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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

ヤマト運輸 一部時間指定停止の件は Amazonと消費者が悪いのだろうか

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最近、ヤマト運輸が一部の時間指定受付を止めるということで、少し騒がれましたね。
これを受けての世間の反応は、『ドライバーさんが可愛そうだから仕方がない。』といったものが多く、中には、通販に依存している自分たちを戒める人達まで出てきています。
多くはサービスを利用している私達が諸悪の根源の様な捉え方なのでしょうが、個人的にはこの考え方がよく理解できません。

という事で今回は、このニュースについての私の考えを書いていきます。

そもそもこの件に関しては、私達消費者は全く関係ありません。
その為、行動を改める必要もなければ、反省する必要もありません。
というのも、これらのサービスは私達が強要したわけではなく、会社側がサービス合戦の中で自ら作り出したサービスで、問題があるとすれば、無茶なサービスを安価で提供すると決定した経営陣です。

また、この件に関してAmazonを批判している方も見られますが、それも見当違いでしょう。
というのも、Amazonとヤマトの契約は双方の合意のもとに行われている為、嫌なら佐川のように受けなければ良いだけです。
『送料無料で届くことが異常!そのしわ寄せが、低賃金で働かされる配達員に行っている!私達、消費者も運送コストを負担すべき!!!』なんて言っている人もいますが、大抵は定価の方にそのコストが含まれています。

例えば、定価の決まっている家電などをヨドバシなどの実店舗で買うことを考えてみましょう。
大型量販店というのは、販売するためにレジや営業などの人員を配置しなければなりませんし、土地を借りているのであれば、その土地の賃貸料も必要です。
売り場をきれいに保つための費用や水道光熱費も必要なので、実店舗での販売は相当な経費が必要です。
しかし、ネット通販の場合は、その様な費用がかからず、必要なのは倉庫代と配送手続きをするスタッフだけになります。
実店舗のように駅前に店舗を構える必要もなく、誰も住んでいないようなタダ同然の安い土地を購入して倉庫にすることも可能です。
つまり、ネット通販の方が販売にかかる経費は遥かに少ないので、実店舗と同じ価格で販売したとしても、経費の差額分は儲けが増えることになります。
その増えた儲けの中から送料を捻出している為、実質無料と謳っているだけで、送料負担を運送業者に押し付けているわけではありません。

つまりヤマトの問題は、Amazonから安すぎる契約で仕事を受けてしまったという経営陣の責任であって、ネット通販を楽しんでいる私達には何の責任もありません。

こういうことを書くと、『では、今まで通りドライバーに負担をかけて良いのか!』なんて見当違いな反論をする方もいらっしゃるでしょうが、先程から書いている通り、これはヤマトの経営の問題なんです。
まず、この表を見てみましょう。
東洋経済オンラインの2015年1月の記事です。
toyokeizai.net

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これによると、ヤマト運輸の役員の平均年収は4360万円。従業員平均給料は838万円となっています。
年収200万以下のワーキングプアーが増えてきている現状では、相当な高給ということがわかります。
しかし当然のことですが、ヤマトで働く人全員が838万円も貰えているわけがありません。
本社勤務の人間と、実際に配達しているドライバーでかなりの差はあるでしょう。

別サイトによると
heikinnenshu.jp
ヤマト運輸の本社は入社したてで500万近い給料をもらい、係長で900万近く、部長になると1300万円とかなりの高待遇。
このサイトによると、先程紹介した平均年収838万円という数字は平成25年のもので、27年度は886万円と48万円増加していることが分かります。
また、ヤマトの公式サイトによると、ヤマトは2013年から連続増配中。
株主還元の方針・配当状況 | ヤマトホールディングス株式会社

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『人が集まらない!』『ドライバーに人間らしい生活をさせたい!』と主張するヤマトホールディングスだが、配達員の仕事が年々厳しくなる一方で、本社勤務の人間の待遇はかなり改善されていることが分かります。
ここから分かる事は、本社勤務の社員や役員の待遇を強化し、その上、株主配当を増額。
それらの財源は、会社の中でも底辺層のドライバーや請負業者から搾取する事で調達していたという事です。
まさに、雇われ経営者の鑑の様な行動ですね。

何度も書きますが、これは経営の問題であって、依頼主であるAmazonの所為ではなく、当然のことながら宅配便を利用している消費者が原因でもない。

ドライバーや請負に携わる数は多いので、ここの人件費は上げたくない。
しかし、このままの状態を放置すれば、大量離職やストライキが起こりかねないので、サービスを削るという、客側に負担を強いる方法を会社側が採用したというだけなんでしょう。

で、今回の経営者の対応が上手くいくのかというと、私は甚だ疑問です。
というのも、時間指定というのは見方を変えれば、荷物の受け取り側が『この時間なら家にいますよ』と教えてくれるサービスです。
それを一部の時間であっても止めるという事は、単純に客が家にいない確率が上昇するだけなので、再配達の数が増えるだけなんでしょう。
再配達時に別途料金を請求するというのなら話は変わってきますが、今まで通り再配達が無料の状態では、配達通知を見てから時間指定されて終了。
結果として、ドライバーの負担はそれ程変わらない、むしろ悪化するかもしれません。

経営者の仕事というのは、単に業績を伸ばすだけでなく、業務の効率化や労働環境の改善なども含まれているはずですが、今回の件は経営陣が業績のみに注視した結果起こってしまったことなのでしょう。
経営陣からすれば、業績を維持・もしくは伸ばせば自分たちの給料を増額する言い訳にもなります。
この決定に、唯一、上から文句を言えるのは株主だけですが、そこから文句が出ないように、株主の取り分である配当を増額する事も大切なことだったんでしょう。
結果、上層部と株主が潤って、現場で実際に動いている人間が犠牲になっているだけ。

要約すれば今回の件は、資本主義には良くある上層部による搾取でしかありません。
しかし、今回、悪質と思われるのは、その原因が上層部による搾取にも関わらず、会社側が顧客であるAmazonと最終顧客である我々に原因があるかのような言い方をしたことでしょう。
批判されるべきはヤマトの経営陣であって、顧客であるAmazonでもなければ買い物をしている私達でもないはずなんですが、それでも自分たち消費者を戒めようとする意見が多く聴かれるのは、自身が死ぬまで働く国民性のせいなのかもしれませんね。