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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【Podcast #だぶるばいせっぷす 原稿 】第24回  ヒッピー回 中間まとめ

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この投稿は、私が配信している Podcast番組『だぶるばいせっぷす』で使用した原稿です。
放送内容は、私が理解した事を元に行っています。ご了承ください。
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第20回から前回の23回まで、4回に分けてヒッピームーブメントの大体の流れを紹介してきたわけですが、結構長くなってきましたので、この辺りで、今までの流れを簡単に振り返る、中間まとめ回をしようと思います。

第20回と21回では、何故、ヒッピームーブメントと呼ばれるカウンターカルチャーが、白人の若者たちを中心に起こったのかを、その当時の環境に焦点を当てて考えてみました。
差別をされていたり、社会に不満がある黒人たちではなく、何故、白人の若者たちが、今までの前提となっている文化に疑問を抱いてを覆そうとしたのかということですね。

このことを考えていく上で知って置かなければならない事が、覆されようとしている対象である、前提となっている考え方ですね。
欧米は、物事を考える上で前提になっているのが、キリスト教という宗教です。
アメリカでも、大統領に選ばれた人間は聖書に手をおいて宣誓をしますし、生活の至る所にキリスト教の考え方や文化が定着して溶け込んでいます。

この、当たり前のように存在していて、既に空気のようになっているキリスト教を前提とする社会に対して、様々な疑問が生まれてくるようになります。
誤解の無いように言っておくと、別にキリスト教の教えに問題があるとか、そういったことを言っているわけではないんです。
キリスト教の根本的な考え方というのは、人が社会的な生活を行う上で大切な事を主張しているだけです。

キリスト教の前提となったのはユダヤ教ですが、その聖典旧約聖書に出てくるモーゼの十戒も、最初の3つは、神が唯一神である事や偶像崇拝の禁止、神の名をみだりに唱えては行けないといった、
神の前提を書いたものですが、殺人や盗みやレイプをしては駄目といった、社会生活を行う上で、傷つく人を減らす為に作られたルールですよね。
唯一神である事や神の名をみだりに唱えないとか、偶像崇拝の禁止も、基本的には神の悪用を避ける為ですよね。

偶像崇拝を禁止して神という存在を概念上のものにしておけば、神をかたどった像を作って売りつけるなんて商売も出来ないですし、みだりに神の名を語っては駄目というのも、同じ様な理由ですよね。
そして、唯一神という神の存在が1つであれば、派閥争いなんてものも起こらなくなりますよね。
私はそこまで歴史が詳しいわけではないんですが、この様なものが、わざわざ十戒に書かれたというのは、多神教で、尚且つ神の偶像を作りまくったエジプトの神話に対するカウンターだったのかもしれないですね。

それを前提として生まれたキリスト教は、ユダヤ人だけが救われるとした主張に異論を唱えて、信じるものはどんな民族であれ救われるとしたものですよね。
教えも、自分がされて嫌な事はしないようにしようといった感じの、社会生活を円滑にすすめる上で大切な事を言っているだけです。
ユダヤ教キリスト教は同じ神を信仰していますし、イスラム教も同じ神を信仰しています。
元々は、皆がストレス無く幸せに暮らしていく為に生み出された思想ですが、時間が立つに連れて、これらは争いの道具として利用されていくことになります。

これは宗教だけでなく、思想やシステムにもいえることですが、時間を重ねていく毎に、その時々の社会情勢であったり、人々の考えであったり権力者の都合によって、大本の主張の解釈が変えられていくからです。
経済も同じで、資本主義も元々は人の欲望をシステムに組み込んだ画期的な考え方だったんでしょう。
資本主義の構造は突き詰めれば、多くを持つ資本家が独り占めできてしまうシステムですが、資本家は多くの富を手に入れたとしても、生きている間に全てを使うことは出来ません。

また、資本家に使われる側の労働者も、あまりに劣悪な環境だと働くという行為その物を辞めてしまうので、市場経済の元で再分配が起こると思われていたんでしょうけれども、
実際に起こっている事、は資本家は使い切れない量の富を手に入れても、更に多くの富を手に入れようとしますし、働いて社会システムに貢献しないと生きていけない状況を強制する事で、労働者は劣悪な環境でも仕事を辞める事が出来ない状況い追い込まれてしまってます。

そして資本主義経済は、絶えず前進して巨大化していかないと崩壊してしまうという性質から、資本主義を採用していない地域や民族にも、資本主義を矯正していくことになります。
こうして世界はグローバル化していくわけですけれども、世界中に市場が広がると、遠くの国にも商品を届けないといけない、また、生産拠点を確保しないといけない状態が生まれてしまうので、土地や労働者や港を手に入れる為、植民地争奪戦が起こります。

元々は世の中を暮らしやすくする為に生まれた宗教や経済システムによって、多くの人が殺されたり、貧困に追いやられてしまったりする。
こんな状態の一方で、科学や技術はドンドン進歩していく事で、人々の仕事は肉体労働から知的労働に徐々にシフトしていきます。
労働市場での知的労働のシェアが拡大していくと、知的作業が行える人材が求められるので、国は教育に力を入れていくことになるんですけれども、人々は教育を受けることで知識を手に入れると、今まで前提としてきた宗教の教義と現実世界が違うという事も分かってしまいます。
その象徴的なものが、進化論ですね。 人間は、神が何らかの目的を持って自分の姿形に似せて、土から作った特別な存在ではなく、その他の動物と同じだったという説が、説得力を持つ形で発表されます。

こうして、社会システムに対する不満だったり、知識を手に入れる事によって、社会の前提に疑問を持つという状況が続く中で、欧米は経済圏拡大の為にアジア圏に侵略戦争を仕掛けることになるんですが、それによって、、東洋思想が西側に入ってきます。

東洋思想というのは、神という存在を世界の中心に置いて説明するキリスト教に対し、自分自身を理解する事によって世界を理解しようという主張です。
そして、その自分自身が『無』である事を理解する事で、自分が認識する世界そのものも『無』である事を体験によって知るという東洋思想の考え方は、一部に大きな影響を与えて行くことになります。

この影響を受けた人達は、今までのキリスト教の考え方に、東洋思想や、キリスト教徒が蹂躙してきたその他の宗教や科学的な要素を加えて、神智学という新たな考え方を生み出します。
様々な要素を加えて作られた神智学は、現代オカルトの起源になったりもします。

この神智学を説明する為に具体的な例を何個か出してみると、進化論によって、人間という存在が猿の延長線上に有るのであれば、猿以外が進化する事で、新たな知的生命体が生まれている可能性も否定は出来ません。
地球はその昔、恐竜が支配していた時代がありますが、その恐竜のサイズが小さくなってトカゲのようになり、知的に進化して文明を築き上げる可能性もありますよね。
こうした思想から、オカルトでいうレプタリアンなんてものが生まれたんでしょうし、地球が神が作った唯一の生命が住む星では無く、他にも生命が住む星があるとするなら、人間よりも高い文明を持つ異星人もいるかもしれないし、もしかしたら、地球に訪れているかもしれない。
もしそんな事が可能なら、異星人の宇宙船が有るということになると、UFOという発想になります。

また、キリスト教で信じられてきた神という存在、この存在は、神という絶対的な存在では無く、もしかすると、別の高次元の生命体と捉えられる場合もあるのですが、ともかく、その様な存在がいたとして、その存在と交信するにはどうすれば良いのかと言った際に、
東洋思想の瞑想というのが利用されたりもします。
仏教などでもそうですが、座禅を組んで心を落ち着かせるといった行動を取りますが、その瞑想をより深く行うことで、変性意識状態に陥ることが可能となります。
この変性意識状態というのは、普通の意識状態ではない状態という理解で良いと思います。

この状態に陥る事で、普段では得られないような体験ができてしまうようです。その体験が、神や高次元の存在との対話などです。
非科学的だと考える方も多いでしょうけれども、この体験自体は非科学的でも無いんです。 というのも、変性意識状態その物は、化学物質や実験などで簡単に再現が可能だからです。
例えば、幻覚剤の投与などで神からの啓示を受ける体験をした人は数多く存在しますし、脳の一部に電流を流す事で、幽体離脱のように自身の体から自分が抜け出て自由に動ける体験をすることも可能のようです。

この変性意識状態と、それによる神秘体験についての話ですが、別に、変なカルト集団が主張しているだけというわけではないんですよ。
これは、アメリカ政府も開発に大きく関与している、LSDの人体実験によっても、実際にこのようなことが起こるということが分かっています。
誤解しないでほしいんですけれども、別に、神とか高次元の存在が実際にいて、それと交信できると言っているわけではなくて、その様な神秘体験を薬物によって得ることが出来るということです。

という事で、第22回と23回では、幻覚剤のLSDを中心に話をしていきました。
このLSDですが、別に神秘体験の研究の延長線上で出てきた薬物ではありません。 アメリカとロシア、当時はソビエト連邦だったわけですけれども、その両者が核爆弾を所有することで、アメリカとソ連は実際に戦争するわけではないが敵対状態を維持する冷戦に突入します。
この冷戦時代に、アメリカは少しでも相手よりも優位に立つ為に、利用できるものはなんでも利用しようとし、その白羽の矢が立ったのが、麦角菌から発見されたLSDです。

LSDは、人間を簡単に変性意識状態に陥らせることが出来ることから、洗脳に利用できないかという事で研究が始まります。
この、洗脳出来るかもしれない薬物というのは、情報を取り扱うCIAや軍と相性が良く、主にこの2つの機関によって研究が開始されます。
この研究ですが、当初は、科学者が行う様な割りとしっかりとしたものだったようなんですけれども、その研究方法は次第に崩れていき、実験とも呼べないようなものに変化していきます。

例えば、告知なしで不意打ちでのLSD投与等ですね。これを実際にやられた側は覚悟を完了する事が出来なくなる為に、夢と現実の境目が分からなくなってしまうようですね。
それだけで済めば良いのですが、不意打ちのトリップによって精神に深刻な傷を追ってしまった場合、それがキッカケで精神病を患ってしまい、最悪の場合は自殺するケースなどもあったようです。
その他には、政府が売春宿を経営して、その従業員や客にLSDなどの幻覚剤や麻薬などを配布して、人がどのように変化していくのかを観察したりと言った事まで行っていたようです。

これらの数多くの実験はMKウルトラ作戦と呼ばれ、映画などの題材になったりもしています。
日本の場合は、政府に絶対の信頼をおいている人というのも結構な割合でいらっしゃるとは思いますが、アメリカはMKウルトラ作戦を始めとした政府の様々な行動と、隠蔽しようとするその態度に、疑問を持っているからか、映画などのコンテンツでも、政府が秘密裏に行っていた計画や人体実験によって、大惨事が起こるなんてストーリーも多かったりしますよね。

その一方で軍の方ですが、軍は軍でLSDの軍事利用を考え始めます。
例えば、敵の軍事や生産拠点があったとして、その場所を制圧する為に大砲などをバンバンと撃って破壊してしまうと、制圧は可能かもしれませんが、その施設の再利用が出来ないので効率は落ちますよね。
ですが、その拠点に幻覚剤を投与して、周辺住民ごとトリップさせて骨抜きにしてしまえば、無傷で拠点を手に入れることが可能となります。
その他にも、水に溶けやすい特徴を活かして水源にLSDを投入すれば、水を飲んだ人すべてをトリップさせることが可能で、戦いを優位に進めることが可能です。

この様な感じで、アメリカは国ぐるみで麻薬の開発や研究、人体実験を極秘裏に行っていたんです。まぁ、極秘裏にとは言っても、政府が独自に研究するには限界がある為、様々な研究機関や大学にもLSDを配って研究を依頼していたようで、そこから一般にも流れる事になるので、完全に隠蔽されていたというよりも、知ってる人は知っている計画だったようですけれども。

今流行のアメコミ等でも、政府関連の組織で働いていた科学者や政府自身が人体実験を施した結果、ヒーローや仇役のヴィランが生まれるなんて事も多いですよね。
また、政府が極秘裏に進めていた計画が暴走したり失敗する事で事件が起こって、それを解決する為に物語が起こるなんて事も多いですけれども、その大本は、元々国家というのはそういう事をするという前提が有るからなのかもしれないですね。

この様に、LSDは当初は主に戦争で利用できる有効な手段を開発する為に研究開発が行われていったわけですけれども、それ以外の分野での研究も進んでいくことになります。
他の分野とはどういったものかというと、精神病治療薬としての研究ですね。

人間の性格や考え方というのは、今まで生きてきた経験や記憶によって大きく左右されてしまします。その人の歩んできた人生が、その人自身の性格を作っていると言っても良いのかもしれません。
そして幻覚剤というものは、その経験や記憶を新たに与えるものです。 という事は、普通の状態では感じられない感覚や観たこともない風景を感じた人は、その性格や考え方に大きな影響を与える可能性も大いに有るわけです。
つまり、ショッキングだったりネガティブな経験に対して、素晴らしいと感じられる神秘体験をぶつけることで、トラウマの解消が出来るかもしれないということですね。

一見、理にかなっているように思える治療法なんですが、では何故、欧米は幻覚剤を精神病治療薬として研究してこなかったのでしょうか。 幻覚成分はLSDに限らず、自然に生えているキノコなどにも含まれているので、もっと早く着手できたはずです。
それは何故かと言うと、キリスト教圏では、幻覚成分を含む全てのものは、タブー視されていたからなんです。

これは、歴史を振り返ってみると理解しやすいかもしれません。 過去を振り返ると、神の声を聞いたり、観たことも無いヴィジョンを体験した人は、今までとは違った考えをするようになって、その後、行動にも移すようになっています。
キリスト教徒の主張としては、これらの行動は、神の御業として奇跡として取り扱ってきたわけで、自分達も、いずれはその様な奇跡を目の当たりにしたいと思って信仰心を高めてきました。
その為、それと同じような体験が、幻覚剤を投与したりキノコを食べるだけで可能になってしまうと困るんですね。 それを認めてしまうと、過去の偉人とされてきた人たちも、幻覚剤でトリップしたからということになってしまいますからね。

ですが、科学の進歩がキリスト教の影響を弱め、また、ソビエトという核を保有する強大な敵が現れると、そんな事も言っていられなくなります。
という事で、これ以降、幻覚剤の研究が進んでいくことになります。

幻覚剤の研究が進んでいくと、LSDには神との邂逅や啓示を受けると言った宗教神秘体験以外に、エゴの死とも呼ばれる現象が起こることが分かります。
これはイメージで伝えると、水を張った洗面器の上から、スポイドなどで水を1滴垂らすような感じですね。 垂らした水の1滴を自分の自我として、洗面器の水を世界そのものと見立てた場合、垂らした1滴の水が洗面器の中に入ってしまうと、水は溶け合って分離不可能になります。
LSDによるトリップでは、この水のようなものがエゴと世界との間で起こり、自分という存在がバラバラに分解されて、完全に宇宙の中に溶け合う感覚が得られる事が有るようです。

この宇宙との一体感は、一部の学者や実験に携わったものから、意識の拡張として重要視されることになります。
また、自我と宇宙が完全に溶け合う現象ですが、東洋思想の梵我一如や、仏教でいうところの悟りの境地と同一視されて、東洋思想や、その要素を取り入れてた神智学などが見直されるようになります。
そしてこの様な考え方は、当時、世の中のシステムに打ちのめされて、不満をつのらせていたビート・ジェネレーションと呼ばれる人たちに支持され、新たな文化が生まれることになります。

「精神を開示する」という意味を持つ『サイケデリック』という言葉を冠した文化が生まれ、古代の妄想とされていたシャーマニズムが見直され、今までの前提とは全く異なる文化が、次々とまれて行くことになります。
そして、新たに生まれたそれぞれの価値観は、ベトナム戦争に対する反戦運動によって、一つの大きなムーブメントを起こすことになっていく事になります。

ここまでが、過去4回で語ってきた内容のまとめです。
ヒッピームーブメントの概要としては、大体こんな感じなんですけれども、この概要だけでは、ヒッピームーブメントの面白さというものがいまいち伝わっていないと思うので、
次回からは、このムーブメントの中心として動いていたティモシー・リアリーという人物に焦点を当てて、もう少し詳しく観ていこうと思います。