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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

マイナス金利を期に 金利について考えてみる 後編

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前回の投稿では、金利の基本的なことについて簡単に書いてみました。
今回は、金利を上げ下げした際の影響について考えていきます。
kimniy8.hatenablog.com

一般的に景気が悪くなると金利が引き下げられるのは、事業を起こすためのハードルが下がるとされているからです。
例えば1億円を投資して、1年間で500万円の儲けが出る仕事があります。
分かり易くするために、金利以外のすべての経費を差し引いて、500万円の利益とします。
この仕事をする為に、全額借金をして事業を起こしたとしましょう。

1億円に対して、500万円の利益が出るということは、利益は5%。
という事は、借金をした際の金利が5%未満であれば、事業をやる価値が有るということです。
逆にいえば、5%以上の金利をとられるのであれば、赤字になる為、事業を起こす意味は有りません。

という事は、金利が低ければ低いほど、少ない利益しか出ない分野でも仕事が生まれることになります。

仕事が生まれれば、設備投資や雇用などでお金が動くため、経済が活性化する。
結果として、景気が良くなるということですね。
その為、経済の教科書的には、景気が悪くなったら金利を引き下げるわけです。

しかし実際の社会では、こんなに都合良くは動きません。
銀行の貸出金利が下がるという事は、結果として、貸出のハードルが上がってしまうことに繋がってしまうからです。

例えば、銀行が貸し出した際に、10%の金利が得られるとします。
(今回の例では分かり易くする為に、近郊の借入金利や経費は考えないものとします。)

100万円のお金を100人の人間に10%で貸した場合、銀行は1億円貸し出して、1000万円の利益を得ることになります。
皆が1年間利息を払い続けた場合、数人程度であれば破綻して金が戻ってこなくなったとしても、利益が出ることになります。
しかし、金利が1%だったとしたらどうでしょう。
同じ条件で銀行が手にできる金利は100万円です。
一人でも破綻すれば、利益が出ないことになります。

つまり、金利が低くなれば低くなるほど、より確実に戻ってくる相手にしか貸出を行えないわけです。
金利の低下に比例する形で、貸出のハードルも高くなっていくわけです。
これが、不景気に突入して金利が低くなったのにも関わらず、貸し剥がし貸し渋りが起こってしまう理由でしょう。

何故こんな事が起こってしまうのかといえば、単純に銀行に審査能力が無いからです。
担保がある・決算書の内容が貸し出し基準を満たしているといった、マニュアル的な貸出しか行っていない為、取引先それぞれに個別の金利を設定することが出来ない。
その為、既に貸出を行っていても、途中で決算内容が悪くなれば貸し剥がす。
丁度、更新期日になっていれば、貸し渋るという現象が起こります。

本来であれば、事業内容が悪化して信用出来ないのであれば、金利を引き上げて対応すべきなんです。
上限金利まで引き上げて、それでもリスクに見合わない場合、そこで貸し剥がし貸し渋りを行うべきなんですが、その見極めが出来ないのが今の銀行です。
その為、今まで2%台で借りていた人が、急に貸し剥がし貸し渋りを受ける状況に追い込まれます。

『じゃぁ、審査能力を身につけて、まじめに仕事をしろ』という話になるのですが、それも今の銀行には無理なんでしょう。
大きくなリ過ぎた今の銀行では、事業者と銀行の営業との癒着を防ぐために、一定期間で支店が変わります。
この為、悪い事業者と結託しての犯罪めいた事の予防は出来るようになったのでしょうが、その一方で、事業者との信頼関係の構築が出来なくなってしまいました。
貸した相手の事がわからないわけですから、決算書の内容だけで貸さざるを得ないのでしょう。

この様に今の経済では、金利を引き下げれば引き下げるほど資金を貸し出す為のハードルが上がってしまう為、金利を引き下げても大した効果が得られません。

またその一方で、金利を引き下げた際には、デメリットも存在します。
それが、預金者の受け取り金利の減少です。

私がまだ子供の頃は、1億円有れば働かなくて良いといわれていました。
丁度、中学ぐらいの頃でしょうか、世間ではバブルの絶頂期。
郵便局の定額貯金で、金利が7~8%以上付いていた記憶があります。しかも複利
金利が7~8%で複利という事は、預けた貯金は10年間で倍になります。20年で4倍。40年で16倍。
働いた最初の年に100万円貯金したら、それが退職する頃には1600万円になるわけです。

そんな世の中で1億円の貯金を持っていると、金利収入で年間800万円近く。
税金で20%引かれても、640万円の金利収入が得られます。
いま年収で640万円といえば、結構な所得です。
それを働くこと無く、得られるわけです。

これらの不労所得を元にした消費活動が、結構バカにできないんですよね。
皆さんも、想像してみてください。
身を粉にして働いて得た20万円と、銀行の金利で得た20万円。
一体どちらが使いやすいですか?不労所得である、金利の方ではないですか?
つまり一定以上の金利というのは、国民に向けたバラマキの様なものなんですよね。

金利というのは、これらの真面目に貯金していれば誰でも手に入れる事が出来た不労所得を奪う事になります。
今の世の中はデフレや消費不況なんていわれていますが、これらの不労所得が減少した事も、原因の一つかもしれません。
ただ、金利による不労所得の増加量は、確実に資産家の方が多いので、格差がより広がる事も予想されますけどね。
といっても、金利による不労所得は消費されやすいことを考えると、今よりも社会には還元される可能性もありますけども。

…と、長々と書いてきましたが、金利というのは、単純に下げれば景気が回復するというものでもないんですよね。
経済学でその様な行動が推奨されるのは、あくまでも銀行が真面目に仕事をし、貸出先の信用力に見合った適正金利を見定めて貸し付けられるという前提が有るからでしょう。
【人は合理的な動きを行い続ける】というのが、経済学の前提ですから。
しかし実際には、銀行にそんな能力はないし、合理的な行動も取らない。

実際の社会は、もっとカオス的な動きをしますし、先を読むことは非常に難しい。
そんな現状で最も辛いのは、中央銀行には効果がないかもしれない金利引下げしか選択肢が無いことかもしれませんね。