だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

インフレに出来ない日銀

広告

数年前に黒田日銀総裁に変わり、『インフレ率を2年で2%!』を掲げた日銀ですが、それから2年以上経過したのにもかかわらず、全くといって良い程、日本のインフレ率は2%に上がっていません。
そもそも、物の溢れている供給過多の状態ではインフレは起こりにくいということが大前提としてあるわけですが、それとは別に、日本独自にインフレには出来ない要因がある様に思えます。

その理由とは、『インフレになると日本が破綻する』
この様な少々極端なことを書くと、終末論者とか反日とかDisれられそうですが、前回に紹介したマネーショートを観ると、どうしてもそんな不安がよぎってしまうんです。
http://kimniy8.hatenablog.com/entry/2017/01/24/121710
http://kimniy8.hatenablog.com/entry/2017/01/27/124514

マネーショートといえば、不動産バブルの崩壊によって全世界が経済危機に巻き込まれた『サブプライム問題』『リーマンショック』を解説した映画なのですが、その映画の中で銀行家がとっている行動が、今の日本の銀行がとっている行動と変わらないんですよね。
日本はリーマンショック以前にも、バブル景気とその崩壊を体験しているわけですが、また似たような行動をとっているところに、非常に不安を覚えるんです。
似ているといっても、その前提条件は若干異なるんですけどね。
アメリカのサブプライム問題が生まれる根底に有ったのは、不動産価格が下がらないという不動産神話。その一方で、日本の現状の問題の根底にあるのは、『低金利が将来にわたってずっと続く』という予測ですが。
根本的な原因こそ違えど、起こる結果は似たようになると思われるので、少し不安なんですよね。

具体的な例で見てみましょう。
今日本中で巻き起こっている、マンション・アパートの建築ラッシュ。
私の住む地域は、京都の中でも中心地からは少し外れ、比較的落ち着いた感じの地域。閑静な高級住宅街というわけでもなく、土地価格も比較的安くて安定していた地域でした。
しかしここ1~2年で、物凄い数のマンションが乱立し始めました。
徒歩5分圏内だけでも6棟のマンションが建ち、建設予定の空き地がまだ控えている状態。
はっきり言って、異常。

私の知り合いが銀行の融資部門に配属されたそうなのですが、どう考えても供給過剰の地域に、まだ『マンションを建てたい!』と融資の客が頻繁に訪れる程。
配属されたばかりで良心的であった私の知り合いは、その地域がいかに供給過剰かということを親切丁寧に説明したようですが、客はそれでも『建てたい!』と訴えかけてくるようです。

不動産業者に聴いた話によると私の知り合いの様な人間は稀で、大抵は、不動産業者と銀行の融資部門はズブズブの関係で、そんな助言は一切せず、何なら、土地を持ってる顧客には営業をかける事もあるそうです。
当然審査も結構ゆるい。CMなどを見ても、『土地がなくてもアパート経営できます』なんてものが頻繁に流れています。

何故こんな状況になっているのかというと、日銀が採用している低金利政策が原因です。
需要喚起の為にゼロ金利政策を行い、日銀当座預金の利息も新規分はマイナス金利適応までしたことで、その思惑通りに不動産市場で需要は喚起されて建築ラッシュが起こったわけです。

マネーショートで描かれたサブプライム問題は、『住宅市場は未来永劫上昇し続ける』という思い込みで、返済不可能な人にまで貸出を行ってしまった事が原因で起こった悲劇。
何故、不動産神話が誕生してしまったのかというと、アメリカは基本的に移民で作られた国だから。年間200万人レベルの移民を受け入れ、人口も上昇傾向。
家を少々建て過ぎたとしても、後に流入してくる移民が購入してくれる為、いずれ需給は安定する。
この背景を素に活況を呈していた不動産市況ですが、悲劇に繋がる直接的な切っ掛けは、金利引き上げ。
サブプライムローンの借り手は金利が4%の場合だとギリギリ返済可能だけれど、8%に上昇すると途端に返済できなくなり、ローンが焦げ付き始める。
これを合図に不動産価格の上昇が止まり、止まる事によって不動産神話が崩壊。結果として、大火傷を負う羽目になってしまった。

日本の場合は、少子化で且つ閉鎖的な為、基本的に人口は減少傾向。現時点で首都圏で空室率が30%なので、当然、将来の不動産市場も暗い見通し。
にも関わらず銀行が緩い審査で融資をしている背景は、アメリカの様な将来的な不動産市場の上昇ではなく、超長期的に続くと予想している『ゼロ金利政策』です。

日本は世界的に見ても独特で、新築の不動産に目がありません。
木造建築が基本で、40年経過すると無価値になってしまうのが原因なのでしょう。
その為、賃貸物件でも新築の場合は空室率を低い状態で保つことが可能。
これを利用し、最初の3~4年の収益分を銀行に返済させれば、その後は、不動産オーナーが破綻しても担保にした物件を差し押さえれば損失は免れるという計算なのでしょう。
3~4年分の期間だけ回収できればリスクは下げられるので、審査が多少緩くても問題ない。

しかし、何らかの原因で金利が上昇したらどうでしょう。
そもそも、首都圏で空室率30%の不動産市場というのは、完全な借り手相場の状態です。
新築だからといって高い家賃を設定できるような、甘い世界ではないでしょう。当然のことながら、上昇した金利分を稼ぐために家賃を上げるなんて選択肢は選べません。
家賃を上げても、その分空室率が上昇すれば損益としてはマイナスですからね。

金利は賃貸業にとっては経費みたいなものですが、経費の増大を価格に転嫁できないのであれば、事業としての旨味は薄れます。
金利の上昇幅にもよっては、下手をすれば不動産オーナーの利益が初年度から吹っ飛ぶという事態も考えられます。
『固定金利だから大丈夫。』と思われている方もいらっしゃるでしょう。しかしこの場合は、損失分は実質的に金融機関が背負うことになります。
国全体で観ると、危ないことには変わりがありません。

また、金利上昇によって賃貸業に旨味がなくなった場合、当然、新規の不動産需要は落ち込むことになり、不動産相場も下落すると予測されます。
不動産市況の悪化は、『転売できない。出来たとしても、価格が低い』という点において、事業として不動産を持ってるオーナーにとってはマイナス。
この不動産を担保として押さえている金融機関も、担保に対して貸し出しが多い状態となる為、賃貸向けのローンが焦げ付く可能性が出てくる。
バブル崩壊以降の、銀行の不良債権問題の再来というわけです。

アメリカ・日本。銀行が融資基準を緩める理由こそ違えど、結果的に金利の上昇によって破綻することは同じです。

この様な現状になっている現在、日本は危機を回避するため、金利を低い状態で保ち続けなければなりません。
金利を低い状態で保ち続ける為には、日本はデフレの状態を維持し続けなければならない。
デフレ解消のための長期的な低金利政策が、結果として、インフレに弱い現状を招いてしまったことになります。

金融政策というのは、導入するのは簡単ですが、その政策を止める方法。出口戦略を考えていなければなりません。
そういった意味では、『何もやらなかった』と罵声を浴びせらている、前日銀総裁の白川氏は、量的金融緩和に意味が無いことも、一度行ってしまったら止めることができなくなるのも分かっていたから行動に移していなかっただけなんでしょう。
日銀は既に打つ手なしの詰んでいる状態ともいえますが、今後、どの様な政策で現状を打破するのか、注意深く観ていく必要がありそうですね。