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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第80回【収益性分析】総資本利益率

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目次

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『カミバコラジオ』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

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損益計算書とは(1)


第73回から前回までで、損益計算書の見方を勉強していきました。
損益計算書とは簡単にいえば、会社の収益やコストを分類することによって、利益を段階的に出していくものでした。
損益計算書の説明については詳しくは第73回からの回を聞いてもらいたいのですが、少し振り返ると、まず本業の儲けだけを合計した売上高を出し、そこから製品を用意するためのコストを差し引きます。

商品を用意するためのコストとは、製造業であれば材料原価と製造にかかわる人件費や機械設備の減価償却費や水道光熱費ですし、小売や卸売の場合は仕入れコストがこれにあたります。
このコストを売上からさしひいで出るのが売上総利益と呼ばれるもので、これは粗利と呼ぶ人もいます。
この売上総利益から、製品を販売するためのコストである販売管理費を差し引いたものが営業利益です。

販売管理費に含まれるものは、店舗を運営している場合は店舗運営にかかわる家賃や水道光熱費、販売員の給料や商品の輸送費、商品を宣伝するための費用や営業マンの給料といったものが含まれます。
これらの費用を粗利から差し引いたものが、本業で得られる純粋な利益となります。 因みにここで損失が出ていると、本業では儲かっていないということを意味します。

損益計算書とは(2)


次はこの営業利益に、営業外損益を加えて計算していきます。 営業外損益は大きく分けると、常に発生し続けるものと単年度だけ発生する突発的なものに分かれるため、それをまず分けます。
そして、営業利益に常に発生し続ける営業外損益を加えて、経常利益を出していきます。
常に発生し続ける営業外損益とは、お金を借り入れるコストや金融資産の運用によって得られる利益のことだと思ってください。

お金を誰かから借りれば金利が発生しますし、逆に貸し出せば金利がもらえます。 現金を株に変えた場合は配当金がもらえます。
また売買目的の株の場合は簿価と時価に差がある場合があるので、その差益や差損もここに計上します。
外資産を保つ場合は為替の評価損益もここで計上して、最終的に経常利益を出します。

次にこの経常利益から突発的に発生するような損益を加えて、税引前の利益を計算します。
突発的に発生するような利益とは、災害による損失や土地や機械設備の売買、会社の固定資産の減損処理などがこれにあたります。
この税引前利益から税金を差し引いたものが、当期純利益となります。

収益性分析


収益性分析は、このようにして分割したそれぞれの利益を使って、会社の収益性について分析していきます。
大雑把な計算式としては『利益÷投下資本』となり、利益の部分には売上総利益や営業利益・経常利益といったそれぞれの利益が入り、投下資本には貸借対照表の資産項目を当てはめていきます。
利益にどの利益を採用するのか、投下資本にどの資産を採用するのかで分析できる事柄が変わってきます。

より理解するために、具体例として総資本利益率という指標を見ていきます。

総資本利益率


この総資本利益率の計算式としては、経常利益を総資本で割ったものです。 総資本とは、貸借対照表の資産の部・負債の部のどちらでもかまわないのですが、そのどちらかの部の合計金額となります。
何故、資産の部・負債の部のどちらでも良いのかというと、貸借対照表では資産の部と負債の部のそれぞれの合計金額は同じ金額になるからです。

この総資本利益率によって、会社が総資産を使ってどれぐらいの利益を得ているのかが分かるようになります。
具体的な数字を当てはめていくと、自己資金が1000万円で借り入れ金が4000万円で事業を始めたとすると、この会社の総資本は5000万円となります。
この5000万円を投資することで経常利益が200万円得られたとした場合、総資本利益率は4%となります。

では、この総資本利益率4%というのが何を示しているのかというのを見ていきます。
まず総資本というのは、負債の部でみた場合は自己資金と借入金の合計金額となります。この自己資本と借入金の関係性としては、自己資金を担保にして投資資金を借り入れていると考えることも出来ます。
つまり総資本とは、投資金額の合計としてみることが出来るわけです。

なぜ経常利益を用いるのか


この投資金額によってどれぐらいの利益が得られたのかを見ていくのが総資本利益率なんですが、ではなぜ分子に経常利益を用いるのでしょうか。
冒頭でも説明しましたが、経常利益は本業の儲けである営業利益に常に発生する営業外損益を加えた利益となります。 常に発生する営業外損益ですが、大半の会社の場合、これは主に借入金利となります。
この総資本利益率では分母に総資本を採用していて、その総資本には借入金を含んでいますので、その借入金の金利である営業外損失も反映された経常利益を使うのが妥当だということになります。

これは、借入金利を計算に加えない営業利益を使えばどうなるのかを考えてみれば分かりやすいと思います。
仮に営業利益が250万円だとして、総資本が自己資金1000万と借入金4000万円の5000万円だったとします。
そしてこの企業は信用がなく、借入金利が10%だったとします。 借入金利が10%というと高すぎると感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、ゼロ金利を採用している日本の金利が低すぎるだけで、普通の世界では珍しいことではありません。

これは、バブル崩壊前の銀行預金の金利が、高いところでは8%近くあったことからもわかります。
話を戻すと、総資本利益率の計算に営業利益を使ったとして、営業利益250万円で総資本が5000万円の場合は、総資本利益率が5%となりますので、一応利益が出ていることになります。
銀行にお金を預けても利息がほとんどもらえないことを考えるなら、投資をして5%の利益が出るのであれば、この投資は良い投資案件ということになります。

しかし実際には、借入金4000万円に対して10%の利息がかかるため、支払い金利が毎年400万かかることになります。
それを加えて計算すると、実際にはこの会社は毎年赤字を出していることになってしまいます。
この支払金利というのは単年度だけに発生する特別なものではなく、金を借り続けている限り毎年発生し続けるものなので、放置していれば問題が解決するようなものでもありません。

というかむしろ、この状況が続けば続くほど、利息を返済するために借金をしなければならず借入金が増えていくことになりますので、状況は悪化していきます。
この様な指標は誤解を生むだけなので、使う意味がありません。 一方で営業利益ではなく経常利益を採用した場合はどうなるのかというと、この例の場合は経常利益が150万円の赤字となるため、総資本利益率もマイナスの値となります。
マイナスの値で出れば、この事業を継続する意味がない事が直ぐにわかります。

総資本利益率の活用方法


ただ、経常利益がマイナスになれば、わざわざこの様な指標を出さずとも会社が危険な状態になっていることは分かるので、『計算する意味は無いのでは』と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが…
この例は、わかり易さを優先させるために極端な例を出しましたが、この指標は、経常利益が赤字ではないけれども低い場合に便利な指標となります。
例えば総資本利益率が2%の場合、会社の全資産を投資して2%の利益が出せていることを意味します。

『2%の利益が出ているのなら赤字ではないのだから、この投資には意味があるのでは?』と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、投資家や経営者の場合は『他のことに投資をしていればどうなっていたか』を考えるべきです。
例えば、不動産を証券化したJリートという商品があります。 これは、複数の賃貸用不動産を不動産管理会社が買って、それを証券化して証券市場を通して販売しているもので、普通に証券会社で買うことが出来ます。
この証券を購入すると、購入した投資家に対して賃貸報酬が支払われます。 つまり、不動産投資を簡単にできる仕組みがJリートと呼ばれるものです。

このJリートですが利回りが3~5%程度となっていますので、先程の総資本利益率が2%の事業と比べると、事業を行うよりも全資産をJリートに投資した方が良いということになってしまいます。
この他には、2022年現在の日本は低金利政策を行っているために銀行預金の利率も低いですが、インフレが進むことで低金利政策を止めると、銀行金利で4%貰えるなんて状態にもなるかもしれません。
そうなれば、元本保証の銀行預金で4%貰えるわけですから、事業を行っている意味がなくなってしまいます。

またこの場合、借入金に対する金利も上昇しますから、経常利益が支払い金利によって圧迫されてさらに減少する可能性もあります。
そういったことを加味して考えると、その事業をやっている意味があるのかというのを真剣に考える必要が出てきます。

経営をされている方であれば、事業を続けていくことの苦しさというのをよくわかっていると思います。
市場というのは自分が予測したとおりに動いてくれるわけではありませんし、人を雇っていれば人間関係が生まれます。これらによって様々なトラブルが引き起こされるため、気苦労が多いのが経営者です。
それほどの心的ストレスを抱えているわけですから、最低限、元本保証の銀行預金よりも高い運用利回りが得られなければ、事業をしている意味がありません。

事業を行っておらず会計知識もない人たちは、『会社の利益は社員に給料として還元すべきだ!』と声高に叫んだりしますが、そこまで苦労しても経営者として利益が得られないのであれば、経営者はボランティア精神のある人しかできなくなります。
そんな状態では社会は回らないため、適切に投資家を呼び込むためにも、元本保証の商品よりも最低限3%程度は高い収益が事業を通して得られないのであれば、事業をしている意味がないと考えられます。
これを簡単に比べることが出来る指標が今回紹介した総資本利益率となります。 これは当然ですが、高ければ高いほど良いことになります。

この値が非常に高いのであれば、それを根拠にしてさらに銀行借入を増やして、その分野に投資するというのも良いでしょう。
逆に低すぎるのであれば、先程も言いましたが、事業そのものの見直しが必要になってきます。 因みに借入金を含むということは、レバレッジ効果も加味して考える必要があるのですが、そのことについては次回に話していきます。