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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】第105回【ソクラテスの弁明】調教師 前編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

目次

今回も前回と同じ様に、プラトンが書いた『ソクラテスの弁明』の読み解きを行っていきます。
著作権の関係から、本を朗読するわけではなく、私が読んで重要だと思った部分を取り上げて考察する形式になっていますので、興味のある方は、ご自身で本を読まれることをお勧めします。

賢者を求めて

前回までの話を簡単に振り返ると、ソクラテスは、政治家のアニュトスと弁論家のリュコンを後ろ盾にしたメレトスによって訴えられます。
訴えの内容としては言いがかりに近いものなのですが、この者達は、そう思われないためにも、事前の準備を入念に行ってきました。
具体的には、アニュトスなどの発言力が有る者達が、そこら中で、『ソクラテスは科学に没頭するあまり、神を信じずに軽視している。 そしてその教えを青年に伝えて、授業料と称して金を巻き上げている』と言いふらしました。

ただ、アニュトス一人がこんな事を言いふらしたとしても、信じる人は限定されていたでしょう。しかし、彼には、多くの味方がいました。 それが、賢者と呼ばれていた人達や職人、吟遊詩人達です。
何故、この人達がアニュトスに力を貸すようになったのかというと、ソクラテスによって恥をかかされた経験があるからです。

ソクラテスは、人が幸福になる方法や、優れた人間になる方法、人を良い方向に導く方法などを、日々、研究していましたが、その答えどころか緒すら見つからない状態でした。
彼の苦悩を身近で観ていたカイレフォンは、少しでもソクラテスの助けになればと、デルフォイの神託を受けに行った所、『この国で一番賢いのはソクラテスだ』という神託を受けてしまいました。
これによって、更に思い悩んだのがソクラテスです。 自分は、何の答えも見つけ出していないし、その方法すらつかめていない無知なものなのに、そんな自分が『一番賢い』と言われても理解が出来ません。

彼は、『きっと、神でも間違うことが有るのだろう。』と思い、その神託が間違っていることを証明する為に、賢者と呼ばれている様々な人に会いに行き、対話することによって、自分よりも賢い人を探し始めました。

恥をかかされる賢者たち

彼は、弟子を多く抱える賢者に会いに行っては、『私は無知なので、知恵を授けて欲しい』と言って、自分が研究対象にしてきたアレテーについて、賢者に訪ねます。
対話篇のプロタゴラスなどを読むに、彼は教えを請うときには、人払いをして2人きりで対話をするほうが良いのか、それとも弟子の前で対話をするほうが良いのかを訪ねていましたが、多くの者が、弟子の前での対話を望みました。

何故なら、ソクラテスという名はそこそこ売れていたようなので、多くの賢者たちが、有名人の彼に教えを授けることで、自分に泊をつけようと考えていて、その証人として弟子にその現場を見せつけようと考えたのでしょう。
しかし対話を進めていくと、全ての賢者が、最も根本的なことである『正義』や『勇気』についてすら知らないことが判明してしまいました。
結果として賢者たちは、弟子の目の前で自分が無知だと暴露された事になり、この営業妨害にも似た行為に腹を経て、彼に罵声を浴びせて追い返しました。

ソクラテスが全ての賢者に声をかけ、その者達が無知であることが証明されてしまうと、彼は次に、吟遊詩人や職人といった人達にも質問を投げかけていき、彼等の無知を証明してしまいます。
結果としてソクラテスは、多くの賢者と職人、吟遊詩人を敵に回し、彼等から恨まれる事になってしまったというのが前回までの流れでした。

ソクラテスの仲間

この様にソクラテスは多くの敵を作ってしまったのですが、その一方で、ソクラテスたちの対話をそばで聞いていた聴衆の中から、『多くの賢者や専門家たちを言い負かしたソクラテスこそが、真の賢者ではないのか。』という者が現れ始めます。
そして、その中には、ソクラテスの弟子になりたいというもの出てきました。 彼自身には、教えるものは何もないですが、傍にいたいという人を追い返すこともないので、ソクラテスは彼らを同行させていたようです。
彼は、弟子志願者の同行は許しましたが、彼ら自身に教えること自体はないので、弟子…というか仲間たちは、賢者とソクラテスが対話する際には同行し、その対話内容を聞き続けました。

そうした活動を長期間続けていると、ソクラテスと行動を共にしていた青年たちは、ソクラテスの話し方や考え方を吸収し、『自分たちにも同じような事が出来るのではないか?』と思うようになり、真似をするものが現れ始めます。
この青年たちが、賢者に論戦を挑んでいった理由は不明ですが、おそらく、ソクラテスとは違った理由で論戦を挑んでいったものと思われます。
というのも、青年たちがソクラテスに付き従っているのは、彼等がソクラテスの事を『賢者を言い負かすことが出来るほどの賢者だ』と思っているからですが、実際のソクラテスは、彼自身が主張している通り無知な存在です。

この部分で、弟子とソクラテスとの間に大きなギャップがあります。
その為、弟子たちの中には、自分自身の無知を解消するために賢者たちに挑んでいったわけではなく、ソクラテスの使う話術を模倣すれば、自分も賢者を言い負かして有名になれるのではないかと思いこんで、実践している者もいたはずです。
ともかく、ソクラテスと行動を共にした青年が、同じ様に賢者に対して論戦を挑んで言い負かすという事態が繰り返されることになりました。

恨まれるソクラテス

これによって賢者たちは、ますます、ソクラテスに恨みを抱くようになります。
何故なら、賢者たちから見れば、ソクラテスの教えを受けたものが道場破りのようにやってきては、営業妨害をして返っていくという状態が繰り返されているからです。
実行している青年たちに対しても恨みを抱いていたでしょうが、その青年たちを指導する立場に有るソクラテスに対して、より深い憎しみを抱くようになっていきました。

この様な経緯で、ソクラテスは賢者だと持て囃される一方で、憎まれるような存在となっていきました。
ソクラテスを憎んでいる賢者側としては、彼やその弟子に当たる人物に負けたから憎んでいるというのは口が裂けてもいえないので、自分が敵対してる理由に正当性を与えようとして、ソクラテスを罪人に仕立て上げたんでしょう。
その罪状が『自然や物理について論理的に考えて研究し、神々を信仰しようとしない。 また、よく分からない理屈を使って間違ったことを正当化しようとする。』といったものでした。

ソクラテス達に論破されて恥をかかされた者達は、自らのプライドを守り、尚且、ソクラテスに復習する為に、アニュトス達が掲げた尤もらしい理由に飛びつきます。
結果として、アニュトスは政治家の代表として、リュコンは弁論家の代表として、そしてメレトスは、吟遊詩人の代表となり、今回の裁判が開かれることになったというわけです。

反論

前回、ソクラテスは、自身を非難する人達を、アニュトスをはじめとした、積極的に行動を起こしてソクラテスを破滅させようとする人達と、ソクラテスのことはよく知らないけれども、なんとなく批判している人達に分けました。
後者については、これまでの説明で理解が出来ると思います。 要するに、一部の賢者と呼ばれる人達が恨みをつのらせて、自分の立場を守るために『ソクラテスは悪者だ』と言いふらし、それに事情をよく知らない人達が便乗したというわけです。

次に、実際に訴えるという行動を起こしてまでソクラテスの失脚を願った人たちに対して、反論していくことにします。
今回、実際に訴えたメレトスの主張をみてみると『ソクラテスは、青年に良からぬことを吹き込んで堕落させ、国家で定めた神々を信仰せずに、独自のダイモニアを信仰している。』といい、訴えを起こしています。
ダイモニアというのは、神と人間をつなぐメッセンジャー的な役割である精霊といった、ギリシャ神話の神々と認められていない存在と理解してもらって良いと思います。

では、この訴えを分解し、一つ一つ、それが真実かどうかを見ていきます。