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【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿 】第28回【ヒッピー】ティモシー・リアリー(4) ~ディガーズ

この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす ~思想と哲学史』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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ここ最近は定型文のようになっていますけれども、この回から聴き始めた方の為に、一応、言っておきますと
第20回と21回で、ヒッピー・ムーブメントがどの様にして起こったのかという簡単な説明をし、22回と23回で、その運動に大きな影響を与えた幻覚剤、LSDについて、開発の経緯や使われ方について説明しました。
そして、25回からは、このムーブメントの中心的な人物であるティモシー・リアリーに焦点を当てて、より詳しく、この出来事を追っていっています。

一応注意点として言っておきますと、ヒッピーを取り扱う回では、LSDなどの幻覚剤を始めとした禁止薬物が、頻繁に登場することになります。
それも、ネガティブな取り扱い方だけではなく、人間の可能性を伸ばすといった感じの取り上げ方をしますが、あくまでも、当時、そのように捉えられて研究されていたという解説をしているだけで
現在、使用することを推奨しているわけではありません。 現在は禁止薬物になっているものが大半なので、使用は行わないようにしてください。
法律で禁止されているだけではなく、中毒になって抜け出せなくなったり、最悪の場合は死ぬケースも有りますのでね。

という事で、本題に入る前に、前回の簡単な振り返りから始めていきます。
ハーバードに就職した後に幻覚剤に魅せられて、シロシビンの研究をし、その後、LSDの研究を始めたリアリーは、ハーバードを退職することになります。
大学からの研究費が得られない状態になった為、リアリーはIFIFという団体をメキシコに作り、入会金を徴収してメンバーを集め、メンバー向けに、自身の幻覚剤の研究成果をまとめたレポートなどを配布しだします。
その他にも、幻覚剤の体験施設を作って運営するんですが、CIAに邪魔をされては、拠点を移すという生活を続ける事になります。

そんな活動を続ける中、リアリーはビリー・ヒッチコックという人物に出会い、その人物から 邸宅を貸し与えるという申し出を受けて、拠点をニューヨークに移します。
CIAに睨まれている中で、アメリカへ拠点を移すという事で、IFIFの様な派手な活動はせずに、ひっそりと研究を行います。
これが、1963年の出来事です。

その翌年には、リアリーとは別でアシッドテストと呼ばれるLSD実験を行っていた、ケン・キージーが、リアリーの元を訪れます。
この人物は、自身が幻覚剤のトリップで見たヴィジョンを元に書いた小説、『カッコウの巣の上で』のヒットが有名な作家で、その体験を広める為に活動していたようです。
ケン・キージーは、誰にでもLSDを与えるスタイルで、ファーザーと名付けたバスで旅をしながらアシッドテストしてまわるツアーを行っていました。

アシッドテストを開く際には、グレイトフル・デッドなどに演奏も依頼していたようで、トリップには雰囲気が重要だと認識していたようですね。
この様な考え方だった為、リアリーとは意気投合し、リアリーもケン・キージーの影響を受けて、自分のコミューンメンバーに世界を見て回ることを推奨し、自身もインドなどに出かけたようです。

この頃になると、リアリーやケン・キージー達の活動が実を結んだのか、サイケデリック思想に魅せられた人たちや団体が、そこに独自の解釈などを加えて、同じような意見の人たちと集まることで、コミューンを形成していきます。
コミューンというのは、共同体とかそういった捉え方でいいと思います。似たような考え方を持った人達が集まって、共同生活を送ったりする団体のことです。
有名なところでいうと、ディガーズなどですね。

ディガーズの名前の由来は、ウィンスタンリーに導かれて、ピューリタン革命期、清教徒革命期とも言うんですが、そこに最左翼として登場し、共産主義革命を主張した団体ですね。
清教徒革命というのは、簡単に言うと、イギリスで起こった内戦のことです。起こったキッカケとしては、貧富の差ですね。
日本でもそうですが、農民は一律で貧しいわけではなく、土地を所有している人間というのは比較て裕福なんですが、土地を持たないものは貧しいんですね。日本でいうと、庄屋と小作人みたいな感じですかね。

庄屋は、小作人に土地を貸し与えて、小作人が労働をする事で米という成果物を作るわけですが、庄屋が土地を所有しているのに対し、小作人は雇われているだけなので、ここに力関係が生まれます。
労働の分野で力関係が生まれると、当然のように搾取が行われるので、庄屋は土地を貸し与えるだけで大量のお金を手に入れ、現場で働いている小作人は、身を粉にして働いてもその日暮らしが精一杯の生活になります。

そしてときが流れるに連れて、この流れに拍車がかかっていく事になっていきます。
地主は、自身の体を動かすわけではなく、搾取によって得られた利益を投資に回す事で、耕せる土地を購入していくことで、取り扱う土地の量が増えていくわけですけれども、労働者の数はそれに比例して増やすわけではありません。
土地の所有者からすると、労働者は経費でしか無いので、雇えば雇う程、自分達が手に入れる富が減ってしまうので、労働者は極力雇わないようにします。

当然のことですが、この様な環境になると、地主の取り分が増える一方で、労働者は給料が同じで労働時間だけが増えていくことになるので、時間辺りの収入は減っていくことになります。
つまり、豊かなものはより豊かに、貧しいものはより貧しくなる一連の流れが完成してしまうんです。
労働環境が悪化していくと、その職業に就いたとしても、一生奴隷の生活で終わってしまいます。

そんなシステムに疑問を持つ人は、地方で農業に従事する事を選択せずに、僅かな可能性を求めて都市、特にロンドンに集まるようになります。
ですが、都市に集まったところで、都合よく職が転がっているわけではないので、無職の状態で街をうろつく事になります。
イギリスはキリスト教が主な宗教で、本来であれば、恵まれない貧民層は慈善の対象なんですが、この頃から宗教の解釈の仕方が変わっていって、貧民層は、働かない怠け者集団と認識されることになって、迫害対象になっていったそうです。

では、国が再分配をしっかりすれば良いんじゃないかという話になるんですが、そうも行かないんですよね。
というのも、一部の富裕層に富が集中すると、その富裕層はシステムを作っている側を買収したり圧力をかけることが可能になります。結果として、国のシステムが富裕層が利益を受けやすいようなシステムに改変されていくことになります。
ただこの場合、本来であれば税を重点的に徴収しなければならない富裕から税が集められないことになるので、国の財政的には厳しくなっていきます。

この流れは、今の日本で考えると分かりやすいと思います。
今の老人は、今の若者が根性がなく、働かないから成長せずに停滞していると主張する人たちも、少なからずいますけれども、今の日本の若者達が手にする生涯賃金の平均値は、20年前と比べて3000万円程下がっているんです。
では、20年前に比べて今のほうが楽なのかというと、そんな事はありません。 この20年でIT技術は大幅に進化しているので、1人の人間がこなす仕事量は数倍になっています。
つまり、一人あたりの仕事量は増えているのに、生涯賃金は3000万円減少しているわけです。

求人倍率なども、最近は上昇傾向で、働き手が不足しているなんて報道されていますが、では、募集の給料が増えているのかというと、そんな事はありませんよね。常に求人広告を出しているところは、労力の割に給料が安いところが大半です。
ここ最近では、少子化と言われているのに保育所が足りないと言われていますが、これは単純に考えて、共働き世帯が増えたからですよね。
にも関わらず、世帯の可処分所得が増えないのは、何かがおかしいですよね。 また、企業業績がバブル全盛期を超えたと報道される中、日本の借金は増え続けている状況にも陥ってます。

このおかしい状態に対して、『システムがおかしい』というと、今の日本では左翼だとかパヨクなんてレッテルを貼られて、頭がおかしい扱いをされるなんて事もある状態です。
そして、貧しい人達は、努力してこなかったから貧しい環境なんだ。 怠けていたんだから自業自得だという主張が、賞賛されたりします。このように、日本の場合は、政権側に立って意見を言う人が多かったりするんですが…
ヨーロッパの人たち、今回取り扱っている清教徒革命ではイギリスですが、この人達は、この様な受け入れられないシステムに対しては、明確にNOを突きつけるんですね。

その結果として、革命が起こることになります。なので、よく、ヨーロッパの社会システムが弱者に優しいとか、労働環境が日本に比べて良いなんて話を聴きますが、こうして振り返ってみると、それは市民が勝ち取ってきたものだという事が分かります。
ヨーロッパの場合は、搾取の割合が酷くなっていくと、搾取されている側が革命を起こすんですね。 フランス革命などは、搾取してきた側はギロチンで処刑されたりしてるので、こうした市民革命の結果を受けて、システムを改善していった結果なんでしょうね。
この動きは、ストライキを起こす素振りを見せただけで、労働者側をバッシングする日本とは対照的ですよね。

話をイギリスに戻すと、貧富の差が決定的になって、富裕層に富が集中して国の権力者と癒着しているとはいっても、貧民層のほうが圧倒的に人数が多いわけです。
また、富裕層は現場の仕事を知らないわけで、貧民層が団結して一斉に仕事を放棄すれば、システムは簡単に崩壊してしまいます。
こういう状態が定着して、不満のエネルギーが溜まり続けると、普通は一気に爆発し、それによって大きな混乱が起こります。

この混乱期に登場したのが、ディガーズと呼ばれる団体です。
作ったのはウィンスタンリーという思想家で、この人物は、元々は商人をしていたそうなんですが、革命の混乱期に破産して、田舎で隠居生活をしていたそうなんですけれども、その中で、神の啓示を受けることになります。
その神秘的な宗教体験を元に、本などを執筆するようになります。

その後、貧困層に追いやられた人々を率いて、もともと共有地とされていた荒れ地を自分達で耕して行くんですね。
この耕す行動、つまり、地面を掘る、英語で言うとディグする人たちという意味で、ディガーズと名乗る団体が誕生したようです。
ディガーズのスタンスは真正水平派と呼ばれるもので、簡単に言うと、人は生まれながらにして平等なんだから、貧富の差が有ることそのものが、おかしいという考え方ですね。
これは、地主で金持ちの家に生まれた場合は生まれながらにして富裕層になるけれども、小作人の子供として生まれれば、一生、貧困にあえぐ生活になってしまう。これは、おかしいという主張です。

では、貧富の差をどのようにして解消するのかというと、土地の所有と賃金労働の否定です。
お金というものが存在して、それによって土地という、元々誰のものでもなかったものが、誰かのものになってしまう。
そして、賃金労働という存在によって、土地を持たないものは低賃金で働かされることで、富の二極化が起こって、不平等が起こるという考えで、これは近代社会主義の先駆的運動と一部で評価されているようです。

社会主義とか共産主義といった主張では、マルクスという哲学者が有名ですが、マルクスが活躍するのが1800年代半ばで、その200年も前にディガーズ運動が起こったというのは、先駆的だったんでしょうね。
で、共産主義社会主義マルクスという名前が出てくると、アレルギーのように嫌がる人というのも、一定数存在しますよね。そして、そういう人たちは決まって、社会主義国家はみんな滅びてると、勝ち誇ったように主張するんですが…
マルクスの理想を実現した国家というのは、まだ、世の中には無かったりするんですね。

社会主義国家が崩壊していくのって、多くの場合は、全ての権限が政府に移って、国民が全員公務員になることで統一した思想のもとに経済を動かせるけれども、全員が公務員で給料が同じだと、多くの人がサボりだすので、
生産性が下がって崩壊するといったパターンが多いと思います。
ですが、私が読んだマルクスが青年期に書いた草案には、こんな国家システムは書いていないんですね。
マルクスの主張の重要な点は、マルクスは人間の生活の中心に労働を置いていることなんです。
資本主義によって効率化を求めて競争する経済では、効率性を重視するあまり、仕事の分業化が過剰なまでに進んでしまい、それが人間性を剥奪すると主張しているんです。

マルクスの主張には、本来の人間は社会的な動物なので、仕事を通して社会とつながる事そのものに不満はもっていないという前提があるんです。
例えばパン屋を例に出すと、小さなパン屋を個人で経営し、客のニーズを汲み取りながらパンを製造し、それを販売する。そして買ってくれた客は、『いつも美味しいパンをありがとう』と言ってくれる。
この様な仕事が苦痛で仕方がないという人は、それ程いないという事なんですよ。

ただ、このパン屋が巨大になって、全国をカバーする程に大きくなった場合はどうでしょう。
全国の顧客の為に、一人でパンを作る事なんて不可能なので、生産工程は分割されて分業体制になります。
Aさんは倉庫から粉を出す係になって、Bさんは粉を配合する係になって、Cさんは生地をこねる係になる。Dさんは、出来上がった製品を小売店においてもらう為に頭を下げる営業を行い、Eさんは、会計で金の流れだけを追いかける。

Aさんは、朝から晩まで倉庫と製造所を粉を持って往復するわけですが、そんな仕事が好きになれるんでしょうか。
マルクスは、この状態を、本来なら好きであるはずの仕事から、人間が疎外されているとして、このシステムに異論を唱えたんです。
つまり、Aさんの仕事は本当の意味で人間らしい行動なのかということです。 そして、半ば機械のように倉庫と製造所を往復させられているのは、資本家がより多くの利益を得るためです。

そして資本主義のシステムは、いずれ二極化が決定的なものとなって、豊かなものはより豊かに、貧しい人達は、より貧しくなっていく。この流れに警鐘を鳴らしたのがマルクスです。
ですが、今まで崩壊した社会主義国家は、資本主義でいう資本家の役割を、国が代替しているだけで、人が仕事から疎外されている状態は変わっていないですよね。
そういった意味では、マルクスの主張をそのまま実践して失敗したというより、マルクスの主張を自分達の都合の良いように解釈したシステムが崩壊したともいえます。

では、話を1964年に戻すと、この時代に登場したディガーズも、当時のディガーズと同じ様な思想をいだき、共産主義的な思想を持って、実際に行動していた人たちです。
無料で炊き出しを行ったり、いらない物資を集めて無料で品物を持ち帰れるフリーストアを開店したりと、自分達で行動することで、主張を行っていきました。

ただ、この様な文化が一つのブームになりだすと、面白くないのが政府です。
このブームの中心には、LSDが存在するわけですが、CIAの認識としてはLSDは精神病を誘発する為の薬でしか無いですし、軍の認識では、化学兵器でしかありません。
そしてCIAと軍の両方が、冷戦を優位に進めるために幻覚剤の研究開発を行っていたわけですが、その薬物を自国民が使い、意識拡張によって認識が変わった人々は反体制的な主張を掲げてしまった。
冷戦とは、資本主義と共産主義との戦いなんですが、ヒッピーコミューンには、反体制的な考えから、ディガーズの様な共産主義に同調する人も多かったので、政府からすると、自分が研究開発した薬物で共産主義陣営がが優位になっている状態が、面白くなかったんでしょうね。

この為か1965年には、LSDは禁止薬物に指定されるようになります。これ以降、ヒッピーの活動は、よりアンダーグラウンドになっていくわけですが、この続きはまた次回に。