だぶるばいせっぷす 新館

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【本の紹介】 銃・病原菌・鉄 (上巻)

今回紹介する本は、『銃・病原菌・鉄 (上巻)』です。


      

銃・病原菌・鉄という、一見意味のなさそうな単語を3つつなげただけのタイトルで、タイトルだけだと内容がいまいち伝わってこない感じなのですが、一言で大雑把に説明すると、人類史の本です。

学校の世界史の授業では、文明は4つの川の付近から発生したというところから解説が始まりますが、この本では、何故、川の近くから文明が生まれることになったのかというのを、読み解いていきます。
素人が想像するに、川のように海水ではない水が常に流れているところでは、食料が豊富そうなイメージがありますよね。
動植物には水が必要となってきますが、その水が、川には豊富にある。

獣は水を飲みにやってきますし、川の中には魚もいる。
川の付近には植物も生えていますから、人がそこの集まりやすかったというのは分かります。

ですが、川はそこら中に存在しますよね。
私が現在住んでいる場所にも、歩いて数分のところに川はあるわけですが、何故、文明の発症は、この近所の川ではなかったのか。
四大文明の中でもメソポタミア文明は特に早かったらしいですが、何故、メソポタミアだったのかというのを、掘り下げて考えていきます。

では、文明発達時期の一部分だけに焦点を当てた、古代史の話なのかというと、そうでもありません。
この古代史だけの話だと、銃などの近代にならないと登場しない道具をタイトルに掲げる意味がりませんしね。

この本の本質的な部分は、何故、文明の発達に差があるのかというところに焦点を当てて書かれています。
ネットなどでも、文明の発達速度は、よく、種族の優秀さなどと一緒くたにされて語られたりしますよね。
また、その話から、ドンドンと人種差別的な話になったりする場合などもあったり。

例えば、アフリカは文明が発達していないとか、後進国の人間は、種族として劣っているから…なんて感じに。
まぁ、先進国に住んでいることだけがアイデンティティを保つ唯一の材料なんて人は、こんな話に飛びついて、『先進国に住んでいるから、自分は優秀だ。』なんて単純な結論に持っていたいんでしょうけれども、この本では、それが本当なのか?という事を、根本的な部分から掘り下げていきます。

その掘り下げ方も、単純に歴史的に考えてというよりも、むしろ科学的な考え方によって、答えを導いているところが面白い。
例えば、一番最初に文明が生まれたメソポタミアですが、そこの三日月肥沃地帯では、一番最初に農耕が始まっています。
では何故、農耕を一番最初に始めることが出来るのかというのを、植物の種類や地形等の地理的条件を基に考えていきます。
また同様に、農耕や文化が発達しなかった場所は、メソポタミアの三日月肥沃地帯と比べ、生態系や地理的条件でどのような違いがあるのかを比較しながら原因を探っています。

詳しい解説などは、実際に本を読んでもらいたいのですが、読めば、人種の違いや能力の差によって、つまりは、一部の種族が有能だったり無能だったりする事で、文明の速度に差があるわけではないことがよく分かります。
この主張に関しては、以前、別の本『国家はなぜ衰退するのか』にも書かれていますよね。

      

少し話がずれますが、『国家はなぜ衰退するのか』では、システムの差によって文明の発達速度が変わるという話がされていました。
kimniy8.hatenablog.com

少し内容を書くと、アフリカなどで、農民が効率の良い農機具を使用せずに、効率の悪い手段を使い続けるのは、別に、アフリカ人が最新の農耕器具の存在を知らないとか、理解する能力がないといった事ではなく、単純に、システムの問題。
アフリカ人も、最新の技術を見る機会もあるし、説明されれば理解できる能力も持っている。
しかしアフリカの一部では、自分達が最低限生きていくために必要な量の食料以外は、全て国に徴収されるというシステムになっている。
仮に、自身の出費を最低限にして資本を蓄え、それを基に投資をして生産性を上げたとしても、生産が増えた分は全て徴収される為、農業従事者は生産性を上げる動機がない。

逆にいえば、生産性を上げたいのであれば、投資を促進させるようなシステムにして、生産者にインセンティブを与えればよいわけです。
ですが、頑張っても報われないようなシステムになっていると、頑張る動機が無くなるので、例えどんな種族であったとしても発展をすることはないという事。

この話と若干かぶるところはあるのですが、この『銃・病原菌・鉄』でも、似たようなことが書かれています。
人類は元々は狩猟民族だったのですが、狩猟民族から農耕に切り替わる際に重要になってくるのが、インセンティブです。
一年間も畑の世話をした時に、その苦労が報われ無いのであれば、畑の世話をするよりも動物を狩ったほうが効率が良い事になります。
大型動物の繁殖スピードや、植物の育ちやすさ。人が食べれる種類の植物がどれぐらいの種類、その地域にあるのかといった環境がもっとも重要で、その環境下で、狩猟か農耕のどちらが効率が良いのか判断する。

種族としての生まれ持った頭の良さなんてものは、そこまで問題ではない。
というか、最初の人類が誕生して数百万年。現代人の祖先も10~20年ほど前に誕生。そして、農耕が始まるのが1万年前。
この当時は、今よりも文明が発達していないわけで、当然、自然が人類にとって与える影響も大きく、脅威度は比べられないほどだったことが予測できます。
そんな、自然が恐怖の対象だった時代に非効率な行動をとっている種族がいたら、今現在まで生きている事なんて出来ずに、とっくの昔に死に絶えているでしょう。
つまり、現代まで生き残っている時点で、その部族はその環境下では正解を選び続けているという事になります。

世界で一番最初に農耕を始めた、三日月肥沃地帯に住む人達も、別に頭が特別良かったわけではなく、自然環境がそのようになっていたという事。
仮に生まれる地域が変わっていれば、彼らだって、農耕を始める時期はもっと遅かったんでしょう。
逆に、農耕を始めるのが遅かった種族も、頭が悪かったから農耕に着手するのが遅れたわけではなく、自然環境的に難しかったというだけだったりします。

また、農耕などの技術は、人の交流によって別の地域にも伝えられますが、その伝わる速度が、大陸の形によって変わったりもします。
もう少し説明すると、大陸が縦長なのか横長なのかによって、知識や技術伝播速度が変わってくるということ。

様々な地理的や、気候等の環境によって、農耕が開始される時期がズレるということを、物凄く丁寧に解説してあります。
その他にも、歴史を観ると、文明が高い国が低い国に攻め込むと、文明の低い国の国民に何故か疫病が流行って大量に死んでいくという事が度々起こっていますが、それは何故起こるのかということも、この流れに沿って解説してくれています。
これは上巻ということで、『鉄』や『銃』が絡んでくる話は、まだ出てきませんが、それでも、かなり読み応えのある本でした。

学術書にしては読みやすいので、興味が有る方は読んでみてください。