だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

人手不足なのに低賃金は、何故なのか

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ここ最近、やたらと『人手不足』を訴える声が、主にテレビから聞こえてくる。
テレビによると、現状の日本は『人手不足』なので、労働市場の需給関係が改善し、もう少し経てば給料も上がるし、トリクルダウンによる景気回復も起こるらしい。

日本に住む私としては、トリクルダウンでもなんでも起こって庶民の給料が増えて、景気回復してくれれば良いと思っています。
特に私が従事しているのは邦人観光客目当ての商売な為、日本に住むみんなに経済的に余裕が生まれて『旅行にでも行くか!』と思ってもらわないと困ってしまいます。

ただ、現状の日本の状態を冷静に観ると、今後給料が増えることも無いでしょうし、トリクルダウンなんて起こらないという悲しい現実が見えてきます。
という事で今回は、現状の人手不足の構造について考えていこうと思います。

簡単に結論から書くと、今の日本は供給過多の状態なので、どれだけ頑張っても…というより、労働者が頑張れば頑張るほどに、日本は貧しくなっていきます。
供給過多だから、価格競争になってモノやサービスの値段は上がらないし、頑張れば頑張るほど、過当競争が激化していくわけですから、労働環境は悪くなっていく。
つまり現在の日本は、資本主義のどん詰まりにいるって事で、発想を根本的に変えない限り、自体を好転させることは無理でしょう。

具体的にみていくと、例えば、超絶ブラックと言われている建設業。
東北の震災の復興需要に、消費税増税前の駆け込み需要。オリンピック開催によるホテル建築や、団塊世代がこの世から卒業する事による節税対策のマンション建設など、様々な要因が一度に重なって、今の建設需要はとんでもないことになっています。
ここまで需要が旺盛なのであれば、建設業者は強気に出られるわけで、本来であれば、労働環境は改善してブラック体質は改善されていないとおかしいです。
何故なら、発注元から無理難題を突きつけられた場合、他に好条件の仕事があるのであれば、『ウチは手を引くから、他に頼んで』といえば良いだけなので、条件が良くなることは有っても悪くなる事はありません。

しかし実際にはどうなのかというと、ここまで需要が重なっているにも関わらず、依然、発注側の方が声が大きく、その要望がそのまま通る形になり、建設業の労働環境はブラックなまま。
何故、ブラックなままなのかというと、単純に、建設業者の数が多すぎるから。
多すぎる為に過当競争になり、利益が上がらないので給料も上がらない。 工期の短縮を迫られれば、弱い立場の建設業は受け入れるしかなくなり、長時間労働になってしまう。
考えられる全ての需要がこの数年に一気に集まっていて、この状況なので、当然、需要が一巡するオリンピック後は、更に待遇は悪くなる。

仕事の量に対して建設業者の数が圧倒的に多い。会社運営には、最低限の人数が必要。
この条件が重なると、企業が出す求人としては『低賃金で長時間働いてくれる人募集!』にならざるをえない為、人材募集が多い割に条件が悪いなんてことが起こってしまう。

別にこれは、建設業に限った話ではありません。
例えば最近、お値段据え置きで内容量が少なくなったとして話題の食料品ですが、日本では毎年2000万トン近い食品を廃棄しています。
日本は食料自給率が低いと言われていて、海外から約6000万トンの食料を輸入しているようですが、その3分の1に当たる量を捨てています。

この数字だけ見てもわかりますが、食料の場合も単純に、供給量が多すぎる事が原因で、食品メーカーが儲からないという事態に陥っています。
儲からないにも関わらず、円安やエネルギー価格の高騰により、輸入物価そのものが上がってしまったので、値上げしなければならないけれども、値上げすると他社製品を選ばれてしまう可能性がある為、値段据え置きでモノを小さくするという方法を取らなければならなかったのでしょう。

食料品といえば、その中でも『魚』の乱獲の問題を、ここ最近、頻繁に目にするようになりました。
乱獲によって魚の量が減少し、下手をすれば絶滅する種が出てくるなんて話も耳にしますよね。『鰻』の問題などが有名ですね。
wedge.ismedia.jp

ここでも一番の原因は魚の取り過ぎ、つまりは供給過剰です。
中学ぐらいで習う経済の基本ですが、価格というのは需要と供給が交わったところで成立します。
つまり、需要が伸びない状態で供給だけがのびるとどうなるのかというと、価格が下落していきます。

価格が下落した状態で儲けを出そうと思う場合、本来であれば、持続可能性を考えた上で、漁獲量の制限などを行って、必要以上の価格の下落を無くす方向で進めるのが理想的です。
しかし日本の漁業は、単価が下がった分を漁獲量を増やす事で補っちゃったんですよね。
これにより、市場価格は更に下落し、安定した利益を得るためには、更に漁獲量を増やさなければならないという負のスパイラルに陥ってしまった。

魚というのは、ゲームのように無限にリスポーンされるわけではないので、繁殖する量よりも乱獲する量が上回ってしまった時点で、魚という種の数は減少していきます。
結果として、私達は安い値段で魚を食べられるようにはなりましたが、魚そのものが絶滅する可能性が出てきました。
こういう状態に陥ってしまうと、漁獲量を制限せざるをえなくなる為、漁師の収入は少なくなって、手間の割の儲けが出ない状況に追いやられます。
この状態で人手が足りなくなったとしても、そもそも利益が出ていないので、人件費に回せるお金はない為、人手が足りなけれども金は出せないという状態になります。

こういった現象は、全ての産業に言えることです。
そして、全産業でこのようなことが起こっている場合、働いている従業員には遊びで使えるような余裕なんてありません。

飲食業がブラック体質とよく言われますが、余裕のない人間が一番最初に削るのって、外食や呑み代ですよね。
1杯800円のショットバーに通うよりも、立ち呑み屋で呑むほうが安いし、立ち呑み屋よりも、吉野家の方が安いかもしれない。
そして吉野家よりも、家でストロング系を呑んでいる方が安い。

こんな人達を相手にしていくわけですから、コストが極限まで切り詰めないといけないので、職場環境は悪化する。
そして、家呑みを選択する人が増えれば増える程、飲食店という存在が供給過多になっていくので、その中で更に過当競争が進んでいく。

別の話題でいうと、少し前にTwitter界隈で、『企業が絵師を買い叩き過ぎて、単価が下がりすぎている!』なんて言説が流れていましたが、これも同じ。
単純に、絵の需要に対して絵師が多すぎるので、買い叩かれているだけの話。
最近はスマホゲーの乱立で(これも供給過多)絵の需要が高まっているなんて言われているけれども、これは、絵師が多すぎて絵の単価が下がりまくってるから、気軽に開発できるようになってるだけで、イラストを高い値段で発注してまで作ろうなんて思ってないんでしょう。
産業革命で繊維製造が自動化されたことによって供給過多になり、価格が暴落したから、用途が増えて需要が増えたのと同じで、単価の下落が需要を呼んでいるだけでしょう。

この様に、全産業で供給過多の状態にある為、経済や労働環境の事を考えると、多くの企業が市場から撤退しないと、本当の意味での改善にはつながらないでしょう。
一部では、後継者不足で127万社が廃業か?なんていわれていますが、単純に供給過多で儲からない為、子供のことを考えると継がせたくないと考える人が多いだけでしょう。
diamond.jp

だって、冷静になって考えてみてくださいよ。
実家が工場で、通勤しなくても仕事場に行く事ができて、その上、月の給料が50万円もらえるとなれば、事業を継ぎたい!と考える人間は大多数でしょう。
しかし実際は、事業は黒字だけれども利益はほぼ無く、実際の生活は年金でやっているなんてところが多いのではないでしょうか。
本当に儲かっていたり、他にはない素晴らしい技術を持っているのであれば、たとえ後継者がなかったとしても、事業の買い手はいくらでも存在します。


こうして考えると、日本は、全く人手不足ではありませんよね。
需要に対して企業の数が多すぎるというのが問題で、適正水準まで企業が淘汰されれば、当然、大量の失業者が出るわけですから、その人員を足りない分野に移動させることができれば、人手不足は解消します、むしろ人余りの可能性すら出てきます。
なんぜ、先ほど紹介した記事によると、大廃業時代の到来によって、650万人が職を失うそうですからね。

今は、団塊の世代の大量離職によって企業の人材が減る一方で、少子化によって新入社員の人数が減っている。
特に日本は、新卒一括採用が文化になっているので、新卒の取り合いになっていて、一時的に求人倍率が改善して人手不足といわれていますが、先ほどから書いている通り、そもそもが供給過多の社会なので、人手不足は『まやかし』と言わざるをえないと思います。