にいえば、紙とインクを使って国がお金を毎年80兆円分刷ってバラ撒いてるってことです。
問題は、そんな事をして市場に影響を与えないのかということ。

通貨というのは、先ほど説明した需給関係以外にも、別の要因で価値が上下します。その別の要因は何かというと『信用』です。
『信用が高い』通貨は高い価値を保てますし、『信用が無い』通貨に価値はない。

通貨を発行している日本が、毎年80兆円分の信用力を何かしらの方法で得ているのであれば、通貨の信用力は保たれるでしょう。
しかし、特に信用力を高めていないのであれば、水増しされた通貨はその分だけ価値を下げてしまいます。
現在の日本の場合はどうなのかというと、特に信用力を高めることなく、数値目標で通貨を供給し続けているだけす。

何故こんな政策を行っているのかというと、単純に『円安にしてインフレにする為』です。
単純な話で書くと、今までアメリカから1ドル(100円)で仕入れていたものが、2倍の円安になれば、同じ商品が200円と2倍の価格に跳ね上がります。
日本は資源の多くを輸入している為、円安に誘導する事で輸入品の価格を引き上げることが出来、結果的に物価を上げることが可能です。
日銀は年率2%のインフレ目標を掲げていますが、これを達成するのに一番簡単な方法は、毎年2%ずつ通貨を下落させれば良い。
この毎年80兆円ずつ通貨を増やすという量的金融緩和により、信用不安による通貨の価値の希薄化。つまりは、水増しと、需給関係の両方の面から通貨安に誘導することが出来る。

こんなことを何年にもわたって行い続けているわけですから、『日本は為替操作国だ!』と言われても仕方のないことなんですよね。
確かにトランプ氏は、問題のある行動や発言を行う人物かもしれませんが、だからといって、全ての発言が間違っていると決めつけると、何も見えなくなるような気がします。