だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

第67回【ゴルギアス】最強の能力を手に入れる為の技術 後編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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目次

人が一番求めているものとは何か

そこでソクラテスは、ゴルギアスから具体的な答えを引き出す為に、世間一般で大衆が関心を持って求めているものを3つ挙げることにします。 もしかしたら、その中にゴルギアスが主張する人間が一番求めているものがあるかもしれませんからね。
この当時は、酒の席などで頻繁に歌われていた詩の中で人間が求めるものとして、1番目は『医者の技術』2番めは『健やかで優れた肉体』3つ目は『正しい方法で手に入れた財産』。この3つに大きな関心を持っていると歌われていました。

ひとつひとつ見ていくと、まず3つ目の正しい方法で手に入れた財産とは、不正を行わずに事業などを起こしてお金を儲ける方法と言い変えることができます。
何故、不正をしてはいけないかというと、捕まる可能性にビビりながら生きていかなければならないからでしょう。
現在でも、お金の稼ぎ方に興味を持つ人も多いですよね。 情報弱者を相手にした意識高い系の会員制サロンなども、犯罪などを犯さずに出来るだけ楽に金儲けをする方法を匂わせて、人の関心を引いていますよね。
お金は、無くて困ることは有っても、有って困ることは少ないので、みんな、犯罪を犯さずにできるだけ楽にお金を稼ぐ裏技には関心があると言えます。

次に、健やかで優れた肉体。 これが2番目に来ている理由も、何となく分かりますよね。
いくら事業で成功して、不労所得によってお金が大量にあっても、病気や怪我によって、一生、病院のベッドの上で過ごさなければならなければ、持っているお金も使えない為、無意味となってしまいます。
逆に、お金がなくても健康的な身体を持っていれば、贅沢は出来なくても、小さな幸せを見つけて生きていくことが出来るので、健康で、尚且、いろんな事にチャレンジできるような優秀な身体は、お金以上に大切なものだと言えます。

またこの時代は、頻繁に戦争が行われていて、スパルタのように職業軍人が居ないアテナイでは、戦争のたびに市民が徴兵されて参戦しなければならない事態も多かったようです。
優れた健康的な肉体を持つものは、戦争中でも生き残る確率が格段に上がるでしょうから、この様な肉体を維持する事は、自分自身を長く生きながらえさせることにも繋がります。

最後に一番関心のあるのが、医者が持つ技術です。 仮に、大きな病気や怪我をしたとしても、優れた技術を持つ医者がいて、その人間を金で雇うことで自分の体を治せるのであれば、それは大きな関心になりますよね。
また、自分自身が優れ技術を持つ医者を目指すことで、お金も健康も手に入れることが出来る可能性があります。
こうしてみてみると、一番に重要視されるのは健康的な状態で生きることで、その上で、お金があって自由に振る舞える事が一般市民の考える幸福な状態ともいえるんでしょう。

人を支配する能力

これらの技術を職業に当てはめて考えていくと、1番目は医者だし、2番めはトレーニングコーチですし、3番目は実業家という事になってしまい‥ ゴルギアスが主張する弁論家というのは、入っていません。
ゴルギアスの言い分としては、酒を呑んで騒いでいる人たちの間で好まれている詩は、その人達でも理解できるような分かりやすい言葉だけで作られているために、真実が含まれていない。
物の道理が分かっているものにとっては、弁論術こそが一番重要な技術で、この重要さが理解できれば、皆がこの技術を習得したいと思うような技術だと言いたいようです。

では、皆がその技術を習得したいと思う、最も素晴らしい技術とは何なのか。 それを身につけると、どのような事が出来るのか。
ゴルギアスによると、弁論術を身につけることによって、人を支配して自由に操れる能力が身につき、その能力により、どの様な権力にも縛られずに自由に生きることができるそうです。

ようやく、弁論術がどのようなものかが分かり始めてきました。
家を建てる能力があるのが大工、絵を描く能力があるのが画家とするなら、弁論家は人を支配する能力を持つものということのようです。
確かに、口の上手い人間というのは、他人を自分の意のままに動かせたりします。
オレオレ詐欺なども、電話で話しかけるだけで、相手に何百万という大金を自分の口座に振り込ませることが出来るわけですから、口の上手さというのは人を支配できそうな気がします。

先ほどソクラテスが宴会の場などで好まれる詩に出てきた、医者や実業家などの職業の人も、言葉巧みに自分の味方に引き入れてしまうことができれば、彼らの能力をタダで利用することが出来るかもしれませんし…
何なら、彼らを自分の支配下に置いて、彼らに働かせて、その利益だけを自分のものにするなんてことも可能かもしれません。

自分より上の立場の権力者が、自分に対して命令を下させる立場であったとしても、言葉巧みに権力者を説得して操ることができれば、その権力からも逃れることが可能になります。
この、相手を説得する技術こそが、ゴルギアスが主張するこの世で最も優れた技術というわけです。

最強の能力とは支配

確かに、相手を説得することで自分の意のままに操ることができれば、それは最強の能力とも言えます。
例えばアニメ作品で、『コードギアス 反逆のルルーシュ』という作品がありますが、この主人公は、相手の目を見て命令を下すと、相手が絶対に命令を聞いてしまうという絶対遵守の能力を手に入れます。
この能力を手に入れたことによって、学生の身でありながら、個人で世界最大の軍事力を持つブリタニア帝国に匹敵する力を手に入れます。

人を支配するということは、その人間が持っている能力も自分のものとして利用することが出来る為、自分に力がなければ力を持つものを仲間に引き入れればよいし、戦略を練るのが苦手なら、戦略家を引き入れれば良い。
自分に足りないものを、人を支配下に置くことで補っていくことが出来るのであれば、最強の能力といっても過言ではない能力です。

ゴルギアスから、弁論術はどのようなものかという答えは聞き出せたのですが、しかしここで新たな問題が出てきます。
説得とは、何についての説得なのでしょうか。 医者に対して医学の分野で説得をしようと思った場合は、少なくとも、説得をしようとする相手以上の専門知識が必要になります。
医学に限らず、その道の専門家を説得しようと思えば、その人物以上の専門知識が必要になりますが、この様な人たちをどの様に説得するのでしょうか。

専門知識では張り合わずに、別の分野に土俵を移して説得するのでしょうか。では、その別の分野とはどの分野のことでしょうか。

その事については、また、次回に話していこうと思います。
kimniy8.hatenablog.com