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ホワイトカラーではないブルーカラーからの視点

【本の紹介】 国家はなぜ衰退するのか 権力・反映・貧困の起源 上

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今回紹介する本はこちら『国家はなぜ衰退するのか 上』
上下巻の上巻の紹介です。(下巻はまだ読んでないため)




世界の歴史を紐解いてみると、国家という共同体はそこかしこで生まれ、そして衰退して滅亡しています。
この書では、なぜこの様な現象が起こっているのかについて解説されています。

まず最初に、先進国と発展途上国がなぜ生まれているのかについて焦点が当てられます。
この問題についてよく考えたことがない私の様な人間は、『後進国の人たちはやる気がなかっただけでしょ。』なんて短絡的なことを考えてしまったりします。
私の他にもこの様に短絡的に考える人は多いようで、本書では後進国が何故、発展できなかったのかについての世間一般で囁かれている説が紹介されます。

一つは国民性。
国民自体にやる気がなく、現状で満足しているため、文明の進化が起こらなかったという説。
他に有名な説は、地理的な問題。
発展している国の多くは、交易の中心となったり交易しやすい、農作物が取れやすい等の地理的に恵まれていて、発展していない地域は恵まれていなかったという説。
その他の説としては、無知説。
様々な問題を解決する手段や商品が既にあるのに、後進国の指導者が無知な為、それらを導入しないからという説。

どれも、パッと思いつく上にそれなりの説得力がありそうな説ですが、実際のところはどうなのか。この本では一つ一つ焦点を当てて考えてきます。
その結果、これらの説は全て間違いである事が分かってきます。

では最大の問題は何なのか。結論を書くと、国が採用している『システム』という事になります。
地域に住む住人が、やる気を起こさないような収奪的システムが構築されると、国民性・地理・知識に関わらず、国民はやる気を無くして生産性は著しく落ち込みます。
国としては、生産性を上昇させて経済力を高めれば、国民の生活も楽になりますし国としての発言力も増えます。
にも関わらず、収奪的システムによって財産やモチベーションを搾取するのは何故なのかというと、『破壊的イノベーションに対する恐怖』
大きな変革が起こることによって権力者が力を奪われることに恐怖し、その結果、文明の進化そのものを阻止する為に全力を尽くしてしまう。
結果として新たな技術が導入されず、国としては後進国のままになってしまうということ。

もう少し具体的に書くと、アフリカで鋤(すき)等の農具を使わずに農作業を行っている国が現在も有ります。
その国に住む人達は、無知である為に農業の生産性を上昇させる鋤などの農具の存在を知らないから導入していないわけではありません。
また、遺伝子レベルで怠け者であるため、頑張らないというわけでもありません。
国が採用しているシステムが収奪的で、農家の人は生きていくために最低限の食物だけを残し、残りの全ての収穫物は国によって没収されてしまうからです。
このようなシステムの下では、農機具に投資して生産性を上昇させたとしても、その収穫物は最終的に搾取されてしまいます。
一生懸命働いても働かなくても、最終的に手にできるのは生きていくために必要な最低限の食料だけなので、新たな技術の導入などの投資を行うインセンティブが働かないからです。

では地域差はどうなのかというと、これも過去の歴史を振り返ってみると分かるのですが、関係ありません。
先進国と呼ばれるまで成長できた場所が地理的に良かったのであれば、その地域は昔から発展しているはずですし、後進国と呼ばれるところは昔から遅れているはずです。
しかし実際に文明が起こった場所を観てみると、エジプトやインド。北米に比べて劣っているとされる南米も、マチュピチュなどの古代遺跡などからも分かる通り、昔は技術レベルもすごく繁栄していました。
昔は進んでいたのに、何故、追い抜かれて差がつけられてしまったのかというと、これも理由はシステムだったりします。

では、なぜ指導者は、より発展するようなシステムを採用することができなかったのでしょうか。
それは、自分の権力を維持し続けたいからです。
国がより発展するためには収奪的制度を止め、働いたら働いた分、国民に還元される世の中にならなくてはなりません。
この行為は、絶対的な権力者から一般人への一部権力の移譲を意味します。
というのも、このような社会にしてしまうと、富を蓄えて力を持つ人達が出現し、その人達が権力を持つことになるからです。

このような新たな権力者は、既存の支配層の敵に成る可能性も大いにあります。
新たな権力者に討たれる可能性の芽を摘むためにも、権力は極力、自身に集中させておきたいというのが、絶対主義者である王のコンセンサスです。
また、貧しさに耐えかねて市民が一揆を起こす可能性も有ります。
そんな市民から、一揆を起こす元気も気力も根こそぎ奪う、仮に反乱を起こしたとしても、軍によって簡単に制圧できるような状態を保つためにも、生きていくために最低限の食事以外は全て搾取するという収奪的制度を継続するわけです。

ただ、こんな制度を続けたとしても、国家を維持し続けることは出来ません。
収奪的制度では、国民のやる気も搾取してしまうため、全く発展する事が出来ず、最終的には衰退の道を辿ります。
国家はいずれ自滅するか、他の体力のある国に制圧されて滅亡していくというわけです。

今回は、私が理解できた範囲での作者の主張の部分をメインに、各項目をザッと書いてみましたが、実際の本では、世界史で実際に起こった出来事を引用する形で、300ページ近くにわたって丁寧に解説されています。
また、最初の部分の『先進国と後進国が生まれたのか』についても、今回は3つ程の説を取り上げて簡単に説明しましたが、この本ではもっと多くの説を取り上げ、一つ一つ丁寧にデータを元に反論を行っています。
世界史の知識が必須なため、正直、私は読むのに結構苦労し、本に書かれている事を本当の意味で理解できているかも疑問ですので、この投稿を読んで興味を持たれた方は、是非、本を手にとって読まれてみては如何でしょうか。