だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

京町家をゲストハウスにする投資商品は買いなのか。

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先日テレビを見ていると、平日深夜に放送されている経済ニュース番組で、凄い投資商品の説明が結構な尺で行われていました。
何が凄いって、その投資商品の構造です。

構造を簡単に説明してみましょう。
この投資は、基本的に不動産をもとに行われる投資商品です。

先ず、誰も買わないようなボロボロの町家を購入し、それをリフォームした上で、その家屋をゲストハウスとして活用します。
ゲストハウスの運営自体は、資金を集めた会社が3年ほど行い、その後、物件ごと売却。
物件の売却益とホテル収益を投資家に分配することで、年率10%程度の利益が出るかもしれないというという前提で、投資家からネットを通じて幅広く資金を集めるという方式。

物件の売買は主に京都で行われますが、その理由としては、京都に宿泊施設が足りないこと。
京都は、世界中から観光客が訪れるにも関わらず、高さ制限のせいか、大規模なホテルが作りにくい。
その為、供給不足が続いているので、外国人に人気の町家を購入し、おしゃれな感じに改装、その後、3年ほど経営した上で事業ごと売却し、3年分の利益と売却益を投資家に分配するらしい…

一見すると、ものすごい魅力的な投資商品に思える代物で、『今すぐに買いたい!』と思われる読者の方もいらっしゃるでしょうが、この投資商品の本当に凄いところは、こんな構造ではありません。
この投資商品の本当に凄いところは、リスクは全て投資家に押し付けて、運営側だけがノーリスクで確実に儲かる形になっているという事です。

もう一度、冷静になって考えてみましょう。
今の日本の現状は、日銀が国債を市場で買いまくった結果、銀行の買う国債がなくなってしまい、銀行にとっては運用先がないような状態が年単位で続いている状態です。
個人で住宅ローンを借りる際でも、2%台。上手く制度を使えば1%台でも借りることが出来る現状で、何故、年率10%も支払うリスクを犯してまで、ネットを通じて個人から借りる必要が有るのでしょうか。

テレビの中では、取引される町家がボロボロ過ぎて、物件としての価値が全くない為、銀行からは借金出来ないという言い訳がされていましたが、この理屈が既に胡散臭い。
というのも、何年も買い手がつかないボロボロの町家は、確かに物件としての価値はない。しかし、価値が無いということは、建物に関しての購入額もゼロということ。
現状で住むことが出来ないような町家は、市場では資産価値がゼロ、もしくは、購入後に壊さなければならない費用分のマイナス価値、つまり、-300万円ぐらいでしか取引されない。
つまり、この建物を購入する為に銀行からお金を借りる必要性は全く無い。何故なら価格はゼロなんだから。

では物件購入に、何故、お金が必要なのかというと、その建物が立っている土地には値段がついている為、土地取得費用として値段が提示されている。
仮に不動産価格が1300万円だったとして、上に建っているボロ屋が住めないほどのゴミなのであれば、そこから解体費用の300万円を差し引いた、1000万円程度が適正価格とも言える。
そして、土地購入者は先程も書いた通り、そのボロボロの家屋をリフォームする事で、ホテルとして営業できるような物件に建て替える。
リフォーム代金と土地取得費用を合わせて3000万円とした場合、銀行はリフォーム後のきれいな建物が建った不動産に対して担保を設定すれば良いだけ。
なので、不動産の上に経っているボロ屋の価値が無いというだけで、担保が設定できずにお金も借りれないというのは、言い訳になりません。

また、この会社は、既に何軒もホテルを経営していて、経営も順調という感じで報道されていました。
この会社に本当に経営能力が有って、同じ様な計画で何軒もの物件で成功を収めているのであれば、事業計画書を過去の実績とともに銀行に提出すれば、銀行は普通に貸してくれるでしょう。
にも関わらず、この会社は銀行からは借りずに、ネットを介して少額投資を募っている…

これは、銀行から借りたくない理由があるからと、考えざるをえません。
(仮に、業者の言い分が正しく、本当に銀行がお金を貸してくれないんだとしたら、それこそ警戒しなければなりません。何故なら、銀行がお金を貸してくれないのは、業者に返済能力がないと思っているからです。)
では、何故、銀行から借りたくないのでしょうか。

銀行から借りれば低金利で借りることが出来るにもかかわらず、何故、10%以上もの金利を支払うリスクを犯してまで、ネットで投資家を募るのでしょうか。
答えは簡単で、銀行から借りた場合は、返済額が決定してしまうからです。
つまり、仮に事業を行うために3000万円を借り入れた場合、3000万円+利息は、確実に返済しなければならない義務が生じてしまいます。

その一方で、ネットを介して少額投資を募った場合はどうでしょうか。
ネットの投資家募集には、元本保証なんて事は書かれていません。
書かれているのは、3年分の利益と、その後の物件の売却益を分配するということだけ。
仮に、それらの合計が投資額よりも下回ったとしても、投資家は文句が言えない仕組みとなっています。
数字を出して考えてみると、3000万円を投資資金として調達したとしても、3年分の利益と売却益の合計が2000万円にしかならなかった場合、この会社は2000万円を分割して投資家に支払えば良いだけということになります。

ここで、『損を出すという行為は、運営会社も避けたいのでは?』と思われる、心優しい方もいらっしゃるでしょう。
ですが、そんなことはないんです。このシステムは、資金調達さえ行えれば、運営会社は損失が出ることはなく確実に儲かるので、損失は出ようが出まいがどうでも良いんです。

というのも、この会社の本当の狙いは、ホテルの経営管理をする事で、その手間賃である物件管理費を徴収することです。
テレビでは、『今月の予約だけで、○○万円の売り上げがでてます!』と威勢の良い事を言われていました。
仮に月の売上が100万円として、投資というか経営の知識が無い人の場合は、『3000万円の投資で、月に100万の売上だと年間1200万円で、3年で3600万円。これに物件売却額を加えた金額がもらえるなら、確実に儲かる!』なんて甘いことを考えるわけですが…
そんなわけがありません。
ホテル経営には、予約受付や清掃など、管理の為の人手がかかりますし、それらにかかる経費は当然、その売上から差し引かれることになります。
これらの作業は当然のことながら、この投資商品を企画した不動産屋が手がけるわけで、その作業にかかる経費の請求は、この不動産会社の言い値で請求し、売上から天引きします。

つまり、プロジェクトが立ち上がった時点で、この不動産会社は3年分の不動産管理費を得ることが出来るということです。
不動産管理費は、ホテル経営が黒字だろうが赤字だろうが請求し、仮に赤字になった場合は、その損失は投資家の方に回してしまえば良い。
何故なら、投資家には元本保証なんて行ってないわけですから、損失を出したとしても文句はいえないというわけです。

ここが、この投資商品のもっとも重要なところとなります。
先程も書きましたが、仮に、銀行からお金を借りた場合は、借金したお金は利息を加えて全額返済しなければなりません。
しかし、この投資用品の場合は、物件を見る目がなく、思ったよりも儲けることができなかった場合でも、損失分は投資家が支払ってくれます。

また、3年後に売却することが決まっているという事は、とりあえず3年間だけ営業してみて、儲けが出なければ売却し、物凄く儲かるドル箱物件の場合は、不動産屋自身が自分で買い取るという事も出来るということ。
この3年で売却するシステムにより、不動産屋はドル箱物件だけを格安で買い取ることが出来、儲けの出ない不要な物件は、安値で売り抜けることが出来る。
安値で打った場合の損失分は、投資家が支払ってくれるので、不動産会社自体に損失はない。

まぁ、なんて素晴らしいシステムでしょう。
本来であれば、起業した際のリスクは自分で追わなければならないのですが、その損失リスクだけは無知な投資家に押し付けて、利益だけは最大限に受け取ることが出来る。。
これは、人の金で博打をやって、的中したときだけ配当が受け取ることが出来るという仕組みで、考えた人は天才なんじゃないかと思ってしまいます。

これを読まれている方の中には、『放送局が、そんな胡散臭い投資商品を紹介するわけがないだろう!』なんて思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、過去を振り返ってみると、放送局は胡散臭い商品でも平気で紹介していたりします。
例えば、ラブホファンド。この投資商品は、今回紹介しているシステムとほぼ同じで、購入して運営するのが、京都の町家を改装したホテルでは無く、ラブホテルという違いしかありません。
ラブホテルは、かなりの回転率で儲かるにも関わらず、参入障壁が高くて普通の人には算入が出来ないので、ノウハウの有る業者が事業をファンド化して、投資商品として売り出すという行為を行っていた時期がありました。
この投資商品を、何故、私が知っているのかというと、日本経済新聞社の傘下であるラジオNIKKEIで、連日、宣伝がされていたからです。
この『ラブホファンド』が、その後どうなったかは、ご自身で【ラブホファンド】と検索窓に入れてgoogleなどで調べてほしいのですが、痛い目を有った方も多数いらっしゃったようです。

まぁ、今回取り上げている投資商品が、ラブホファンドと全く同じ道をたどるのかといえば、それは分かりません。
この商品の性質上、一定以上の利益を上げ続けなければ、資金の調達がどんどん難しくなていきます。
不動産管理会社は、プロジェクトが成立すればする程、物件管理費名目でお金が貰える仕組みなので、資金は大量に集まって欲しいし、その為には、高利回りを続けなければなりません。
当然、物件選びも慎重に行うでしょうし、確実に失敗するとはいえない商品です。

ですが、私個人の意見を言わせてもらうなら、他人のギャンブルの資金を出すなんてことはしたくない。ってことでしょうか。
例えば、同じ投資をする場合でも、企業の為に発行された株を購入するとかなら、その事業が軌道に乗った場合、とてつもない利益を得る可能性があるのですが、この商品は、3年という限定されたプロジェクトに投資するというもので、リターンは多くても10%前後。
10%しか得られないのに元本割れリスクを背負うなら、上場している株を買ったほうがまだマシって感じがするんですよね。

投資関連の話題では、毎回、同じことを言わざるをえないわけですが、本当に儲かる投資商品が、一般に出回るなんてことはありません。
一般に出回るということは、その時点で、専門家や事情通が『買いたくない』と思って売れ残っているから出回るんです。
投資を行う際は、この事を踏まえた上で行うほうが良いと思います。