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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【本の紹介】 誰がアパレルを殺すのか

いつものようにTwitterのタイムラインを眺めていると、結構おもしろそうな本のタイトルが目に入り、興味が出たので読んでみました。
という事で今回あh,その本『誰がアパレルを殺すのか』の紹介です。


      

この本は、日経ビジネスの記者が記事を書く際にアパレル業界を取材したのを、まとめた本となっています。
タイトルには『誰が 殺すのか』といったショッキングなワードが含まれていますが、本の内容的には、アパレル業界や、それを取り巻く小売業の問題点を挙げ、その後、その問題点に対して真っ向から挑む企業を紹介するという構成の、業界本。
私は、アパレル業界の人間ではないので、その立場から読むと、書かれている内容で知らない点も多く、単純に勉強になった面が大きい、良い本でした。

また、専門用語なども極力使わずに書かれていますし、業界のことを全く知らない人間が読んでも理解できます。
文章自体も、難しい言い回しなどはされておらず、サラサラと読める様に書かれています。
また、記者らしく? 要所要所でグラフや具体的な数字を出してくれるため、興味をなくさずに最後まで一気に読める点も良いですね。

ですが、Amazonレビューなどで他の方が書かれている内容を見ると、アパレル業界に勤めている人にとっては常識的な事が羅列されているだけで、得られるものも少ない本のようですね。
ただ、本に限らず、特定分野のことを知らない人に業界内のことを知らせる本というのは、業界人にとっては常識的なことばかりなのは当然です。
これらの本は、その業界を知らない人に業界の常識を教えるという目的で書かれているので、アパレル業界に携わってはいないけど、その業界の事を知りたいと思う人にとっては、面白く読める本だと思います。

また、この本の面白いところは、アパレル業界に興味がない人が読んだとしても、それなりに楽しめるということでしょう。
というのも、この本の構成としては、前半部分でアパレル業界の衰退の理由を挙げ、後半部分で、その原因を打破すべく立ち上がった経営者たちの新たな試みを取り上げるという作りになっているのですが、前半部分の衰退の理由は、どの業界にも当てはまるものだからです。

では簡単に、その内容を紹介していこうと思います。
あくまで『簡単に』なので、興味をもった方は購入して読んでみてくださいね。

ここ最近では、アベノミクスの影響で、株価も右肩上がり。 不景気なんてどこ吹く風で、日本経済はバブル期を超えて絶好調!
・・・なんて言われたりもしますが、実際に平均所得やそれ以下の給料しか貰っていない私達にとっては、そんな実感は全く感じなかったりします。

その実感とシンクロするように、アパレル業かも衰退していってるらしく、このままジリ貧になるのが目に見えている。
では、誰がそんな状態を生み出したのか。『誰がアパレルを殺すのか』を探るというところから、この本は始まります。

タイトル内では『誰が』と書かれているので、誰が特定の人物や企業、業種が存在するのか?といった感じで犯人探しが始めるわけですが、記者が取材を進めていく過程でわかってきた事は、業界全体が高度経済成長のぬるま湯に浸かり、改革を怠ってきたということ。
高度経済成長時代からバブルにかけては、百貨店は新規店舗を作るだけで簡単に売上が稼げたし、利益も伸ばせた。その百貨店が取り扱う商品の中でも、婦人服はかなりのウェイトを占めていたので、アパレル業界も恩恵に預かれた。
この『ぬるま湯時代』に、業界が推し進めてきたことが、商品の大量生産化です。

百貨店やショッピングセンターは、売上や利益を伸ばすために新規店舗を立て続けるのですが、取り扱うブランドが同じものだと、客も飽きてしまうし売上も伸びづらい。
そこで、アパレル業者と共に行ったのが、ブランドの大量生産です。
元は同じ会社なのに、名前が違うブランドって結構有りますよね。有名な会社でいうと、オンワード樫山には、同じ傘下のブランドとして『組曲』『自由区』『23区』なんてのが有ります。
この様な感じで、同じ会社がブランド名を変えて活動する事で、種類を水増ししたんです。

また、伸び続ける需要に応えるために、アパレル業者は生産体制も整えることになります。
ですが、ただ整えるだけでは利益が薄いので、更に利益が出るように、日本の工場との契約を切って中国企業と契約を行い、素材の大量買い付けと大量発注で、服の一枚あたりの単価を引き下げようとします。
この戦略も大当たりで、アパレル企業は大幅な利益を手に入れることになります。
その一方で、日本の服飾科工業は衰退するわけですが…

そして、販売点数もブランド数も増え続けるという状態が長く続くことになると、アパレル企業は服の企画その物を外注しだします。
いわゆるOEM(相手方ブランドでの製造)というもので、デザインも下請け工場に丸投げし、服の大量生産大量販売を行っていくことになり、アパレル業者の企画力も徐々に衰退していくことになります。

その結果として生まれたのが、どこのメーカーの服も見た目が同じという現象。
OEMによってブランドの個性が失われ、差別化がなくなったことで、客はどのメーカーの服を購入しても同じという状態になってしまった。
しかし、そんな状態でも服は売れ続けたのですが、それがバブル崩壊や、その後の失われた20年とやらで変わってしまった。

というのが、大まかな流れです。 
気になる方は、本を購入して読んで下さいね。

この他にも、アパレル業界で働く人たちの使い捨てという問題も、結構響いているようです。
これを書いている私の知り合いにも服の販売員がいますが、自分で働くブランドの服を定期的に買わなければならなかったり、休日休みがほとんど採れなかったりと、結構キツイよう。
その上、未来への展望も描けない職場も多い。

例えば、20代をメイン顧客にしているブランドに販売員として就職した場合、30代になると販売員としての需要は徐々に減っていき、40代になると現場に立つのが厳しくなるのは、素人目に見ても想像できます。
その販売員が、経験を活かして店長になったりバイヤーになったり本社の販売戦略部に入れるのかといえば、多くのメーカーではその様な配置換えは行っていないらしく、従業員の使い捨てになっていたりするようです。
折角、顧客と直に接している人が身近にいるのに、それを活かさず、OEMで下請けにデザインと生産を丸投げし、販売も使い捨ての販売員にノルマだけ課して丸投げしてたら、業界として衰退するのも理解できますよね。

この流れをみると、確かに納得できる部分が結構有ります。
ブランド毎の特色がなくなって、どのメーカーを購入しても同じなのであれば、ユニクロでも十分ということになりますし、『ユニクロでも高い! GUか しまむら のセールで十分』と考える人が増えても仕方がない。
ここ最近では、『ノームコア』なんて流行も有りましたが、ノームコアは、特徴がないのが特徴という、なんとも不思議な特徴で、ブランドの完全敗北を意味します。

服に何の特徴も必要ないのであれば、高い服を買うことに意味がなくなる。
その結果として服の市場は、1991年には15兆あったものが2013年には10兆円と3分の2に減少。
その一方で、供給されるアパレルの数は20億だったものが40億と2倍に増加するという、取扱商品数が倍に増えているのに市場規模が縮小しているというよく分からない状態になってしまいました。

では、もう一度、基本に立ち返ってやり直せばよいのかといえば、そんなことは出来ません。
何故なら、長年続いたOEMによる生産によって、アパレル企業には提案力と技術力がないので、自分達で新たなものが作れません。
また、日本の工場で作ってもらおうにも、日本の生産工場を切り捨てて生産拠点を中国に移してしまった為、廃業が進み、日本には引き受けてくれる工場がありません。
まだ生き残っている数少ない生産工場は、技術力が高いから生き残っているわけですが、そういう企業はヨーロッパ有名ブランドからの受注を受けていたりするので、日本のアパレルに入る隙間は無い。

で、この構造ですが、他の業者にも当てはまりますよね。
例えば、アパレルとは離れてそうな東京電力などの電気会社。この電気会社も、本社の人間は下請けに仕事を振るだけで、本社に職人は抱えていなかったりします。
私の知り合いは、東京電力に就職したのですが、知識的には学校で習った程度しか無く、その後、実践で知識を身につけようにも、業務は下請けに丸投げしているらしく、そんな機会もないようです。

NTTなども、そうですよね。
家や職場には、NTTを名乗る業者から、『フレッツ光回線に変えませんか?』という営業電話が結構かかってきますが、よくよく聴いてみると、NTTと代理店契約しているだけの業者が多い。
つまり、営業は代理店に丸投げで、営業のノウハウなどはNTT本社にはないということです。
テレビなども同じで、流されている番組の多くは、制作会社が作っていたりします。

百貨店も、多くのフロアがテナント貸しになってきてますし、服飾も委託販売という形で、働く販売員も服飾メーカーからの派遣なので、百貨店その物に販売力はなく、単なる不動産業と課している。
メーカーからすると、百貨店は商品を売る為の単なるプラットフォームにすぎないので、ネット販売などが台頭してプラットフォームの乗り換えが起きてしまうと、百貨店側は為す術がない。

全ての企業に言えることですが、社会の構造的に上層部に存在していたからという理由で利益が出ていて、そこに何の疑問も持たずに胡座をかいた結果、顧客から見放されて自滅している感じですね。
百貨店は、ネット通販の台頭でメーカーに見捨てられ、そのメーカーは、ブランドイメージに胡座をかいて行動を起こさなかた結果、消費者から見捨てられた・・・

そもそも生活に必要なかったものが切り捨てられているだけなので、当然といえば当然なのですが、この流れは、全産業で今後も加速していくことになるのかも。
時分が生き残るために、これらの現象を反面教師として利用するという意味でも、読んで損はない本だったと思います。