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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】 第40回 イオニア自然学 (1) 前編

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

カオスからパターンを認識する

前回までの2回で、人間の文化がどのように生み出されていったのかというのを、独断と偏見によって簡単に振り返ってみました。
簡単な内容としては、元々は、自分たちの目の前に広がっている自然を観察して情報を集めるという単純な所から始まりました。
数多くの情報が集まってくると、それぞれの情報を関連付けていく事で、その中に法則性を見出す様になっていく。

このパターン認識によって、単純に情報を集めるという事だけではなく、隠された法則を見出して、そこから世界の成り立ちを推測するという考え方に発展していきます。
ただ、人が自然を観察する、または、自身の経験などを通して得た情報を思いつきで結びつけていく為、生み出される法則も、現在の科学的な考えだけに限定されず、様々な考えが生み出されます。

夜空に浮かぶ星の配置から世の中の出来事を先読みするという法則は、現代の天文学も生み出しますが、同時に、占星術も生み出しますし、神話も神々も生み出します。
こうして生まれた様々な考え方は、その後に生み出された様々なアイデアや新たな法則を吸収していって、それぞれが、より大きな存在へと成長していきます。
成長した大きな思想は、それ自体が更に派生して枝分かれして、専門分野を生み出していくことになります。

この様な感じで、大木のシルエットのように枝分かれしていって、末端部分に近づけば近づくほど、それぞれの思想の個性はより強くなって行き、独自色を強めていきます。
例えば神話であったり、宗教であったり、シャーマニズムであったり占星術であったりですね。
こうして生まれた考え方の一つに、イオニア自然学派というものがあります。

イオニア地方

イオニアというのは土地の名前で、場所的には、バルカン半島の東の対岸に位置するところですね。国でいうとトルコにあたります。
ギリシャ人のポリスの一つとして誕生して、紀元前7~前6世紀に経済的に繁栄しますが、紀元前6世紀半ばにはアケメネス朝ペルシア帝国影響を強く受けるようになり、支配下に入るようになったようです。
ポリスは、共同体とか都市とかそういったものという捉え方で良いと思います。
ですが、その後、ペルシャから貿易活動の制限などの経済制裁を行われた事がきっかけとなって、ペルシャに対して反乱を起こし、それが、ペルシャ戦争へと発展する様までなったようです。

このイオニアで、神々といった神話以外の【自然】によって、この世の成り立ちを説明しようとする、タレスという人物が誕生します。
この、タレスという人物は、記録が残っている中では最古の哲学者と呼ばれている人物です。

最古の哲学者 『タレス

哲学というのは考えることの総称なので、今のように専攻といったものは無かったんでしょうけれども、簡単に調べた範囲でいうと、天文学や数学に秀でた人物のようです。
逸話としては、母親から常々、『哲学なんて金にならないものにうつつを抜かして…』と愚痴られていたそうなのですが、ある年、天文学を利用して翌年のオリーブの豊作を予知します。
そして、収穫シーズンではなく需要がない冬の間に、圧搾機械を全て借りて独占することで、収穫シーズンにそれを又貸しすることで大儲けをして、その気になれば金を稼げる事を証明したそうです。

では何故、今までは金儲けをしなかったのかというと、自分自身に金を儲けようとする気がない。 金や、それを消費することによって得られるものに関心がないからだったようですね。
金や、それを消費することによって得られる物やサービスよりも、真理の追求の方が魅力的だったんでしょうね。
その他には、特定の時刻に外に立って、自分の影の長さを測って、自分自身の実際の身長との比率を調べて、同じ時刻にピラミッドの影の長さを測って、ピラミッドの高さを計測したという話もあります。

このタレスですが、先程も書きましたが、神話や、それに登場する神々を用いること無く、この世を構成しているものを説明しようとして事で、注目を集めています。
一番有名な主張としては、万物の根源は水であるという主張です。
人間も、体中に血液が循環していますし、主成分である水を取り入れて血液をろ過しないと生きていけませんし、植物もそうです。
この世にあるモノのほぼ全てに水が含まれているので、そう考えるのも理解出来る気はしますよね。

この様な感じで、神々を用いずに自然界の物質のみで世の中の事を説明しようとする点では、現在の科学に近い考え方ともいえますね。
このタレスを中心に、自然界の物質のみで世界を説明しようという流れが起こって、イオニア自然学、または、ミレトス学派とも呼ばれる考え方が盛り上がってきます。

パターン認識によって生まれた神話

では、何故、この様な人達が出てきたのでしょうか。簡単に結論を言ってしまうと、何でも神々の存在で説明する事に、疑問が出てきたからです。
何度も繰り返しになりますが、人が文明を築き上げて行く一番最初は、自然を観察する事によってデータを集めるというところから始まっています。
そして、それらのデータの中から相関関係や因果関係を見つけ出し、人は、この世界の仕組みを読み取ろうとしてきました。

ただ、その情報量が膨大になってくると、それらの取扱に困ってきます。
全ての理論や、元となるデータを間違うこと無く覚えることは、相当な努力が必要になりますし、量によっては、その努力をしたとしても覚えることはできません。
文字が開発されていれば、書き残すことで後世に伝えていくという方法もあるでしょうけれども、今のように印刷技術が無い状態では、それらの情報に触れることが出来るのも、ものもごく一部となってしまいますし…
現代のように全ての人間が教育を受けられる状態でもないので、その情報を活かせる人間も少数ですし、そもそも文字が開発されていなければ、その手段は使えません。

では、この様な状態で、効率よく多くの人間に情報を伝えるにはどうすればよいのかというと、法則や元データを一つの物語にしてしまって、それを語り継いでいく方法が有効です。
空に無数に存在する星も、一つ一つの配置を丸暗記するよりも、何個かの星を一塊にして、それにキャラクターのイラストを重ねることで星座にしてしまう方が覚えやすいですし、
それらの配置も、夜空を一つの絵巻物のように見立てて、星座に当て嵌めたそれぞれのキャラクターが、何らかの物語を演じているとした方が覚えやすいです。

パターン認識によって、関連があると思われている出来事を、それらのキャラクターを絡める事で一つの物語にしてしまえば、子供におとぎ話を聴かせる様な感覚で、今までの知識を後世に伝えることができます。
この物語に登場するキャラクターが神々になると、物語は神話になります。
神という存在の発明がいつ行われたのかは、分かりませんが、季節の移り変わり等の、人にどうにも出来ないような事が、適当に起こっているのではなく、規則正しく起こっているという事実が、『完成された法則を創った存在がいる』と思わせたんでしょうね。

この様にして生み出された神話ですが、一度、神話という概念が生み出されてしまうと、この概念はドンドン膨張していくことになります。
ゼロから1を生み出す事は難しいですが、1が生み出されてしまうと、それを2・3と発展させていくのは、それほど難しいことではないんです。
これは、現状で生み出されたものを観ると分かりやすいですよね。

膨張 拡大する神話の世界

例えば、ガンダムをゼロから生み出すのは大変な苦労が必要ですけれども、一度出来た概念の続編を作ったり、二次創作を作るのは、全くのゼロから生み出す事よりも簡単ですよね。
神話も同じで、詩人などのよって、その物語はドンドン拡張されていきます。
元々は、自然現象の観察から始まって、それらの中に見出した法則を神々として擬人化し、その擬人化した神々に物語を演じさせていたわけですが、その擬人化は、人の持つ感情などにも適用されることになります。

人が、ふとした瞬間に生み出す感情や、美しいと言った概念的なもの等も、神々として擬人化され、物語は拡大していきます。
生み出された神々は、彫刻家によって実態を持った形で、あちこちに飾られることになりますし、最初はイメージがあやふやだった神々のイメージも、何度も何度も作られることによって、ドンドンとイメージが明確になっていきます。
そして最終的には、彫刻を観ただけで、『これはゼウスの彫刻。 これはアポロン』といった感じで、彫刻を観ただけで、その神々を見分けることが出来るまでに、細かい部分まで作り込まれていくことになります。

また、演劇や聖地巡礼などで経済にも影響を与え始めると、その物語は、最初に生み出された理由を離れて、ドンドンと暴走していくことになって、神話を語り継ぐ人々も、自然の法則ではなく神々の存在を伝えるようになっていきます。
こうして宗教化して、神話が暴走して巨大なコンテンツになってしまったことによって、それを利用して生計を立てる人達も登場します。
呪術師であったり祭司であったり、神々の声を聴く預言者であったり、そこから物語を生み出す詩人たちですね。
この人達によって、神々の声は選ばれたもののみが聞くことが出来る事にされてしまいましたし、また、世界は超自然的なものでなければならなくなりました。

(つづく)
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