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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第38回【経営】PPM(2)

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

kimniy8.hatenablog.com

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント

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前回からプロダクトポートフォリオマネジメント。略してPPMについて話していますが、今回はその続きとなっています。
前回の話を聞いていないと理解できない部分が多いと思いますので、まだ聞かれていない方は、そちらから聞くことをおすすめします。

前回の話を簡単に振り返ると、PPMとは、縦軸に市場の成長性を取り、横軸に市場シェアをとったマトリクス図です。
縦軸の下の方は市場の成長性が低い状態で、上の方が市場成長率が高い状態。
横軸は、左側が市場シェアが高い状態で、右に行くほど市場シェアは低くなると考えてください。

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そしてこれを、漢字でいうところの田んぼの田の字のように4つの領域に分けて、それぞれに名前をつけていきます。
市場成長率が高く、市場シェアが低い状態は『問題児』 同じく市場成長率は高いが、市場シェアも高い場合は『花形』
市場成長率は低いが、市場シェアが高いのは『金のなる木』 そして、市場成長率も市場シェアも低い状態が『負け犬』です。

基本的な考え方としては、新規投資をするのは市場成長率が高い事業のみとなります。つまり、PPMでいえば上のカテゴリーだけということです。
そして、事業が負け犬のカテゴリーは経営資源を振り分けず、撤退を考えます。
金のなる木についても同様に、利益が出ている間であっても、出費は生産を維持するための修繕費などに抑えて、新規の投資は積極的に行わないようにします。この理由は、後で話していきます。

問題児からスタート

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さて、新規事業として始める場合は、基本的には問題児から始まります。 何故なら、シェアについては今まで参入していなかった市場に新規参入しているために、市場シェアは握っていません。
また、せっかく新規参入をするのに、わざわざ衰退市場を選んで新規参入するなんてことは、基本的にはしないからです。
事業によっては、既存の製品を新市場に向けて販売しているので、負け犬から始まるという事業もあるかも知れませんが… この場合は既存製品の生産設備を流用するため、新規投資は必要ありません。

その他の例外としては、一部の市場でもの凄く名前の通った企業ブランドを持つ企業が関連分野に参入するため、最初からある程度のシェアを握っているという場合は、いきなり花形から始まりますが…
こういったケースは大企業に多く、この番組が想定している中小企業では少ないと思いますので、あまり考えなくて良いと思います。
つまり、新規投資が必要な事業を新たに始める場合は、大半が問題児から始まると考えて良いです。

黎明期はキャッシュがマイナス

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その問題児も、うまい具合に市場シェアを取ることが出来れば『花形』に成長しますが、この花形に入ったからと言って、安心できるわけではありません。
前回も言いましたが、製品や事業のライフサイクル的には、企業の生命線と言えるキャッシュは成長期の半ばまではマイナスで推移するため、売上は急激に伸びているのにお金がないという状態が続きます。
そこで体力が切れて倒れてしまうと元も子もないため、気を抜かずに注意し続ける必要があります。

この後、花形での投資がうまく行き、市場シェアを維持し続けることが出来たとしても、業績は無限には増えていかず、いずれ頭打ちとなります
前回、事業や製品のライフサイクルを表にするとS字型になると説明しましたが、S字型になるということは前半だけでなく後半も、業績は頭打ちになった後に落ちていくということです。
何故、市場シェアを維持し続けているのに売上が伸びずに下がっていくのかというと、市場の方に限界があるからです。

製品が売れる限界

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事業や製品だけでなく市場にもライフサイクルというものがあり、一つの市場は、昔は30年と言われ、今では数年で寿命が尽きて終わるといわれています。
何故、市場の寿命が尽きるのかというと、まず基本として、市場には需要量というものがある程度決まっていて、上限があるからです。
テレビであれ自動車であれ、欲しいと思っている人の割合はある程度決まっています。 宣伝や新たな価値観の提示によって、需要を少し増やすことはできるかも知れません。

例えばドラッガーは、著書の中で冷蔵庫をエスキモーに売る話を例にして、新たな価値観によって需要を増やせるといっています。
エスキモーの住む土地は寒く、表に出すだけで全てが凍ってしまうほどの気温であるため、本来であれば食品を冷やす機械なんてば必要ありません。
しかし、冷蔵庫を食品を冷やして保存する道具ではなく、凍結を防止するための道具として新たな価値を提案すれば、需要のないところに新たに需要を作り出すことが可能だということです。

このようにして新たな価値観を提示すれば新たな需要を生み出せるかも知れませんが、だからといって売り方を変え続ければ冷蔵庫が1兆台売れるのかといえば売れません。
冷蔵庫の必要量はある程度決まっているので、どこかで頭打ちとなります。 需要が満たされてしまえば、後は買い替え需要を狙うしかなくなります。
つまり、市場の成長率は最初は高いけれども、その後どんどん鈍化していって、最終的には減少に転じるということです。

製品ライフサイクル

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誰も冷蔵庫を持っていない状態と、買い替え需要を待つだけの状態。 どちらが勢いよく売れるのかといえば、当然、誰も冷蔵庫を持っていない状態です。

しかし、誰も冷蔵庫を持っていない状態は続きません。 メーカーとして経営を続けていき、需要を満たし続けていれば、いずれ商品は顧客に行き渡ってしまうため、販売量は頭打ちとなります。
この間も当然、新規参入は後を絶ちません。 ライバルが増える中でシェアを維持しようとすれば、顧客に選ばれるために製品の差別化をしていかなければなりませんが、その差別化にも限度があります。
差別化ができなくなると価格引き下げ競争に突入しますが、価格競争になってしまうと利幅が少なくなってしまうため、同じ量を売ったとしても利益は少なくなってしまい、市場の魅力は薄れていきます。

この他にも代替品の登場によって、市場そのものが急激に衰退してしまうケースもあります。
代替品については、過去に『5フォース分析』を取り扱った際にも説明しましたが、新たな製品の登場によって、既存の製品の意味が無くなってしまうことです。

例えばスマートフォンの誕生によって、カーナビやガラケーや安価なデジタルカメラなどの市場が荒らされて、それらの市場は縮小してしまいました。
新たに画期的な商品が誕生したことによって、それまで売れていたものが陳腐化してしまい、市場が大幅に縮小してしまうというのはよくあることです。

これは素材についても同じことがいえます。 例えば一時期、中国がレアメタルの輸出を渋った時期がありましたが、その動きによって代替品を探そうという事になりました。
こういったことがなくとも、企業は常にコストを意識しているわけですから、仕入れが簡単で安価で手に入る代替品を探し続けています。
これらの原因により、市場の成長率は徐々に低下していきます。

市場成長率の低下 『花形』から『金の成る木』へ

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問題児の企業が頑張って市場シェアを増やし、『花形』に移行しても、その後は市場の方の成長率が下がることで、花形だった事業は『金のなる木』に変わります。
市場の成長率が下がっているのに、何故、『金のなる木』になるのかというと、成長期に行った投資によってすでに設備があり、シェアも握っている状態であるため、その事業のために新たにコストがかからないからです。
コストが掛からないのに、市場シェアは高い状態を維持しているため、この事業では利益が出続けます。

何故、利益が出るのかというと、大部分のシェアを握っているからです。 先程、市場成長率の低下の原因の1つに価格競争を上げましたが、企業が作る価格は作る量に依存します。 つまり量が多ければ多いほど、コストは安くなります。
このことは、前にも紹介したかも知れませんが、規模の経済と言います。 規模が大きくなると、材料仕入れ値を下げたり、生産ラインの効率を上げたりすることで、コストが下げられるからです。
生産コストが一番安い上に販売量が一番多く、新規投資が必要がないのであれば、その強みを生かして更に市場シェアを伸ばすことも可能ですし、新規投資がないために利益は出ていかずに社内に残り続けます。

つまり、出費はないのに利益が出続けるために、『金のなる木』と呼ばれます。この『金のなる木』に分類された事業から生まれる利益ですが、どうするのかといえば、単に溜め込んでいても意味はないために新たな『問題児』に投資します。
その後、『金のなる木』の市場が採算側無いほどまでに縮小してしまったら、その事業からは撤退します。
この様に、市場成長率が低下してきた事業から上がった資金を新規事業に流用していくことで、会社を持続的に発展させていくことを目指すのが、PPMとなります。

これで、プロダクトポートフォリオマネジメントの話は終わりますが、次回は、PPMの説明をした際に話題に出した、ライフサイクルの話をしていきます。