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【映画ネタバレ感想】『アリータ・バトルエンジェル』原作から哲学要素を抜き取ってアクション映画に仕上げた感じ?

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先週末のことですが、『アリータ バトルエンジェル』を見てきました。


この作品は、木城ゆきと氏が描いている漫画『銃夢』を原作とする映像作品です。
私は、中学時代にこの作品を知り、そこから今現在も読み続けている大好きな作品の一つです。
この作品を知った事で哲学に興味を持ち、趣味で哲学系のコンテンツまで作る事になってしまったキッカケとなる作品だったりします。

簡単な感想

一言で感想を書くと、アクション映画としては大変楽しめた作品でした。
モーターボールやグリュシカ戦(原作マカク)など、原作の前半部分でアクション的に面白そうな部分を寄せ集めてきた事で、スピード感溢れる作品になっていて、飽きさせない作りになっている。

バトルによるアクションだけにならず、ヒューゴとの恋愛要素も上手く物語に組み込まれていて、誰にでも楽しめるような作りに仕上がっていたのは、流石だなと。
原作ファンを喜ばすようにか、細かい設定部分も忠実に再現していたりね。

例えば、クズ鉄街を出た時に、街を囲む兵がゼリー状のものが吹き上がってるものになってたり。
あの設定って、原作でも1シーンしか出てない上に、それほど注目された部分でもなかったのに、その部分をCG使ってまで再現してるってのは、こだわりを感じますよね。
こういうこだわりを持って作っているからか、メインの舞台となるクズ鉄街も結構いい雰囲気が出ていたりします。(少しきれいすぎる気もしましたが)

ストーリー的には、設定だけを残してストーリーを1から構成した作りになっている為、原作ファンの中には不満を持つ人もいるのかもしれないけれども、2時間の枠で話を決着させなければならないため、この様に変えられたのも仕方のないことかもしれないと思いました。
個人的には、イドの奥さんという新キャラが必要なのかとも思いましたが、後に調べてみると、今回の映画は銃夢の漫画版の映像化ではなく、OVAの実写化のようで、OVAの方にはチレンも登場しているようなので、これはこれで良いのかなと。

簡単なストーリー (ネタバレあり)

サイバネ医師のイドが、空中都市ザレムから投棄されているゴミ山から一人の少女の頭部を見つけ出す。
頭部を残して体の大部分はない状態だったが、幸い、脳が無事だった為に自分が経営する病院に連れていき、自分の娘の為に作った体とアリータという名を与え、自分の娘のように育て始める。
この時に、イドの知り合いとしてヒューゴとも出会い、互いに少し意識し出す。

何の不自由も無く、イドの娘として自由に暮らすアリータだが、イドが夜な夜な変わった格好で出ていくのを目撃し、何をしているのかが気になって後をつけていく。
すると、大きなハンマーを持ち、女性を待ち伏せしているイドを発見。 この時は、女性を狙った連続殺人が話題に鳴っており、状況から見てイドが犯人だと思ったアリータは、イドを止めるが、実際にはイドは犯人ではなく、連続殺人犯を追っていた賞金稼ぎだった。
3人の犯罪者がイドとアリータを囲み、絶体絶命の状態になるが、アリータが突然、武術で応戦し、それと同時に過去の記憶が少しだけ蘇る。

戦いに身を投じると記憶が蘇るかもしれないと思ったアリータは、賞金稼ぎになりたいと言い出すが、イドはそれに反対し、アリータが反抗期に突入する。

イドと仲違いし、精神的に行き場を失ったアリータは、ヒューゴと共に過ごす時間が増え、二人の距離が急速に縮まっていき、ヒューゴはザレムに行くことが夢だと打ち明ける。
ザレムに行く方法は、ザレムと地上の橋渡しをしているベクターという人物が握っているらく、ヒューゴは彼とつながっている。
ザレムに行くには100万チップ必要だが、普通の稼ぎでは長い年月がかかるので、ヒューゴはベクターの裏稼業を手伝って犯罪を犯すことで稼ぎを得る。

このベクターという男は、アリータが武術に目覚めたきっかけとなった犯罪集団ともつながりがある人物で、犯罪履歴を消せるほどの影響力を持つ人物。
そして、イドの元妻のチレンとも、ザレムにいるノヴァとも繋がっていたりする。

ノヴァは、300年前の失われた技術で作られたアリータの動力源である心臓を求め、ベクターやチレンを使って奪おうとする。
当然、ベクター経由で部下のヒューゴも利用し、アリータをモーターボールの試合に出るように仕向ける。

ラストバトル突入という感じ。
実際には、これらに加えてザパンとの確執なども入ってくるのですが、そこまでの細かい紹介はしないので、興味のある方は映画を見ることをおすすめします。

少し気になった点 (ネタバレあり)

映画に対する全体的な感想としては、最初に書いたように、アクション映画としては楽しめましたが、少し気になる部分もありました。
それは、銃夢という作品のコアと表現しても良いような、哲学的なテーマが抜け落ちている事です。
銃夢という作品は、確かに格闘アクション要素が強い作品ではありますが、そこはメインではなかったりします。

『人間とは何なのか。』
『人が作り出した社会とは何なのか。』といった、哲学的なものが物語の中心にあって、格闘要素はスパイスに過ぎないというのが私の認識なのですが、今回の作品では、それらの哲学的テーマが完全に抜け落ちていて、格闘アクションよりの作品になってしまっている印象がありました。

その最たるものが、ノヴァという存在だと思います。
今回の映画作品では、絶対悪としてのノヴァが登場し、いわゆる悪者に属する人達は全て、ノヴァの手下ということにされています。
ザレムという、クズ鉄街の人々を上から見下す様な存在の都市が存在し、その代表的な人物であるノヴァが、地上の強欲な人々を操るといった感じの表現がされていて、その絶対悪のような存在を、正義の味方のアリータちゃんが武力で反抗するといった感じの展開に改変されていたのですが、その部分に関しては、かなり残念でした。

というのも、実際のノヴァ教授はどの様な人物なのかというと、『ザレム人の秘密』に気がついてしまい、『人とは何なのか。』という人類にとっての最大の原因を追求しようとした科学者です。
カルマ理論というのを打ち立て、人間の意志は何らかの法則に従って動くような機械的なものではないことを証明しようとし、意志の力が強いものとコンタクトを取り、相手が望む物を与えた上で、その行動を観察するといったことを研究として行っている人物です。
人間が、特定の条件下では同じ行動しか取れないという因果の法則を打ち破ることが出来れば、その時、人は初めて、因果の鎖から解き放たれて自由に歩めるという、かなり哲学的な研究内容である為、褒美をチラつかせたり恐怖によって他人を支配して、自分の思い通りに動かすという事は絶対にしない人物だったりします。

その様な人物である為、原作の方ではノヴァと手を組むことも何度か有ったりと、単純な悪者といった感じでは無いわけですが、今回の映画では、ノヴァという悪者がザレムにいて、そいつを倒す為にザレムに行く。 その為に、モーターボールでチャンピョンを目指すという感じのラストに鳴っていた為、なんだかな…と思ってしまったり。
(映画内では、下界の人間が唯一ザレムに行く方法は、モーターボールのチャンピョンになる事。)
(ザレム出身で、イドの元妻のチレンという人がパーツにバラされた時に、脳が普通に存在していた為、映画版では、『ザレム人の秘密』そのものが、なかったコトにされているのかもしれませんが…)

また、映画ではノヴァの使いっ走りとして登場したベクターさんも、原作の方ではもっと人間味溢れる人物だったりします。
確かに、グレーや法に抵触するような事にも手を染めるような人物ではありますが、心の底では治安が崩壊しているクズ鉄街を良くしたいとも思っている人物で、自分が影響力を付けることで、それを実現しようとも思っている人物だったりします。

その為、妙にカリスマ性があり、物語の重要な箇所で出てくる人物でもあるのですが、映画の方ではノヴァの使いっ走りとして出てきた上に、アリータに殺されてしまうという、何とも悲しい最後でした。

他に気になった点としては、ダマスカスブレードの入手のくだり。
元々はザパンのものだったものを、アリータが奪うという形で手に入れるのはどうなのかなと。 しかも所有者のザパンは『失われた技術で作られた古代の兵器』的な事を言って見せびらかしていたわけですが…
原作のダマスカスブレードは、モーターボール編で世話になるチームの人が用意してくれる代物で、クズ鉄街の刀匠が作った逸品です。

ダマスカス鋼は、あらゆる金属を混ぜ合わせた合金で、ゴミ溜めといわれているクズ鉄街でしか作ることが出来ない代物。
純粋過ぎる気持ちを持つガリィ(アリータ)に対して、『純粋な鋼は、その純粋さ故に、案外、脆んだそうだ。 だが、そこに不純物が入ることで、鋼は強度と粘りを得る。 つまり、不純物が鋼に命を吹き込むんだ。』と、どんな経験でも糧になるというメッセージを込めて渡される代物で、クズ鉄街の代名詞的な存在なんですが…
それが、『失われた技術』で作られてて、しかも人から奪ったら、意味ないような気がしてしまいました。

(画像は全てアマゾンリンクです)

映画のラストシーンでは、ダマスカスブレードをザレムに向けて、ノヴァに対して『首を洗って待っとけ』的な感じで睨みつける終わり方でしたが…
このシーンも、クズ鉄街の代名詞的な存在のブレードを掲げていれば、メッセージにより意味をもたせる事が出来たのにと思ってしまいました。

原作が好きすぎるので、色々と細かいツッコミや愚痴を書いてしまいましたが、最初にも書きましたが、アクション映画としては楽しめる作品に鳴っている為、SFやサイバーパンクに興味がある人は見てみれば良いと思います。