だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

就社とジョブ型

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日本は、生産性が低いといわれています。
ブラック会社で低賃金で長時間働かされている人は、『こんなに一生懸命働いているのに?』なんて疑問に思うかもしれませんが、とにかく低いです。
ランキングでいえばOECD加盟34カ国中第21位。
頻繁に危機を起こし、ワイドショーなどで散々バカにしていたギリシャよりも順位的には低いのが日本だったりします。

日本の労働生産性の動向 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部
(データ元)

では、何故こんな事になってしまったのでしょうか。
これは、日本の雇用契約に問題があるからと考えられるでしょう。
以前にもブログで投稿したことがあるのですが、日本の雇用は、一部で就社と呼ばれる雇用形態で雇われます。

そして私が思うに、日本の仕事に関する様々な問題は、この『就社』というシステムにある様に思えます。
では就社以外には、どの様なスタイルがあるのかというと、アメリカでは『ジョブ型』が主流のようです。
『就社』と『ジョブ型』の違いは、就社が会社という組織に属するのに対し、ジョブ型は依頼された仕事をこなしていくという違いが有ります。

具体的な違いとしては、就社は会社に仕えていて基本給を貰う雇用形態。
その為、営業として雇ったけれども製造部門に配置転換されることも普通。
職務内容が特に決まっていない為、与えられた仕事が終了した場合、他の人の仕事を手伝ったりすると行ったことも当然のように行われます。
日本でよく採用されているシステムですね。

その一方でジョブ型は、事前に任される仕事内容が契約で決まっていて、その仕事を行うというもの。
例えば、『この工場でこの作業をしてください。』という契約で就職した場合、その作業が終われば自分の仕事は終わり。
ですが、仮に工場が取り壊しとなった場合は、契約に記されている工場が無くなるわけですから、配置転換などは行われずに解雇という事にもなります。

『就社』と『ジョブ型』は何方も一長一短で、メリットもデメリットも存在するのですが、今国が掲げている『同一労働同一賃金』『生産性の向上』等を達成するためには、『ジョブ型』の方が合っているように思えます。
というか現在の日本では、『就社』の悪い面ばかりが出ているようにも感じられます。

例を出してみましょう。
就社というのは、先程も書きましたが『会社に仕える』という事は決定しているのですが、業務内容が決まっているわけではありません。
これを企業側が悪用すると、際限なく仕事を振り続けて社員を奴隷化する事が可能です。
先日、週刊誌記者が潜入した有名なアパレル企業でも、過労死者を出した大手広告代理店でも、公表している業務内容は労基に則ったちゃんとしたものだったりするのですが、実際には『やる気のある人はこれぐらいやって当然ですよね』といった感じで、自主的にサービス残業をする雰囲気を作っていると噂されていましたよね。
『出世したいなら、やる気見せないと。』『他の人が頑張ってるのに、お前は帰るんだ?』『この程度の仕事も、今日中に終わらすことが出来ないの?』『その程度の能力じゃ、左遷だな』等、様々なプレッシャーを掛けて、半ば強制的に『自主的』という名目で働かせる。
いわゆるブラック企業ですね。

このケースで闇が深いのは、実質的には強制的に長時間拘束して働かせているにも関わらず、企業側は『社員が勝手にやった事、会社側としては強制もしてないし、早く帰る事を推奨してますよ。』と被害者に責任をなすりつけている事。
また企業的には、『社員が勝手にタイムカードを押した後に居残って、サービス残業をしているだけ』なので、お金も支払う必要はない。
いくら仕事を振り分けても人件費が増えることがないのであれば、会社としては際限なく社員に仕事を押し付けることが出来る。
本来であればIT化や最新の技術の導入で効率化出来るものも、社員がサービス残業で無償で働いて穴を埋めてくれるので、設備投資も改善も行わなくて良い。
一方現場では、上層部の怠慢で増えた仕事をこなす為に、際限なく労働時間が増えていく。

これとは逆に、会社側に余裕が有り、社員に対して圧力も何もなく、体外向けではなく社員に向けてもサービス残業などは控えるように通達している企業が有ったとします。
こちらの場合は、会社の状態を社員が悪用して、社員主導で残業が行われる場合も有ります。
製造業のように作業が目で見て分かるような職種では少ないでしょうが、知的労働で、作業の進展が分かりにくいものや、仕事を新たに作ろうと思えばいくらでも自分で作れてしまう仕事の場合は、残業代目的で長時間労働が行われる場合が有ります。
残業代込みで給料を考え生活費を計算している場合は、仕事が無くても残業をする必要が出てくる為、勤務時間内は人の目を盗んで極力サボり、就業時間が終わってからが本番なんて事もあったり。
これを回避しようと思う場合、会社は業務を真面目に行っているかどうかを監視する人間を別に雇わなくてはなりませんが、監視者自体は利益を生み出すわけでは無い。

前者の場合は、非効率的で時間がかかっている部分を、社員がサービス残業で労働時間を伸ばして対応する為に効率が悪くなりますし、後者の場合は、本来、短時間で終了する業務が引き伸ばされることで長時間になり、非効率となる。
何方の場合も、生産性の向上という観点から見ると、マイナスでしょう。

これが、ジョブ型の場合はどうでしょうか。
海外式のジョブ型は、雇用される時点で業務内容が細かく契約によって決められます。この方式であれば、契約で決められた仕事が終わった時点で、仕事は終了します。
これは言い換えれば、契約で決められた作業を決められた日時までに終了させる必要が有るので、サボることは出来なくなります。
仮にサボった事で契約内容が守れない事が続けば、契約不履行という事で解雇されてしまいます。
その一方で労働者の能力が高く、仕事が短時間で終了すれば自由時間が増えますし、余った時間で更に別の仕事をこなすことで、収入アップも狙えます。
逆に、ライフワークバランスを考えて自由時間が欲しいと思えば、時間を手に入れる事が出来ます。仕事さえ効率的に行えばね。

また会社の方には、無意味な仕事を増やしてしまうと社員に対して支払う給料が増えてしまう為、極力、余分な仕事を増やさずに合理化を進めるというインセンティブが生まれます。
社員と会社の双方が合理的に動くことが出来れば、質の高い仕事が出来ます。

少し前に紹介した本『国家はなぜ衰退するのか』によると、システムが進化するのか衰退するのかの差は、そこに関わっている人の動機付けが重要という事が書かれていました。
kimniy8.hatenablog.com
簡単にいえば、やる気のある人達が多いシステムは持続できるが、そうでない人たちが集合しているシステムは衰退して破綻するというもの。
その為、システムを衰退させずに発展させるために重要になってくるのは、如何に人をやる気にさせるかという事になってきます。

この観点からみると、『ジョブ型』の方が社員のやる気を奮い立たせ、生産性を向上させる事が出来ます。
『就社』と『ジョブ型』を比べた場合、どちらが『やる気』が出やすいかといえば、『ジョブ型』ではないでしょうか。
また、『同一労働同一賃金』という観点から見ても、ジョブ型の方が優れています。
というのも、ジョブ型の場合は仕事に対してお金が支払われているので、同じ仕事の場合は同じ金額での契約という事になります。
同じ仕事なのに、正社員と非正規という区分で基本給が違うという事が起こりにくいので、非常に分かりやすい。

この様に、経済という観点からみると、現代ではジョブ型の働き方の方が適応していると考えられます。
ジョブ型にデメリットが全く無いわけではなく、雇用が流動的になりやすい、つまりは解雇されやすいという事はありますが、その辺りの社会保障は再分配能力が有る国がなんとかする事でしょう。
どちらにしても、会社の拘束時間が長過ぎて死ぬとか、とても先進国とは思えないようなことが起こっている現状よりは、こちらの方がまだマシの様に思えます。
また長い目で見れば、多くの人から搾取する構造になっている現状では衰退する未来しか見えないので、寿命を伸ばすためにも、ジョブ型への切り替えが必要なのではないでしょうか。