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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第147回【アルキビアデス】まとめ回(1) 前編

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目次

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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アルキビアデスという人物


前回で14回にわたってお送りしてきたアルキビアデス回が終わりました。
結構長くなってしまったため、今回からの数回で、復習がてらこの対話編の要点を振り返っていきます。

このアルキビアデスとの対話篇の主なテーマは、人間の本質となっています。
人間とは、どの様な状態になっていれば優れているのか、どの様にすれば人の上に立てるような優れた人間になれるのかを、野心あふれるアルキビアデスと対話をすることによって考えていくという構成です。
では、対話相手となるアルキビアデスとはどの様な人物なのかというと、ものすごく簡単に言えば、自分のことを優れていると思い込んでいる青年です。

アルキビアデスの具体的な年齢は書かれてはいませんが、話の内容から考えるに、つい数年前まで子供だった成人して間もない青年ぐらいだと思われます。
彼は、自分が優れた人間であり、それ故に、自分には人々を統治する資格があると思い込んでいるため、政治家になって上り詰めようという野心を抱きます。
何故この様な勘違いをしてしまったのかというと、実際に彼は才能に溢れ、一般人と比べると優れていたからでしょう。

彼は地頭が良く美しく、且つ、その状態にあぐらをかかずに努力もしていたようなので、彼から見ると、年をとっているだけで勉強もしていないようなものは劣って見えていたのかもしれません。
それに加えて、実家の太さや両親の人脈の広さから彼自身の顔も広い状態で、これに若い人が持ちがちな万能感もプラスされ、自分が国を率いるべきだ思ってしまったのかもしれません。
そのため彼は、王族に生まれないと指導者になれないような国ではなく、民主主義の選挙によって政治家が選ばれるアテナイへとやってきて政治家を志そうと決心しますが、そんな彼の元へ、ソクラテスがやってきます。

アルキビアデスに手助けをするソクラテス


何故、このタイミングでソクラテスがやってきたのかというと、これまではアルキビアデスとコンタクトをとることを神から禁止されていた様なのですが、その神から『彼と話しても良い』と許しが出たからです。
ソクラテスは、ダイモニアという精霊を通じて神の声を聞くことが出来たそうなのですが、その声によって、アルキビアデスとコンタクトを取ることを禁止されていました。
しかし、アルキビアデスが政治家を志したタイミングで神からアルキビアデスと話す許可が出たので、彼と対話をしようとやってきたわけです。

欲深いアルキビアデス


ソクラテスによるアルキビアデスに対する評価としては、彼はかなり欲深い性格をしていて、現状で満足することはないような人物のようです。
手に入る可能性が少しでもあるのなら、それを手に入れるために行動し続ける様な性格で、それをやめろと言われれば『生きている意味はない』として死を選ぶような人間だそうです。
彼がもし政治家になることに成功したら、次はより権力を握れる将軍の座を狙うでしょうし、将軍の座を得てアテナイを手中に収めたとしても、更に隣国を占領しようとする。

そのようにして、可能な限り多くのものを手に入れようとあがくのが、アルキビアデスの本性だとソクラテスは主張します。
ではソクラテスは、そんな底なしの欲望を持つ彼に対して、欲望を控えるようにとアドバイスをしにやってきたのかというと、そうでもないようです。
ではどの様な理由でやってきたのかというと、アルキビアデスが悪い大人たちに騙されたり利用されたりしないために助言しに来たようです。

フリーライダー

現在でも、才能や能力は持っていて、それ故に大きな野心を持っているけれども社会経験が少ない若者に対して、怪しい大人が近づいてくるというのは結構あります。
ソクラテスはアルキビアデスに対して好意を持っているため、その様なアルキビアデスを利用しようと近づいてくる悪い大人たちから、彼を守りたかったのでしょう。
そのために必要なのが、彼との討論というわけです。 彼に対して討論で持って人間の本質を教えることができれば、彼は自分を利用しようとしている『しょうもない大人』を見分けることが出来るようになります。

そうなれば、彼は自身が利用される前にその様な人達から距離を取ることが出来るようになるわけですから、結果として彼を守ることが出来るようになります。
ソクラテスはこの事を対話篇の中で、『毒の中に入っていくのであれば、解毒剤を持っておかなければならない』といった感じの言葉で表現しています。
その様な状態。つまり、アルキビアデスに解毒剤を持たせるために、ソクラテスは彼との討論に挑みます。

知識の身に付け方


アルキビアデスは政治家を目指しているとのことでしたが、そのために必要になるのが市民に自分を売り込むことです。
今も昔も、政治家は街頭演説などを通して自分の有能さを市民たちに訴えますが、では何の能力があると言って国民に訴えかければ良いのかというと、知識です。
現状よりも国をより良くするために、また、国に何らかの災が降り注いだ時に、それらに対処する知識があることを国民に証明できれば、国民から政治を任せてもらえそうです。

では、知識とは何なんでしょうか。どのようにすれば手に入れることが可能なんでしょうか。
知識というのは、大きく分けると2通りの方法で身につけることが出来ます。 1つは、知識を持つ人から教えてもらうことです。これは、知識を持っている人が執筆した本を読むといった行為も含まれます
もう一つは、自分自身で発見することです。 近代でも古代でも研究者というのは存在しますが、彼らが探求した結果、何らかの研究成果を得ることが出来たとすれば、彼らは自分自身で知識を発見したことになります。

この2つの知識の身につけ方ですが、共通している点としては、自分の知らないことに対して興味や関心を持たなければ駄目ということです。
物事に興味や関心を持つということは、当然、そのことに関しては自分には十分な知識がないということを自分自身で認識していなければなりませんが、その状態で貪欲に知識を追い求めることで知識は身につきます。
逆に言えば、既にその物事については十分に知っていると思い込むなどして興味を持たなければ、その事柄についての知識は身につきません。

アルキビアデスの強み


この事を踏まえた上で、アルキビアデスが持つ知識について考えていきます。
アルキビアデスは、自分が一般市民たちを圧倒するような知識を持っている事を街頭演説を通じて訴えることができれば、自身の思惑通り国民を説得して政治家になることが出来るでしょう。
ではアルキビアデスはこれまでに、どの様な知識を身に着けたのでしょうか。

アルキビアデスがどの様な分野に興味を持ち、探求してきたのかというのは不明ですが、彼は教師によって教育されているので、その分野については知識を持っていることがわかります。
教師からどの分野について教えてもらったのかというと、『読み書き』と『楽器演奏』と『レスリング』の知識です。
ではアルキビアデスはこれらの知識でもって、政治家になって国民を導いていこうというのでしょうか。

彼は当然、『そんなもので自分の優位性を示そうなんて思っていない』と主張します。これは私達が暮らす現代に当て嵌めてみるとわかりやすいと思います。
自分の地域から出馬している政治家が、『私は国語が得意だし、楽器の演奏もできるし柔道も強い!』と誇ったからと言って、その人物に票を入れるかと聞かれれば多くの人が入れないでしょう。
これは別に、国語や楽器の演奏や柔道がなんの役にも立たないと言っているわけではありません。それらが出来たからと言って国の代表になって人々を先導できるのかといえば、出来ないというだけです。

知識にはそれぞれの専門知識があるので、音で人を魅了するためには音楽の知識が役立ちますが、音楽の知識が家を建てるのに役立つかといえば何の役にも立ちません。
これは政治にも当てはまり、政治家になって人々を正しい方向へと先導していくためには、政治の専門知識が必要となります。
では、政治家に必要な専門知識とは何なのでしょうか。

参考文献