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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

働き方改革? 裁量労働制で人々の暮らしは楽になるのだろうか。

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ここ最近、ニュースでは、働き方改革の一環で行われようとしている、裁量労働制性問題が話題になっています。
という事で今回は、この問題がどういうものかというのを、簡単に説明しつつ、この問題について考えていきます。

日本の現状の働き方は、基本的に定時の8時間労働が基本で、会社によっては残業が行われていることを前提として人を雇用している状態に有ります。
これからの少子高齢化社会、この様に、長時間高速が前提の職場が多い状態では、何かと国民に負担がかかって来ることになります。

例えば、子供が欲しいと思っている人は、子供の準備の為に仕事を長期間休まなければならなかったり、最悪、辞めなければなりません。
生まれたら生まれたで、小学校に行くぐらいまでは子供に手がかかり、フルタイムで働くなんて事は難しい。

では、子供がいない家庭では問題がないのかというと、そうでも無い。
人間は誰しも親から生まれてくるもので、子供がいなくても親はいるし、長生きすれば介護問題も出てくる。
仮に、体は元気だけど認知症なんて事になれば、長時間、家を空けておくと徘徊なども起こってしまう…
そこから更に問題や事件につながるケースを考えると、介護の為に仕事を辞めなければならないなんてケースも出てくるかもしれない。

日本の少子高齢化社会は今後も変わる気配がない為、この問題は今後、更に悪化して社会問題化してくるケースが十分に考えられます。
この様な事を想定して考えられたのが、いま議論されている『裁量労働制』という事なんでしょう。

裁量労働制は、労働の時間を自分の裁量で決めるという考え方。
例えば、納期が1週間後の仕事が有ったとして、その納期に合わせることが出来るのであれば、1日あたり何時間働くのかは自分で決めろということ。
この裁量労働制を導入する事によって、効率の良い社員はサッサと仕事を片付ける事で、労働時間を短縮することが可能となる。
結果として、労働生産性も向上し、労働者も雇っている会社もwin winになるという話なのですが…

これを聞いて多くの人が、こう思うと思います。
『ホントか?』と

この、一見すると良い話にしか見えない裁量労働制
推進しようとしているのは与党で、野党は反対しているわけですが、その反対意見を聞くと、同意する人も多いと思います。

しかし反対意見も出ていて、その意見というのは、『裁量労働制を導入した場合、従業員の給料は定額になり、残業がむしろ増える』というもの。

書き忘れていましたが、裁量労働制の特徴としては、割り当てられた仕事に対して支払われる額が固定されている為、その仕事に1日4時間かけようが16時間かけようが、支払われる金額は同じです。
これを知った状態だと、野党が反対している理由がよくわかりますよね。
つまり会社側は、1日16時間ぐらい働かないと達成できないような仕事を労働者に押し付ければ、どれだけ残業をしようとも、労働者は追加料金無しで定額で仕事をやってくれるということになるわけです。

仮に労働者が過労死したとしても、会社側は『長時間労働は強制してないし、第一、労働時間を決めているのは労働者自身なので、我々には関係ない』と言い訳が出来ます。
会社に無理難題を押し付けられて亡くなった社員は、自己責任の4文字で片付けられ、ヘタをすると『無能だから短時間で終わらすことが出来ないんだ』なんて言われてしまうかもしれません。

そんな事にはならないよと仰る方は、今の運送業界の現状を見てみることをお勧めします。
運送会社は自前の社員とは別に、事業請負という形で、個人経営者に自分たちの会社のユニホームを着せて配達をさせていたりします。
この関係は個人経営者と運送大手のB to Bの関係なので、運送大手から支払われるお金は給料ではなく、配達1個あたりいくらという感じでの契約が多いようです。
今回取り上げた、裁量労働制と同じ様なシステムですよね。

仮にこの請負事業者の人が、荷物の配達を1個100円で請け負ったとした場合、1日に3万円の売上を得るためには300件の配達を行わなければなりません。
この300件の配達を、3時間で終えても16時間かけても、支払われる料金は3万円で固定です。
では運送業の請負業者というのは、この制度の恩恵を受けて、自由な時間を労働に当てる事で豊かな人生を歩んでいるのでしょうか?

現状、そんな事はありませんよね。
運送業界といえば労働環境が悪いことで有名で、就職したい人も激減し、人手不足で大変な事になってます。

この動きが他の業種にまで広がると、どの様に社会になっていくのかというのは、想像に難くありません。
例えば、世の中の仕事の大半が、数学のドリルを1週間で100ページ終わったら帰ってよいという感じの、個人で完結する仕事で、且つ、ちゃんと出来ている、出来ていないというのが分かりやすい仕事なのであれば、『時間を無駄にかける奴が無能』という理屈も、分からなくもありません。
しかし、世の中の仕事の大半は、この様な種類の仕事ではありませんよね。
一人で完結するものではなく、複数人が絡んでの仕事が大半ですし、算数ドリルの様に正解かそうでないかがハッキリしている仕事ばかりでなく、正解がわからない様な仕事の方が多い。

例えば、ある製品のデザインを考えるとして、そのデザインの正解が有るのでしょうか?
デザイナーとしての正解は有るでしょうが、それがクライアントや上司に認められるのかは、また、別の話となってきます。
また、依頼してくる側に明確なビジョンがなく、正解がわからない状態で発注しているということも有るでしょう。その様な状態で、『正解が出たら、帰っても良いよ』と言われても、困ってしまいますよね。

他にも、それなりの大きなプロジェクトの場合は、複数人が絡む事というのもありますが、自分ひとりが優秀だったとしても、その中で1人の人間が無能の場合、プロジェクト全体が、無能な人間に合わせて遅くなっていきます。
日本の場合『じゃぁ、手伝ってあげたら良い』という話になるのですが、それだと自分に割り当てられた以外の会社の仕事をする事になる上、プロジェクトの進行状況に労働時間を合わせる形になるので、目指すべき裁量労働制じゃ無くなりますよね。
また、会社側がプロジェクトの完遂期限をギリギリに設定する事で、残業せざるを得ない状況に簡単に陥りますが、残業したとしても残業代が発生しないという状態も十分に考えられます。

野党側が反対するのもわかりますよね。
この反対意見を突っぱねる為に、政権側が行ったことというのが、偽造データを使った検証です。

政府は、裁量労働制を採用している会社とそうでない会社に、残業時間がどれぐらいなのかと言った複数のアンケートを取り、その結果を比べたデータを提示し、裁量労働制がどれだけ優れているかというのを主張したんですが、その根拠となるデータを捏造していたんです。
どの様な捏造の仕方だったのかというと、裁量労働制で仕事をしている人に対しては、一日の平均的な労働時間を聴き、普通に働いている人は、1ヶ月間で最長の残業時間を聴き、それに8時間を足した時間で計算していたんです。
つまりは、裁量労働制の時間が短くなる様に細工したって事です。

これだけでもデータを信用できなくなるわけですが、そのデータをより詳細に観ていくと、1日で45時間の残業をしていたり、そうかと思うと、その週の合計残業時間が20時間になってたりと、算数レベルの間違いなども有る様子。
1日が24時間しか無いのに、45時間も残業をする矛盾! そして、残業時間を単純に足していくだけなのに、何故かその週の合計残業時間が45時間よりも減るという矛盾!
そんなデータをチラつかせて、『データ的にもこういう結果が出てますので、裁量労働制を導入しますね~』なんて言われても、『ちょっと待て!』となりますよね。

今回取り上げた裁量労働制ですが、本当に導入を進めるのであれば、そもそも、仕事に対する価値観を根本的に変える必要が有ります。
具体的には、仕事の更なる分化と、仕事に対して適正に値段を付けていくということ。そして、会社に就職して滅私奉公する『就社』ではなく、『ジョブ型』と呼ばれる社会に構造その物が変化しない限りは無理でしょう。
その前提となる下準備を行ってない時点で、見せかけの裁量労働制を導入したところで、企業に都合よく使われて終わりだと思いますけどね。
kimniy8.hatenablog.com