魔法にかけられて
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先日イベント観戦に行き、ブログにも書いた『魔法 vs 科学』のイベントですが、前回書いた以外にも、興味深い事が語られていました。
それが、魔法という考え方について。
kimniy8.hatenablog.com
この話は過去にも書いたことが有るので、このブログを更新の度に読んでくださっている方には、繰り返しになってしまいますが、現在で魔術師が考える魔法と私達が思い描く魔法には、イメージにかなりの乖離があります。
私達が思い浮かべる魔法とは、映画で例えるなら『ハリーポッター』の様なものではないでしょうか。
呪文を唱えたり、魔力を込めることによって魔法を繰り出す。
大掛かりなものになると、魔法陣や生け贄などを用意して、儀式を行うなど。
しかし、現代社会に存在する魔法とは、そういったものではないようです。
では、どんなものを魔法と呼ぶのでしょうか。
先日行われたイベントの例を借用して、説明してみましょう。
スプツニ子さんという方が、人間のフェロモンと同じような物質を発する糸を吐き出す蚕を、遺伝子操作によって創りだすことに成功したようです。
この『人のフェロモン物質を発する糸』を用いてドレスを作ると、『フェロモンを発するドレス』が完成します。
人を魅了するフェロモンをドレス自体が出し続けるわけですから、そのドレスは言い換えれば『モテるドレス』というわけです。
withnews.jp
この、如何にも科学的な裏付けがされたようなドレスですが、科学的には殆ど効果はないようです。
というのも、人にはフェロモンを感じ取る器官は備わってはいるようなのですが、退化しまくっているようで、フェロモンの香りを感じたとしても、さほど影響を受けないようなんです。
つまり、科学的には嘘はないけれども、効果は非常に薄く、誰もが袖を通す事で思い描くような結果が得られるわけではない代物なんです。
科学的な効果が得られない為、多くの科学者が技術的には実現可能だけれども、手を出さなかった分野というわけです。
しかし科学的な効果が得られないとしても、実際に販売されれば、科学的な根拠以上の効果が出てくるケースも出てくると思われます。
この服を購入した人が、『モテる服を着ているんだから、自信を持たないと!』と普段以上に堂々と振る舞い、普段は異性に声をかけることなんて出来ないのに、モテる服を着ているという自身から、積極的に声をかけることが出来る様になる。
結果として本人の立ち振舞が改善されて、本当に持ててしまうというケースです。
プラセボ効果とでもいうのでしょうか。
科学的根拠が無かったとしても、それが人が起こす行動の足しになるのであれば、効果は得られることになります。
現代魔術では、これらの事の全体を踏まえて、『魔法』と呼ぶそうです。
『スプツニ子さんという美しく賢い方が、化学の知識を元にオシャレにデザインしたドレス』
これを着ることで、自分も本当にモテるかも知れないと思い込ませる説得力と、それに伴う効果が魔法というわけです。
科学的知識を呪文と捉え、デザインを魔法陣に置き換える。
そして、本人が持つ雰囲気や外見からくる説得力を魔力と置き換えれば、このドレスは立派な魔法のドレスというわけです。
こういう視点で世の中を見てみると、結構、面白い現象が見えてきます。
例えば食なんてどうでしょう。
『遺伝子組み換え』『オーガニック』『無添加』など、食品の前には何かしらの呪文が付けられています。
それぞれの単語には、正や負のイメージが付いていて、直接、売上や価格に影響を与えますが、これらの呪文には科学的根拠なんてありません。
例えば『遺伝子組み換え』には悪いイメージを持つひとが多いでしょう。
しかし、遺伝子組み換えを厳密に考えると、自然交配による新たな種の登場も遺伝子組換えなわけです。
日本の東北地域は、元々は作物なんて生えない痩せた土地でしたが、品種改良によって痩せた土地でもつくれるように作物を改造しました。
昔は技術力が低かったため、自然交配による品種改良を何度も行い、人間にとって都合の良い種が出来るまで繰り返し作業を行っていたのですが、技術が進んだ現在は、それを科学的に行えるようになりました。
つまり、品種改良と遺伝子組換えは、工程を人が行うか偶然に任せるかの違いでしか無いんです。
品種改良は自然に行われるから、人間の毒になるような成分は絶対に入らないなんて事はありません。
逆もまた然りで、遺伝子組換えだから人に害をなすものが含まれるのかといえば、そうではありません。
しかし、『遺伝子組み換え』は悪いもので、品種改良はそこまで悪いイメージを持たれません。
これに関連し、『オーガニック』が体に良いというイメージがありますが、これも根拠はありません。
『迷惑な進化』という本を読めば分かるのですが、『オーガニック野菜を食べれば健康になれる!』なんてのも、どちらかと言うと精神的なもので、魔法と言っても良いものです。
この話は、オーガニック食材を盲信してきた人にとっては腹立たしい事かもしれませんが、これは、冷静になって考えてみれば理解できると思います。
冷静になって、植物について考えてみましょう。
植物は、そもそもが『人間に食べられる為』に、この世に存在しているわけではありません。
何かしらの動物に自身の実を食べさせることで、種子を遠くまで運んで貰うように進化した植物は、その動物にとっては有効な成分を多く含んだ物かもしれません。
しかし、その実ですら、植物が人間の体にとって何が毒なのかを徹底的に調べて作ったものではありません。
短期的には栄養価が高くて良いが、長期的には毒が蓄積されて死ぬなんてケースもあるかもしれません。
だって植物にとっては、種を含んだ果肉を食べて今の地点よりも離れてくれれば、それで良いわけですから。
これが、球根や根や葉の部分になってくると、更にややこしくなってきます。
というのも、そもそも球根・根・葉というのは、植物にとっては食べられる前提のものではありません。
むしろ、食べられると自身が死んでしまいます。
植物は自身が食べられない為に、それこそ必至に、自身の身を守ることを考えます。
その方法の大半が、体内で毒を生成して食べに来るものを殺すというものです。
よく、ジャガイモの芽は取らないと駄目と言いますが、あれはソラニンという毒が含まれているからです。
にも関わらず、『オーガニック食材を食べだしてから調子が良い! アレルギーも無くなった!』なんて人が出てくるのは、この呪文による魔法が発動しているからなんでしょう。
『無添加』なんてのは、更に訳がわかりません。
『無添加寿司』なんてのを謳い文句にしているチェーン店が有りますが、そもそも外食の寿司屋で、添加物を入れている寿司屋がどれほどあるのかもわからない。
また、人の死亡率を考えると『添加物』が開発されてからの方が寿命が伸びているんじゃないかとも思えるわけで、本当に体に悪いかどうかもわからない。
でも、『添加物』という言葉の持つ魔力・呪力は強いようで、『無添加』と書いてあるだけで、どことなく安心が得られてしまう人って多いと思います。
そして、実際に体に良いと思い込んで食べる事で、本当に体の調子が良くなるケースが有ったりするから不思議です。
ただの食材であったり料理でしか無いものにワンフレーズ付け加えるだけで、本来そのものが持つ質が変化するというのは、かなり面白いですよね。
…と、食品の例だけでかなり長くなってきたので、続きはまた次回とさせて頂きます。