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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿 】第34回【ヒッピー】ティモシー・リアリー(10) ~ムーブメントの終わりの始まり(後編)

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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前編はこちら
kimniy8.hatenablog.com

世界を変える為に問題を生み出すイッピー

そして、問題を創り出し、その問題に対して抗議するというスタイルは、様々な団体を生み出し、それらの活動そのものがエスカレートしていくことになるんです。
今現在もそうですが、昔は、今以上に問題が存在していました。 男女の【扱いの差】などのジェンダー問題や、黒人差別を始めとした人種差別などは、今でも完全に解消しているとは言い難い状態ですが、当時はもっと酷い状態でした。
こういった、今までの社会が当然としてきた前提を問題視し、それに対して異論を唱え、新たな価値観を押し付けるグループが続出する事になります。

例えば、政治的な思惑から差別されて虐げられ、本来なら、守ってくれるべき警察官からも敵視されてきた黒人達が、警察官から黒人を守るために結成されたブラックパンサー党とかですね。
この集団は、共産主義民族主義というのを掲げて、武力による革命も視野に入れて、革命による黒人解放を目指したグループと言われています。
この様に、政治的な主張をして世の中を変えようとする集団の他にも、永遠の愛兄弟団の様に、幻覚剤による神秘体験を利用して団結する、カルト集団なども生まれ始めます。
名前だけでいえば、チャールズ・マンソンが創立したカルト集団なんかが有名ですね。

反体制派をまとめ上げるベトナム戦争

このようにして誕生した、政治団体やデモ集団、そしてカルト集団は、創立理念などは異なっていましたし方向性もバラバラだったわけですけれども…
反体制という部分では共通していた為、体制が行っている行動の中で一番わかり易い出来事に焦点を当てて、それを批判する部分で共闘し始めます。 それが、ベトナム戦争です。
ベトナム戦争は、アメリカが直接関係の無い、北と南のベトナム内での内戦だったんですが、南北に分かれている理由が共産主義か資本主義かというものだった為、
資本主義側にアメリカが、そして共産主義側にソビエトが手を貸す事で、代理戦争の舞台となりました。
そしてこの頃に開発されて普及しだしたテレビ報道によって、毎日のように戦争映像が家庭に流れ、民衆は、人の死というのを目の当たりにする日々を過ごしていました。

資本主義や共産主義という、経済的な考え方が違うというだけで殺し合いに発展し、テレビでは毎日のように人が死ぬ映像が流される。
そして、貧民層や黒人は経済的徴兵によって戦場に駆り出されて、その何割かは死体になって返ってくる。 正義なき戦争と呼ばれた、この出来事は、反体制派から一斉に批判を受けます。

またこの頃には、アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者として活躍した、キング牧師の暗殺なども行われたことで、反政府運動は更に熱を帯びていく事になります。

そして活動が盛り上がり、社会現象にまでなって反体制の動きが盛り上がると、運動はブーム化して、その全体的な動きに何となく流されて集まってくる人達も出始めます。
『にわか』といえば良いのでしょうかね。 ヒッピーの根本的な思想はもちろん、イッピーの活動で新たに生まれたグループの主張も理解していない人達が、祭りに参加する様な感覚で、各グループやヘイト・アシュベリー地区に足を運ぶようになります。
これは、反体制運動がファッション化したと言っても良いのかも知れませんね。 反体制でいることに、また、その様な活動をする事が格好の良いこととされて、主張や活動内容がわからないままに、意識高い系の若者たちが流入していくことになります。

そして、反体制運動がピークに達する頃には、アメリカ大統領戦に『ピガサス』と名付けられた豚を立候補させようという所にまで発展します。この豚というのは、人間の体型的なことではなく、養豚場で飼育されている生物的な豚の事です。
そして当選の暁には、その豚を殺して食べてやろうというと宣言します。 この行動の意味合いとしては、私達民衆は、政治家という支配層に良いように扱われている、つまり、不当な扱いを受けている。
これは、弱者が権力者に食い物にされているのと同じことを意味するので、その逆をしてやろうという目論見です。
つまり、政治的に最高の権力を持っている豚を殺して、文字通り、食い物にしてやろうというメッセージが込められていたようです。

ウンターカルチャーに対する政府の対応

ただ、これで面白くないのは、批判されている政府側ですよね。
政府は、この反体制運動に対してカウンターを打つ為に、カウンターカルチャー側に対してネガティブキャンペーンを始めます。
その方法は、カウンターカルチャー側と悪者というイメージを結びつけるという方法です。

軽く説明すると、政府は先ず下準備を行う為に、ヒッピーの代名詞とも言える幻覚剤である、LSDを規制します。この規制によって、オーズリーという人物が逮捕されてしまったという話は、以前しましたよね。
そして政府は、『危険性が有るから禁止薬物に指定した麻薬を、今だに使い続ける人達がいる』として避難し、大々的な摘発などを行っていきます。

これは政府の常套手段で、過去にも人種差別を固定化する為に行われました。この例を軽く説明すると、大恐慌時代に治安が悪くなった際に、黒人やヒスパニック系の人達が多く住む地域で大々的なマリファナ禁止キャンペーンを行って、一斉に摘発を行います。
そして、一部の地域の摘発数を嵩上げすることで、黒人やヒスパニック系の住む人達が住む地域の犯罪率を、統計的に操作して上げる事で、治安が悪くなった原因をこの人達に押し付けたという過去が有るそうなんです。

これと同じ様に、まずLSDの規制を行った上で、それを使用している人で犯罪者、又は犯罪を犯していそうな人間を片っ端から捕まえて、LSD使用者と犯罪者という2つの存在を同一視させていったんです。
そして、LSD=犯罪という計算式を一般に浸透させた上で、ベトナム戦争に対する反戦運動を行っている人達と、LSD使用者を結びつけるんです。
つまりは、ベトナム戦争に対する反戦運動に参加している人間は、LSDで現実逃避をし、犯罪を犯すような人間だという烙印を押して、そのイメージを浸透させていったんです。

赤狩りニクソン

この戦略は見事にヒットし、サイレントマジョリティーに受け入れられることになります。 サイレントマジョリティーとは、積極的に主張や意見は言わないけれども、多数はの人たちの事で、逆の言葉がノイジー・マイノリティです。
ノイジー・マイノリティとは、声は大きくて存在感は有るけれども、少数派の人たちの事ですね。 サイレントマジョリティーの人達は、政府のプロパガンダに乗る形で、運動をしている人たちを犯罪者と結びつけて、ネガティブな感情を持ち始めます。
そして、そんな人達が選んだ大統領が、ニクソン大統領です。 前にも少し話しましたが、後に、ウォーターゲート事件で辞任することになる大統領なんです。

このニクソン大統領は、下院議員時代には『赤狩りニクソン』というニックネームで呼ばれる程に共産主義に対して厳しい姿勢をとっていた人です。
ヒッピーといえば、前に紹介したディガーズの様に共産主義を目指す人達も少なく無いわけですが、このヒッピー達と解りやすく敵対している人物が、国民によって大統領に選ばれました。

当選したニクソン大統領は、反体制運動をしている人達を積極的に取り締まる為に、様々な規制を行っていきます。
赤狩りと呼ばれる反共産主義運動はもちろんですが、その他にも、麻薬取締りの徹底化や、漫画や雑誌といったメディアや、アーティストたちが行う表現を制限する表現規制も行っていきます。
この表現規制の一環として、ジョン・レノンオノ・ヨーコ夫妻や、ジミー・ヘンドリックスなどの、ヒッピーの中でもメジャーで影響力の有る人物たちが、政府の監視下に置かれる事になっていきます。

これ以降、ヒッピー達によって一部で熱狂的に盛り上がったムーブメントは収束していくことになるのですが、その話は、また次回にしようと思います。