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【Podcast #カミバコラジオ 原稿】第27回【経営】VRIO分析(3)模倣困難性

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
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目次

VRIO分析とは

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第25回からVRIO分析について話していますが、今回も、その続きとなっています。
VRIO分析を物凄く簡単に説明をすると、企業の競争優位性を測るための分析となっています。
この分析は4つの要素からなっていて、それぞれの要素の頭文字をとったものが『V』『R』『I』『O』となり、つなげて読むとVRIOとなります。

それぞれの頭文字が何を意味するのかというと、『V』が価値で『R』が希少性『I』が模倣困難性で『O』が組織力を表しています。
自社が持っているヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源が、価値や希少性・模倣困難性・組織力を持っているか持っていないかで、他社と比べて競争優位性があるかどうかを分析していきます。
第25回では価値と希少性について、前回は企業が行う模倣について話していったので、それらをまだ聞かれていない方は、そちらを先に聞かれることをお勧めします。

模倣について

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今回は、前回話した模倣をされにくくなる、つまり困難にさせる模倣困難性について話していきます。

前回の話を簡単に振り返ると、新商品開発にしても新事業を始めるにしても組織改革をするにしても、各企業が全くのゼロからアイデアを考えて実行し、上手くいくかどうかを実験するというのはコスパが悪いという話をしました。
新たなアイデアを考えるためにも費用がかかりますし、それを導入したからといって上手くいくかどうかはわかりません。
また、それを見極めるのにも一定の期間が必要なため、それなら、最初から他社が導入して上手くいっているシステムや商品やサービスをパクってしまったほうが早いです。

このパクるというのを別の言い方をすると、模倣するということになります。
イデアを模倣する方が楽で、模倣をすることによって効率が上げられるということは、逆に言えば、価値があって希少性が有る経営資源を自ら生み出した企業は、常に他社から『その経営資源の生み出し方を模倣しよう!』と狙われているということです。
もし、その方法が簡単に漏れてしまい、他社に真似されてしまえば、いくら価値があって希少性が有る経営資源を持っていたとしても、競争優位性を発揮できるのは一時的なものとなります。

自社の強みは秘密にする

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これを簡単に説明していくと… 例えば、価値があって希少性がある経営資源を持つ会社をA社とし、持っていない会社をB社だとしましょう。
B社は、価値があり希少性がある経営資源を持っていないため、それを持っているA社と争ったとしても、勝つことが出来ません。
しかし、A社がその経営資源の作り方を隠さずに誰にでも分かる状態にしていた場合、B社はA社が何故、価値があり『希少性が有る経営資源を持つことが出来るのか』を分析して真似することで、同じ様な経営資源を持つことが可能となります。

経営資源が同じ価値になれば、A社とB社に付いていた唯一の差がなくなるわけですから、B社はA社の強力なライバルになってしまいます。
つまりA社は、B社に模倣されてしまったことによって、市場において優先的な地位を維持し続けることができなくなってしまうということです。
ではA社が競争優位性を保ち、市場で上位に居続けるためにはどうすれば良いのかといえば、模倣困難性を高めて、経営資源を育てる方法をB社にパクられなければ良いのです。

特許

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では、どうすれば模倣困難性を高めることが出来るのでしょうか。
これにはまず、自社の経営資源に価値と希少性をもたらしているモノの原因が分かっているものと、分かっていないものに分ける必要があります。
例えば、特定の素材を開発し、その素材の取引で他社と圧倒的な差をつけているのであれば、自社が優位に立っている理由が分かりやすいので、その情報を徹底して守り抜くべきでしょう。

その素材の代替品が、5年や10年単位で定期的に開発されるのであれば、開発された時点で特許をとってしまうというのも良いかもしれません。
代替品が出そにない商品で、他社がその素材や商品を購入して分析してもレシピが分からないような製品であれば、製造方法を機密扱いして絶対に漏らさないようにして、敢えて特許を取らないという手もあります。
何故、特許を取らない選択肢があるのかというと、特許は出願する際に、製造方法などを細かく書いて特許庁に提出しなければならないからです。

提出した情報は、その後、誰でも閲覧できるようになる為、特許期間が切れてしまえば、その公開されたレシピを使って誰でも模倣することが出来てしまいます。
医薬品のジェネリック医薬品なんかが、これにあたります。 あれは、特許切れになったものを、同じ様な材料と製造設備を使って作ったものとなります。
医薬品には莫大な研究開発費が必要ですが、特許が切れたものを模倣して作るなら、その研究開発費はコストから省くことが出来ますので、割安で販売したとしても利益が出るということです。

つまり、特許を出願すると20年経過でその知識は広く一般に広まってしまい、誰でも真似することが可能になるため、競争優位性を確保できるのは20年限定ということになります。
20年以上、自社の情報を外に漏らさず、解析もされること無く守り通せる自信があるのであれば、特許を出願しないというのも一つの手です。
この様に、自社の強みとなるものが明確に分かっているのであれば、その情報を徹底して守るというのが定石となります。

因果関係の不明性

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一方で、自社に強みはあるけれども、その強みが何故、発生したのかが分からない場合というのもあります。
この様な状態はどうなるのでしょうか。 自社の経営資源と自社の強みがどの様に関係しているのかが全くわからないけれども、何故か強みが発生していて、市場で優位な状態を維持できている状態なのですが、この様な状態は解消すべきでしょうか。
解消とは、経営資源と強みとの関係性を分析して、何故強みが発生しているのかを明確にすることですが、経営資源と強みとの因果関係を明確にすべきなのでしょうか。

これを聞かれている方の中には、因果関係をハッキリさせなければ再現性が得られないので、ハッキリさせるべきだと思われる方もいらっしゃるでしょう。
再現性というのは、その道順さえたどれば、同じ様に強みを作れる状態というりかいで良いです。
例えば新たな会社を立ち上げた場合や、会社が大きくなって新たな事業を立ち上げた場合に、今持っている強みと同じものを作り出そうと思うのであれば、強みの原因となるものが分かっていないと再現ができません。
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これは確かにその通りなのですが、模倣困難性という観点からみると、強みの原因や強みが生まれた理由はわかっていなくても大丈夫です。
何故なら、強みが生まれた理由が分からないことで、模倣困難性が高まるからです。このことを、因果関係の不明性といったりもします。
社内の強みと経営資源との因果関係が不明な場合に模倣困難性が上昇する理由は、簡単に言えば、強みが生まれた理由をその組織に所属している人間が分からないのに、他人にわかるはずがないからです。

経営者や、経営者の元で働く社員は、自分の会社の雰囲気も人間関係も取引先との関係も、何もかも分かっている状態です。一方で、強みを模倣しようと思っているライバル会社は、その会社を外からみて分析するだけとなります。
外から観察して分析すると客観的な分析ができるというメリットはありますが、当事者とは情報量に差があり過ぎるため、当事者に比べると正確な分析はできないと思われます。
この様に、自社でも強みの原因が分かっていない場合は、強みと経営資源との因果関係不明性によって、模倣困難性は高まります。

経路依存性

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この他に模倣困難性が上がるケースとしては、その会社が長年かけて積み重ねてきた歴史的な要因によって模倣されにくくなるケースがあります。
専門用語でいうと経路依存性といって、元々は経済学の言葉となっています。
この経路依存性という言葉を簡単に説明をしますと、今現在の直接の強みとは直接関係がない、過去の出来事の積み重ねによって、強みが発揮されている状態のことです。

ある程度長く続いている会社というのは、景気の浮き沈みの中で揉まれながら成長していくわけですが、その中で、独自の経験をしていくことになります。
何故独自かというと、各会社が持っている経営資源にバラツキがあり、全く同じ経営資源を持つなんてことはないからです。
経営資源が違えば、例え同業他社であったとしても、会社が経験することは変わってくるわけですから、会社はそれぞれ独自の経験を積み重ねることになります。

その経験の積み重ねは長い年月を重ねることで歴史となるわけですが、その歴史によって自社の強みが生まれている場合は、経路依存性によって強みが生まれたことになります。
この強みというのは、他社が真似しようとしたところで、簡単には真似することができません。 何故なら、その会社の強みは、その会社が持つ経営資源と外部環境の景気がもたらす効果によって、数十年掛けて熟成されてきたものだからです。
その状態を、ぽっと出の新会社が簡単に真似できるはずはありません。 同じ強みを身に着けようとした場合、似たような経験を数十年掛けて身につける必要があります。

身につけるのに長期間かかるということは、簡単には真似することができないということなので、模倣困難性は高くなります。

この他には、社会的複雑性なんてものもあったりするのですが、その話とVRIO分析のまとめについては、次回に話していきます。