だぶるばいせっぷす 新館

ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

日本に馴染まない資本主義 2

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このブログは前回の投稿の続きとなっています。
まだ読まれていない方は、先ずはこちらからお読みください。
kimniy8.hatenablog.com

前回は、『もったいない精神』と資本主義は合わないということについて書きました。
続く今回は、『おもてなし』と資本主義の関係について考えていきます。

お・も・て・な・し。 おもてなし』は、オリンピック誘致の際にもスピーチで使われましたし、単純に日本の誇るべき文化の一つとして捉えている方も少なくないと思います。
消費者をお客様と崇め奉り、丁寧に接客してくれる様子は、消費者としてサービスを使う場合には非常に気持ちのよいものでしょう。
私の場合などは、基本的に気が弱くて気を使いがちな性格の為、店員が余りにも低姿勢過ぎると逆に気を使ってしまうなんて事も有りますが、高圧的な態度よりかは随分マシで、大抵の場合は気を悪くする事もなくサービスを受けれる場合が多い。
こういった意味では、『おもてなし』文化の良い点を享受しているともいえます。

この『おもてなし』文化ですが、店側がサービスの一環として主体的に行っているのであれば、これはこれで非常に良いことだと思います。
しかし実際には、客側の意向。クレーム対応の一環として行われています。
というのも日本には、三波春夫が発言した『お客様は神様です』という言葉を自分の都合よく解釈し、『神様が店に足を運んでやってるんだから、しっかりとサービスせい!』と言わんばかりに、横柄な態度を取る人間が結構な割合で存在します。
そんな人間に対応する為に発達したのが、現在のサービス業の形態でしょう。
www.minamiharuo.jp

クレームというのは、対応するだけで人が取られる為、長期化するとそれだけで経費がかさんでしまいます。
このクレームも、サービス側に問題が有り、それをやんわりと指摘する形で行われる程度であれば、店側も意見を取り入れる事で集客力を上げることが出来るかもしれませんし、有益なことでしょう。
しかし、言いがかりや逆恨み、自分の勘違いで大きな声を出し、途中で自分が悪いと気がついたけど引っ込みがつかなくなってゴネるのは、店にとって害悪でしかありません。
このような人たちは客ではないので、早々にお引き取り頂き、二度とサービスを利用していただくことがないように出禁にした方が良いわけです。
外資Amazonなどは、問題行為を頻発する人間のアカウントを凍結し、取引できないようにすることで業務を円滑に進むようにしているようです。
しかし日本は、この人達に頭を下げて丁重にもてなすんですよね。
その結果、生み出されたのが日本の『おもてなし』と考えられます。

ここまでの話を読んで、『クレーマーの対処として経費がかかるんなら、さっきのゴミを散らかしたまま帰る人達と同じで、雇用を創造してるから良いんじゃないの?』
と思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、実はそうではないんです。

クレーマー対応で、全てのサービス業の接客対応が向上して均一化したとしましょう。
そうなると、サービスによる差別化が難しくなるため、価格は商品の品質とボリューム・価格のみで比べられることになります。
商品の品質を見極めるのは知識や審美眼などが必要となる為、結構ハードルが高い。
となると、多くの人は量と価格のみで判断していくことになります。
つまり、より多くて安いものが良いものとなるわけです。これは正に、デフレ的な考え方ですよね。

例えば、飲食店で客単価2000円の店でも5000円の店でも、全く同じサービスが受けられるのであれば、客単価が高い方の店側は、提供する料理の質を上げるか量を増やすことで差別化するしかありません。
しかし、倍の量を提供しても食べきれない事が多い為、無駄になる。そうなると、質の方を上げてバランスを取る必要があるのですが、高品質なものを理解する為には、客側に質の違いを理解する力量がないと駄目です。
この力量がない場合、価格と量で判断せざるを得ない為、2000円の店の方がコスパが良いと判断されてしまいます。
そして、客単価2000円の店は1000円の店と比べられ、1000円の店は500円の店と比べてコスパが悪いといわれる。

その一方で、これらの飲食店で働く人の待遇はどうなるでしょうか。
飲食店で使用する食材の価格は、とてつもない差があるわけではありません。当然、客単価が下がれば下がる程、原価率は上昇してしまいます。
単価が低いという事は大人数を相手に仕事をしないと売上が上がりませんが、原価率が高いと、そもそも利益が出にくいわけですから、支払える賃金の上限も自ずと決まってきます。
そうすると、忙しいけど給料は低いという状態に追い込まれてしまいます。
こんな状態なのにもかかわらず、接客態度は完璧なものを求められます。なんといっても、相手をするお客様は神様なんですから。
結果として、業界はブラック化していきます。

では、日本以外ではどうなのか。
アメリカなどに目を向けると、チップ文化なんてものがあります。
チップとは、レストランで食事を運んできてくれたり、タクシーで居心地の良い空間を提供してくれた事に対して『ありがとう』という意味を込めて、お金を渡す習慣です。
何故、商品代金と別で、サービス料金までは渡す必要が有るのでしょうか。
これは簡単な話で、商品価格とは商品を手に入れる為の価格だからです。レストランで言うなら、料理の食材料と調理料が代金であって、それを自分のテーブルまで運ぶ料金は含まれてないんです。
タクシーの場合は、客を目的地まで運ぶ料金と、目的地まで話し相手になってくれるサービスの料金が分けられているということです。

人に何かを頼む際には、サービス料金としてチップを払う。本来自分が行うことを他人に頼むわけですから、その手間賃を払うというのは納得できますよね。
この考え方の場合は、客がサービスが悪いと感じればチップを減らせばよいし、満足できるサービスを受けたと思えばチップをはずめば良いわけで、収入を増やしたい人は自発的にサービスを強化するし、やる気のない人は収入が低くなって辞める確率が高くなるので、自然淘汰される。
チップを払ったり受け取る度に、サービスには金がかかることが実感できるし、チップの支払いのない売店で店員の態度が悪かったとしても当前ということになります。
チップのレートが安い店で接客を受けて気に入らなければ、よりサービスの良い店に行こうという動機付けになりますし、資本主義的とは相性の良い考え方ともいえます。

逆に日本では、神様であるお客様に出来る限りのサービスを無料で提供するのは当然だという考えが浸透しているせいか、客ですらない人間が横柄な態度を取り始めています。
私自身は製造業で、知り合いにも製造業の人間が多いので話を聞く機会も多いのですが、見積もり無料は当然で、試作品の制作費まで無料で済ませようとする輩が多いこと…
金を払った客ならまだしも、『客になる可能性』をチラつかせて一銭も支払ってない人間は客ですら無いわけですが、それでも神様気取りだったりします。

この空気感が普通となっている日本のような構造では、お金が支払われる機会そのものが少なくなる為、資本主義との相性は悪いと言わざるをえないでしょう。
【続く】
kimniy8.hatenablog.com