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第36回【ヒッピー】ティモシー・リアリー(12) ~ヒッピー回まとめ (前編)

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
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幻覚剤と結びつくビート・ジェネレーション

第25回から前回の35回までのエピソードで、ティモシー・リアリーという人物を中心にして、ヒッピー・ムーブメントの始まりから終わりまでの流れを追っていきました。
少し詳しめに流れを追っていった為に、全体を通して、結構、長めのコンテンツになってしまったので、今回からは、一連の流れを簡単に振り返りつつ、このムーブメントが現在にどの様な影響を与えているのかについて、観ていこうと思います。

このムーブメントは、一人の心理学を生業とする男が、シロシビンという幻覚剤と出会うところから始まります。
シロシビンによる幻覚に魅せられた心理学者、ティモシー・リアリーは、幻覚剤による神秘体験を調べていくうちに、『知覚の扉』という本にいきつき、その本の作者オルダス・ハクスリーを通して、ビート・ジェネレーションの大物達と知り合うことになります。

ビート・ジェネレーションとは、高度管理社会に対して異論を唱えて、詩や、その朗読を行うポエトリーリーディングなど、文化的な活動によって意識を変えようとする人たちの事です。
高度管理社会とは、国や社会のシステムの為に、人間の行動が管理されて制限されている社会のことです。

高度管理社会とは

社会は、テクノロジーの進化によって効率化を求められるようになりました。
元々、それぞれの地域でそれぞれ作られていた製品は、より効率を求められることによって、組織化され、人々の仕事はより細分化されて、一定の動きを一定時間内に繰り返すという反復運動を強いられるように変わっていきました。
そして組織同士は生存競争にさらされ、生き残った組織はより大きくなり、より大きくなった組織では、さらに仕事が細分化されて、人の仕事はより機械的になっていきます。

この環境では、人々は生活を安定させる為に、より大きな組織に属する事を目標とし、その為に、よりよい学校に入り、その学校内での競争を生き残ろうとします。
人は生まれてから死ぬまでの間、常に生存競争に勝つことを強いられて、勝ち残る為の行動を強いられます。
それぞれのステージで、上に行くために競争を強いられて、競争を勝ち残る為に、行動が制限されてしまう。この様な管理社会に対して、文学面から異論を唱えた世代がビート世代です。

ティモシー・リアリーは、世の中の前提に対して異議を唱えるビート世代と意気投合し、文学面ではなく、幻覚剤の効果によって、高度管理社会に打ち勝とうとします。
幻覚剤がもたらす、強烈な神秘体験によって、今現在、見えている世界が、そのままの世界だという確かな実感を打ち消してしまう。その感覚を持って、自分たちが存在している世界の前提を疑う。
その体験を通して、常識とされていた前提を疑い、高度管理社会が定める決められた人生に抵抗しようという事なんでしょうね。

管理社会による現実を破壊する幻覚剤

リアリーは、世の中の前提をぶち壊すために必要なのは、幻覚剤による神秘体験だと信じ、神秘体験を高確率で起こす方法を研究することになります。
その研究の末に行き着いたのが、古代のシャーマン信仰です。 神の啓示を受けて人々に知らせるという役目を持つシャーマンが、神と交信する方法に着目し、古代シャーマニズムを現代に復活させます。
チベット死者の書』という本を掘り返して英訳し、それを儀式に使用することで、人々を神秘体験へと導いていきます。 この辺りの行動が、ティモシー・リアリーサイケデリックの高僧 つまり、位の高い僧侶と呼ばれる所以なんでしょう。
神秘体験を経験した人間は、自我と宇宙が一体化したような体験を得て、他人と自分とを同一視し、悟りを開いたように、前提や過去にとらわれない行動や考え方が出来るようになったようです。

その後、この動きに賛同する形で、様々な人達が名乗りを上げて集まってきたり、団体を立ち上げ始めます。
理想的な共産主義を目指すディガーズや、メリー・プランクターズを率いて、アシッドテストを行った、『格好の巣の上で』という小説で有名なケン・キージー
他にも、多くの人達が集まり、新たな価値観を作っていくことになります。

一応言っておきますと、新たな価値観をつくっていくとはいっても、皆が一丸となって、一つの文化を作ったわけではありません。
それぞれの集団は、今までの前提を覆すという共通の認識は持ちつつも、それぞれは別々の道を歩んでいきますし、それぞれのコミューンの最終目的も違ったままです。
ただ、それぞれのコミューンの考え方やアプローチの方法が、別のコミューンに刺激を与え合ったということです。

シャーマニズムなどの今までの常識を打ち破るカウンターカルチャー

リアリーやビート・ジェネレーションが訴えかけていた事は意識革命なんですが、派生したこれらの団体は、意識を変える事によって現実の捉え方を変えるというものだけではなく、参加者に、現実の行動やライフスタイルの変化を求めるようになりました。
とはいっても、この頃はムーブメントの規模も小さく、コミュニケーションも密に取りやすい状態だったので、意見交換等はそれなりに行われていたようなんですけれどもね。

リアリーが研究していたLSDのレポートや、グッドトリップに到達する為のセッションは、新に生まようとしているカルチャーに大きな影響を与えましたし、リアリーも、ケン・キージーの影響を受けて、自分探しの為に世界に飛び出しました。
程度の差はあれ、それぞれの集団が他の集団の考え方に触れたり、一部取り入れたり、その為に交流する事で、この文化は拡大していって影響力を増していき、当時の若者たちの間に浸透して行くことになります。

この新たな文化は、精神を開示するという意味を持つサイケデリックと名付けられ、このサイケデリックを冠した文化が、生み出されていくようになります。例えば、音楽であったりアートであったりですね。
その後、管理社会に馴染めずに押しつぶされそうになる状態から逃げ出した若者達が、ヘイト・アシュベリー地区に集まるようになり、この地域はヒッピー達の聖地へと変わっていき、サイケデリック文化の中心地になっていきます。
多くの若者達が、この地区で、似たような考え方をする仲間とシェアハウスを行い、共同生活を行う。 そして、その新たな価値観を発信する為に、サンフランシスコ・オラクルというタブロイド誌を発行する人達も誕生します。

ここまでの流れをまとめると、先ず前提として高度管理社会というものが存在し、人々は枠の中に捕らわれて行動を制限されているという状態だったわけですが…
それにビート・ジェネレーションが反発し、前提を覆すための意識改革をポエムによって行おうとしました。
詩やその朗読を行うことによって、文化面から意識改革を促そうと頑張るのですが、それだけでは一定の成果しか出ません。 まぁ、詩を読むとか朗読会に参加するということ自体が、意識高い人しかしないでしょうしね。
そこに登場したのが、幻覚剤です。 幻覚剤は、ポエムを読み解く学力がなかったとしても、簡単に、主観としての実感を伴った体験を通して、世の中の前提が壊れた世界を体験することが出来ます。

ハーバードで研究を行っていたティモシー・リアリーは、幻覚剤によって得られる経験を制御する為の方法を研究し、その過程で幻覚剤使用前の被験者の精神状態に注目し、精神を安定させる為の方法を考えていくうちに、古代シャーマニズムに行き着きます。
そして、『チベット死者の書』の英訳版を出し、それを利用した儀式を行うことで、高い確率でグッドトリップを誘発して神秘体験が出来る方法を編み出していきます。
神秘体験をした人間は、世の中の前提に縛られない考え方ができるようになるようで、これは、高度管理社会という社会が決めた枠組みからドロップアウト出来る事を意味します。
社会から抑圧されていた若者たちは、この救いに群がるように集まってきて、勢いを増していったという事ですね。

(つづく)
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