【本の紹介】 アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命
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今回紹介する本は、【アシッド・ドリームズ―CIA、LSD、ヒッピー革命】
この本を知ったのは、ちょうど一年程前(2015年5月)に、なんば紅鶴で行われた『魔術者から見た科学の今ココ!!』というイベントに参加したことが切っ掛けでした。
そのイベントの詳細や感想については過去に書いているので、興味がある方はお読みください。
このイベントで直接この本を紹介されていたわけではないのですが、ゲスト出演されていたバンギ・アブドゥルさんの話に、かなり興味を持ったんです。
その後、バンギ・アブドゥルさんが行われている東京ポッドキャストという番組を全て聴いた所、現代魔術とカウンターカルチャーの関係について、興味が湧いてきたんですよね。
という事で、Amazonでカウンターカルチャー関連の本を検索してヒットしたのが、この本でした。
この本の内容を簡単に説明すると、LSDという幻覚剤を中心とした、1960~70年の10年間のカウンターカルチャー史です。
LSDという薬物が、世の中にどんな作用を及ぼし、どんな爪痕を残したのかというのを、ティモシー・リアリーという人物を中心に描いています。
一応、誤解のない様に書いておきますが、ドラッグを推奨するような内容では有りません。
客観的に綴られた、10年間の歴史です。
この本の出だしは、LSDの発明から始まります。
先ほど書いた説明では60~70年の10年間の話とか来ましたが、この初期の部分に限って、50~60年代の話となっています。
この世に産み落とされた薬物に、最初に目をつけたのは『CIA』
脳に影響を与える幻覚剤は、自白剤や洗脳に使えるのではないかと研究が始まり、実験を繰り返すことになります。
できるだけ多くの症例を集めるためか、CIAの職員たちはLSDを常備し、誰かれ構わず同意も得ずにコーヒーなどに混ぜ込んで飲ませるという無茶苦茶なやり方で、その中にはLSDによるバッドトリップで自殺者も出たようです。
これらの実験はMKウルトラ計画と名がつけられ、結構な予算をつぎ込んで行われたようです。
その流れで、研究費を出す条件でLSD研究を依頼した人物の中に、ハーバード教授のティモシー・リアリーも含まれていました。
この本に書かれている10年間の歴史の中心的存在で、後に、一種の宗教と言っても良いLSD教の高僧になる人物です。
しかしその後CIAは、研究にも行き詰まり、LSDに自身が期待する効果が得られないことに気づき始めた矢先、実験によって自殺者まで出してしまうことになります。
これを切っ掛けに、CIAは徐々にMKウルトラ計画からは手を引き始めます。
それが、1960年頃。
CIAがこの薬物から手を引く一方で、リアリー教授はLSDの魅力に取り憑かれていくことになります。
LSDは、幻覚剤。
服用の量や、服用時の精神状態によってトリップが変わるようで、リアリー教授はそのデータを取り始めます。
LSDを摂取しては瞑想にふけり、その時の状態や観たヴィジョン等を書き写しては、また瞑想にふける。
薬物を取っ払って考えると、仏教の修行僧の様な生活を送っていたようです。
この様な活動のせいか、リアリー教授はLSDの象徴のように扱われ、ドラッグに身を捧げるものから尊敬の念を集めていくようになります。
リアリー教授が自身の身を投じてLSDの研究に打ち込む一方、LSDという幻覚剤は市場に出回り始め、世の中に影響を与え始めます。
ドラッグと一括りにされがちなLSDですが、他の薬物とはトリップの仕方が違うようで、上手く行けば、全能感や宇宙との一体感・幽体離脱(現実にかなり近い幻覚、明晰夢)・意識の拡張 等を経験できるようです。
LSDを摂取した人達は意識を拡張され、その経験を共有した人達がコミューンを形成。
その中で様々な文化や考え方を生み出します。
サイケデリックなアートやミュージック等です。
また、意識の拡張によって得られる境地と、仏教による悟りの境地が似通っているようで、独自の宗教観や従来の考え方からの脱却という考え方が生まれます。
従来の考え方の脱却。
メインカルチャーからカウンターカルチャーへ。
これは、国が取る行動に対する反発という形でも現れます。
1960年代のアメリカといえば、ベトナム戦争が勃発。
LSDの服用者は当然のように政府の考え方に反発し、反戦運動を行います。
その活動は活発化し、ヒッピー文化を生み出します。
『銃ではなく、代わりに花を持とう』と主張し、フラワームーブメントを作り出します。
ここら辺の価値観は、日本のロックミュージックやポップスなどにも、大きな影響を与えていますよね。
その他にも、今の世の中を形成している『資本主義』に反発をして、原始共産制を唱え、生きるための物資を無料で提供する『ディガーズ』など、様々な考え方が乱立し始めます。
こんな書き方をすると、LSDというドラッグは、クリエイティブな行動を起こす素晴らしいものと誤解される方も居らっしゃるかもしれませんね。
確かに、意識の拡張によって様々な価値観が生み出されましたが、その反面で、多くのドラッグ中毒者と犯罪者も生み出しています。
LSD服用者が拠点とした街は荒れ、興味本位で街を見学に来たティーンの少女が薬漬けにされ、売られるといった犯罪行為も頻発したようです。
最初は理想郷を作るために行動した者たちも、それを現実にするための資金を得る為に麻薬取引を行い、いつしか、それが本業の犯罪組織になったなんてケースも多いようです。
この本では、この様に1960~70年というカウンターカルチャー周辺の出来事が400P程にわたって書いてあります。
サブカルチャー・カウンターカルチャーと呼ばれる文化がどの様にして生まれたのかを知りたい人にとっては、読んで損はない1冊だと思いますね。
とはいっても、一つの事柄に対して深く掘り下げているわけではなく、複数の団体の歴史を大雑把にまとめた感じなので、時代の流れを大まかにでも知っている人は、読む必要はないのかもしれませんが。
ひとつ問題点を挙げれば、非常に読みにくいことです。
敢えてなのか、難しい表現を多用されているため、1ページに書かれていることを理解するのに結構な時間がかかってしまいます。
また、10年間の歴史を順を追って説明されているわけではなく、各コミューンに焦点を当てて、何度も10年間を行き来する方法で描かれています。
最初に紹介したリアリー教授は、多くのコミューンと関わり合いがあったようで頻繁に登場するのですが、毎回出てくる年数が変わるため、若干の混乱を招いたりします。
年表などが有れば、比較的分かりやすかったのかもしれませんが、文字しかいない構成のため、理解はしにくく、『本当に何かを伝えたいと思って書いているのかな?』と思ってしまうほど。
といっても、本をそんなに読まない私の印象なので、読み慣れている人にとっては問題にならないのかもしれませんけどね。
ただ、それを乗り越えて読む価値はあったと思えた本でした。
カウンターカルチャーに興味がある方は、入門書として読んでみると面白いと思います。