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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】 第43回【経済】キャッシュフロー(3)

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注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

kimniy8.hatenablog.com


事業立ち上げ初期のキャッシュの減少

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前回は、企業が製品やサービスを新規で開発し、それを市場に投入して事業を開始し、市場が成長してピークをつけるまでのキャッシュの動きについて話していきました。
簡単に振り返ると、まず、製品やサービスを開発するための資金が必要となるため、商品を売り出す前に手元の現金であるキャッシュは減少し始めます。
前回は話していませんでしたが、この初期投資、全く新たに事業を始める場合ではなく、すでに別の事業をしている企業が新たに事業部を作る場合は、進出する事業が関連多角化か無関連多角化かによって、かかる費用も変わってきます。

無関連の、これまで営んできた事業と全く違う新規事業を行う場合は、1から市場調査や製品開発を行わなければならないために開発は長期化しますし、開発が長期化すればその分人件費がかかりますから、費用はかさみます。
また、生産するのに新たな生産設備を整えないといけない場合もあるでしょうから、それも含めると、新規事業にまつわる費用は相当なものになります。
人件費の支払いは当然キャッシュになりますし、設備投資もローンを組むといっても頭金などは必要になるでしょうから、無関連多角化の新規事業の場合は費用はかさみやすいです。

販売チャネル

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一方で、既存事業に関連する事業に進出する場合は、すでに持っている経営資源を使い回すことができるため、製品開発から市場流通までが短期間で済んだりします。
何故なら、その市場やターゲットに関する情報をすでに持っていて、社員間での共有も済んでいるわけですから、この時間を省けます。
次に流通ですが、既存製品を流通させていた販売チャネルをそのまま流用できる場合があるので、販売チャネルの構築や販売先の開拓を行わなくて良いからです。

販売チャネルとは、商品を卸す小売店や、小売店に商品を売ってくれる卸売業者と考えてもらえれば良いです。
売店や卸売業者は、どこの馬の骨ともわからないような会社がつくる商品を積極的に仕入れて売ってくれるなんてことはありませんから、これらの販売チャネルが構築されていない場合は、販売業者との関係を1から作っていく必要があります。
しかし、既存事業ですでに取引があって顔なども知られている場合は、新規商品であっても、今までの信頼関係から取り扱ってくれる可能性があるために、その手間が省けます。

設備投資

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生産設備に関しても、今まで製造していたものと関連がある製品の場合は、生産設備を使い回せる可能性があります。
もし使いまわしが可能であれば、この分の費用もかからないため、キャッシュはそれほど減らない場合もあります。
ただこれは、作る製品のレベルなども関連してくるため、そういう傾向にあるだけで、絶対ではありません。

商品在庫

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研究開発が終わって設備が稼働しだし、製品が無事に完成して販売網も構築できれば、イノベーターを始めとした顧客が徐々に製品を買っていくため、売上が上がっていきます。
ですがここにも落とし穴があり、市場拡大のペースが早い成長期に入ってしばらくするまでは、キャッシュの回収は進みません。
この原因は大きく2つあり、1つは在庫の存在。もう1つは、売上が現金化されるまでのタイムラグです。

最初の在庫ですが、商品を求める人が多くなればなる程、在庫切れを起こさないために大量の商品在庫を作って溜め込んでいく必要があります。
卸売や小売店を間に挟む場合は、各店舗がそれぞれある程度の在庫を持つようになる為、取扱店が増えれば増えるほど、トータルの在庫量は更に増えます。
この在庫の増大ですが、キャッシュとしてはマイナスに働いてしまいます。

何故かといえば、商品というのは作っただけでは利益にならず、それを消費者が購入することで初めて、利益になるからです。
その一方で、在庫を作るためにはキャッシュが必要となります。 というのも、原材料やそれを作るための職人の給料は、現金で出ていくからです。
在庫というのは、キャッシュが原材料費と人件費に変換されただけのもので、それが売れて初めて現金が手に入ります。 その為、機会損失を防ぐために大量に積み上げた在庫は、将来売上になるかも知れない資産ではありますがキャッシュではありません。

在庫を積み増すという行為は、キャッシュをキャッシュではない在庫という資産に変換する行為になる為、当然、キャッシュの減少要因となります。

入金のタイムラグ

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もう1つの原因であるタイムラグですが、これは作った商品がいつ現金化されるのかという話です。
仮に、消費者への直接販売を現金で行っているとすれば、このタイムラグは発生しません。
在庫としてためた商品を消費者の持つキャッシュと交換するため、在庫が売れると同時にキャッシュが増加するため、なんの問題もありません。

しかし、間に卸売業や小売店を挟んでいたり、販売を現金取引ではなくカードを使っていたりすれば、タイムラグが生じます。
例えばカード会社は、取引があればその都度現金を振り込んでくれるわけではありません。決済日というのがあり、それまでは商品が売れていたとしても現金化されません。
卸売や小売店といった販売業者を挟んでいる場合も、基本的には売掛金という債権として貯まっていき、それを月末に合計請求書にまとめて相手に送り、次の月末などに回収するため、タイムラグが生じます。

販売業者によっては、その請求書に対して、3ヶ月後に現金化される約束手形などで支払ってくるケースも有るため、こうなってくるとキャッシュは商品が売れてから4ヶ月後に振り込まれることになります。
この様に、キャッシュの振り込みが遅い一方で、こちらの仕入れに対しての支払いがその都度払いであったり、月末締め翌月払であると、こちらの支払いはキャッシュで行われることになります
支払いでキャッシュを消費するにも関わらず、売り上げたものがキャッシュ化するのに4ヶ月かかってしまえば、その間の空白期間はキャッシュがただ出ていくだけとなるため、当然、キャッシュ不足となってしまいます。

入金タイムラグの解消

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これを防ぐためには、2つの方法があります。1つは、そもそも支払期限が長くなってしまう約束手形などの支払いを受け付けず、月末締めの月末払いにしてもらうといった感じで回収を早める方法。
もう一つが、こちらも仕入先に対する支払いを長期の約束手形などで支払うことです。キャッシュの受け取りと支払いのタイムラグを無くしてしまえば、キャッシュ不足は軽減します。
しかし、これも取引先との関係性によっては簡単にできなかったりします。 仕入先も、新規で取引を始めたばかりで信頼関係が出来ていない状態であれば、いきなり長期の約束手形での支払をしたいといっても受け付けてくれないでしょう。

販売先の方はというと、こちらの商品が非常に魅力的で、市場で売れば直ぐに売れてしまうような商品であれば、向こうは下手に出て、こちらに合わせた支払い方をしてくれるかもしれません。
ですが、新規事業を立ち上げたばかりで商品の知名度も何もない状態であれば、商品を取り扱ってくれる業者は無理は聞いてくれないでしょう。
こういった場合は、むしろこちらが下手に出て営業をしなければならなかったりするわけですから、支払条件は不利になる場合もあります。

交渉がうまくいかず、キャッシュのタイムラグが解消できず、キャッシュが底をつきてしまえば、そのキャッシュを調達するために銀行借入れをしなければなりません。
もし、ここで調達が上手く出来なければ、会社が持つ資産を売却し、なんとしてでもキャッシュを作らなければなりません。

事実上の倒産

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これが出来ずに支払いが滞ってしまい、それが銀行取引だった場合、例えば、100万円の支払いを約束手形で支払って、引き落とし日に口座に100万円がなければ、それは不渡手形となってしまいます。

この不渡を6ヶ月以内に2回行うと、銀行取引そのものができなくなってしまうため、会社は事実上の倒産となってしまいます。
製品の知名度が上がり、顧客も徐々に増えてきて、市場が拡大して成長期に入り、会社の損益としては黒字であったとしても、キャッシュが底をつきて支払いが滞ってしまえば、会社はそこで終了です。
会社は銀行からの信用を失い、市場での信用を失ってしまいます。

市場で信用を失えばどうなるのかというと、原材料の仕入先は注文をしても商品を売ってくれないかも知れませんし、売ってくれたとしても、その都度現金で支払うことを要求してくるかも知れません。
これは、相手の立場に立って考えてみれば分かりやすいと思います。 取引相手がキャッシュ不足によって支払いができなくなった経験があるわけですから、そんな相手が注文をしてきたとしても、ちゃんと代金を支払ってくれるかどうかがわかりません。
そんな相手に対して普通に取引しようなんて、普通は思わないので、できるだけリスクを下げた取引方法をしようと思うはずです。

商品を販売してくれている方も、いつ潰れるかわからない相手と取引するのは嫌でしょう。 その為、市場からの信用を失ってしまった時点で、会社は終わってしまいます。
この様な黒字倒産を招くキャッシュ不足は、主に市場と売上が急拡大する成長期に入ると起こりやすいため、注意が必要となります。
この成長期のキャッシュ不足を乗り越えると、キャッシュの改修が進み始めて、事業で得られるキャッシュは黒字に転じ始め、市場の方も安定期に入り始めます。

次のステージとしては、ライフサイクルでいうところの後半部分に突入していくわけですが、その話はまた次回にしていきます。