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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第31回【経営】アンゾフの成長ベクトル(3)

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目次

注意

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。

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前回はこちら

kimniy8.hatenablog.com

市場浸透化戦略

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前回は、市場浸透化戦略と多角化戦略について話していきました。
簡単に振り返ると、市場浸透化戦略は既存の市場に既存の商品を投入していくもので、基本的には市場が生まれて発展していっている段階の市場や、市場が成長期に入っている時に取る戦略です。
自分たちがずっと携わっていて、情報も豊富にある市場に、既に販売実績があって製造のするためのノウハウもある商品を投入するわけですから、一番リスクの少ない戦略と言えます。

その為、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源に乏しい中小企業が、一番取りやすい戦略といえます。
具体例をあげると、20代~30代の女性をターゲットにしているアパレルメーカーが、一度その市場の消費者に受け入れられた事がある商品の色違いや柄違いなど、ヴァリエーション違いの服を新たに投入するような感じです。
売れ筋が分かっている市場に対して売れているものを提供するため、ある程度の販売予測も建てられて利益の計算もしやすいため、リスクは小さくなります。これにより、市場シェア拡大を目指します。

ですが先程もいったように、市場が成長していたり、少なくとも市場が維持できている時に取る戦略となります。

多角化戦略

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では、市場が縮小していっている状態のときはどうすれば良いのかというと、別の成長している市場に対して新たな商品を開発して投入する必要があります。
何故リスクを取ってまで、今まで参入してこなかった市場に参入しなければならないのかというと、そのまま市場に残っていたとしてもジリ貧になるからです。

市場自体が縮小している状態では、例え市場のシェアを自分たちが握っていたとしても、売上は縮小していきます。
その市場に対して新商品を投入したとしても、商品同士で食い合いを行うカニバリゼーションが起こってしまい、コストに対して売上が伴わなくなってしまいます。
それなら、多少リスクを取ったとしても、新たな成長市場に参入するために製品開発を行ったほうが良いでしょう。

前にマーケティング1.0~4.0というのを紹介しましたが、新たに生まれた成長の早い市場で、製品が需要に間に合っていないような場合では、消費者はメーカーの信頼性などを観ずに商品だけをみて購入してくれる可能性もあります。
その為、全く実績のない新規参入であったとしても、それなりに成功する可能性はあるので、衰退している市場にしがみついているよりは良いと思われます。
ただ注意としては、多角化はリスクも高いため、参入する場合は経営資源に余裕がある時に行うべきです。市場とともに会社も衰退し、余裕がない状態で参入した場合は、更にリスクが高まると考えたほうが良いです。

新市場開拓戦略

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今回取り扱う、新市場開拓戦略と新商品開発戦略は、リスク的には、市場浸透化戦略と多角化戦略との間の戦略といえます。
というのも、製品か市場のどちらか一方は既存のもので、自社に既に情報があるからです。その為、両方とも新たなものを取り扱う多角化に比べるとリスクは減少します。
しかし一方は新規のものを相手にしなければならないため、市場浸透化戦略と比べるとリスクは高まってしまいます。

それぞれの具体例としては、『新市場開拓戦略』ではその名の通り、扱う製品はそのままに、新たな市場を開拓します。
先程の20代~30代の女性をターゲットにしているアパレルメーカーの例で考えるなら、今まで小売中心で販売していたものをネット販売にも進出してみるとか、国内販売だけだったものを海外市場展開するとか…
他には、今までの商品と雰囲気はそのままに、ターゲットの年齢層を変えるとか、男性服市場に進出するなどです。

新商品開発戦略

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次に『新商品開発戦略』ですが、これは先ほどとは逆で、市場はそのままで商品自体を変えてることです。
例えば、ガラケーが主流だった時代に、携帯電話市場でスマートフォンを発売するといった代替品やヴァージョンアップした商品を発売するといった感じです。
機種の大きさを変えるとか、色を変えると言ったモデルチェンジなども含めます。

先程の新市場開拓戦略との違いがわかりにくい方もいらっしゃるかも知れませんが、基本となるのは市場はそのままに、既存製品のモデルチェンジや代替え品を販売するということです。。
何故なら、商品自体を大きく変えてしまうと、市場そのものが変わってしまうからです。
その為、商品の改良は市場が変わらない範囲で行われるのが特徴です。

2つの戦略の違い

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この新市場開拓戦略と新商品開発戦略ですが、結構、見分けがつきにくいと思います。理由としては、市場の捉え方があやふやだからです。
アパレル企業が服を作る場合は、服という一つの製品を作って販売しているとも考えられますが、それが、女性市場・男性市場・若者向け・シニア向けと市場が別れてしまえば、その市場間の移動は新市場開拓となってしまいます。
この市場の分け方は、考え方によってはどうとでも定義できてしまうため、新たに作った製品が新製品なのか、既存製品で対象とする市場が変わっているのかがわかりにくくなります。

コアとなる考え方

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ですが、実際の経営で使用する際には、コアとなる大体の考え方さえ覚えていれば大丈夫です。
これが経営学部の学生で、試験対策のために細かい部分まで覚えなければならないというのなら話は変わってきますが、実際の経営に活かす際には、重箱の隅をつつく様な細かいことは覚えなくても良いです。
何故なら、この分類が正確にできたからといって、コスト削減できるわけでも売上が伸ばせるわけでもないですし、選んだ戦略の成功確率が上がるわけでも無いからです。

コアとなる考え方としては、その市場に長く携わっていて、情報も豊富にあって人脈も構築できていて、利用できる経営資源が豊富にある場合は既存市場と考えます。
そこに対して、今まで自社が販売してこなかった新たな製品を開発して投入していく場合は、新商品開発と考えます。
逆に、その製品を製造するための経験やノウハウが豊富にある場合は、既存製品と考えます。その製品を今まで売ってこなかった市場に投入していく場合は、新市場開拓戦略となります。

市場か製品のどちらかの知識や経験が豊富で、それを利用して新たなものに挑戦していくのが、『新市場開拓戦略』と『新商品開発戦略』となります。
市場と製品の両方に対して知識も経験もノウハウもある場合は『市場浸透化戦略』となり、逆に両方に知識も経験もノウハウもない場合は、『多角化戦略』となります。

関連多角化と無関連多角化

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余談となりますが、ここで説明している多角化戦略とは、無関連多角化のことです。
多角化には、『関連多角化』と『無関連多角化』があります。
両者の違いとしては、本業に全く関係がない事業に進出するのが無関連多角化で、本業に関連性のある分野に進出していくのが関連多角化です。

無関連多角化のように、右も左も分からない様な、全く関係が無い市場に進出する企業があるのかと思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これは実際にあるんです。
その企業が独自で市場を開拓していく場合もありますし、企業買収によって多角化を進めていく場合もあります。
こうして膨れ上がった企業のことをコングロマリットなんて呼んだりもしますが、このコングロマリット化は1960~1970年にアメリカで流行っていたりもしました。

この時は、主に企業や事業を買収するM&Aによって、多数のコングロマリットが誕生したようですが、結果としては上手くいっていません。
何故なら、方向性が全く違う企業同士が無理やり一つになったところで、経営理念も共有できないでしょうし、方向性が違いすぎればシナジー効果も発揮することが出来ません。
シナジー効果多角化の詳しいことについては、次回に話していこうと思いますが、どちらにしても多角化はリスクが高く、成功させるには入念に戦略を練る必要があります。

戦略はハッキリと4つに分かれるわけではない

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話をアンゾフの成長ベクトルに戻しますと、ここで取り上げた4つの戦略は、デジタル的に不連続な形で別れているわけではなく、実際にはつながっています。
アンゾフの成長ベクトルは4つの領域に分けてはいますが、マトリクス図なので、取ろうとしている戦略が、その図のどこに位置するのかというのは、事業ごとに違いが出ます。
新商品開発戦略を選んだとしても、商品自体を大きく変えすぎず、既存の市場にも販売できるようなものを開発すれば、限りなく市場浸透化戦略に近い新商品開発先着となります。

一方で、思い切って大幅に商品を切り替えてしまうと、対象とする市場も若干ずれてしまうため、多角化に近い新製品開発戦略となります。
市場浸透化戦略に近ければ近くなるほど、リスクは少なくなりますが、顧客を分散できないというデメリットもあります。
逆に、多角化に近くなればなるほど、顧客や市場の分散が可能になりますが、事業が成功する確率は低くなっていきます。

自分たちの携わる市場と製品の先行きをみた上で、どの様な戦略をとっていくのか、それを整理するためのツールが、アンゾフの成長ベクトルです。
この話は今回で終わり、次回は先程話に出た、関連多角化と無関連多角化について話していきます。