だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿】 第38回 神話の時代 (1) 後編

広告

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
goo.gl

youtubeでも音声を公開しています。興味の有る方は、チャンネル登録お願い致します。
www.youtube.com

前回はこちら
kimniy8.hatenablog.com

現実世界に影響を与え始める『神』

神話そのものがメインになり、現実世界にも登場人物を祀る神殿などが作られるようになっていきます。
神殿が作られて、そこに聖地巡礼をしに来る観光客などが訪れるようになると、大都市と聖地を結ぶ道に飲食店や土産物店などが出来るようになって、経済的にも潤うようになってくる事もあるでしょう。
経済的に利益が得られるのであれば、辺鄙な場所にある地域なんかは、観光客を誘致するために、自分達の地域ゆかりの登場人物を神話に登場させて、観光収入を得ようと頑張る地域も出てくるでしょう。

また、神話は経済面だけでなく、人々のコミュニケーションも円滑にします。
今の私達もそうですが、日々、顔を合わすだけで、特に繋がりのない人間であったり、繋がりはあってコミュニケーションを取りたいけれども、何を話して良いのかわからないと言ったことはよくありますよね。
でも、そういった際でも、共通の話題があれば、話しかける際のハードルは一気に下がったりしますよね。

神話を共同体全体で共有するということは、共同体の中で価値観を共有するのに役立ちますし、コミュニケーションを円滑に進める為にも効率的です。

古代に生み出された神々を現代に置き換えると?

この神話の成り立ちがピンとこない場合は、この出来事を現代の出来事に当て嵌めてみると分かりやすいかもしれません。
例えば、数年前に『ゆるキャラブーム』というものがありましたが、あの時は、いろんな自治体がキャラクターを一斉に作って、地域を盛り上げようとしましたよね。

地域の宣伝としては、アニメなんかも貢献していたりします。
特定の地域を舞台としたアニメ作品が公開されると、そのアニメの舞台を聖地として、聖地巡礼などがファンの間で行われます。
名シーンに使われた場所などを特定し、その場所に行って同じ様なシチュエーションで写真を撮ったりといった行動を行う人達も少なからず存在します。
そういう人たちが増えていけば、一時的には、その地域の経済も潤うこともあるでしょう。

現代の神話

そして、2018年の今、現在進行形で作られている、世界レベルで有名な神話といえば、マーベル・シネマティック・ユニバースでしょう。
アイアンマンから始まったシリーズは、その後、新たに誕生した数々のヒーローが登場するようになり、アベンジャーズシリーズではそれぞれのヒーローが共演します。
ここで描かれる物語は、単純な勧善懲悪のストーリーではなく、それぞれの立場の違う人達に寄り添った物語となっています。

最初のアイアンマンこそ、事業家として成功したチョイ悪オヤジが、自分のやってきた事を反省することで、正義に目覚めたヒーローになるという分かりやすいストーリーとなっていますが…
それ以降、ストーリーが派生してきて新たに登場するキャラクターたちは、アイアンマンとは別の正義を掲げて戦っていたりします。
そして、それぞれの観点の元に出来上がった価値観が衝突したりもします。

マーベル・シネマティック・ユニバースに登場するキャラクターは、敵も味方も含めて、神話に登場する神レベルの能力を持っているので…
そんなキャラクター達が、全力を出してそれぞれの正義の元に戦うわけですから、無力な人類は、ただただ、逃げ惑うことしか出来ません。
この構成というのは、自然災害を巻き起こす神々から逃れることしか出来なかった人々を描いた、昔に生み出された神話そのものですよね。

強大な力を持ったキャラクターが大量に生み出されて、そのキャラクターはそれぞれの信じる正義を遂行する為に行動します。
映画を見た人たちは、純粋な人であっても、捻くれた人であっても、サイコパスだったとしても、登場人物の誰かに感情移入できるように作られています。
映画の中で取り上げられる問題は、世の中で実際に起こりそうな問題を、より派手に、ドラマティックにした内容で、その問題に対して、それぞれの正義を持つキャラクターが、自分の信念の元に行動をしていく。

この様な、映画の中で語られる神話の物語を共有している人の間では、会話をする際のハードルがかなり引き下げられますよね。
だって、合計で数十時間を超えるような時間を一つのシリーズに注ぎ込んでいる者同士なわけですから、その作品を観た感想を語り合うだけで、一気に打ち解けることが出来ます。
また、その登場人物の誰を支持するのかによって、その人の性格を短時間で深く知る事も可能になります。

これは、古代ギリシャで生み出された神話にも当てはまります。
星座から派生して生み出された神々というキャラクターは、ナイルの反乱や山火事、噴火など、人には不可能な天変地異を起こすことが可能だったりします。
神々には、それぞれに生い立ちがあって、それぞれの観点からみた正義を持っていて、そのように振る舞います。

これは、マーベル・シネマティック・ユニバースの構造と同じですよね。
また、神話という物語が発明されて、それが発展していって膨張していくと、神話を発展させる為のキャラ付けというのも生まれてきます。
ギリシャ神話でゼウスという最高神がやたらと浮気をして子供を作りまくるというキャラクターだったりするんですが、これも、物語としてのキャラ付けだったんでしょう。

膨張していく神話

既にある程度完成している神話に、新キャラを生み出して加えようと思うと、単独でいきなり出すよりも、何らかの有名キャラクターと紐づけて出す方が覚えてもらいやすいです。
有名なキャラクターであればある程、覚えてもらいやすくなる為、一番有名なゼウスの親族として登場させるという方法が多用されたんでしょう。
そして、それを正当化するように、ゼウスの性格も、そこら中で子供を作るキャラクターへと変貌していったんでしょう。

夫が浮気ばかりをすると、妻の性格もいじらざるを得なくなります。
物語というのは感情移入出来なければ面白さは半減してしまいますから、浮気をしまくるゼウスの妻のヘラは、嫉妬深いキャラクター像へと固定されていきます。
浮気グセがあるゼウスとヘラとの喧嘩は、現実世界で起こりうる何らかの不幸とリンクされて、神話というのは、より、具体性を増していき、物語として膨らんでいったのでしょう

これは、現代の神話であるマーベル・シネマティック・ユニバースでも同じですよね。
例えば、スパイダーマンですが、スパイダーマンは単体でも有名なキャラクターですが、改めて、マーベル・シネマティック・ユニバースという神話に組み込もうと思うと、何らかのキャラクターと紐付けなければ孤立してしまいます。
結果としてMCUでは、アイアンマンがスポンサーになって、アベンジャーズ内での父親の代わりをアイアンマンが演じることで、スパイダーマンが神話の中に自然と溶け込めるような環境が作られています。

神話は現実を取り込み リアリティーを増していく

また、世界大戦等の大きな事件も、その影にはヒーローに匹敵するような力を持ったヴィランが暗躍していたりしますし、そのヴィランとヒーローが対峙して対話することで、物語や現実の歴史が進んでくように描かれています。
今の時代は、この様なエンターテイメントがそのまま神話として定着することもないでしょうし、世界大戦の裏側にはヴィランが居たなんて本気で信じる人もあまり居ないとは思いますけれども…
今のように印刷技術も録画技術も無く、情報の伝達手段も限られている古代では、このようにして作られていった神話が、人の口によって伝えられて受け継がれていくことで、一般層を中心に信じられて、信仰対象になる事は十分考えられますよね。

まとめると、人は自然界で様々なものを観た際に、パターン認識によって、自然界に一定の法則を見出して、その知識を蓄積していきました。
そして、膨大な量に膨れ上がった情報を覚える為に、物語を作っていったということなんでしょう。

今回、語った神話の成り立ちについては、調べたり勉強した事を元にして、私の推測をかなり加えて話したものですが、古代には、多くの部族があって、その部族ごとに神話が有ったわけで、全ての神話がこの様にして生まれたわけではないでしょう。
ただ、大本を辿ると、人が持つパターン認識によって、現実世界の法則に物語が付け加えられることで、生まれていったんだと思います。
次回以降では、このようにして生まれた神話から、どのようにして哲学的な思想が生まれていったのかについて考えていきます。